加藤勘十の発言 (本会議)
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○加藤勘十君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま議題となつておりまする吉田内閣不信任案に対して賛成の意を表せんとするものであります。(拍手)
われわれが吉田内閣を新任し得ない理由は枚挙にいとまございませんが、そのおもなるものをあげれば、第一に、このたびの疑獄に処してとつた吉田内閣の態度が、議会政治の権威を失墜し、国民の議会政治に対する信頼を喪失せしめた責任についてであり、第二には、吉田内閣が事ごとに憲法を軽視もしくは無視した事実を表明して来たことであり、第三に、秘密独善の外交に終始し、日本を完全にアメリカの隷属国の地位に陥れたことであり、第四に、その財政経済政策がことごとく適正を失つて、経済破綻を招来せしむるに至つたことであります。第五に、吉田内閣の一貫した方針が、時代錯誤のはなはだしき反動政策によつて、民主主義を危殆に瀕せしめたことについてであります。私は、順次理由を解明し、所信を明らかにせんとするものであります。(拍手)
政府と反対党との争いは、政党と政党との争いは、政策と政策を対置せしめ、政策上の失政を責め、施政を糾弾する、堂々の戦いこそ望ましき姿でなければならないのであります。しかるに、このたびの不信任案は、その理由の大半が道義の頽廃を責め、綱紀の粛正を眼目とした道徳上の責任を問わんとする点にあることは、ひとしく国民代表として議席をともにする立場から、まことに遺憾を禁じ得ない点であります。(拍手)従つて、この点に関しましては、私は単に政府のみを責めるをもつて決して潔しとするものではありません。議員みずからもまた顧みて大いに戒めるところがあり、国会の権威を高め、議会政治への信頼を回復することに努めなければならないと思うのであります。(拍手)それだけに、国会の権威と国会に対する国民の信頼を失墜せしめたこのたびの疑獄事件に処した吉田内閣の態度、すなわち不当なる権力の濫用によつて検察当局の独自性を蹂躙し、政界の浄化のために国民が最後のよりどころとした検察当局の行動に一抹の不安を感ぜしめ、三権分立の大精神にあたかも行政権が優先するがごとき錯覚を抱かしむるに至つた責任と、道義を無視し、自己の権勢欲の前には一切を顧みない無節操きわまる反道徳的行為は断固として糾弾されなければならないのであります。(拍手)
このたびの疑獄事件、なかんずく造船疑獄は、直接国民の血税による政府の補助金を中心として引起されたものでありまして、その罪は一層大であります。しかして、この発生の根源は吉田内閣の多年にわたる悪政の累積にある以上、政府はただちにその責任をとり、国民をして道義なお衰えずの感を抱かしめなければならないはずであります。(拍手)しかるに、吉田総理は、事件が最後の法律的決定を見るまでは責任をとらないと言つておる。実に驚くべき厚顔無塩であり、民主主義の破壊者であると言わなければならないのであります(拍手)ことに、検察当局が自由党幹事長佐藤榮作氏の逮捕許諾請求の手続を求めるや、犬養法務大臣は、吉田総理大臣の政治的策謀を代弁して、巧みに職権を濫用してこれを拒否したのである。これがために、検察当局の捜査は一大暗礁に乗り上げ、疑獄の進展は中断せざるを得ないこととなり、司直の公正に信頼をつないでいた国民大衆を失望せしめ、わが国の政治史の上に一大汚点を印するに至つたのである。犬養法相は、みずから良心の呵責にたえず、遂に辞表を提出するに至つたのでありますが、たとい法務大臣が辞職をしたにしましても、吉田内閣が法をもてあそび、民主主義の大鉄則である三権分立の精神に不安を抱かしめるに至つた政治的責任は、永久にぬぐい去ることはできないのであります。(拍手)われわれは、検察当局の自由にして公正なる職能を発揮せしめ、政界汚濁を浄化せしめんと期待した立場から、この吉田内閣の理不尽なる処置に対しては限りなき憤激を覚えるものであります。国民大衆また必ずわれらの態度に共鳴、共感を与えるであろうことを信じて疑わないのであります。(拍手)
