稻村順三の発言 (本会議)
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○稻村順三君 ただいま議題となりました防衛庁設置法案及び自衛隊法案について、内閣委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
両案はともに保安庁法の全的改正の形式をとつていますが、防衛庁設置法案は、防衛庁の所掌事務の範囲及び権限等を定め、自衛隊法案は、自衛隊の任務、部隊の組織編成、行動及び権限、隊員の身分取扱い等を規定しております。個々の規定について形式的に見れば、保安庁法及び同法施行令と同一趣旨のものが多いのでありますが、根本においてはまつたくその性格を異にするものがあります。
今両法案を通じ新たに規定されたものについて申し上げますならば、第一は、その任務及び権限に重大改正をし、自衛隊の主たる任務を直接侵略及び間接侵略に対し防衛することとし、必要に応じて公共の秩序維持に当ることにしました。従つて、自衛隊の行動について新たに防衛出動せしめる規定を設け、外部からの武力攻撃またはそのおそれのある場合、内閣総理大臣が防衛の必要ありと認めるときは、国会の承認を得て自衛隊の全部または一部の出動を命ずることができ、特に緊急必要の場合には、事後ただちに承認を求めることとして、国会の承認を得なくとも出動を命ずることとしています。しこうして、国会で不承認議決のとき、または必要がなくなつたときは、ただちに自衛隊の撤収を命じなければならないとしております。防衛出動時には、自衛隊は、国際法規の慣例を遵守し、かつ事態に応じ合理的に必要と判断される限度内において武力を行使することができ、さらに一定地域内において、原則として都道府県知事を通じ、施設の管理、物資の収用、業務従事命令等を行うことができる等、まつたく戦時態勢にも比すべき措置をとることになつております。また、間接侵略その他の緊急事態に際し、一般警察力をもつてしては治安維持ができないと認められる場合にも、内閣総理大臣が自衛隊出動を命ずることができることとし、その場合の要件等は保安庁法における命令出動または要請出動の場合と同様であります。なお、外国の航空機がわが国の上空に不法侵入したときは、長官は、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させまたは退去せしめる必要な処理を講じさせることができるものとしてありますが、このことは空中戦への発展を示唆しております。
第二は、従来の保安隊に比して、航空自衛隊の新設とともに、隊員の数を増加し、もつて陸、海、空の三軍方式による部隊を編成していることであります。すなわち、防衛庁職員の定員は、これによつて自衛官三万一千七百九十二人、その他非制服職員九千五百九十四人、計四万一千三百八十六人を増加して、陸上十三万人、海上一万五千八百八人、航空六千二百八十七人、統合幕僚会議十人、合計十五万二千百十五人とし、その他の職員一万二千四百二十三人を合せて、定員総数を十六万四千五百三十八人としておりますが、言うまでもなく、これは単なる保安隊の漸増ではなくして、軍隊への飛躍的発展であります。
第三は、自衛隊の指揮監督に関する事項であります。すなわち、自衛隊法案は、従来の規定に加えて、新たに内閣総理大臣が内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有することを定めておりますが、その権限において統帥権を思わせるものがあります。(拍手)
第四は、防衛庁の所掌事務に関する基本的方針の策定について、長官を補佐する参事官八人以内を置き、官房長及び局長は参事官をもつて充てることにしております。なお、内部部局として新たに教育局を設けるとともに、課長以上の職に対する制服職員の経験を有する者の任用を制限する規定を削除しております。
第五は、陸、海、空各自衛隊は、おのおの最高指揮官であり同時に幕僚長餐ある幕僚長を持つているが、総合的かつ有効な運営をはかるため、長官補佐の任務を持つ統合幕僚会議を設けてありますが、その議長は専任とし、自衛官の最上位にある者をもつて充てています。
