下村定の発言 (内閣委員会公聴会)

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○下村公述人 私のような老兵がかような席で皆様にお話申し上げることは、まことに光栄の至りに存じます。時間の関係もありますので、まず順序としまして、私の考えております国防会議というものの必要性ということについて、ごく簡単に二、三カ条申し上げます。続いて、ただいま国会に出ております法律案のこれまた若干項につきまして、私の意見を申し上げたいと存じます。
 最初の必要性でありますが、これももう皆様の耳にはたびたび入っていることと思いますからなるべく省略いたします。
 その第一に申し上げますことは、国防会議を現代の複雑な国防問題の情勢に即応させるということであります。申すまでもなく、日本におきましては、内閣総理大臣が自衛部隊の指揮統率の最高責任者でありますが、現在の非常に複雑な国防の諸問題は、なかなか一人の力をもって裁決し得ることのできないのはもちろんのこと、かりに主任庁が主任になりまして起案をしてほかの庁がこれに補足協力するという程度でもなかなかできないと思う。ことに問題の性質上緊急を要することもありますから、どうしてもこれは何らかの手段をとらなければならぬ。現に各諸大国におきましても、近代、特に第二次大戦以後におきましては、ほとんど一様に、名前や機能は多小違いますけれども、その国の元首または総理大臣のもとに権威ある国防の審議機関を作っておるのであります。ほとんどこのことは共通の原則になっております。
 第二に申しますことは、いわゆる文民優位性を現実に実行すること、それから国防の諸問題が片寄つた政策、あるいは一時の政変によって左右せられないというこの点であります。今先に申しました国防問題の複雑なことにかんがみましても、ことにやかましく言われておりますところの政治が軍事を支配するというこの大原則を、しっかり遂行するという点につきましては、どうしても国防会議というものが必要と考えるのであります。皆様とくと御承知のように、日本の憲法下におきましては、総理大臣の権能が相当に広く、何とかこれを適当に抑制する必要もあります。また政変その他によって国防問題の一貫性がくずれるというようなことがあっても困るのであります。こういう意味合いからして、私が第二として申し上げました意見は、単に国防会議が必要であるということのみならず、その国防会議の構成そのものが、ただいま申しました目的に沿うように、いわばわが国現在の独得の着想をもって作らなければならぬと考えております。
 第三に申し上げますことは、すみやかにわが日本の国防方式ないし防衛の諸計画の自主性を確立する必要であります。御承知のように、現在の自衛隊は、その発足当時の情勢によりましてやむを得ない点もあったでありますが、今においても米国に対して従属的な色彩を濃厚に持っております。また一方におきましては、日本当局の防衛に対する態度が不得要領でありますために、米国あたりは日本に対して当然なすべき積極的の援助をもちゅうちょするという態度を認めるのであります。かような好ましからぬ状態からすみやかに脱却しますことは、日本の独立を完成するためにも、また米国と適切なる共同防衛の実をあげるためにも、きわめて必要なのでありまして、私の考えをもってしますれば、当局はこの際国防問題を単に防衛庁に依存する態度を一擲をしまして、すみやかに国防審議機関を作って、これによってわが国の国情に即する、また自主的なしっかりした計画を立てる必要があろうと思うのであります。以上三つのことが私が国防会議を設置する必要として考えておることでありますし、同時に、もし国防会議が設置せられるならば、ただいま申し上げましたようなことが、そのおもなる目的でなければならぬと存ずる次第であります。
 次には法律案そのものに移ります。その中で今日私申し上げますことは、第四条の中の第一項の第六号、すなわち国務大臣以外の議員に関する件、次は第八条、関係大臣の会議出席に関する件、最後に第十条の会議の事務局に関する件、これだけを取り出して意見を申したいと思います。
 まず第四条、民間から選出される議員につきましては、新聞等を見ますと、何か特別の事情で少し動きがあったように承わっておりますが、本日私はそれに関係なく全く白紙の態度でかねて考えておりますことを率直に申し上げます。その点は御了承いただきたいと思います。私はこの第四条の第一項第六号、すなわち民間から適任な方を簡抜をして議員に加えるということには賛成であります。その理由といたしましては、先ほど私があげました国防会議の必要性三カ条、このいずれから見ましても必要と存ずる次第でありますが、特にわが国の現状におきましては、もしこの民間議員の参加ということが法律から削除されましたならば、国防会議を今日設置する目的の大半は没却されるのじゃないかということを私はひそかに憂えております。ただいま私は日本の現状においてということを申しましたが、その現状ということの第一は、国の制度の問題であります。さらに申しますと、先ほど申しましたように、日本の現在の憲法下におきまして閣僚だけで国防会議を組織いたしますと、ややもすれば国防の施策方針が片寄ったものになる不安があります。また政変その他一時の政局の変動によりまして一貫性を失う、常続性を失うという憂いもあると思う。でありますから、将来憲法などが改正されまして、こういう不安が除かれますまでは、これはやむを得ず民間のしかるべき方を議員に加えて、そうして超党派的の見地から、また一身上の進退に関係なしに縦横無尽にこの識見を会議の上に発揮していただく必要があるだろうと思うのであります。
