稲葉三千男の発言 (逓信委員会公聴会)
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○稲葉公述人 私は、大学の中でコミュニケーションあるいはマスコミュニケーションという問題を、かなり抽象的な理論のレベルで研究をしている者でありますが、そういう者として、今御審議なさっていますいわゆる三法案については、なかなか賛成しがたいという立場で私見を述べさせていただきたいと思います。
申し上げるまでもないことでありますが、現在は情報の生産あるいは処理の技術が飛躍的な発展をしてきている、また今後ともしようとしている、いわゆる社会の情報化が進展をしているわけであります。そういう社会の情報化を通して、私たちは二十世紀から二十一世紀へという時代を見渡しながら、より豊かなあるいは正義、公平というようなことが実現されていく平和な社会をつくり上げていかなければいけない。と同時に、これまでの人類の歴史の中でいろいろ生み出されてきておりますマイナス面、例えば公害であるとか失業であるとか戦争であるとか、こういったさまざまな問題を解決をしていかなければならないという、人類的なあるいは人類史的な課題を我々今抱えている、こういう基本認識をまず申したいと思います。
その上で、五点ほど意見を絞って申し述べますが、まず第一点は、シビルミニマムの確保という問題であります。
今も申し述べましたように、情報をめぐる技術というのは進展し続けております。そういう中で、これまで電電公社が三十年の間、研究あるいは業務を通して一定の役割を果たしてきたわけでありますが、こういう研究機能なども十分に維持しながら、相対的に絶えずレベルアップしていくシビルミニマムをシビルミニマムとして国民全体に確保していく、こういう責務がまず自覚されなければいけないと思います。そうでないと、これまでは主として物をめぐって貧富の格差が言われたわけでありますが、来るべき社会、情報化社会などと言われておりますが、その社会では、情報をめぐる貧富格差あるいは情報の享受をめぐる格差ということが生じ、大きな社会問題になっていくことも懸念されるわけであります。
そういう意味では、国民全体に一元的な、また決してコストの高くない、安いサービスを提供していく、こういう国民的なネットワークを形成し維持していくことが必要である。そういう電気通信事業における中核的な事業体というようなものは、ぜひ存続させていかなければいけないし、また存続の条件をつくり上げていかなければいけない。もちろん、民間活力の導入とか競争原則とかというようなことを一概に否定するものではありませんけれども、そういうものが行き過ぎることを通して国民の一部、特に弱者と言われているような部分にひずみが生じることのないよう、十分御検討いただきたいというふうに思っております。
二番日の問題といたしましては、そのことと深く関連いたしますが、特に料金の問題であります。この点につきましては、いやしくも電気通信事業の今後の変革の中で国民負担の増大を招かないように、料金決定の原則を明示していく必要があるというふうに考えております。
もちろん、新しい電気通信事業が合理的な経営をするということは、これは必要であります。これまでも、電電公社をめぐっては幾らかの不合理な問題が生じております。例えば、国家財政の危機というようなことを理由にして、剰余金が吸い上げられるというふうな問題も起こっております。こういう問題を含めて、合理的な経営はしていく必要がありますけれども、そのことが直ちに国民の負担の増大につながることのないよう、十分料金面での配慮が必要だというふうに考えております。
それから三番目の問題は、流動性の問題であります。情報というのは、フレキシブルであることを特質とし、そこにまた、情報の力の根源があるわけであります。情報の活動というのは最大限、フレキシビリティーを保障していかなければいけない。言論、表現の自由というものが民主主義社会で要請されますのもまた、そういうところに起因しているかというふうに思いますが、私たちは今、この情報化という問題をある意味では、一寸先はやみという状況で迎えようといたしております。ただし、このやみというのは、暗いペシミスティックなやみというよりはむしろ、オプティミスティックなやみでありまして、決して将来が暗いわけではありませんけれども、しかもそこでは、どういう事態が生じてくるか。これは内的な条件、事情、また外的な条件、事情、どちらにも不確定の要因がたくさんあるわけであります。
こういう場合に、人間が対応していくとしますと、できるだけかたい組織をつくらない、制度をつくらない。流動性のある組織、制度を考えていく。こういう意味では一つは、これからつくられていく新電電などの内部に、これまでもいろいろの硬組織、硬直があったわけでございますが、そういうのもできるだけ流動化して柔構造の組織にしていく必要がある。したがってまた、これに外から規制などを加えることもできるだけ排除していく、最小限にとどめる必要があるだろう。実は、この流動化ということは同時に、時間に対して焦らないということを意味していると思います。ゆっくりやっていく、手探りをしながらやみの中を進んでいく、いつでも後戻れるように、しかも着実に前進していくようにということでありますから、五年とかということではなくて、できるだけ絶えず見直しを行いながら進んでいけるような、そういう組織づくりを考える必要があるだろう、このように考えております。
四番目といたしましては、今の流動化と絡むわけでありますが、それでは、外部からの規制を最小限にとどめたときに、新しい事業体はどういうふうに管理をしていくのかという問題でありますが、ここでは、経営の情報をできるだけ公開する必要があるだろう、いささかの密室性も排除する必要があるだろう、そういうことを通して、国民の側からのコントロール、監視が隅々にまで行き届くような制度、組織をつくり上げていく必要があるだろう、こういうふうに考えているわけであります。
最後に第五点でありますが、私は国民総背番号制に反対し、プライバシーを守る中央会議というふうな会議に参加をし、役員として運動もしてきておりますが、情報化というのはしばしば指摘されますように、ジョージ・オーウェルの「一九八四年」型の管理社会になりかねない危険をはらんでおります。今回の法案でも、通信の秘密はもちろん規定をされているわけでありますが、これはいわばフローの過程における規定でありまして、フローのプロセスの両端におけるさまざまな問題、とりわけ、プライバシー侵害の危険については規定をしていないわけであります。
この辺は、さきに福岡県の春日市が個人情報保護条例を定めたわけでありますが、国のレベルでは、地方自治体に比べても、こういうプライバシーの保護についていささか立ちおくれているという感を持っておりますが、国全体として個人情報保護基本法というようなものを、例えばOECDの勧告などの線を念頭に置きながら、速やかに規定することが必要だと考えますが、と同時に、こういう新しい電気通信事業を考えるに当たって、やはりその法案の中でも、プライバシーの侵害の危険のいささかもないように配慮していく必要があるだろう、この辺もぜひ御検討いただきたいことだというように考えております。以上で陳述を終わります。(拍手)