原彪の発言 (本会議)
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○原彪君 私は日本社会党を代表いたしまして、政府が現に行ないつつある日米安全保障条約の改定交渉を即時打ち切ることを要求する決議案の趣旨説明をいたしたいと存じます。(拍手)
〔副議長退席、議長着席〕
〔拍手〕
まず、案文を朗読いたします。
本院は、政府がアメリカ政府との間に行つている日米安全保障条約の改定交渉を即時打切ることを要求する。
右決議する。
〔拍手〕
今や、世界の歴史は一つの曲がりかどに立って、国際情勢は大きく転換しようといたしております。旧来の武力依存の政策から、平和談合への道を選ぼうとしておる。少なくとも、世界の良識ある政治家は、過去の、誤った、軍備による緊張を緩和するために、真剣な努力を積み重ねようとしておることは事実でございます。(拍手)軍備縮小や核実験禁止等に関する各種の国際会議が真に忍耐強き努力を続けている現実を無視するわけには参りません。現に、米ソ両国の首脳は、相互訪問を取りきめて、その第一歩として、フルシチョフ首相は、まずみずからアメリカを訪問して、アイゼンハワー大統領と会談をいたしました。その会談後発表されました共同コミュニケにおいては、国際紛争の解決のために武力を用いないことを全世界に向かって厳粛に宣言いたしております。(拍手)また、国連総会においては、加盟八十二カ国全部が共同提案国となって、完全軍縮決議案が全会一致で通過を見、その席上、インド代表メノン氏は、力の均衡の上に平和を築こうとする企てはすべて失敗してきた、武器は完全に放棄されねばならぬ、と、まことに力強い演説をしておられます。(拍手)
これら一連のできことは、歴史的意義を持つものであって、戦争放棄の憲法を持ち、真に平和を愛好する日本国民の一人々々が心の底から歓迎するところであります。(拍手)従って、われわれはこの国際情勢の好転に呼応して、日本政府こそ、この国際緊張の緩和と雪解けの傾向をさらに助長するために、何らかの積極的態度を持って平和への方策を打ち出してくれるであろうことを期待し、国民はこれを待望しております。(拍手)
ところが、政府は、口に一応これを歓迎すると言いながら、心ではこれを軽視し、いな、むしろ、これを無視して、現在行ないつつあるものは何か。一つは、安保条約改定という日米軍事同盟の強化であり、他の一つは、いまだ国交の回復していない日中関係に対する相も変らぬ静観の態度であり、いな、静観に名をかりた敵視政策でさえあるのであります。(拍手)この安保改定と中国敵視政策とは、人類の理想をわきまえず、歴史の流れに正しくさおさすすべを知らぬ、過去にのみ執着して未来に何らの光明をも求めることのできない保守党内閣の旧態依然たる武力依存の思想から生まれた二またの幹にほかなりません。(拍手)国民の期待は裏切られ、願望は退けられ、日本の政治・外交のみが歴史の歯車を逆に回そうとしています。このような反動的な岸内閣の態度をまざまざと見せつけられた国民の失望と焦慮とは、今や、うっせきして憤りと変わり、まさにその絶頂に達しようとしております。(拍手)
われわれは、安保改定に関して数多くの疑問と不安とを持っておるものでありますが、私は、ここでは、そのうちの若干の重要な点について簡単に触れてみたいと思います。
まず第一は、日米間の軍事的相互援助の問題であります。
藤山外相は、今年の五月、赤坂プリンス・ホテルやその他において安保改定に関する講演をしておられまするが、外相は、交渉に臨む米国側の基本的な態度として、三つのことをあげておられる。「一、相互に国連憲章を尊重し、国連を通じて平和を守ること。二、相手国が、軍事的のみならず、政治的、経済的に強くつながっていること。二、バンデンバーグ決議の精神にかなうこと。」そこで、この一、二はしばらくおいて、三番目のバンデンバーグ決議の精神にかなうことという主張が、この改定条約案文の第三条に現われています。すなわち、「両締約国は個別的及び相互に協力して、継続的及び効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を自国の憲法の規定に従うことを条件として維持し、かつ発展させる。」となっております。ここに問題があります。