米沢隆の発言 (本会議)

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○米沢隆君 私は、民社党を代表いたしまして、ただいま提案されました政治改革三法案に対し、総理の見解をただしたいと思います。
 総理、今国民が政治改革に求めているものは何でありましょうか。端的に言って、リクルート事件で明らかになった政治と金の不明朗さを正し、政治家のみずからを律する高い倫理観と公正な政治の確立を求めているのであります。ところが、政府・自民党は、どこでどう間違ったか、自分たちの責任は棚上げして、リクルート事件は政治や選挙に金がかかり過ぎるから起きた。それは中選挙区制度がすべての元凶だと決めつけて、政治改革の焦点をすりかえ、選挙制度改革ができなければ政治改革は一歩も進まないという姿勢に終始しているのであります。
 この論理は、現行中選挙区制度のもとでは、政権を目指す政党は同一選挙区で複数の立候補者を出さねばならず、この複数の立候補が政策、政党本位の選挙を不可能とし、政策以外のサービス競争に陥り、金のかかる選挙を助長している、したがって、選挙制度を政策で争う制度に変えなければならないとするものでありますが、しかし、この論理は余りにも短絡的に過ぎる。重大な見落としかあります。このような理屈を言う前に、一体だれが何のためにそんたに金をかけているのか、金をかけるだけかけた方が有利となる選挙となっているのは、それが中選挙区制度に起因するものではなく、金をかけたい人がおり、それだけの金をかけることを可能とする政治資金のあり方が不透明なまま放置され、選挙運動の公正さを確保する制度が存在せず、明確なる選挙法違反に対しても実効ある制裁措置がなされていないなど、選挙制度以前の問題があるからではないでしょうか。総理の認識を問いたいのであります。(拍手)
 その上、政策本位の選挙の追求については、私も否定するものではありません。しかし、政策・政党本位の選挙になったら、あるいは、小選挙区にたったら、果たして金のかからない選挙になるのでしょうか。総理はどのような理由で、何を担保にそのようなことを言われるのか、しかと承っておきたいと存じます。小選挙区制にしたからといって、金がかからなくなる保証は全くないと私は考えます。
 また、参議院に比例代表選挙を導入する際の理由も、当時の全国区が金がかかり過ぎることが挙げられましたが、導入後三回の選挙を経た今日、自民党の中では、名簿登載順位の決定に関して水面下でわけのわからぬ大きな金がかかるようになっていることは周知の事実ではありませんか。(拍手)総理、本当に金のかかる選挙を助長しているのは選挙制度のためたのでしょうか、選挙制度を変えなければ政治改革は全くできないと考えているのか、見解を伺いたいと存じます。
 さて、議院内閣制下での選挙制度の果たすべき役割には、民意の公正な反映と安定した政権をつくり出すというバランスのとれた二つの役割があります。その観点から今回の政府案を見るに、民意の公正な反映は不当にも軽視され、政権の安定という名目を口実に、自党のみを有利とするゲリマンダー的制度を恥ずかしげもなく前面に押し出しているのが大きな特徴であります。小選挙区制を中心とする並立制の最大の欠陥は、だれが何と言おうとも、民意が公正に反映されない、すなわち、国民の意見が国会議席に忠実に反映されないということであります。
 小選挙区制を採用している国の最近の選挙の死票率は、イギリスでも四八・二%、カナダでも四六・六%、韓国でも五二・六%などであり、日本の昨年の総選挙の死票率二三%の倍以上となっており、民意を切り捨てる制度であることは明らかであります。(拍手)さらに、小選挙区制のモデルと言われるイギリスでは、前回総選挙で第三党である社会・自由連合は、約二三%の得票を得ているにもかかわらず、与えられた議席はわずか三%の議席でしかありません。まさしく小選挙区制度は、この死票の増大によって、大きな政党はますます大きく、小さな政党を抹殺しようとする制度であると言っても過言ではないのであります。このように不公正な制度にはイギリス国内にも多くの批判があり、ヨーロッパ議会の選挙制度を決める際には、約四割もの国会議員が小選挙区制に反対しているのであります。
 小選挙区制を中心とする並立制の第二の欠陥は、有権者の候補者選択の自由が不当に制限されるということであります。定数一名の小選挙区では、有権者は候補者を決める過程には一切参加できず、政党があらかじめ決めた一人の候補者に投票できるのみであります。現在の制度よりも有権者の候補者選択の自由は圧倒的に狭まり、この有権者の自由な選択のかわりに、選挙区の政党内における狭い範囲での候補者選定作業が有権者の声の届かないところで行われるのであります。
 明るい選挙推進協会の昨年の総選挙の実態調査によりますと、投票した理由として、どうしても当選させたい候補者がいたからとする人が二〇%、守り立てたい政党があったからとする人が一〇%となっております。有権者は、政党があらかじめ一人の候補者を決め、その人に投票するという方式よりも、選挙においてみずからの判断で候補者を幅広く選択する方式を望んでいるのであります。
 小選挙区制を中心とする並立制の第三の欠陥は、まさに小選挙区と比例代表という原理的に異なる制度を並立させたところにあり、重複立候補を認めたことにより、その矛盾を増幅させているのであります。
 あらゆるマスコミの試算は、小選挙区では自民党が八割近い議席を占めることを予測しています。しかしながら、前回の参議院選挙の比例代表区での自民党の得票率は二七・三%であり、全五十議席のうち十五議席を占めたにすぎません。前回のみならず、自民党は、旧全国区時代を含め全国を選挙区とする選挙において一回も過半数の得票率を得たことはないのであります。並立制においてこの比例代表の方で過半数を割るという結果が出たにもかかわらず、小選挙区の方で得票率の倍近い八割前後の議席を占めるという事態が起こるならば、どちらを本当の国民の意思とするのか、問題が生ずると言わざるを得ません。また、そのような政権は国民の信頼を得られない不安定な政権と言ってもいいのでありましょう。
