中村聖子の発言 (地方行政委員会)

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○参考人(中村聖子君) 本日は、この委員会にお呼び出しにあずかりまして、参考人として種々実情を申し述べる機会を得ましたことを、厚くお礼を申し上げます。
 私は、昭和三十二年施行の売春防止法によって設置されました婦人相談員として、法施行の当初より要保護女子の保護更生の仕事についてまいりました。売春は他の犯罪に比較いたしまして、犯罪の意識がきわめて薄いのでございます。要保護女子はもちろんのこと、社会有識者の中にも、売春は必要悪であるという考え方をする人があり、かつての赤線、青線業者の中にはそうした一部の人々の考え方を強く取り上げられまして、赤線復活を夢見る業者もおり、この法律が常にゆれ動いているという感じがするのでございます。もちろん、国際条約に批准されており、復活などということは夢物語にすぎないのでありますが、こうした社会情勢においてはなかなか一般の協力も得られず、罪の意講も感じない要保護女子の保護更正に当たる仕事は、非常に困難をきわめております。要保護女子の更正には非常な忍耐と高度の技術と、そしてあたたかい人間愛が必要でございます。けれども、一度転落してしまった女子に対しては、その効果は苦労に比べれてなかなかあがらないようでございます。私どもは、毎々こうした意味から転落女子の更生につとめるとともに、一歩前進いたしまして、転落未然防止という点にも心がけてまいりました。
 深夜喫茶につきましては、かねてから売春への直線コースであるとの観点から、私どもも深い関心を寄せてまいりました。最近は、売春婦がここを利用いたしまして、時によれば客を物色し、非行少女らに対しては甘いことばをもって売春婦となるよう勧誘するといったぐあいでございます。深夜喫茶を契機とする転落のケースについては、今回の改正によりまして転落を未然に防止するために大きな役割りを果たすものと私どもも喜んでいる次第でございます。しかし、地方条例にまかされるということは、規制の上にでこぼこができて、その効果に一まつの不安がございます。とかく風紀上の問題を起こしておりますトルコぶろやヌードスタジオ等については、今度の改正に含まれないということについて、私どもはまことに残念に存じております。ヌードスタジオにいたしましても、トルコぶろにしましても、売春が行なわれている事実がわかっていても取り締まりの網の目からこぼれているという実情について、二、三事例を申し上げながら問題点を提起いたしたいと存じます。
 まず、ヌードスタジオに働いておりましたA子のケースについて御説明をいたします。十八才のときにA子は——この家庭は両親がバタヤをしておりまして、非常に貧困なケースでございましたけれども、たまたま新聞広告によりましてヌードスタジオの事務員の広告を見て、さっそく応募したわけでございますが、そのヌードスタジオにまいりますと、そこの店主から、あなたはたいへんりっぱなからだをしているから——いいからだをしているから、事務員なんかになるよりもヌードスタジオのダンサーになりなさい、モデルになりなさいと言われて、はだかにされてしまったのでございます。そして、事務員よりもむしろ収入が多いから、このモデルをするようにすすめられて、とうとうモデルになったわけでございます。ところがその、ヌードスタジオと申しましても、スケッチをするとかまた写真をとるというのは二の次で、からだの——はだかになっておりますからだのあらゆる部分に客がさわるというような目にあいまして、非常な屈辱を感じたということでございます。こうした中にあって、このA子は、そのスタジオに勤めている間に客からさそわれまして、ついに売春におちいってしまったのでございます。このスタジオは池袋のほうで営業しておりましたのですが、このスタジオに手入れがございますて、手入れがあってそこは閉鎖されることになったときに、そこの業者からA子は、あなたは私の経営している同じ店が三島にあるから、三島のほうに行って働いてもらいたいと、こう言われて三島のスタジオに行ったのでございます。ところが、そのときにはすでに池袋の業者は、三島の業者からあっせん料と称して五万円をとっております。それから二年間A子は三島、伊豆長岡、伊東等々を転々といたしまして、再三再四にわたり人工中絶をいたしましてたあげくに、その後の処置が悪かったものか、あるいはたびたびの人工中絶によるものか、非常な貧血に襲われまして、神田の駅前で倒れたのでござます。そのときに、たまたま救急車によって運ばれて、病院に入りましたときに、治療費の問題が浮かび上がってきて、母親が福祉事務所にまいりまして、この治療代を何とかしてもらえないかということで、婦人相談員のところと最初の結びつきができたというわけでございます。
