長瀬繁太郎の発言 (商工委員会)
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○長瀬参考人 関連産業を代表いたしまして、繊維工業設備臨時措置法案が国会に提出され、設備制限と過剰設備の処理を強行するに当りまして、私がこの委員会に本日参考人として公述する機会を与えられたことをまず感謝するのであります。
以下私の所信の一端を披瀝いたしまして、委員会各先生方の参考に供したいと存ずるのであります。一昨年織機の設備制限の中小企業安定法二十九条が実施されまして、機械製造業が致命的な打撃をこうむったことはすでに十分御承知のことと存ずるのであります。今回またまた右の法律が制定せられまして、繊維産業の安定のために広範な繊維産業設備の制限を施行されますならば、繊維機械産業界、さらに私どもの関係しております関連産業のこうむる惨状は今さら申し上げるまでもないのであります。繊維機械製造業は窮余の措置として心ならずも従業員の整理、賃下げ、事業の縮小、下請工場の閉鎖を行わざるを得ず、機械業界の転業による産業界の混乱、先ほど石田参考人から申しましたような製作技術の進歩の阻止、繊維機械の輸出の阻害などは必至の問題であると思うのであります。さらに本法施行の結果は、繊維品の生産は減少いたしまして、価格の騰貴を来たし、一部業者の利益をいやが上にも助長いたしますが、一般大衆の生活が圧迫せられることはこれまた火を見るよりも明らかなのであります。先ほどどなたか、大西さんだったと思いますが、消費大衆には安価な良品を提供するということをおっしゃったのでありますけれども、過去の実績の上から比較勘案いたしますと、その反対に独占企業が王座にあぐらをかいて、おそらく一般大衆は高い製品を買わされなければならぬ結果になることをおそれるのであります。産業界のうちにおきましても縮小閉鎖に伴って失業者は続出し、今日紡織機に専業しております機械産業の従業員は約二十万でありますが、一昨年施行されました二十九条の法律発動による実例のパーセンテージから申しまして、おそらく十万の失業者が出ることは必至だと信じて疑いません。かかる容易ならない社会的、経済的悪影響を与える危険のある法案の提出は、一部繊維業界の安定を念願するに急にして、わが国産業全体に対する認識の欠如によるものと思うのであります。要するに業界を擁護し、悪影響の防止をするために万全の策を確立しなければならぬと思います。ただ一部の利益のために百害の発生を顧みない弱肉強食のための改正は、友愛精神をスローガンとする鳩山内閣といたしましてははなはだ遺憾千万であると思います。もしそれが過剰設備でありますならば、それは不合理な国家権力による人為的措置によらずに、水の低きに流れるごとく、経済自然の法則に立って行うべきで、今日の設備制限はむしろ大企業、大資本の安定に終る憂いが多分に存するのであります。およそ立案立法するに当りましてその法律法令の実施後における社会に与える影響を十分考慮に入れましてその精神を法に十分織り込み、文明国家の法とし、また民主主義国家の法として国民に協力要請することは当然であると思うのでありますが、遺憾ながらその精神を織り込んでおりません。犠牲に対する対策、私は関連産業の代表でありますから、下請のことを申し上げますならば、たとえば下請産業に対して特別更生保護法の立案もしくは国家権力によって生産の制約を受ける紡機製造用機械を政府が買い上げる、あるいは工場管理を確立するとか、失業者に対する保障等、いろいろ法施行後における対策を講じてこそ、私は民主主義国家の法律として国民の協力を要請するゆえんであると思うのであります。先ほど申しましたように、そういうことがこの本案に対しましては織り込まれていないことははなはだ残念に思うのであります。私たちはこの法案がもし通過することによって、日本の大多数の国民、日本民族八千数百万の人たちが恩恵を受けるということが実質的に、理論的に、科学的に立証されるといたしますならば、私たちは喜んでその犠牲になることにやぶさかでは断じてありません。一部のものは利益を受け、大多数のものは不利益をこうむるということを思いますとき、遺憾ながら私たちは反対せざるを得ないのであります。終りに臨みまして委員各先生方にお願いしたいことは、最初この設備制限が立案されました当初と今日とではその反対の現象が現われておるという事実であります。設備制限をしようとして立案された法律が、その立案という声におののき一斉に登録しようということで、変則的な好景気と申しますか、変則的な制度に狂弄しておるというこの現実を静かにお考えを願いたいと思うのであります。