元来、吉田内閣は、終戦以来六年有余の長きにわたつて政権の地位につき、この間道義的には幾多の前科を犯しておるのであります。(拍手)戦後の国民生活は敗戦によつて道義のよりどころを失い、人心は廃頽し、ことに青年子女の多くはせつなの享楽に走り、国家の将来にとつて憂うべき風習が常態化せんとするに至つたのであります。かかる風潮に対し、政府は率先して道義の高揚に努めなければならないにもかかわらず、逆に、かえつて道義の廃頽に拍車を加えるがごとき反道徳的行為をなしておるのであります。すなわち、吉田総理大臣は、その政権六箇年の間に、閣僚をとりかえること延人員にして実に百四十数人、自己の権力的欲望を満たすためには閣僚を弊履のごとくに投げ捨てている。かくのごときは、たとい総理に任命権があるとはいえ、内閣連帯性を規定した憲法の明文に反する、不道徳きわまる政治的罪悪と言わなければならないのであります。(拍手)のみならず、これらの大臣の中には、世間だれから見ても、明らかに巨額の献金によつて大臣をかち得たとしか思われないような疑わしき大臣さえ任命しておるのであります。(拍手)このことは、一般の人々には金によつて大臣を買つた売つたという印象を与えるものであり、民主政治の権威と信頼感を傷つけることはなはだしきものであると言わなければならないのであます。(拍手)思うに、吉田総理大臣は、国家がどうなろうと、国民がどう思おうと、自己の権力さえ持続できれば他は一切顧みないという、権力的欲望の鬼と化しているのではないかとさえ感じられるのであります。(拍手)私は、できることならば、道義メスをもつて吉田茂氏の心理を解剖し、この異常性格を分析してみたいとさえ思うのであります。(拍手)私は、このような厚顔無恥、無責任きわまる内閣の存在をこれ以上許すことはできないのであります。これ私が本決議案に賛成する第一の理由であります。
第二に、吉田内閣は事ごとに憲法を軽視もしくは無視していることであります。吉田総理大臣は、ときたま臣茂などと口をすべらして、新聞紙上で笑われておりまするが、これは単に一片の笑い話ではなく、吉田総理が新憲法を理解せず、旧憲法の観念で政治の衝に当つていることを暴露するものではないかと思われるのであります。(拍手)言うまでもなく、憲法は、国家の性格を象徴した根幹であり、国政の最高絶対の拠点であります。その憲法に対して十分な理解なく、自己の独断によつて政治が行われるとしましたならば、これくらい国家にとつて危険なことはなく、国民にとつて不安であり迷惑なことはないのであります。吉田内閣執政の跡を見るに、どこを取上げてみましても、国民への公の奉仕者としての態度はみじんも見られないのであります。まるで旧憲法時代の天皇制の制約から解き放たれた天皇以上の独裁者の恣意だけがきわ立つて目に立つのであります。(拍手)吉田総理大臣は、旧憲法時代のいわゆる朝憲紊乱を合法的に行つているのではないかとさえ疑わしくなるのであります。(拍手)吉田総理大臣は口に遵法を唱えながら、みずからは憲法の精神を蹂躙し、てんとして恥じないのであります。われわれは、道義と人格を基調とせる民主主義を育て上げるために、厳粛に憲法を守らなければなりません。憲法の背反者吉田内閣の存続は許されない。これが私の本決議案に賛成の第二の理由とするものであります。(拍手)
第三に、吉田内閣の秘密独善の外交が、国民を侮辱し、国家の平和的発展を著しく阻害しておる点をあげなければなりません。日本が独立を回復したという——真実の意味における独立ではないが、平和条約発効後における外交について見るならば、おせじにも独立国の外交とは言えたものではないのであります。たとえば、日米安保条約から始まつて、最近のMSA援助協定に至るまで、どこに一体独立国の面目がありましようか。どこに一体、国民とともに国民の意思に基いて交渉するという国民外交的要素があるか。これらの条約の背後には、日米行政協定、刑荘特例、秘密保護法というように、必ず憲法に保障された国民の権利と自由を拘束する屈辱的条件が随伴しておる。このような国民の自由と権利を拘束する重大な条約を締結するにあたつて、事前に国会に諮ることなく、秘密に交渉して署名調印した後に、既成事実として国民に押しつけるという、まつたく専制的な、独断的なやり方をしておるのであります。(拍手)この点から、われわれは、吉田内閣の外交を屈辱的、隷属的外交であり、憲法無視の外交であり、秘密独善の外交であると糾弾するゆえんであります。(拍手)
