磯村修の発言 (本会議)
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○磯村修君 私は、連合参議院を代表して、海部総理の所信に対して、特に重要な中東問題について質問いたします。
世界は今、ポスト冷戦の新しい国際秩序の形成を目指して急テンポで動いております。こうした情勢の中で突如として発生したイラクのクウェート侵攻に対して、世界の世論は国際信義と諸国民の平和と繁栄への挑戦として厳しく批判しております。この中東問題に対して我が国のとるべき道は、人道的、平和的立場を堅持して対処していくことこそが平和憲法の理念のもとでなし得る役割であると確信いたします。
総理は、湾岸危機の発生後、西側主要国の首脳として初めて中東五カ国を歴訪し、イラク軍のクウェートからの撤退など原則論を繰り返すとともに、紛争周辺国への経済協力を表明いたしました。しかし、イラクのラマダン第一副首相との会談では、我が国は反イラク的行動をとっていると非難され、邦人の出国も拒否されました。また、イラクの人質となっている邦人からは、政府の対応に厳しい批判と不満が述べられております。
総理は、今度の中東歴訪で具体的な和平提案をすることもなく、また人質解放の道を開くでもなく、一体歴訪のねらいと成果は何であったのか、むなしさを感じますけれども、総理御自身、歴訪についてどのように評価されているのかお伺いいたします。
また、今後の事態の平和的解決に向け、我が国のとるべき外交は何であるかであります。特に、イラクのクウェートへの侵攻により中東情勢が緊迫の度を深めているとき、イスラエルの占領下にあります東エルサレムではイスラエル警察隊によるパレスチナ人射殺事件が発生しました。そして、イスラエルは国連の調査団派遣も拒否いたしました。この事件を契機に、イラクのクウェートからの撤退とイスラエルのパレスチナなどからの撤退がますます不可分のものとして論じられ、いわば中東問題の包括的解決を目指す動きが今後活発化していくものと考えられます。アラブの怒りと不信感は、パレスチナなどイスラエル占領地域に関する国連決議を長い間無視してきたことがアラブの西側に対する疑念をかき立てているとしております。
我が国としては、明確な中東外交政策に基づき積極的に行動することが必要であります。これは中東の植民地主義に加担したことのない日本に対する大きな期待でもあると思いますが、総理のお考えをお聞かせください。
次に、人質の解放について総理にお伺いいたします。
イラクはこれまで、米国による攻撃の可能性を理由に人質の解放に応じようとしておりません。しかし、人質の解放をおくらせることば、まさに人道上の問題でもあります。万が一軍事衝突に発展すれば、人質の生命は直接の危機にさらされることになります。人質の早期救出に今どのように対処していくのかお伺いいたします。
また、けさまでの報道によりますと、病人や高齢者の邦人数人が帰国できるということでありますけれども、人質の状況をどのように今把握しているのか、また医療品、食糧等の手当ては十分に行われているのかどうか、あわせてお伺いいたします。
ところで、政府は、中東貢献策について、八月末、湾岸における平和回復活動に対する協力を決め、まず十億ドルの資金協力を発表いたしました。さらに九月十四日、米国の追加要請にこたえて十億ドルの追加協力を決め、さらに総額二十億ドルの経済協力を湾岸周辺諸国に対して行うことを明らかにしました。このうち、最初の十億ドルについては、湾岸平和基金を受け皿として、その資金は湾岸に駐留する多国籍軍の中核となっております米軍に流れる仕組みになっております。これは、実質的には米軍に対する資金協力でもあります。資金は米軍用の四輪駆動車、パソコン、クーラーなどの購入に使用されます。このような資金協力は、見方によっては米軍の武力行使を財政的に支えるものとして軍事的に不可欠な意味を持つものであります。それは、直接的武力行使と同様の性格のものであります。
かかる資金協力は、経済協力という視点で見れば、軍事用途に充てられる経済協力は行わないという趣旨の国会決議にも反することになります。そして、集団的自衛権を禁止している憲法に抵触するおそれもありますが、総理の明確な答弁を求めます。
政府が今回打ち出した中東貢献策は、米国に対する配慮のみに終始した印象が強く、米国一辺倒という国民の批判は免れません。いわば、これは対米貢献策であります。こうした印象を払拭するためにも、国連を通じてのより普遍的な協力形態に改めるべきであると思いますが、総理の御見解をお伺いいたします。
さらに、米国は、中東貢献策に関連して在日米軍の駐留費の負担の増加を日本側に求めているようでありますが、それには安易に応じるべきでないと考えますが、あわせてお伺いいたします。
さて、国連平和協力法案についてであります。
今、我が国に問われている最もふさわしい平和貢献策は何かであります。
日本国憲法は、平和を愛する国民であることを世界に宣言しております。いわば、非軍事国家として国際社会に貢献することを誓ったのであります。この憲法の理念は我が国の過去の過ちの反省に立ったものであります。アジアの人々は過去の悪夢からまだ解放はされていないのであります。我が国が国際社会での大きな政治的役割を果たすことを制約しているのは憲法ではなく、我が国に対するアジアの人々の不信感が決定的な要因であると指摘する論調もあります。その意味でも、我が国は常にアジアの枠の中で歩み、世界での大きな政治的役割に関しては国連の中でその責任を積極的に果たしていくという原点に立つことが必要であると思います。