それから私はこの際、大西さんでいらっしゃいましたか、中小企業というものは非常に零細なもので、はなはだ弱いということをおっしゃったのでございますが、私は断じてそうでないと思う。それは、国家に寄与して日本再建の一翼になろうという自尊心がないためで、ああいう敗北主義的なお考えをお述べになることをはなはだ残念に思うのであります。一昨年の中小企業安定法二十九条によって受けた当時のあの惨状は実に惨たんたるもので、この際特に委員各位の参考に実情を訴えたいと思うのであります。私は名古屋のものでありますが、織機紡績は愛知県が全生産の大体六割を占めているのであります。その六割の大半は豊田、豊和の二大会社でありますが、その周辺の都市、農村はこの二十九条の発令によりまして、ことに刈谷市のごときは、税金の滞納、金融の枯渇、それからくる不渡手形の続発、あき巣、こそどろ等の社会不安を助長し、周辺の町村は火の消えたような暗黒の世界となったのであります。この一昨年の二十九条の発令は、断じて中小企業安定法にならずして、反対の中小企業不安定法になったことは事実が立証していると思うのであります。従って、本案もそういった前轍を踏むことをおそれるのであります。しかも今日登録制におののいて、実際において使用し得ない仕掛品はわれわれの推定によると八十万錘で、今日六百五十万錘でやれるのが、すでに八百二十五万錘という御報告でありますが、それに八十万錘を加えると九百万錘になる。これは、綿の配給がないという現実に処して、やむを得ずしんぼうにしんぼうしてきたところの紡績工場が発注したという奇形的な忙しさのこの反映を、議員各位は十分お考え願いたいと思うのであります。
さらに戻りまして、この法案が立案され国会に提出されるということを、私はつんぼさじきにいて早く知り得なかったのでありますが、本年の一月下旬これを耳にしましてから、たびたび当局、議員の皆様に猛烈なる運動をいたしまして、われわれの力は弱いけれども、われわれの苦難、悲しみをお訴えして、ここまできたのであります。今まであまり関連産業に対して委員会が御聴取になったことを聞きませんが、これは二十万人が死線を彷徨する大きな問題なるがゆえに、真剣な私たちの心を皆様にお訴えする機会を得ましたことは、ほんとうに喜びにたえないのであります。私たち中小企業者が全工業の五割の生産を上げておることは、賢明なる各先生方の十分御認識のところであると思うのであります。従って国家再建に一役買っておりますにもかかわらず、今日までこれら中小企業に対する法的処置は非常に薄かったのであります。戦後農民は土地改革によりまして、今日ではあのみじめな小作人の存在はありません。労働者は組織と団結と法的保護によって、みずからの生活権を擁護のできる立場にあります。大資本家、大事業家は、多額な国家の補助金を得ているのであります。ひとり国家の生産の六割を占める弱い中小企業に対しては、政府は法的保護並びに援助助成をしていただかなければならないのにもかかわらず、一昨年の痛手がいえないのに、またまた死線を彷徨させるがごとき法案が提出されたということは、私たちあぜんとしてなすところを知らないのであります。
数字的にはあとから出られます奥村君からるる皆さんにお訴えすると思いますが、最後に私はこの弱い中小企業、ことに織機、紡機を製造しております弱い中小企業も、これひとしく日本人民であり、国民であり、人の子であります。憲法は、私たちに健康にして文化的な生活を営む権利を認めております。どうか私どもが安んじて日本再建の一翼として事業に専念できまするよう、先生方の十分なる御配慮をお願いいたしたいと思う次第でございます。