宮澤喜一の発言 (本会議)
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○内閣総理大臣(宮澤喜一君) 先般の米国のクリントン大統領との会談につきましてお尋ねがございました。
アメリカに新しい政権が生まれまして、この冷戦後の時代の世界の中におきまして、御指摘のように、GNP四〇%を占める両国の間にどのような協力をすべきか首脳の間で話をしようということで、余人を交えずにかなり長い時間話をし合う機会もございました。私としては、個人的にお互いの信頼感を築くという意味でも収穫のあった会談と考えております。
その会談におきましては、確かにアメリカ側の大きな関心は両国間の貿易・経済問題でございますけれども、しかし、それに限らず広く政治、安全保障の関係、それから両国が協力して世界に対して行うべき責任、いわゆるグローバルな協力、その三つの分野につきまして十分な時間をかけて話し合いをすることができました。全体としては、両国間の関係に今必要な各種の問題について、バランスのとれた会談ができたというふうに考えております。その結果、今申しました三つの問題について、今後とも協力関係を一層発展させようということで意見の一致を見たわけでございます。
そこで、そういう機会でございましたので、私としても我が国の立場を十分話すことができましたし、大統領も遠慮なくアメリカの立場、また我が国に対するいろいろな要請についても話をされました。そういう点では、個人的にもいい、知り合う、信頼し合う機会であったと考えます。
例えば、アメリカは経済面、貿易面で当然のことながら非常な関心を持っておるわけでありますが、それは、私は、両国間で、もう考えてみると十何年もお互いに最善を尽くしてきた問題であって、なおしかし、こうやって貿易の赤字、黒字の関係が直らない、さらにお互いに努力を続けなければならない問題だろうということで過去の事情を話もいたしました。
クリントンさんとしては、過去の努力をさらにこの際もう一度、新しい、フレームワークという言葉を使われましたが、いわばそういう枠組みの中で両国の間で話していこうではないか、私は、それはこういう新しい状況の中でまことに結構なことでございますから、もちろん、貿易、経済だけでなく、例えばハイテクノロジーの問題もございますし、環境の問題もございます。あるいは職業訓練というような問題もございますから、そういうものを全部ひとつ含めて両国間の幅広い関係をこれからそういう仕組みの中で話し合いをしようではないか、いたしましょうということで合意ができまして、この七月に東京にサミットがございますが、そのときにクリントンさんが来られる、それまでに大体のそういう枠組みを相談しようではないかということになりました。
私としては、それはもとより大切な、結構なことであって、貿易、経済が主たる関心であることはよく理解をするけれども、問題は、やはり双方のお互いの問題を議論し合うということでなければならないし、また、巷間伝えるところでは、日本に対するアメリカの輸出について、一定の数量的な目標を合意してそれを達成するというような話を巷間する人があるけれども、お互いに市場経済の立場の国でそういうことは適当ではない、適当でないのみならず、そういう約束をしても守ることができない、市場経済ではそういうことはできないし、また、ビジネスとしても、何年先に何を幾ら買いますということは、値段もわからず、品質もわからず、納期もわからないものを、そういうことはもともとできるはずはないわけでございますから、そういうことは私は考えるのは適当でないということを申したようなことでございました。
かなり率直に話をいたしましたので、それはそれだけ両国の関係が遠慮のないものになったというふうに私は満足をしておりますが、その中で、為替のことをただいま御質問がありまして、これも報道等々でクリントン大統領が円高をいわば奨導されたのではないかという報道がございました。
これは、実は私ども首脳会談の後、記者会見がございましたときに、クリントン大統領に向けられました質問に大統領が答えられたので、私はそれを横で聞いておりました。私に対する質問ではございませんで、聞いておりましたが、そのときに、両国のこの貿易バランスを改善する幾つかの方途として、アメリカとしては、例えばアメリカ自身の競争力の問題であるとか、あるいは為替の問題であるとか、あるいは日本における内需拡大のための経済政策、これはごく最近とられたのであるが、そういうものであるとか、また個々の品物のセクター別の交渉とか、そういう幾つかのものがあるという答えを大統領がしておられました。これは私、聞いておりまして、特に円高をどうという意図で大統領が言われたようには私は思いませんでしたし、またそのような質問も実はその場ではございませんでした。
そういうふうに私は事柄を理解しておりますけれども、と申しますのは、もともと変動相場になりましてから、御承知のようにG5とかG7とかいう場で各国の蔵相・中央銀行総裁が為替の問題について協議をいたしております。御承知のように、そのために大蔵大臣、今立たれたところでございます。この月末に行われるわけでございますが、そういう伝統的な考え方は、やはり為替というものは各国の経済のファンダメンタルズを反映して安定的に推移するのが望ましい、それでG7等の場でマクロ経済の調整をする、こういうのが伝統的な考え方で、アメリカ自身もそういう伝統的な認識に長年立ってきておるわけでございます。
