田中六助の発言 (本会議)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○田中六助君 私は、自由民主党を代表して、中曽根総理の施政方針演説に対する質問を行います。
総理は、その演説の冒頭で、わが国の内外の諸情勢は厳しく、そして今日、わが国が大きな転換点にあることを指摘されております。そして、明るい平和な日本を切り開くために、不動の精神を持って、身を挺してこれらの諸困難に当たる決意を示しております。総理就任以来、幾多の諸問題の解決に鋭意努力され、大きな成果を上げられています。この見識とこの決断力に対して、私は深く敬意を表するものでございます。(拍手)
総理は、わが国の今日が大きな転換点にあることを指摘しておりますが、私は、世界の情勢もまた大きな転換点にあると信じております。政治的な困難、それから経済的な不安、それがそうでございます。政治的には、国際連合という大きな機構がございます。この国際連合があるおかげで世界の平和は保たれておりますし、大きな戦争もございません。しかし、本来の国連の機能である全体的な安全保障体制はいまだしの感がございます。いま世界には、広島型の原爆の核弾頭の数は約百万発散在しております。
経済の不安におきましても、ガット体制とIMFの体制にひび割れが来ております。第一次、第二次オイルショックにおきましても、これを克服するだけの機能がIMFとガット体制にあるかどうか、私どもはこの体制の新構築をやらなければならない時期に来ておるのではないかと私は思います。皆さんが世界の状況を見てわかりますように、失業の増大、保護主義貿易の台頭、そして世界信用不安、これらの諸情勢は、まさしく一九三〇年代の不況を思わせるような世界同時不況の状況でございます。日本は世界の中でGNP一一%という大きな責任を背負っております。このような世界不安、このような政治、経済、社会不安に対して、責任あるわが国、世界の中の日本としての責任があります。
私は、この際、総理が新たな機構、新たな世界への体制づくりにお考えがあるかどうか、あるいは、あるとするならばどのような構想をお持ちか、お聞きしたいと思います。(拍手)
次に、政治倫理の問題でございますが、この問題は古くて新しく、新しくて古い問題でございます。私どもは、国会の栄光の座と職業としての政治家の大きな責任を常に感じておかなければなりません。
マックス・ウェーバーは、「職業としての政治」の中に、政治とは何ぞやという設問をしております。つまり、問いを設けております。その中に、彼はいわく、政治とは権力に参加しようとする努力、あるいはまた、権力に影響を与えようとする努力と指摘しております。しかも、その権力とは何ぞやという設問に対しましては、人の力、その人の力、政治家の力の中には善悪が渦巻いておる、きょう善と思えば悪になる、悪からまた善が生まれる、これを指摘すると同時に、それに対する答えといたしましては、禁欲ということが政治家の大きな課題であると言っております。つまり、物欲をなくすること、物に対する欲をなくすることが、職業としての政治家の大きな務めだということを指摘しておるのでございます。(拍手)私どもは、常にこのことを念頭に置いて倫理問題を考えていかなければならない立場にございます。
総理に、この政治と倫理について、本格的な軌道に入ろうとする中曽根政権がどのようにお考えか、お尋ねしたいと思います。(拍手)
次いで、憲法問題でございます。
あの焦土と化したわが国が今日あるのは、いまの平和憲法、基本的人権、主権在民の憲法が根底に強く存在しておったからだと私は信じます。(拍手)この憲法の前文には、そもそも国政は国民の厳粛な信託により、その権威は国民に由来し、そしてその国権は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民が享受するということになっております。明らかに主権在民でございます。平和主義でございます。基本的人権を守らなければならないという点でございます。