 並立制の持つ、以上の民意の切り捨て、有権者の選択の自由を狭めること、並立させたことによる国民の意思の不明確さ等について総理はどのような見解を持たれるか、しかと承りたいと存じます。
 並立制の第四の欠陥は、小選挙区の議席の固定化を招くことであります。
 イギリスでは、全体の選挙区の四分の三の選挙区では当選する政党はあらかじめほぼ決まっており、残りの四分の一の選挙区で勝敗が争われていると言われております。小選挙区制は、多くの無風選挙区と、激烈なる選挙が行われる選挙区とに二分してしまうのであります。また、アメリカの連邦下院議員選挙の新人当選率は、過去五回、五%を下回っていると言われ、一九五五年以来、三十六年にわたり民主党優位が続いているのであります。
 これらの事例からもわかるように、小選挙区制では議員の安定した新陳代謝は望めず、政界への人材流入を妨げる効果を持つものと言わざるを得ません。
 並立制の第五の欠陥は、この制度導入の大きな理由としている政権交代の可能性が高まるどころか、野党がほとんど存在しない翼賛体制的政治状況を生み出す可能性が大きいと言わざるを得ません。自民党永久政権への道を開くものであるということであります。
 小選挙区制を中心とする制度は、あらかじめ拮抗する二つの政治勢力があり、しかもその二つの政治勢力の政策的な距離がかけ離れていないときに初めて比較的うまく機能するものでありまして、このような状況において初めて政権交代が現実のものとなるのであります。
 我が国の政治状況はこのような状況にはなっておりません。第一党と第二党の得票率は、昨年の総選挙で四六・一%対二四・四%と二倍近い開きがあります。また、その政策的距離は欧米諸国と比較にならないほど離れているのであります。さらに、イギリスのように政党の支持基盤が地方分化しておらず、ほぼ全国均一である我が国に小選挙区制を導入すれば、第一党が小選挙区の大部分を占めてしまうのは明白であり、あらゆるマスコミの試算もこのことを証明いたしております。
 日本政治のこのような現状のもとで、小選挙区制を中心とする並立制を導入するならば、小選挙区のもたらすこの議席の独占と議席の固定化が、現在の第一党である自民党の永久政権への道を開くものになることは明白であります。
 並立制の第六の欠陥は、政権の安定ということに関して誤った前提に立って立論しているということであります。その誤った前提とは、連合政権を不安定なものと断定し、単独過半数政権のみが安定しているということであります。連合政権を不安定とする見解は、今日の政治学では既に完全に否定されている見解であります。
 議会制民主政治が成功するための要件として、二党制が望ましいと考える傾向が強い原因は、限られた大国のうち、アメリカ、イギリスの二党制が安定的であり、不安定であったワイマール・ドイツ、第三・第四共和制フランス及び戦後イタリアの経験を一般化したからであります。しかし、多党制下での連合政権においても、安定的政権を継続している国は、戦後の西ドイツ、スカンジナビア諸国、ベネルックス諸国、スイスなど多くの例があります。連合政権を不安定のものと決めつけ、単独過半数政権でなければ安定した政権とならないという誤った先入観が、小選挙区制の導入の理由になっているのであります。
 しかも、現在の日本国民の意識は、望ましい政権の形態として、単独政権を望む人は一割前後しかおらず、過半数の人が連合政権を望んでいるのであります。いわば、国民は強い政府よりも相互に抑制し合う均衡ある政府を望んでいると言わなければなりません。今回の小選挙区制の導入は、このような国民の意識とも真っ向から反するものであります。
 小選挙区制の持つ議席の独占と固定化、それによる第一党永久政権化、我が国のような第一党と第二党以下の勢力分布及び政策的距離から見て、小選挙区制を導入すべき理由は全くないこと、国民は単独過半数政権よりも連合政権を望んでいること、これらの点について総理の見解を承りたいと存じます。
 最後に、今回の選挙制度改革案の提案は余りにも強権的であり、そのことは自民党内にも多くの良識的反対があることが証明いたしております。リクルート事件に端を発した今回の政治改革の結末が、自民党が現在の議席よりも再議席以上も上乗せする選挙制度の導入に終わったのでは笑い話にもなりません。衆議院定数の抜本是正をうたった昭和六十一年国会決議を無視し、党内の良識的反対を力ずくで押し切り、野党がこぞって反対する中で選挙制度改革案を提出した総理の真意を問いたいと思います。あくまで選挙制度改革と他の政治改革との一体的改革にこだわる限り、政治改革は一歩も進まず、国民の政治不信を増大させることにつながりかねません。
 この際、政治改革は、政治家の倫理確立のための政治倫理法の制定、政治腐敗防止のための連座制強化を柱とする公職選挙法改正、政治資金の透明性を高めるための政治資金規正法改正、政党・政策本位の政治を促進するための政党への公的助成制度の確立など、各党合意可能なものを優先させ、各党の意見の隔たりの大きい選挙制度改革と国民が緊急に求めている課題とは切り離し、二段階で進めるのが至当であると私たちは考えておりますが、総理の見解を求め、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣海部俊樹君登壇〕

発言情報

speech_id: 112105254X00619910910_023

発言者: 米沢隆

speaker_id: 14893

日付: 1991-09-10

院: 衆議院

会議名: 本会議