林義郎の発言 (本会議)

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○林義郎君 私は、自由民主党・新自由国民連合を代表し、中曽根総理のロンドン・サミットからの帰国報告に関して質問を行います。
 私は、中曽根総理並びに安倍外務大臣、竹下大蔵大臣を初めとする随員の方々の大変な御努力によって、今回のサミットが輝かしい成果を上げられたことを高く評価するものであります。とりわけ、採択された各種宣言の中に我が国の意見が大きく取り入れられており、サミットにおける我が国の発言力の増大、地位の向上は特筆すべきことであります。
 それとともに、我が国の国益を代表するのみならず、先般のインド、パキスタン訪問を初め、各国首脳との活発な意見交換を踏まえて、アジア・大洋州の代弁者として、いわゆる南の諸国の声をもサミットに反映させた点で、極めて意義深いものがあったのであります。
 中曽根総理を初め参加各国首脳は、この会議での討議を通じて、現在の複雑かつ困難な世界の政治経済情勢に対処するため、改めて自由と民主主義の価値を再確認して西側の結束を固めたこと、その上に立って東西間の対話拡大を呼びかけるなど平和に対する積極姿勢を打ち出したこと、また当面する経済的諸問題に対しても、これを解決するための中長期的な共通戦略を立案したことなど、幾多の成果を上げられました。
 以上のような観点に立って、以下私は幾つかの問題について質問を行い、総理の率直な御意見をお伺いしたいと存じます。
 そのまず第一は、民主主義の諸価値に関する宣言についてであります。
 この宣言は、市民の権利と自由の保障、自由な選挙と表現の自由、偉大な多様性と創造的な活力、相互の緊密な協力による政治的安定と経済発展の実現など、民主主義の持つ諸価値をうたう一方、自由と正義を伴う平和の必要性と、紛争を解決する手段としての武力の行使の拒否、あらゆる紛争の理性に基づく対話と交渉による解決、真正な非同盟の尊重という平和姿勢を強く打ち出しているのであります。
 東西間の緊張が依然解決の兆しを見せず、イラン・イラク紛争を初め、各種の紛争が地球上の各地で絶え間なく起こりつつある現在、この宣言の持つ意義は極めて重大であると思います。私は、サミットが現時点でこのような宣言を発表できたこと自体、西側民主主義陣営の体制への自信と強い平和への積極姿勢を示したものだと信ずるものでありますが、特に真正な非同盟の尊重を入れられたことを含めて、宣言文を取りまとめられましたその経過について、総理の御所見を伺いたいと存じます。
 次に、東西関係と軍備管理に関する宣言についてお尋ねいたします。
 今回のサミットは、この宣言によって、現在厳しい緊張状態にある東西関係の打開に臨むに当たり何よりも必要なことは西側陣営全体の連帯とかたい決意であることを明確にした上で、ソ連及びその同盟諸国との対話の拡大と、現在中断している種々の軍備管理交渉の早急な再開を提唱いたしました。同時に、この宣言は、米国がいつどこでも前提条件なしに核軍備管理の話し合いを再開する用意があることを明らかにしたのであります。
 このような柔軟姿勢の提示は、東西緊張の解消と核軍縮の実現を求める全世界の願望にこたえたものであり、私は、かかる勇断を下した各国首脳の決意と英知に対し、心から敬意を表するものであります。しかしながら、その後ソ連側が示している硬直した姿勢から見て、この宣言が具体的に実行されるのは容易なことではなく、今後なお多大な忍耐と粘り強い努力が不可欠であると思います。
 平和国家としての我が国の使命は余りにも重要であります。いかに現実が厳しくとも、ロンドン・サミットの諸宣言に盛られた貴重な平和への意思を一片の空文に終わらせてはなりません。我々は、米欧など価値観を共有する西側友邦諸国と緊密な連携のもとに、国連その他あらゆる国際的な場を通じて、平和と核軍縮を求める国際世論を一層喚起するため、不屈の外交努力を続けるべきだと考えます。総理の忌憚のない御所見をお伺いする次第でございます。
 次に、今次サミットの柱である経済宣言についてお尋ねいたします。
 昨年のウィリアムズバーグ・サミット宣言は、経済回復の明瞭な兆しを今や目の当たりにしておるとうたっておりましたが、その後一年を経過した今日、サミット諸国における景気回復は各国の努力によりようやく軌道に乗るに至りました。したがって、今次サミットにおける最大の課題は、この回復を持続させること、またその恩恵を開発途上国や特に飢餓に苦しむ貧しい国々に及ぼしていくための方策を探っていくことであったと思います。そして、今次サミットにおいて三日間にわたる参加各国首脳の真剣な討議の結果、幾多の重要問題について意義深い合意がなされたことは、まことに喜ばしいことであります。ここで私は経済宣言についての具体的質問に入る前に、まず今次宣言の意義及び成果について、総理がどのような御所見をお持ちか、お伺いしたいと存じます。
 質問の第二は、経済運営の問題であります。
 インフレなき持続的成長を可能にするために、経済宣言においては、インフレ及び金利を低下させ、また財政赤字を削減するための諸政策を引き続きとり、必要な場合にはこれを強化するとの合意が参加各国首脳間でなされたことは、基本的には妥当なことと考えます。かかる観点から、我が国としては特に米国に対し、財政赤字を削減し高金利を是正するために節度ある経済運営を求めていくことが重要と考えます。同時に、我が国としては、これまでの成果を踏まえ、内需を中心とする持続的かつ安定的な経済成長を定着させていくことが重要であると考えますが、これらの問題について、総理の御所見を伺いたいと存じます。
 質問の第三は、技術開発及び産業構造問題であります。