ことにMSAのごときは、その協定条文の中に、憲法の規定の範囲内でと断らなければならないほど、それほど反憲法的であります。この第八条に規定した軍事的義務の強制は、たとい憲法の範囲内と断り書きがしてありましても、国民を納得せしめ、国民を安心せしむることができないのであります。将来アメリカの太平洋政策が進展するにつれて、太平洋防衛同盟の結成を見るような場合に、日本は必然的にその渦中に巻き込まれ、海外派兵を約束させられるに至るであろうということは、実に現行憲法に違反するのみならず、国家の将来にとつてゆゆしき一大事であると言わなければならないのであります。(拍手)このようなMSA協定の当然の結果として、防衛庁設置法、自衛隊法、秘密保護法等、一連の軍事立法が生れ、日本を再び軍国主義時代の旧態に還元せしむるに至つたのであります。
また、吉田内閣は、韓国政府の設定したいわゆる李ラインに対しては公海侵犯として抗議しながら、同じく公海侵犯であるアメリカの太平洋上における原爆実験に伴う危険区域の設定に対しては、ただに抗議しないばかりか、衆参両院における原子力問題に関する決議の趣旨に反し、これへの協力をさえ提唱しておるのであります。この醜態は見るに忍びない媚態外交の著しきものであると言わなければなりません。(拍手)われわれは、たとい相手がどこの国であろうと、正当なる道理のあるところ、あくまでも独立国の権威を保ち、堂々と五分と五分との対等の見識をもつて折衝すべきであつて、相手のいかんによつて卑屈に陥つたり、媚態を呈したりするがごときは、断じて独立国の外交としては許されないのであります。(拍手)現在、わが国は、中ソ両国との正常なる国交の回復、東南アジア諸国との賠償交渉並びにその正常なる国交の回復、貿易と文化の交流を通じての平和的、経済的海外発展等、幾多の重要なる外交案件を持つておるのでありますが、吉田内閣のごとくアメリカに対してのみ卑屈、媚態の隷属外交を行うようでは、とうてい国民の負託にこたえることはできないのであります。これわれわれが一日も早く吉田内閣の退陣を求めんとする第三の理由であります。(拍手)
第四に、吉田内閣の財政経済政策がことごとく無計画、無軌道であつて、経済破綻を不可避とするに至つた点であります。終戦以来、経済自立の声を聞くこと久しいのでありますが、今日依然としてこの送りおおかみに似た外国の援助を受けなければならぬということは、吉田内閣の政策の無計画性に原因するとはいえ、まことに心寒しき限りであります。吉田内閣の経済政策には一貫した総合的計画性がなく、今日は鉄鋼に力を入れたかと思えば、あすは石炭に乗りかえ、今日は輸出に重点を置いたかと思えば、あすは生産の抑制をはかるというように、まつたくのその日暮しの継ぎはぎ政策にすぎないのであります。また財政政策においても、時に放漫政策をとるかと思えば、急転して極端な金融引締め政策を行い、国民をして帰趨に迷わしめておる実情であります。このようなその日暮しの政策の結果は、必然的に中小歪業者、労働者、農民、一般勤労者を犠牲にして大資本家を太らせ、戦前の財閥を復活せしめる機縁をなしておるのであります。(拍手)しかして、その半面においては、生産の萎縮、失業者の増大、不渡り手形の激増、貿易の逆調、滞貨の著増等、経済危機の様相を深刻ならしめておるのであります。わずかに防衛費の増大によつて一部の軍需産業を潤しておるとはいえ、軍需産業、防衛費の増大は社会保障費の減少となり、減税を不可能とした上に、苛斂誅求によつて国民生活を圧迫して捻出されたものであつて、経済危機は一層深刻を加えるのみであります。