これによって、アメリカ側は完全にバンデンバーグ決議の精神を生かし、さらに何ら新しい義務を加重するものはありませんが、日本側は、たちまち、これによって新しく武力攻撃に抵抗する能力、すなわち軍事力を維持し、しかも、発展させていかなくてはならないのであります。この日本独自の戦闘力ある軍隊を持つことは、明らかに日本国憲法第九条の規定に抵触するものであることは、言を待ちません。(拍手)しかも、この内容こそが、岸総理の言われる日米の新しい関係を意味するものであって、国民に向かっては、これによって、従来の対米従属の立場から対等の関係に改めるものであって、真に独立国の実を与えるものであると宣伝しておられます。これこそ、保守党内閣の常套手段であって、素朴な国民感情を巧みに利用して、違憲の事実をごまかそうとする卑劣きわまる態度であって、あたかも、往年、講和独立の好餌で国民をつり、ダレスのいわゆる力の真空という言葉の魔術をもって日米安保条約を成立させた手口と全く軌を一にするものであって、国民は断じて許すものではございません。(拍手)
しかし、政府は抗弁して言われるかもしれない、だからこそ「自国の憲法の規定に従うことを条件として」と明文にうたってあるのだと。藤山外相も、「日本として負うことになる義務は、厳に憲法の範囲内にとどめる所存であります。これは特に強調したいところであって、いやしくも憲法に違反するような義務を負うことは許されないところであります。」と、言葉を強めておられます。しかし、一体、岸内閣の閣僚諸公を初めとして、歴代保守党内閣が、口に憲法を守り、憲法のワク内でと言っても、はたして国民が信頼し、安心しておられるでありましょうか。(拍手)今日まで、勝手に憲法の解釈を曲げ、憲法の真意を軽視し、じゅうりんして、憲法違反の既成事実を積み重ね、再軍備のための憲法改悪をさえ主張してきたのは、一体だれでありましたか。ほしいままに憲法の解釈を拡張して違憲の事実を行なって、しかも、てんとして恥じない政府に、憲法の規定を云々する資格はありません。(拍手)いかに憲法のワク内でと百万べん繰り返してみましても、国民は決して信頼しないでありましょう。日米相互援助の規定は、日本の再軍備を促進し、強化して、日本国憲法に背反するばかりでなく、日本の安全を逆に脅かす結果となることは明らかであります。(拍手)
保守党の諸君は、さきの最高裁における砂川判決をもって、あるいは鬼の首でも取ったように思われるかもしれませんが、駐留米軍が日本の戦力でないから合憲であるとはいっても、日本独自の効果的な戦力を持ち、かつ、これをさらに増強することまでも合憲であるとは断じかねておるのであります。(拍手)かりに百歩を譲って、自衛の戦力は認めるといたしましても、すなわち、それを合憲であるとかりに解釈したといたしましても、その結果が危険であるということに間違いはないのであります。今日、日本の戦力の合憲性を唱える者は日本安全の危険に対して無関心な者であると断ぜざるを得ません。(拍手)
そこで、第二は、本条約の目的が、日本の安全保障のためのみならず、極東の平和と安全のためという点であります。ここにいう極東とは、中国本土の一部、沿海州も含まれる、また、極東の安全のためには、アメリカ軍はここにいう極東の地域以外にも出動し得る、と政府は述べております。日本に基地を持つアメリカ軍の行動範囲が、日本の隣国である中国やソ連の領土の一部にも及び得ると考えることは、明らかにこの両国を仮想敵国とみなすものであって、これはどう見ても善隣友好の政策とは言えないばかりか、親善関係を阻害して、逆に両国を刺激して、緊張を増すものでございます。(拍手)
この極東の平和と安全という字句については、与党内部にも有力な反対があったと聞き及んでおりますが、むしろ、それは当然のことだと思います。しかるに、政府は、日本の安全と平和が害されれば極東の平和と安全が害される、その逆の関係も成り立つのだと抗弁をしておりますが、逆は必ずしも真ならず、極東の一地域の安全が乱された場合に、それが直ちにもって日本の安全を脅かすことにはなりません。この字句は、極東の地域に広く前線基地を張りめぐらし、自国の軍隊を駐屯させておるアメリカにとってこそ必要不可欠のものであるのであります。(拍手)もしアメリカ軍がその必要を感じ、みずからの安全のためと称して、いうところの極東の地域以外にまで駐日アメリカ軍隊を出動させた場合、日本の基地が報復攻撃を受けないと保証されるでありましょうか。アメリカの必要によって起こされた軍事行動によって、日本の領土や国民が損害をこうむり、あるいは日本の自衛隊が海外派兵をさせられる危険なしと断言できるでしょうか。(拍手)本条約が締結された場合、日本の安全を保障するといいながら、結果において思わざる危機を招き、安全と平和の脅かされるおそれがあるというゆえんであるのでございます。