 先進国を中心に景気回復が軌道に乗ったとはいえ、欧州諸国を中心に依然として高水準の失業に悩んでおります。今後成長を持続させるとともに新たな雇用を創出するためには、中長期的視点に立って、技術革新や産業構造の変革及び労働市場における硬直性の打破に向けて積極的努力を払っていくべきことが真剣に議論され、今次サミットにおいてはその重要性が強調されたと聞いております。私は、中長期的視点に立って、このような技術開発及び構造調整問題の重要性を参加各国首脳が認識したことは今次サミットの大きな特色であり、また成果であったと考えます。
 この点に関連し、参加各国首脳は我が国経済の活力、政策展開を高く評価したと聞いておりますが、二十一世紀を展望し、我が国産業のよって立つ基盤に思いをいたし、国際社会への我が国の貢献を考えるとき、今後とも総理のリーダーシップのもとに技術開発や産業調整を一層強力に推進していくべきだと考えますが、総理の御意見を伺いたいと存じます。
 質問の第四は、債務累積問題であります。
 債務累積問題は、危機的状況は一応回避されておりますが、依然として深刻な問題であり、国際経済上の大きな不安定要因となっております。債務累積問題については、抜本的解決策はいまだ見出せておりません。が、世界景気の持続的回復、先進国の開発途上国への一層の市場開放、高金利の是正、債務国の自助努力など、先進国、債務国、国際機関が力を合わせて各般の対策を推進することが重要だと考えます。このような観点から、経済宣言において債務累積問題対策の一つの方向づけがなされたことは、まことに意義深いことだったと考えます。
 総理は、今次サミットにおいて、とりわけ開発途上国の立場に心を砕いた旨述べておられますが、債務累積問題に悩む開発途上国に対し、今後どのように対処されていくおつもりか、率直な御意見をお聞かせ願いたいと存じます。
 質問の第五は、新多角的貿易交渉の促進についてであります。
 本交渉の促進は、今後の世界貿易を方向づける重要問題であり、今次サミットにおける総理の最大関心事であったと考えます。保護主義は自由かつ無差別を原則とする貿易体制に対する挑戦であり、これを放置すると、経済の持続的成長を妨げるだけではなく、景気回復の開発途上国への波及の障害にもなりかねません。このような観点から、我が国は数次にわたり一方的な関税引き下げ、市場開放などの措置をとってまいりました。しかし、景気回復が着実なものとなった今こそ、保護主義を巻き返し、自由貿易拡大のモメンタムを維持強化するために、新多角的貿易交渉の促進を図るべきだと考えます。今次サミットにおいては、この新多角的貿易交渉についてその必要性が認められ、早期決定を目指してガット加盟国と協議することになったことは一歩前進であると考えます。
 昨年の日米首脳会談において新多角的貿易交渉を提唱され、その後もその推進のため積極的な努力を払われてきた総理として、今後の手順などについて、どのような具体的構想と展望を持っておられるのか、率直な御意見をお聞かせ願いたいと思います。
 最後に、経済問題に関連して、石油問題について一言お尋ねいたします。
 イラン・イラク紛争の激化に伴い、ペルシャ湾におけるタンカー攻撃の続発など湾岸情勢は緊迫の度を加えております。最近の国際石油需給は基本的に緩和基調にあり、また、ホルムズ海峡の封鎖など万一の事態に立ち至った場合でも、ホルムズ海峡に関係のない諸国の増産などもあり、国際石油市場への影響は相当緩和されるものと思われます。また、我が国としては従来から石油備蓄の増強に努め、現在、民間備蓄、政府備蓄を合わせて約百二十三日分の備蓄を保有していること、さらにはIEAを通ずる国際協調も考えられることなどから、我が国経済及び国民生活への影響を最小限に抑えることができるものと言われております。しかしながら、我が国は、ホルムズ海峡を通ずる石油に三分の二を依存するという脆弱な構造を持っており、また石油ショック、狂乱物価と言われた苦い経験を持っているのであります。
 こうしたことを踏まえ、総理は、今度のサミットでのエネルギー問題についての討議で、どのような世界的視野に立って問題を解決しようとされたのか、また我が国として、石油ショックと言われるような事態が再び起こらぬようにいかなる方策でもって当たられるのか、総理の率直な御見解を伺いたいと存じます。
 以上、私は、今回のロンドン・サミットの成果について、みずからの見解を述べつつ、総理の御所信をただしてまいりました。
 今質問を結ぼうとするに当たり強く私の胸を打つのは、国際社会における我が国の発言力の伸長と、その裏返しとしての国際国家日本の責任の増大についての厳しい自覚であります。今回のサミットにおいても、中曽根総理の発言は幾多の重要局面において会議を主導し、また多くの宣言文の中で、その骨格部分に位置づけられたと聞いております。今や世界が日本の発言を注目しているのであります。
 昭和二十一年、我々は戦後のもとに日本国憲法を制定いたしました。その前文において、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたい」と念願いたしました。今や我が国の国際社会における地位は高まり、国際国家日本としての責務をいかに果たすかが問われる時代になったのであります。我々は、この厳然たる事実に身を引き締め、厳しい自覚と責任感に徹しつつ、国際国家日本としての責務を果たしていかなければならないと思います。
 総理の御決意のほどを伺いつつ、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕

発言情報

speech_id: 110105254X03019840619_003

発言者: 林義郎

speaker_id: 33770

日付: 1984-06-19

院: 衆議院

会議名: 本会議