 しかし、このケースは、非常にたびたびの中絶によって、女性の器官もすでにめちゃめちゃにこわされておりまして、もう子宮は摘出しなければならないというし、そういうような悲惨な状態になっておりまして、生活保護をかけまして治療を終え、その間に婦人相談員が、婦人の更生寮もあるから、あなたはもうそういうところに行かないで更生したほうがいい、何とでもお手伝いをするから——ということでございましたけれども、その後、からだがなおると同時に、また伊豆のほうに行ってしまいまして、その子は婦人相談員の手から離れてしまったのでございます。
 次の事例につきましては、これはやはりヌードスタジオで働いた経験を持つケースでございますが、これは家庭で義兄とあまり仲がよくなくて、家出をしてまいりました。上野で男に、御承知のようにうまいことを言われまして、宿屋に連れ込まれて、そうしてその晩、その男から六十円もらった。たった六十円でその子は、からだをその男に与えてしまったのでございます。この子が転々と転落してまいりますうちに、男のひもがつきまして、男から、熱海に行けばもうかる、パンパン宿があるから、そこに行けというこで、男に連れられて熱海にまいりました。熱海にまいりまして、その男は前借りをしようとして話をしましたが、一見のみ屋風であるので、そのパンパン宿と称する場所から怪しまれて、そこでは断わらております。ところが、次にヌードスタジオにまいりまして、ヌードスタジオで働くような契約ができまして、そこではあっせん料の形で男はお金を受け取っております。スタジオ内での状況は、すでに御承知でございましょうけれども、やはり芸術的な雰囲気は何もなく、全裸の形になりまして、風船を前のところにあてがってポーズをとるというような、まことに私が口にするのも恥ずかしいような、あの状況でございます。そうして箱根等に出張すれば、歩合いがついてお金も非常に多くなり、十万円くらいにもなったそうでございます。そうして、客などにすすめられれば売春もいたしておった。そうこうしておりますうちに、この女にやくざの男との間に情交が結ばれまして、この男にすすめられて、今度はヌードダンサーよりも、もっと収入のよい芸者になったほうがよいと言われまして、芸者になっております。客を世話されたときには、一人一万円で売春をいたしておったということでございます。
 それから次に、これはトルコぶろに働いておりました女の子についてお話を申し上げます。この女子も二十才までは普通の家庭の女子といたしまして、家庭から会社に通勤いたしておりましたけれども、これがたまたま病気で会社を休むようになってから、何となく会社を退職してしまいまして、そうして、ある日のこと、新宿の深夜喫茶にまいりまして、そこにたむろしている者から、トルコぶろなら非常にお金になるということを聞かされて、そうしてトルコぶろに行って働くようになったのでございます。トルコぶろは、個室の勤務は客とのじか取引で、その店からは一銭の保証もないのでございます。大衆ぶろのほうは、一日六、七人くらい扱いまして、たいへん重労働ではあるけれども、売春のおそれはなかったようでございます。個室におけるサービス料というものについては、シングルで千円、ダブルで千五百円、売春をすれば四千円から五千円くらいになるということでございます。こうしたサービス料金によるサービスの違いというものは何を意味するものであるのか。そこにおいておのずから売春の要素が含まれていると考え、ざるを得ません。売春は、お客から強要する場合もございますし、また、ミス・トルコから挑発するといったような場合もあるわけでございます。