 次に現状と申しましたその第二であります。これは人の問題であります。この民間から議員を任用するということについて反対される方の議論の中には、よく外国にそういう例はないんだということをおっしゃる方がだんだんあります。それはその通り、ありません。がそれだけを見て民間から議員を出すということに反対をするのは、私をして率直に申さしめれば、たての半面、議論としては完全でないと思います。私は実はこの敗戦後外国に行ったこともありません。また浪人をしておりますので、いろいろな研究調査もはなはだ不十分でお恥かしいのであります。しかしながら自分のことを申してはなはだ恐れ入りますが、戦前におきましては、若いころに前後四年にわたりまして、第一回には第一次大戦後における連合国大使会議の専門員として、また続いてはジュネーヴにおける国際軍縮会議の帝国全権の随員といたしまして軍人といたしましては比較的多く、欧米諸外国の政治家やないし有数な外交官の、軍事に関係ある国際会議における会議の統裁ぶりとかあるいは質問応答ないしは個人の意見というものを実際に聞く機会を得たのであります。そのころから私はひそかにこれはだいぶ程度は高いというて実はうらやましく存じておりました。今度の戦後におきましては、続いてあるいは文書により、あるいは外国に視察に行かれた先輩や友人の方の視察談を総合してみますと、私の観測はやはり当っておるんじゃないかと思います。ことに偶然ではありますが、この七月十三日にフランスの国防総参謀長のギヨーム大将が三日ばかり日本に滞在せられました。私は偶然ある会合で会いましたので、直ちにこの問題を確かめてみたのであります。御承知のように、軍人は集まりますと、とかく政治家や何かの悪口を言いたがる、ギヨーム大将はそのとき悪口を言いませんでした。後に彼の言ったことを申しますが、私はギヨーム大将の言葉をもってしましても、諸外国の政治家、ことに直接国防に関係ある仕事をしておられる当局者の軍事常識というものは、相当に高いもんだということを感知したのであります。むろん私は先ほど言いましたように、軍事以外のことはわからぬ一老兵であります。日本の国内のこともそれ以外のことはさっぱりわからぬのでありますが、最近この三、四年間国会におきまする歴代政府のおえらい方の御答弁をつぶさに拝聴しておりますと、どうも私ども見ましてもはなはだ心細い。これで果して国防方針を作るとか、あるいは日本で最も必要な文権優位の確立というようなことができるだろうかというとひそかに考えておる次第であります。このことはむしろ皆様の方が私よりもお感じになっておると思うので、これ以上は申しません。そこでかりに私の観察が誤ってないものとしまして、諸外国と日本との間にどうしてこんなに開きができたかというようなことを考えてみますと、これは私どもにも大きな責任がある。すなわち過去におきまして軍は国防というものを壟断しまして、必要以上に軍事を秘密にしたのであります。これはまことによろしくないことでありました。しかしそれはそれといたしまして、私はここにはなはだ僭越な申し分でありますけれども、今後日本の政治家諸公におかれましては、もっともっと今よりも深刻に軍事問題というものを御研究いただきまして、軍事専門の者の知能に対してはより高い識見、実力を持って、適切に軍事上の意見をコントロールし、また利用のできるものかあったらこれを活用するというふうに、ぜひやっていただきたいのです。これこそほんとうの文権優位でありまして、私はその日の来ることを一日も早くあるように心から念願しております。そういうふうになれば、それこそ国防会議に閣外から人を呼んでくるような必要はないのであります。こういうふうに考えます。