政府は、また、米軍が日本基地から自由に極東地域に飛び立つときは、戦争に巻き込まれる危険があるので、事前協議のことが約束されておる、そして、戦争に巻き込まれる心配は現行条約の方が大きいのだと弁解しておりますが、事前協議のことはあとで触れるといたしまして、戦争に巻き込まれる危険が少ないという理由で国民をごまかそうとすることは、陋劣であり、まことに陰険であります。国民の熱望するところのものは、戦争に巻き込まれる危険と不安の少ないということではなくて、不安の原因そのものを取り除くことであるのであります。ここに、われわれの、改定交渉を即時打ち切ることを要求し、行く行くは安全保障条約そのものの解消をも主張するゆえんがあるのであります。(拍手)
次に、第三として、先ほど触れた事前協議ということでありますが、政府は、米軍の条約地域外出兵や、核兵器の持ち込みなど、重要事項については、アメリカと事前協議をする、協議にあたっては日本政府の同意を必要とするから、これによって米軍の行動を制限し得るものであると考える、と説明をしておりますが、このような、日本に戦争の危険が及ぶかどうかという重大な問題だから、わざわざ事前協議の手続を設けた、と誇りがましく主張するのであるならば、なぜ条約本文の中に入れないのか。なぜ交換公文に譲ったのか。しかも、協議だから、協議が整わなければ実行できないというのは、日本政府の一方的な解釈であります。確かに、事前協議を真に効果あらしめるためには、そのように解釈されなくてはならない。明確に拒否権を伴わない事前協議は無意味でございます。従って、もしアメリカ側も日本政府と同様に解釈しておるのであるならば、何ゆえに、事前協議事項を堂々と本文に加え、しかも、日本政府の同意を要すると改めないのでありましょうか。(拍手)これらの疑問に対しては、政府は納得のいく説明をいたしてはおりません。そればかりではない。本院においてわが党の同僚議員が新しく取り上げました疑問、すなわち、在日米軍が国連軍の資格において出動する場合に事前協議の対象となり得るかどうかという問題についても、政府の説明はあいまいであり、不確実であります。かくして、事前協議が在日米軍の行動を制限する実際上の効果が疑われるばかりか、その取りきめ方いかんによっては、日本の戦争参加をかえって合法化する危険さえも感じられるのであります。(拍手)
さらに、実際問題として、超音速の兵器が自由に飛び回っている今日、一たん有事のときの対処策がいかに緊急を要し、敏速を求められるものであるかは、過去の比でないであろうことは、今日の常識であります。そのときに、同意を要する事前協議によって米軍の行動を制限し得るなどとは、あまりにも国民を愚弄した態度だと申さなければなりません。(拍手)
次に、第四点として考えねばならないことは、安保改定と日中国交回復の問題であります。岸内閣は、すでに戦後の時代は終わった、日米関係の新時代に入るのだなどといって、安保改定を進めておりまするが、そもそも、日本を戦争状態に突入させたのは、往年の軍部と官僚によるファッショ勢力の、強引な満州事変から日支事変への拡大強行政策ではなかったでありましょうか。戦争の根源は、満州及び中国本土における日本軍部の侵略であって、その日本軍の軍靴によってじゅうりんし尽くされた中国本土六億の民衆とはいまだ戦争状態が続き、国交の正常なる回復がなされていないのであります。あまつさえ、さきにも触れたように、岸内閣は中国に対しては、静観と称して何ら積極的工作をしようとしないばかりか、敵視政策をさえとりつつあります。中国は、日本軍の破壊の跡から不死鳥のごとく立ち上がって、目ざましい復興建設ぶりを見せております。これに応じて、ヨーロッパ諸国は、商魂たくましく、着々としてかの地に市場を広げ、得意先を獲得しております。岸内閣は、政治と経済は別だとそらうそぶいて、国交回復はさておいて、経済交流を求めようとしておりますが、私は岸総理の常識を疑いたくなる。