 次に、三人の事例を簡単にお話し申し上げましたが、問題点として考えられますことは、あっせん料と称して五万円受け取り、ほかのスタジオに世話しているということは、人身売買の疑いが濃いのではないかという考えでございます。それから、ひも的存在の男から男へと食いものにされている点でございます。それから、街頭でお客をとればうるさいけれども、トルコぶろならば安心してお客をとれるということを、要保護女子みずからがそう申しております。そうして要保護女子たちは、お金がもうかるから、そこに行きたいのだということを申しますので、指導上まことに私たちは困っております。それから個室は独立しておって、サービス料も直接客から取るということは、売春をしても他人にわからぬようになっている点でございます。それからマッサージを表看板にいたしておりますが、事実上、マッサージの訓練を受けていない者が個室の係りになって売春を行なっているという点でございます。相当高額の収入がありまして、アパートを二軒も建てたという要保護女子もおるのでございます。それからまた、婦人科手術の傷が腹部にあるので採用されなかったという事実もございます。指名等がございまして営業時間は午前三時ごろまででございます。早番と、おそ番がございまして、早番の場合には最終電車に間に合う程度に帰れますけれども、おそ番の場合には午前三時でございますので、家に帰るわけにまいりません。そこは泊まれるように、ふとんも貸してくれるようになっているということでございました。
 それから、これは神戸のことでございますけれども、中学の新規卒業者が、新聞の広告を見まして、トルコぶろを普通のおふろと勘違いいたしまして就職してまいったのでございますが、九州からはるばる神戸のトルコぶろに就職してまいりましたけれども、その実情に驚いて婦人相談員のところに相談に来ておるということでございます。
 それからもう一つは、地方条例によって規制されることに問題があると思われます。たとえば都条例などにおいて規制されましても、都下には十三の市がございます。市の場合に、そういったものが全面的に行なわれるかどうかということによって、規制のでこぼこが生ずることで、この効果があがらないのではないかと心配されますので、ぜひこの点は、本法において規制されることのできるようにお骨折り願いたいと存じます。
 こうした数々の問題点をかかえたまま、野放しの状態におかれております非常な風紀の紊乱は、目に余るものがあり、人づくりを叫ばれているおりから、青少年に与える影響も多く、まことに寒心にたえないのでございます。先ほどの方も申されましたが、環境の浄化という点で、おとながそういうところで、そうした風俗を乱すような行為を続けられているということは、ほんとうに考えなければならないことだと存じます。
 本年は、オリンピックの年でもございまして、このオリンピックを当て込んで、かつての業者が九州地方に帰った元の従業婦たちに呼びかけまして、旅費も出そう、宿舎も提供する、もちろん待遇もよくするから、ぜひ上京するようにといって、早くも女の子集めに乗り出しているという状況も報告されてきております。そうしたときに、トルコぶろ等が売春の場に利用されるおそれも十分にあると考えられますので、この際ぜひともトルコぶろ、ヌードスタジオ等についても御審議いただくことをお願い申し上げる次第でございます。この資料は婦人相談員の取り扱いましたケースの中から、ほんの一部を取り出してまいりましたにすぎません。こうしたケースはほかにも多数ございます。
 最後に、売春を必要悪だと申すならば、先に述べました彼女たちはまさに必要悪の犠牲者であると申さねばなりません。この大きな犠牲を彼女たちの上に負わしておいてよろしいものかどうか。A子の場合には二十才そこそこで、これから先の長い人生を廃人同様に生きていかねばならぬということを思いますときに、私はまことに哀れを感ずるのでございます。どうぞこうした犠牲者を一人でも少なくするために、諸先生のお力添えを切にお願いいたしまして、私の口述を終わりたいと思います。

発言情報

speech_id: 104614720X00919640225_021

発言者: 中村聖子

speaker_id: 18788

日付: 1964-02-25

院: 参議院

会議名: 地方行政委員会