かくのごとき危機に直面して、何ゆえに適切なる対策がとられないかといえば、吉田内閣の考え方が根本から間違つておるからであります。すなわち、大の虫を助けるためには小の虫を殺してもよいという、弱肉強食的の前世紀的な自由放任経済の観念から一歩も出ていないからであります。その時代錯誤の政策が、かえつて経済界を一層の混迷に追い込んでおるのであります。(拍手)このような時氏錯誤の観念にとらわれた吉田内閣は、はずかしげもなく国民に耐乏生活をしいておりますが、国民にとつては、うつろにしか響かないのであります。しかしながら、大資本家は、この政府の呼びかけに応じ、賃金ベースをストツプし、労働者に犠牲を強要しながら、彼らは疑獄に見られるように飽食暖衣をほしいままにし、わがままかつての限りを尽しております。もしこのような一部軍需産業、大資本家に偏重した政策が続けられるならば、経済破綻は必然でありましよう。(拍手)この経済破綻を阻止するのには、吉田内閣の錯覚を断ち切り、自立経済を目ざして確固たる計画性を持たせなければならないのでありますが、このことは政治的に不感症である吉田内閣のとうていなし得るところではない。これわれわれが吉田内閣を弾劾する第四の理由であります。(拍手)
第五に、吉田内閣は、戦争前の軍国主義的官僚時代の郷愁にとらわれて、そのなすところことごとく反動的であつて、民主主義を危殆に瀕せしめる点をあげなければならないのであります。吉田内閣は、占領時代の行き過ぎを是正するという口実をもつて、敗戦という国民最大の悲劇を犠牲にしてかち得た民主主義の諸制度、国民の基本的人権の確立を基礎とした新憲法の精神を蹂躙し、ひた向きに戦争前の軍事的、半封建的制度に返らしめんと、あらゆる努力を払つているのであります。まさに民主主義の賊と言うべきであります。(拍手)
さきに述べましたMSAの援助協定も、吉田内閣のこうした野望を満さんとする一つの方便にすぎなかつたのであります。防衛庁とか自衛隊とかは、形式的に名前をごまかしておるだけでありまして、実質的にはりつぱな軍隊組織であり、軍国主義の復活であつて、まつこうから憲法に挑戦するものであります。(拍手)たとえば、MSA協定下の秘密保護法と、軍国主義時代の機密保護法と、どこに一体舟の相違がありましよう。(拍手)また警察法の改正のごときは、せつかく自治体警察、すなわち国民の自主的治安力として成熟せんとして来た警察制度を、再び国家権力として国民の手から奪い取り、国民支配の道具に供せんとするもので、そのねらうところは官僚時代の復活をはからんとするもので、時代錯誤もはなはだしきものと言わなければならないのであります。(拍手)
さらに、政府は、基本的人権の源泉たる家族平等の原則を破り、家長制度を再現せんと、憲法改正の先がけとして民法の改正をねらつております。また、教員の人権を抹殺する悪法として指弾されておりまする教育関係二法案のごときは、名を教育の中立性にかりた恐るべき反動立法の一つでありまして、当面的には、中立の名によつて、実は教育を反動的勢力のもとに縛りつけ、将来は、児童の自由なる発育を妨げ、権力の前には羊のごとく従順に、人形のごとく盲従する国民をつくり上げんとする画一主義への還元を内包せる恐るべき野望が潜在していることを見のがすことができないのであります。気違いに刃物を持たして走らせるくらい危険なことはございません。それとこれと同じと言うのではありませんが、権力の鬼と化した吉田内閣に、これ以上野放図なわがままを許すことは、国家にとつても国民にとつても、これくらい危険なことはないのであります。戦前への還元をねらつて、あらゆる努力を集中して猪突猛進せんとする吉田内閣の姿は、眼中国家もなく国民もなく、自己の妄執に陶酔した悪鬼羅刹の姿であり、死の狂宴に乱舞する断末の姿であります。吉田内閣は断末のスリルを味わつて愉快かもしれませんが、国民はたまつたものではありません。国民は……。(「結論にしてください」「無理しないでください、趣旨はわかりました」と呼ぶ者あり、拍手)われわれは、静かに冷やかに吉田内閣のありのままの姿を批判して、今こそ国民の公憤を代表して吉田内閣を倒さなければならないという確信の上に立ち上つたものであります。
〔「やめてください」「趣旨は徹底しました」と呼び、その他発言する者あり〕