第六は、国防に関する重要事項を審議せしめるため、内閣総理大臣の諮問機関として、内閣に新たに国防会議を置くこととしていますが、その構成及び運営等は別に法律で定めることとしております。
第七は隊員の服務に関するものでありますが、隊員は、事に臨んでは危険を顧みず身をもつて責務の完遂に努め、もつて国民の負託にこたえることを期するといい、また隊員の退職が自衛隊の任務の遂行に著しい支障を及ぼすと認めるときは、政令で定める特別の事由がある場合を除いて、自衛隊の任務を遂行するため必要とする最小限度の期間その退職を承認しないことができる等、軍人の服務の本旨にのつとつております。
第八は、自衛隊の防衛力を確保するため、志願に基く予備自衛官制度を設けたことでありまして、その任用期間は三年、その員数は一万五千人と定めてあります。
以上がおもなるものでありますが、なお自衛隊の任務遂行上必要な諸般の規定を設けております。
しかして、両法案は原則として公布の日から起算して一月を越えない範囲において政令で定める耳から施行することとし、施行に伴う経過的措置を定めるほか、海上公安局法を廃止し、関係諸法律にそれぞれ所要の改正あるいは整備を行つております。
二法案は三月十二日本会議において政府の提案の理由及びその内容の説明があり、同日並びに翌十三日の両日にわたつて各党の質問が行われたのでありますが、何分にも、この両法案は、母上の概略説明にも申し上げました通り、戦争放棄を特徴とする憲法との関連がきわめてデリケートであり、世論またその点を中心に沸騰していますので、三月十三日両法案が本委員会に付託されて以来、政府の説明を聞き、日米相互防衛援助協定との関連を明らかにするため外務委員会と連合審査会を開くほか、四月一日からはほとんど連日委員会を開いて熱心に質疑を重ね、また二日間にわたつて公聴会を開き、外務委員会とも連合審査会を開くなど、きわめて慎重に審査を行つたのでありますが、これらの詳細については会議録に譲り、多くの委員が異口同音に強く指摘して政府の反省を促したおもなる事項についてその要旨を申し上げますと、一、自衛隊の任務等に関する規定から見ると、その性格、内容は保安隊のそれと一変しており、これは政府が従来主張して来た保安隊の漸増方針と異なるものであるから、もはや憲法のわく内では許されないのではないか。二、MSA協定が効力を発生すれば、わが国は、防衛力の増強ばかりでなく、自由諸国における集団安全保障の機構に参加し、ひいては集団自衛の義務を負うことになわ、従つて海外派兵の義務を負うことになるのではないか。三、武力侵略のおそれある場合に自衛隊の出動を命ずることができるとする規定は、ただに武力侵略に口実を設け得るという危険があるばかりでなく、国際的にはすでに否認せられているものであつて、国連憲章を尊重するという平和条約第五条の規定と矛盾するものではないか。また、武力侵略のおそれだけで自衛隊を出動させることは、いたずらに相手国を挑発させる危険があるのではないか。四、自衛隊の出動は勢い交戦という事態に至るのにもかかわらず、しかもなお憲法を改正する必要がないとするならば、結局防衛のためならば無制限に自衛隊を増強することができるということになるのか。五、内閣総理大臣に権限が過度に集中するおそれはないか。ことに自衛隊の出動命令については、時の内閣総理大臣の専断に帰する危険性がきわめて多く、国会の承認と内閣総理大臣の出動命令とをいかに調整するか。六、兵器の生産力については、ひたすら他国に依存する建前では、一旦直接侵略があつた場合は、はてしない消耗に対して兵器が無制限に補給され得るとは期待できないから、防衛を全与することは不可能と思う。ことにアメリカから供与または貸与を受ける兵器については、秘密を保持することと、アメリカの規格によることが要求されているから、かかる兵器の生産については永遠にアメリカに依存ずるよりほかに道がなく、結局自衛隊はアメリカの前線部隊、たまよけとなるにすぎないのではないか。七、画期的な防衛法案の提出にあたつて、きわめて重要な国防会議の構成について概想すら持合せがないということは、政府の怠慢ではないか。八、単に二十九年度における防衛計画のみでは、いたずらに国民に疑惑を抱かしめるばかりでなく、法案審査の上に支障があるから、なるべくすみやかに長期防衛計画を示すべきではないか。九、指揮官と幕僚とは本来区別するのが各国に共通した常道であるのにかかわらず、両者の兼務を認めている制度は、やがて武権が文権を圧迫するに至る危険を多分にはらむゆゆしい問題であるから、すみやかにこれを修正すべきではないか、等々でありました。