私は、特攻隊員として実戦に参加しました。多くの戦友、同僚、教え子、部下を雲流るる果てに散華させました。無残なことです。この戦死した戦友の一人に中曽根良介君がいます。これは中曽根総理大臣の実弟でございます。総理が常にこのことを胸に抱いて行動しておるということはよく私は知っております。(拍手)
わが国の憲法は、占領下に制定されたということもありまして、英文で読んだ方が非常にわかりやすい点もございます。また、憲法九十六条は改正規定でございます。したがって、私どもがこの憲法の改正について勉学をし、研究をし、学習することは当然でございます。(拍手)ただ、その憲法に流れる精神、平和主義、主権在民、基本的人権の擁護というこの精神だけは常に忘れてはならないと思います。
総理、この憲法問題に対する総理の御見解をお尋ねしたいと思います。(拍手)
次に、行政機構改革の問題でございますが、総理は行政管理庁長官として臨調から三たびの答申を受けております。まだまだ緒についたばかりでございまして、国鉄改革問題、社会保障制度の改善問題、公務員制度の改正あるいは地方行財政の改定など幾多の課題を抱えております。
特に、三月の初めには最終答申が出ます。この答申では、中央省庁の統合、地方出先機関の整理統合がうたわれます。すでにこれら諸機関の大きな反対、そしてまた多くの団体の圧力がひしひしと迫っておる感じを受けるわけでございます。私どもは財政再建のためにも、将来の日本の子や孫のためにも、行政肥大化を排して財政をうまく持っていかなければなりません。総理がおっしゃるように、行政改革は一朝一夕にはできるものではありません。一政府、一政党の問題ではないと思います。この点について新たな総理の御見解をただしたいと思います。(拍手)
次いで、財政再建と経済の問題でございます。
五十八年度予算における国債残高は百十兆に達しようとしております。新年度予算の中にも十三兆三千四百五十億という国債が含まれております。すでに国債費は八兆二千億に達しようとしております。これでは財政が硬直化せざるを得ません。私どもが歳出のカットに苦労するのはそのためでございますが、いつまでも歳出カットにばかり寄りかかり国民に大きな迷惑をかけるわけにはまいりません。私どもは新たな発想をしなければならない時期に達しております。
総理、経済の見通しの暗さが多くの企業の活力を喪失さしております。新たな中期見直し、新たな中期展望が、いまこそ必要な時期でございます。
この点についての総理のお考えをただすと同時に、わが国の税構造についてでございます。
わが国の税構造は、欧州諸国と違って、その直間比率のバランスがとれておりません。直接税偏向のために所得税の五年も六年もの減税ができないのも、私はやはり間接税と直接税のアンバランスが原因だと思っております。したがって、財政再建を行うならば、私どもは、この直間比率の見直しこそやるべきことではないかというふうに考えます。(拍手)
総理のこの二点に対するお考えがあるならば、その点をお聞きしたいと思います。
次は、貿易バランスの問題でございます。
総理は、先ほども、わが国を世界に開かれた日本にしたいということを申しておりました。まさしく世界に開かれた日本をつくり上げるためには、私どもは保護主義貿易を排する態度に出なければなりません。日本があの焦土から今日の繁栄があるのは、多くの受益を各国から受けたのが原因でございます。保護主義貿易を排して自由主義貿易に私どもが努力したことが大きな原因となっております。過去の日本、現在、そうして未来の日本を切り開くためにも、保護主義貿易を排して、開かれた市場、関税障壁の撤廃、これこそわが国のとるべき道でしょう。しかし、この方法は国民に多くの痛手を与え、痛みを強く与えます。しかし、総理のより善なる指導でこの点を排除しつつ、わが国の貿易の開かれた世界への道を行うことを心から念ずるとともに、総理の指導性をお尋ねするわけでございます。(拍手)
次いで、外交問題でございます。
日米関係は、あくまで私どもの中心軌道としての外交展開でなければならないと思います。総理が、新年になってアメリカに行かれ、レーガン大統領との話、米国の首脳との懇談でより一層の信頼関係を強めたこと、そして大きな成果を上げたことは、私は心から喜ぶと同時に、今後の日米関係をますますよきものにしなければならないと思います。
