久保亘の発言 (本会議)
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○久保亘君 ただいま議題となりました国民教育審議会設置法案について、その提案の理由と内容の概要を御説明申し上げます。
激発する少年の非行、暴力、登校拒否、高校中退者の激増など今日の教育の荒廃はもはや一刻も放置できない事態であり、偏差値教育に象徴される現在の教育が早急に改革されなければならないことは国民共通の認識となっております。
この国民的要請にこたえるためには、まさに国家百年の計としての教育改革の重大性にかんがみ、慎重かつ民主的に審議を行う機関を設置し、その意見に基づいて国民の合意を得ながら改革を推進することが必要であると考えるものであります。その際、真に国民が求める教育改革を実現するための条件として最も重要なことは、その審議機関が、教育の政治的中立を確保するという大原則に基づいて、あらゆる権力の不当な支配や介入を排除し得る体制で設置されるとともに、委員の人選や審議の過程で、国民の意思が十分に反映されているか、あるいは国民の意思と離れた議論になっていないかを、国民自身が常に監視し、批判できることが保障されていなければならないということであります。
しかるに、現在政府から提案されております臨時教育審議会設置法案では、これまでの審議の中でも明らかなように、その設置目的、設置形態及び運営方法が、総理大臣の恣意に左右されるものになっているのではないかとの危惧は依然として払拭されず、真に国民のための、国民に開かれた審議会になるとは到底考えられないのであります。
他方、教育、学術、文化に関する重要課題を審
議する最高の機関として、三十年余にわたって文部省に設置されてきました中央教育審議会についても、委員の選出が偏ったものであったことや、密室の中で運営されてきたことなどから、必然、国民的要請に反する官僚主導の結論が出されることとなり、その結果、文部行政の隠れみの的な役割を果たすにすぎなかったという歴史を考えるとき、もはや、教育改革の検討をゆだねる機関としてふさわしいものであるとは言えない存在となっているのであります。
そこで、我々は、従来の中央教育審議会にかわる恒常的機関として、新たに、より強い機能と主体性、中立性を有する国民教育審議会を文部省に設置し、委員の人選及び任命、運営などが、公開の原則のもとで、より国民の意見を正しく反映させる形で行われるよう配慮することなどによって、現在の憂うべき教育の荒廃を抜本的に解決する方途を検討し、ひいては、憲法及び教育基本法に規定する教育の目的の真の実現を図ることが最も適当であると考え、この法律案を提案した次第であります。
次に、このような構想を採用いたしました理由について、政府提案の臨時教育審議会設置法案と対比しながら述べたいと思います。
まず第一に、政府案が、審議会を総理大臣の直属機関として設置することとしていることは、極めて大きな危険をはらんでいるということであります。
過去において、総理大臣直属の教育に関する審議機関が設けられたのは六回を数えますが、戦後の特殊な条件のもとに設置された教育刷新委員会は別として、いずれも戦前の国家主義・軍国主義教育の推進に大きな役割を果たす結果になったことは歴史の証明するところであります。
言うまでもなく、教育基本法第十条は、教育が不当な支配に服することを否定し、国家権力が教育に介入することを厳しく戒めております。しかるに、政府原案では、総理大臣直属の審議機関を設置し、委員の任命、会長の指名に至るまで総理大臣が行うこととしておりますが、これでは、国家権力が教育に直接介入し、教育の中立性を根本から脅かすおそれのあることは疑いのないところであります。
その不安を一層大きなものにしているという点で、特にここで強調しておかなければならないのは、ほかならぬ中曽根首相自身の政治姿勢であります。首相はかねてみずからを改憲論者と称し、行政改革の次は教育改革を行うことが憲法改正への道であると発言しており、今回の提案は、父母、国民が求める教育改革とは出発点において決定的に異なった危険な政治的意図に基づくものであると言わざるを得ません。さらに、みずからの政権を維持するために教育改革を利用するという意図さえ各方面から指摘されているのであります。
他方において、現内閣は、行財政改革の名のもとに、一人一人の児童生徒に行き届いた教育を実現することにより今日の教育の荒廃を是正するため最も緊要な四十人学級計画を凍結するほか、私学助成の削減、育英奨学金の有利子化など、ことごとく国民の期待を裏切る教育切り捨て政策を実施しているのであります。現在の山積する諸課題をみずから何ら解決し得ない首相に、膨大な財政支出を必要とする本当の教育改革の実現がどうして可能なのでしょうか。むしろ、財政的配慮の優先と検討中の名のもとに当面の教育課題への取り組みを先送りするための道具に利用される危険性を指摘しないわけにはいかないのであります。