この点から考えて、自衛隊参加の貢献は決して考えてはならないはずであります。また、紛争地域での武力行使は絶対にないという保証がどこにありましょうか、総理の御所見をお伺いいたします。
自衛隊員の身分についても、あるいは資格にあっても二転三転の論議が行われましたが、それはまさにつじつま合わせであり、その根底にあるものは平和憲法をなし崩しにして自衛隊の海外派兵を既成の事実にすることにあると考えるのであります。
自衛隊は、警察予備隊から保安隊へ、そして警備隊にその姿を変え、さらに今の自衛隊へと拡充され、近代装備を持つ軍事的組織となりました。平和協力隊にこの自衛官が参加するならば、事実上軍人の自衛官である以上、国際的に見てもそのような組織は非軍事組織とは言いがたいものであります。つまり、自衛隊とは別のもう一つの軍事組織の編成ということになり、憲法第九条に抵触することは明らかであります。総理はこの重大な問題をどうお考えになりますか、お伺いいたします。
一九五八年七月、レバノン国連監視団の編成に際して我が国は自衛隊将校の提供申し入れを受けました。これに対して、憲法上の制約を理由に我が国はこの申し入れを固辞いたしたのであります。
また、国連加盟申請の際、当時の岡崎勝男外務大臣名で出した声明では、日本政府はその有するあらゆる手段によって国連憲章から生まれる義務を遵守するが、日本のディスポーザル、つまり裁量にない手段を必要とする義務は負わない旨を表明したことであります。当時の西村条約局長は、一九六〇年八月の憲法調査会第三委員会で次のように説明しております。すなわち、軍事的協力、軍事的参加を必要とするような国連憲章の義務は負担しないことをはっきりいたしたのでありますと述べているのであります。
また、参議院は一九五四年六月、自衛隊法の成立に際して、「本院は、自衛隊の創設に際し、現行憲法の条章と、わが国民の熾烈なる平和愛好精神に照し、海外出動はこれを行わないことを、茲に更めて確認する。」こととして、自衛隊の海外出動は行わないとする決議をしております。
このような我が国の基本姿勢は今にも通ずることであり、自衛隊の国土、領海、領空の専守防衛の任務と出動が自衛隊法によって厳格に限定されているのであります。海部内閣はなぜこれを否定し、消し去ろうとするのか。明らかに歴史の歯車を逆回転させるものであり、総理の反省を強く求めるものであります。
私は、戦後四十五年、国民の合意により強く支えられてきた憲法の平和理念に沿い、自衛隊の海外派兵は一切認めるべきでなく、いかなる場合も自衛隊法の改正は論外であり、さきに述べました基本姿勢を厳守すべきであることを強調するものであります。無論、国連中心の平和維持活動への貢献の重要性については私も認識しております。今、ポスト冷戦時代の新しい世界秩序形成の過渡期にあります。その中で突発した今回のイラクによるクウェート侵攻の問題の解決がなくして新しい国際秩序は展望できません。我が国は、この新秩序の形成と運営のため最もふさわしい平和的貢献を行うことであります。
この具体案として、国連の平和維持活動、いわゆるPKOに限定して、軍事的に使用しない保障のもとで財政的、物質的援助と難民の援助、そして人的な面でも自衛隊とは組織、根拠法を異にするPKOへの参加組織を新たに編成、設置して、国連の要請と相手国の同意のもとに国連の平和維持活動の一翼を担うべく派遣する体制を整備すべきであると思います。これこそ平和と安定を願う国際社会に対する我が国の重要な貢献策の一つであると考えます。総理の御意見をお聞かせください。
ところで、国連平和協力法案は、その附則に自衛隊の平和協力隊参加を可能とする極めて重大な規定を置き、この附則によって自衛隊法を改正することとしているのでありますが、政権の維持に恋々としたこれほどこそくな手段はありません。確かに、新法の附則で他の法律の一部を改正することはこれまでにもありましたが、それは法律規定の整理あるいは内容的に軽微な改正に限られるべきであります。今回のように、自衛隊の性格を根本的に変え、憲法の、ひいては国家の根幹にかかわる基本的かつ重大な改正をただの附則で行うということば決して許されないのであります。政府は、どうしても自衛隊の任務を変えようというのであるならば、国民の目をごまかすような立法にするのではなくて、堂々と自衛隊法の改正法案として提出し、国連平和協力法案とともに国会の審議を求め、国民の判断を仰ぐべきであります。総理の答弁を求めます。
今政府が行おうとしていることは余りにも拙速であり、その内容は平和憲法の基本にかかわる重要な問題であります。加えて、朝令暮改の様子を国民の前にさらけ出し、総理の指導性に一貫性のないことを浮き彫りにしました。これでは国政を誤ることは必至であります。海部総理は、一カ月余り前、自衛隊の海外派兵は行わないと述べられました。今総理はみずからの意思を思い起こし、自衛隊の海外派遣を撤回し、国際的貢献のための国民合意の形成に努めるべきであり、その勇気ある決断を求めるものであります。
最後に強調しておきます。我が国は人道的、平和的立場を堅持し、国際社会での役割を果たすことこそ平和の真理と正義に通ずる唯一の道であると確信いたします。一たび中東地域が軍事衝突により戦場化すれば、世界経済に及ぼす影響もはかり知れないものがあります。国会においても、諸国民が心から願う平和と繁栄のため、超党派による平和的解決へ向けてのあらゆる努力を払う決意を内外に示すことを提案して、私の代表質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣海部俊樹君登壇、拍手〕