 次にやはり反対論の一部としまして、内閣責任制という理論から、閣外の者を入れるのは適当でないという御意見があり、相当根拠があるようでありますが、私は一方におきまして責任ある法律専門家の口から必ずしもそうじゃない、諮問機関であり、また民間から出る議員が公務員としての地位を持つならば、必ずしも内閣責任制の原則をくつがえすものではない、憲法に違反するとは言えないということを承わっております。私はそのいずれが正しいか判断をする力はありませんけれども、もしそういう解釈ができるとしたならば、何も民間議員を入れないといって戸を閉める必要はないと思う、もしそういう法律論、しかも解釈のしようによってはそうでもないものをたてにとりまして、かりに入れるべきものを入れないでおくというと、私は非常な危険が生ずると思う。皮肉な言い万でありますが、議員諸公——議員というのは皆様のことではありません、国防会議の議員であります。国防会議の議員諸公が何かむずかしい問題が起ったときに、苦しまぎれに暮夜ひそかに自分の縁故のある者、その他自分の都合のいい専門家を連れてきまして、こっそり意見を聞く、私はこれほど危険なことはないと思う。そんなことをやるくらいならば、権威のある者をちゃんと公式にその地位を与え、責任を持たせて、堂々と国防会議の席上で意見を言わせて、それを統制したたらばよい。うっかりするとそんなことになる。うっかりするとじゃない、私はこれについて過去数年間あああんたことをしてくれちゃ困るなということを経験した。これは単なる参考に申し上げます。
 それからまた説をなすものは、国防に関する問題といったって、それは内閣が国会に対して責任を持ち、世論に押されてやることなんだ、世論を基礎としてやることなんだ。何も国民の一部のほんの少数の者が内閣のお手伝いにいく必要はないという方もあります。それも一応ごもっともであります。しかしこれは私に言わせますと、原則というものと、仕事のやり方というものを混同しておる。原則はそれに違いありません。しかし世論、々々といったって、世論から国防計画が具体的に生まれるものではない、国会に対して責任を負う、その通りであります。議員提案の法律というものもあります。ありますけれども、実際この国防問題のような継続した、しかも非常に機微な問題を、常に議員立法によることはむろんできない。だからいやしくも現在の日本の情勢におきましては、やはり閣僚だけでは国防会議としては物足りない。
 それからまたある方は民間の者を入れると秘密が漏れやすいとおっしゃる。これも理屈はあります。しかしその反対も言える。私はむしろ権威のある人を責任を持たせて会議に出しておけば、そういうことはかえって少くなると思う。そういう不注意は少くなる。先ほど申しましたように、自分がわからぬので、こっそり局外の人を連れてきてやるというようなことはかえって少い。ある問題について造詣の浅い大臣方が、かえってそういう機会が多いのじゃないかと思う。少々皮肉でありますが、そういう感じも起る。
 そこで最後に私は民間から選出をする議員の人選ということにつきまして、一言したいと思います。
 この方々は申すまでもなく視野の広い、しかも国防に直接つながりのある問題、すなわち軍事とか科学、技術、産業、経済、あるいは国際問題、外交といったような、それぞれのいずれかの問題について一流の権威者であることが必要であろうかと思うのでございます。そこで軍事について申しますと、私のような軍人の古手を国防会議に加えるかどうか、ああいう者を加えちゃいけないという議論が盛んに出ております。ごもっとも千万だ。いやしくも軍事上のりっぱな識見、判断力を持った公正な人物であれば、何も古い軍人なんかを引っぱり出す必要はない。古い軍人以外の方をその議員に選出するのが一番けっこうだと思うのであります。ただここにちょっとつけ加えて申しますが、どうも今ごろでも古い軍人といいますと何かしら危険人物あるいは前科者のように心得て、これを千編一律に排撃をする、あるいは敗残の将は兵を語る資格なしというわけで、せっかく戦後苦しい思いをして軍事の研究を続けておる若い有能な人も十ぱ一からげに排斥する傾向があるようであります。これは私はどうもふに落ちない。人権尊重の上からいいましても、人物の登用という意味からいいましても、純良な民心に与える影響という点から見ても、こういう時代錯誤はすみやかに取り去るべきじゃないかと考えるものであります。以上が第四条の第一項第六号民間議員に関する私の意見であります。
 次は第八条関係大臣等の出席の項であります。ここで私が申し上げたいことは、防衛庁の統合幕僚会議議長というものがあります。あれは常に会議に出すべきものだと思うのであります。その理由を簡単に申しますと、国防という以上、ほとんどすべての場合に多かれ少かれ軍事事項の関係のないことはまずなかろうと思います。でありますから、この会議に臨むに当って文官でありますところの国防大臣、今ならば防衛庁長官が、その軍事幕僚長である統合幕僚会議議長を帯同して会議に出席をして、必要があったときに即座に統合幕僚会議議長をしてその軍事専門の意見を述べさせるということはきわめて自然であり、有益であり、必要であると思います。これは国防会議に民間議員を入れるということよりももっと重要であると思う。統合幕僚会議議長というものは軍事専門に関しては政府の最高責任者である、それが自分の職権内のことについて国防会議に意見を言うことはきわめて自然なことである、ほかの運輸大臣あるいは農林大臣という方が臨時に出て意見を言われるのと同一に取り扱うべきものではないと私は信じております。