これに対し、本法律案においては、国民教育審議会は、あくまでも憲法及び教育基本法が目指す教育の目的を達成するため、教育の中立性が堅持されるものとなっているのであります。
すなわち、国民教育審議会は、従来の中央教育審議会と同様、文部行政の直接の責任者としての文部大臣の所管にしておりますが、その機能については、単に諮問事項を審議するにとどまらず、審議会の自主的意見をまとめることができることとし、文部大臣は、教育、学術、文化に関する施策の大綱について、事前に審議会に諮り、その意見を尊重しなければならないこととし、機能を一段と高めております。これは、社会保障制度審議会など、国民生活に極めて重要な役割を果たす機関に与えられている機能と同様であり、このことによって、審議会は、教育問題全体を体系的に検討し、行政全般を絶えずチェックするとともに、長期的及び短期的な視点から教育改革を推進することが可能になると考えるのであります。
第二に、教育改革にとって最も重要な前提となる国民的合意形成のための条件が、政府案の構想には著しく欠けていることであります。
政府原案では、審議会の運営とその結論を左右することになる委員の任命、特に会長の指名などが総理大臣の専権とされており、これでは、審議会に国民の声が何ら反映されないばかりか、総理大臣の恣意的人選によって教育改革の方向がゆがめられ、ひいては国民の合意が得られないおそれが大きいと言わざるを得ません。
言うまでもなく教育権の所在は国民にあり、教育の実現は国民全体に対して直接に責任を負って行われなければならないことは、民主主義社会の原則であり、我が国憲法、教育基本法の基本理念であります。教育改革は上からの改革であってはならず、下からの草の根改革でなければなりません。審議会が、すべての子供、父母、教師など国民の教育に対する多様な要請をあまねく吸収し、またその英知を結集する機関となるため、少なくとも、委員の任命に当たっては国民を代表する唯一の機関としての国会の同意を得ることとすることは、最低限必要な条件であります。
この点については、衆議院において修正の上本院に送付されておりますが、国会の同意人事とするかわりに委員の守秘義務を規定したことは、審議会の密室性を強めるものとなっております。教育の論議に秘密はないと言うなら、この守秘義務は会議の公開によってのみ排除が可能となるのであります。
そこで、本法律案における政府案との重要な相違点は、民主主義社会の常道として、審議会は原則として公開のもとに運営されるということであります。密室審議が官僚的独善などの弊害を生じやすいことは、教科書検定などの例を挙げるまでもなく明らかであります。自由な発言が阻害されるということが非公開の理由とされているようでありますが、公開されても恥ずかしくない、かつ、その発言に責任を持つ論議が行われることこそ必要であり、また、国民が結論だけでなくプロセスを知ることも重要であると言わなければなりません。そして、このことが、審議会の中立性を
担保するとともに、その結論が国民的合意を得るための重要な要件であると考えるものであります。
以上申し述べました理由により、本法律案を提案した次第でありますが、その内容の概要は次のとおりであります。
まず第一に、民主主義社会における教育の果たす役割の重要性及び教育が不当な支配に服することなく、国民全体に対して直接に責任を負って行われるべきことにかんがみ、教育施策に国民の意見が正しく反映されることを図ることによって、憲法及び教育基本法に規定する教育の目的の達成等に資するため、国民教育審議会を文部省に置くことといたしております。
第二に、審議会は、教育、学術、文化に関する基本的な重要事項について調査審議し、文部大臣に意見を述べるものとし、文部大臣は、これらの事項に関する企画、立法または運営の大綱について、あらかじめ審議会に付議しなければならないこととするとともに、審議会の意見を尊重しなければならないことといたしております。
第三に、審議会は、両議院の同意を得て文部大臣が任命する三十人以内の委員によって組織するとともに、審議会の意見を聞いて文部大臣が任命する専門委員を置くことができることとするほか、事務局を置くことといたしております。
なお、委員の任期は二年とし、審議会の会長は委員の互選によって定めることといたしております。
第四として、審議会の会議は公開とすることといたしておりますが、出席委員の三分の二以上の多数で議決した場合には非公開によって行うことができることといたしております。
第五に、審議会は、国の関係行政機関の長に対して、資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができることといたしております。
最後に、この法律は公布の日から施行することとするほか、関係法律に所要の規定の整備を行っております。
以上が、本法律案を提出いたしました理由とその概要であります。
何とぞ十分御審議の上、速やかに御賛成くださいますようお願い申し上げます。(拍手)
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