なお、公聴会では、公述人は各党の推薦が四名、一般公募が二名、合計六名であり、賛否それぞれ三名といたしましたが、その際注目すべきことは、両法案に賛意を表した公述人においてすら、わずか一人を除くほかはことごとく両法案が現行の憲法に違反する旨を述べたことであります。(拍手)ただ賛成する者は、それゆえにこそ憲法を改正せよと主張したのであります。
なお、両法案の審議に際し、両法案において自衛隊の最高指揮者と規定されているばかりでなく、今国会における最重要法案の提出責任者である吉田総理が、しばしばなる出席要求にもかかわらず、最終日にわずか二時間足らずしか出席しなかつたことは、審議にあたつて委員会の委員長としては遺憾の意を表ぜざるを得ないのであります。(拍手)今後かかることのないよう、政府に対して警告を発せざるを得ないのであります。
かくて、五月六日質疑を打切り、討論に入りましたところ、大久保委員は自由党を代表し、戦時においては非武装中立を維持することは困難であり、自衛権の範囲内における防衛力は憲法も否定するところでなく、かつ原子力以外の方法による侵略が想定せられるとして賛成の意見、栗山委員は改進党を代表し、侵略に対し国の平和と安全を守る責任を外国にゆだねていることは、独立国家としてきおめて不自然であるから、最小限度の軍備を整えるべきであり、その意味で、自衛隊はかかる意味での軍隊であわ戦力、だが、わが改進党は、これを憲法改正せずして可能だと割切つているのに、政府はこの点をあいまいにしている、それに、今日の吉田総理の日ごろのやり方を見ていると、本法案のように内閣総理大臣に権力が過度に集中することは不測の困難を招来する危険があるから、よろしく反省すべきだとの希望を付して賛成の意見、田中委員は日本社会党を代表し、自衛隊は、その任務及び装備からして、国際通念上軍隊であり戦力であるから、憲法違反であり、ことにMSA援助協定に基く義務の結果として、アメリカの対外政策のために海外出動させられる危険がある、佐藤法制局長官が、委員会の答弁で、公務員の海外出張という形の集団安全保障への協力と言うたのはこれを意味しているものである、国際間の緊張が次第に緩和の傾向に増大していることは、緒方副総理もこれを認めているくらいである、しかるに、このとき、両法案は、防衛費の増大によつていたずらに国民生活を圧迫するのみならず、アジア諸国を刺激して、むしろわが国の平和と安全を阻害するものであるとして反対の意見、(拍手)中村高一委員は日本社会党を代表し、まず二箇月近い審議中、総理の出席がわずか最終日の二時間足らずであり、かつその応答が冷酷にして傲岸不遜であるために、審議に不用の時間を要したと責め、それから、両法案は、保安庁法とその内容を一変し、政府が従来答弁して来たところの漸増方針とはまつたく異なるものであり、かつ憲法に違反するものであり、わが国の財政力からしてもますます国民生活を圧迫するものであるとして反対の意見、(拍手)辻委員は、軍機構として指揮者と幕僚が混同されていること、幕僚フアツシヨが起ること、クーデーターに利用されやすいという重大な欠陥があることを指摘して反対の意見、(拍手)また中村梅吉委員は日本自由党を代表し、両法案と憲法との関係については割切れないものがあるが、独立国として自衛のために防衛力を持つことは当然必要であるばかわでなく、集団安全保障機構に参加するには、ある程度の準備が必要であるとして賛成の意見を述べられ、採決の結果、多数をもつていずれも原案の通り可決いたしました。
以上御報告申し上げます。(拍手)