現に各国の例を見ましても、アメリカ以外にはすべて、たとえば参謀総長のような最高責任の地位にある軍人を会議の構成員にいたしております。アメリカはやっておりませんけれども、承わるところによりますと、現在の大統領は常に統合参謀本部議長を手元に呼んで意見を聞き、また国家安全保障会議にも出席をさせておるということであります。古い話でありますが、前々大統領のルーズヴェルト氏も、海軍のリー提督を補佐役として、国内的にもまた国際的にも重要な会議には常に帯同いたしたということを聞いております。これらは多少筋は違いますけれども、軍事と政治とのつながりを密にするという考慮の現われであろうと思うのであります。
 そこで日本の法律案を見ますと、議長である総理大臣が必要と認めたときには統合幕僚会議議長を臨時に呼び出して意見を述べさせることができると書いてあります。一応それで道はあいておるのでありますけれども、果してそれで遺漏なく行くでありましようか。国防に関する問題は緊急を要することが多いのであります。意見を具申する側から申しますと、常に会議に出席をしてその経過を知り、問題の要点を握っておればこそ、適時に適切な説明もでき、意見具申もできるのであります。これが臨時に天下りに呼び出されて突然大事な問題を聞かれたって、いかに練達の士でも思う通りにはいかない。思う通りにいかないということは、そこに何らかの重大なる欠陥を生ずる憂いがあると思うのであります。
 そこでまた少し横道に入りますが、先ほど申しましたフランスの国防総参謀長ギョーム大将の私に答えましたことを簡単に申します。私は将軍に対して、まずフランスの政府諸公に対する彼の忌憚なき観察を聞き、また国防会議等の情勢について、ごく短時間でありますけれども、意見を聞いたのであります。その答えは要約すると次の通りであります。現在自分の——自分というのはギョーム大将、自分の接しておる政府の高官は、文民——フランスは文民と申しません、文権、権であります、文権優位を実行するのに適任である、また実際において実力上その権限を持っておる、同時に絶えずわれわれの意見を必要とし、またこれを求めておるのである、こういうことを第一に申しました。第二には、国防会議のようなものは絶えずこれに接触しておらなければ、大事なときに時期を失するのみならず、非常にむだが多い、私は自分が旅行等で出られぬときでも、一週間に一ぺんは必ず各軍の——各軍というのは陸海です、陸海軍の参謀総長を集めて会議をして、そして国防会議に対する意見具申の案を作って、自分がおらなくても出すようにしておる、しかし私は議決には参加しない、こういうことを申しました。むろん外国人たる私に対して申したことでありますから、多少の掛値もありましょうが、大体においてこれはうまくいっておるなという感じを受けました。御承知のように、フランスというところは戦争にはいつもパッとしないところでありますけれども、この文権優位という点については日本よりまあ先輩だなと思いまして、これも一応うらやましく感じた次第であります。
 これを要しますのに、統合幕僚会議議長を常に国防会議に出すということは、私は軍事専門の見地からすこぶる重要だと思っております。会議のほんとうの議員として議決に参加させるということについては、なお研究を要すると思いますけれども、少くも常時出席をさせるというふうに、できましたらば政府案の御修正を願いたいと存ずる次第であります。
 最後に第十条の国防会議の事務局について簡単に申します。私は政府案の規定、すなわち内閣に国防会議の事務局を常設するというこの規定には賛成であります。続いて起る問題はその機能でありましょうが、これはまだそこまでいっておらないようであります。私は私案は申し上げません。ただしこれは庶務的にただ会議のおぜん立てをするというだけでは役に立たぬと思うのであります。またこれが防衛庁に属するというようなことはこれまた弊害があると思います。私の考えをもってしますれば、その事務局のおもなる職員は、これは兼任でなしに国防会議の幹事役として適任な人を要るだけ集めまして、そのほかに各省からの兼任の人が加わる。そうしてやることは何かというと、各省、各庁からそれぞれ出て参りますところの議案を整理し、会議の資料を整理をする、そうして審議のしやすいように会議そのものに提出をすること、いま一つは、必要に際しては事務局みずからある議案を作り、あるいはある資料を整備するというだけの機能を備えることが必要と考えるのであります。
 以上をもちまして私の所見を終りたいと存じます。はなはだ失礼な言葉も使ったと存じますが、この点はおわびを申します。(拍手)

発言情報

speech_id: 102204914X00119550725_002

発言者: 下村定

speaker_id: 3743

日付: 1955-07-25

院: 衆議院

会議名: 内閣委員会公聴会