したがって、そういう為替のごく安定的な推移が望ましい、それが世界経済の振興に役立つということでありますが、万一、万一、為替相場が思惑等で短期的のうちに何か、あるいは投機的な不安定な動きを示すときには、これは当然のことであるが対応する、場合によっては、お互いに共同の上で対応する、これも伝統的な考え方でありますが、そのような伝統的な考え方は、もとより私は変化をしていないというふうに考えておりまして、このたびの会談そのものは、全体的にお互いに十分考えを交換し合う場であったというふうに考えております。
次に、我が国の対日政策について、この際、はっきりしておくことが必要だという御指摘がございました。
我が国の対ロ外交の課題は、第一には、領土問題を解決して、長年の懸案であります平和条約を締結する、それによりまして初めて国交が完全化する、正常化するということでございますが、第二に、現在、ロシアが行おうとしております改革について、我が国としてもこれを支持し、そのために応分の支援を行っていくということでございます。これにつきましては、先般、御指摘のように、対ソ支援のための七カ国の蔵相・外相会議を我が国が主催をいたした、これは御指摘のとおりのことでございます。
第一の領土問題の点につきましては、今さら申し上げるまでもございませんが、第二の点を敷衍して申しますならば、今ロシアが努力しておりますいわゆる経済面での市場経済化、あるいは政治面と申しますか、政治、社会生活面での民主主義、そうして外交面でのスターリン主義による拡大政策への批判、修正、法と正義による外交という、その三つのロシアが志向しておりますところは、これが実現いたしますならば、これはもとより世界全体にとっての幸せでございます。多大な利益をもたらすものでございますし、隣国である我が国にとりましても、それが利益でありますことは申すまでもございません。また、いわゆるスターリン主義の外交、拡張主義の外交という点については、その具体的な残滓が北方領土問題である、そういうものとして北方領土問題が残されているというふうに考えておるわけでございます。
以上が、我が国として、領土問題を解決して平和条約を締結することによって、両国関係の完全正常化を図ることを追求しながら、G7諸国との協力を密にして対日支援をする、そういう考え方の基本でございます。
かつて政経不可分と言った、今は拡大均衡と言うようであるがということにつきましてでありますけれども、どの国でも政経不可分は本来基本的な関係だと思いますけれども、ソ連と我が国との間では、かつてソ連邦が、領土問題というものがあるということすら実は認めなかった、それを否定するという時代が長く続きました。そういう中で経済面だけをやろうというのは、それはゆがんだ関係であって、そういうことは無理ではないかというのが政経不可分という主張であったわけでございます。
御承知のように、ゴルバチョフさんが来日されましてから、領土問題というものはあるということを現実にソ連側が確認をし、認めるようになりました。そして、エリツィンさんは、法と正義に基づいてその処理をしようと言っておられる方でございますから、この問題を認めないという問題はなくなった。したがって、政治、経済の両面でお互いの動きがお互いにいい影響を及ぼすという意味で拡大均衡という言葉を用いておりますわけであります。
経済面における大規模かつ本格的な協力ということになりますと、これは国民の全体の大きな支援が必要でございます。そういうことを考えましても、政治面における関係が十分に考慮されなければならない、こういうことは当然であろうというふうに思っておるわけでございます。
それから、モザンビークの問題についてお尋ねがございました。
平和協力法によりまして、カンボジアにおきまして、自衛隊を初めたくさんの諸君が国づくりに大変に汗を流してもらって、国民の支持を受けていることは大変喜ばしいことでございますが、そういう経験はございますけれども、今度のモザンビークは、カンボジアとはいろいろ御指摘のように事情が違っております。第一、国民の多くが、それはどこにある国かなというぐらいの認識しか持っていないという点でも違いますし、我が国は、実は正常な大使館というものを置いておりませんで、隣から兼轄をしておりますし、在留邦人の数も少のうございます。したがって、そこで果たして我が国の部隊が有効な活動ができるかどうかということは、カンボジアとは違いまして、よほど慎重にしなければならないというふうに考えてまいりました。
そもそも、国連の要請とはいえ、部隊なりたくさんの人を遠い外国へ出すということは、これは重大なことでございますから、軽々に考えていいことではない。そういう立場に立ちまして、何度か現地の調査をいたしました。またその中で、輸送調整とはどういうことであるのかということも知らなければならないと思って、そういうことも調査をいたしました。その結果、我が国としては、大使館の事務所を設けることができるというようなことのめども立ちましたので、このたび、この輸送調整を主として、我が国からこの平和協力業務に参画をしようということを決定をいたしたのであります。
これによりまして国連の平和維持活動に貢献できると思いますが、カンボジアとはまた事情が違いますので、任務の有効的な遂行それから安全等々につきましては、十分配慮をしてまいりたいと考えております。(拍手)
〔国務大臣河野洋平君登壇〕