真の国交回復なくして、どうして真の経済交流があり得るでありましょうか。しかも、その時期が先に延びれば延びるほど、日本の中国に市場を求めることは困難となります。岸総理は、あるいは、中国敵視政策はとっていないのだと言われる。なるほど、故意に意識して、露骨に中国に対する敵視政策は考えておられないでありましょう。しかし、今回の安保条約改定が、アメリカの中国否認という基本的態度に対する追従外交であって、その連鎖反応として中国を刺激し、中国敵視政策と難じられることに気づかれないほど愚かしい岸総理とは思われません。(拍手)安保改定は、明らかに、日中関係を悪化させ、日本をしてアジアの孤児たらしめるものであります。
最後に、安保改定がもたらす国内政策への影響をあげなくてはなりません。安保条約が、非常事態または戦争を前提としての軍事的取りきめである限り、これが内容の強化は、当然に戦前の軍国日本の状態に逆転させられ、一連の非民主的な反動政策が次々に現われるであろうことは、想像にかたくありません。憲法によって保障された国民の権利は次第に抑圧されるばかりか、軍備の増強の結果は、国民の経済的負担がさらに加えられることは、火を見るよりも明らかであります。(拍手)
これを要するに、安保条約は、その本質において、まぎれもない軍事同盟の性格を持ち、しかも、今回の改定はさらにそれを強化するものであります。軍事的取りきめは、常に戦争を予定し、仮想敵国をかまえて何事をも考えるものであって、それが攻撃的であろうと防衛的であろうと、変わるものではありません。戦争そのもののおそるべき形相は侵略も防衛も区別はない。しかも、一たん戦争状態に突入すれば、もはや、知性ある人間の意思を超越して、思わざる方向に進み、あらゆる非人間的残虐の限りを尽くすことは、岸総理自身が、かつての東条内閣の閣僚の一人として、つぶさに御承知のはずであります。(拍手)
総じて、保守的な立場をとる政治家や、指導的地位にある人たちは、世界を、文化や経済の平和な見地から見るよりも、あまりにも軍事的見地からながめることにならされてしまっている者が多い。根深い猜疑や偏見ほど物事の判断を誤らせるものはありません。(拍手)コロンブスのところにさえ、地球はまるくない、平面だと主張してきた者がいたという。醜い偏見や、誤った過去の武力への郷愁は、捨てなくてはなりません。
私は、岸総理が、年若くして権力とともに立身し、往年の東条内閣の有力なる閣僚の一人として戦争責任を分担された人であるだけに、今回の安保改定という暴挙――私はあえて暴挙と申します。翻然としてこの暴挙を即時打ち切ることを決意されて、総理就任の当初、戦争責任は深く反省しておる、今後は民主的政治家になると宣言された、その心情に偽りがなかったあかしを立てていただきたい。(拍手)もし、あえて行なわんとされるならば、かかる国の運命に関する重大なる安保改定は、さきに不当に本院を通過させたベトナム賠償問題とともに、総選挙を通じて国民に信を問うべく、まず国会を解散すべきであります。(拍手)かくしてこそ、真の民主的な議会政治家の態度と申されるでありましょう。
私は、岸君が先年自民党の総裁に選ばれ、内閣総理大臣に就任されたとき、今からちょうど五十年の昔、お互いに未来の希望に胸をふくらませながら、ともに学んだ中学時代をなつかしく思い起こして、君が過去の権力につく官僚臭を脱して、民主的議会政治家として大成されることをこいねがう一文を草したことを、ゆくりなくも思い出しています。善事を行なうにおそ過ぎるということはありません。岸君、今こそ、その実を示してくれる千載一遇の好機です。(拍手)君が、いさぎよく安保改定交渉を即時打ち切って、すみやかに日中国交回復への積極的態度に踏み切って下さるならば、それこそ、君が戦犯の汚名をそそぎ、平和に貢献した偉大な政治家として、青史にその芳名を残すでありましょう。(拍手)私は、友人として、心から君のためにこのことあるを祈る。
と同時に、与党の同僚各位におかれましても、戦争や冷戦の論理からは決して平和は生まれてこない、平和への新しき論理によってのみ真の平和は招来されるものであることに思いをいたされて、本決議案に全員御賛成あらんことを心からお願い申し上げまして、私の趣旨説明を終わります。(拍手)
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