一つの課題となっておりました武器技術の供与の問題がございます。
政府は決断を下して、この武器交流を開始することを決めました。私は当然の措置だと思うのです。ただ、国会決議と武器輸出三原則がございますが、これらとの関係について総理の詳細な御説明をお願いしたいと思います。
韓国との問題でございますが、日本の総理が正式に韓国を訪問したのは戦後初めてでございます。朝鮮半島の平和と北東アジアの平和のためにも、私は非常にいいことを総理は決断されたと思います。日韓関係が新段階に入ることこそ、朝鮮半島の平和と北東アジアの平和につながると思います。今後の総理の日韓関係に対する態度、あるいは具体的にどのようにお進めになるか、お尋ねしたいと思います。
日中の問題でございますが、国交回復して十年に達しようとしております。この間中国の中に微妙な動きも見られますが、やはり中国との関係も強く結ばれて、将来ともますます私どもは信頼関係を深めていかなければならない大切な国でございます。
さらに、ASEAN諸国の問題でございますが、いまマレーシアの総理が来て、たび重なる総理との懇談でASEAN諸国との交流を深めるお話を進めておりますが、ASEAN諸国はアジアの活力ある国であると同時に、世界の活力ある国でもございます。こういう点からも総理は、マレーシアの国だけではなく、十分ASEAN諸国に大きな態度でもって臨み、大きな助けをこれらの国々にすべきではないか。
私がここで提案したいのは、アジア・太平洋地域のサミット会議を、こういう時期にこそ、日本が十分な相談の上、提唱すべき時期ではないかと思いますが、総理、いかがなものでございましょうか。(拍手)
次いで、日ソ関係でございますが、ソ連は相も変わらず北方領土に軍事基地を設けることを進めております。しかし、アンドロポフ新政権がこれからの世界外交、世界の中のソ連という位置をどのように持っていくかは、冷静に判断し、冷静に見守っていかなければならないと思います。日ソ関係の親善も大いに必要でしょう。この点からも、私は、相手側の新政権の手前もありますけれども、こちらもまた、総理はどのようにソ連に対処していくかをお尋ねしたいと思います。
最後に、安保体制の問題でございますが、日本の安全保障につながる国防費を、五十八年度予算におきましても、政府案といたしまして二兆七千五百億の計上をしております。これは福祉切り捨てではないかという論もございますが、福祉予算は九兆一千億に達しております。私は、日本のいまの政府案の一般歳出五十兆三千七百九十六億円からすれば、二兆円はある程度当然の国防費だと思います。自分の国は自分で守るということ、このことに対する防衛計画の一端を示したまでで、国民の絶大な信頼があると思います。(拍手)また、近隣諸国も、この程度の予算は認めておると思います。
ただ、警戒しなければならないのは、軍事大国の軍備拡大競争の悪循環の中に巻き込まれてはならないという注意でございます。この点の配慮も含めまして、総理のわが国の安全保障に対する考えをお聞かせ願いたいと思います。
以上、私は、私の所見を交えつつ総理に質問をいたしました。この質問の特徴は、古くして新しい、いままで促進剤であったものが阻害要因になり、安全であったものが本当に不安なものとなっております。つまり、大きな壁が現在われらの前に、国内的にも国際的にもはだかっております。これらの壁を打ち破るためには、まず職業としてり政治家の私どもが心の壁を打ち破ることが先決でございます。シュンペーターの言う創造的な革新、革新的な創造というのは、私はこの点にあると思います。精神革命を私ども自身、国民の前に示しつつ進まなければなりません。
私は、おしゃべり六助という異名をとっております。総理の舌もときどき非常に滑らかで、国民は大いに困惑するときがあると思います。しかし、総理の情熱、判断力、決断力、洞察力、これはだれにもすぐれたものをお持ちです。総理のこれから出発する門出に当たって、ますます御精進あらんことを心からお祈りして、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