井尻秀憲の発言 (外務委員会アジア・太平洋に関する小委員会)
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○参考人(井尻秀憲君) 筑波大学の井尻でございます。私に与えられましたテーマは、米中関係と台湾海峡情勢ということであります。
もう既に御案内のようにアメリカの第七艦隊が、空母二隻を含めて十二隻から十五隻ぐらいの水上艦が台湾近海に恐らく総統選挙の前までに集結するというような状況が出てきております。ここでそういう点を考えるに当たりましてアメリカの対中国政策、こういう台湾海峡の緊張状況に対してアメリカはどのように関与していくのかということを既にある程度やっているようにも見えます。そして、そのことが持つ意味合い、日本の対中国あるいは対台湾問題の扱いということに対する影響なりインパクトはどういうものがあるかということをやはり考えなければいけない、そういう視点からきょうはお話をさせていただくわけでございます。
とりわけ、その際に私どもが理解しておかなければならないことは、アメリカと中国との間の米中関係における従来の取り決めというものもございます。そういった点が一つ。それから中国の場合、八九年に天安門事件がございました。御案内のようにそれ以後、米中関係を含め西側の国々との関係が中国の場合かなり孤立するような状況になったわけですけれども、しかしこれまた御案内のように日本のリーダーシップがかなり働きまして、中国の孤立化というものを徐々に解いていくことができるようになりまして、中国は国際社会に復帰してきたということであります。
そういう中で、ブッシュ政権時代あたりから対中国だけではなくて対台湾との関係、台湾問題に関する認識が高まってきた。そして、それを受け継いだクリントン政権の現在とっております対中国政策の基調がどういっだものであるのか。それに対して、最近のアメリカ議会における一連の、特に共和党優位の議会主導によるところの対台湾政策の変更と言われているような点を踏まえて、その後に李登輝訪米ということもございまして、米中関係がある意味ではぎくしゃくしながら、しかし片一方では何とか対話を模索するというような形で今日まで来たと。
ただし、台湾の総統選挙を行うに当たって、既に李登輝訪米以来緊張が進んできたこの台湾海峡の問題にアメリカはどの程度、しかもどのように関与していくのか、こういう点が最終的に問われなければいけない問題としてあるように思います。そして、そのことが日本外交にとってどういう意味合いを、インパクトをもたらすか、こういう角度からきょうはお話をさせていただきたいと思います。
時間の関係もございますので、判断の前提といたしまして簡単に御説明いたしますが、米中関係におきましては基本的に三つのコミュニケと言われているものがございます。
一つは、七二年のニクソン・キッシンジャー時代に、キッシンジャーの秘密外交というふうなことも言われましたけれども、電撃的にニクソン・ショックというまさに非常にドラマチックな形で米中が和解を遂げた。つまり、アメリカはベトナム戦争の後遺症に非常に悩む、同時に他方において中国は中ソ対立という極めて大きな問題を抱えている。そういう状況の中でアジア太平洋地域において中国が安定した形で登場してくるという意味で、ニクソン、キッシンジャーのいわゆる多極化政策といいますかバランス・オブ・パワー、勢力均衡政策によって中国へのアプローチがなされ、そして米中和解、接近ということが可能になったわけであります。
これは七二年の段階でございますが、このときに上海コミュニケというものを結んでおります。それは、今日共通項となっておりますところの一つの中国、台湾は中国の不可分の領土であるということ、それから北京が中国の唯一の正統政府であるということ、そういうことを基本的な前提として共通項として持つように至ったその第一のきっかけであります。ただし、七二年の段階ではワンチャイナを認めながらも必ずしも今急いですぐ国交樹立まで持っていく必要はない、そういう時代でありまして、まだ米中の国交が樹立されたわけではなかったわけですね。逆に日本の場合、七二年の九月に田中元総理が訪中いたしまして、いわゆる日中共同声明そして日中国交樹立、つまり外交関係がそこで開かれたわけであります。
ですから、この点でアメリカと日本との間のアプローチといいますかやり方が違っていたということはありますけれども、しかし今度はそれと同じような米中の外交関係の樹立てすが、これは七九年に出てまいります。そのときに交わした米中間の共同コミュニケ、これが先ほど申しました共通項を大体踏襲していると思いますが、ただしそれまであった台湾とアメリカとの間の防衛条約の破棄という問題もございますので、そうなってきますと台湾の安全という問題が出てくる。
これに対して、当時の米中国交のドラマというのは、カーター政権が比較的秘密裏に行うようなドラマチックなものであったわけです。そして米中国交をなし遂げた。同時に、いわゆる米台防衛条約を破棄するという形で、かわりにカーター自身は台湾関係法というものを考えていたわけでございまして、それを議会に提出する。
ところが、最初の台湾関係法というものは非常に中国側の意図を酌んだものでありまして、必ずしも今日あるようなものではなかったわけでございます。中国を牽制するといいますか、台湾の安全をもう少し重要と考えるというような今日持っているところのそういう台湾関係法ではなかったわけですが、これに対して議会が大幅な修正を加えることによって今日あるところの台湾関係法が七九年から八〇年の初めの段階で出てきたわけでございます。つまり、台湾問題というものをアメリカははっきりと平和的に解決しなければならないということ。
これは日本の立場からしますと、国交関係を結んだことによって中台関係に関して、あるいは台湾の地位の問題に関して日本は基本的にステートメント、話をする、あるいは何か関与する立場にない。つまり、かつて日本は中国との戦争を行って、そしてまた台湾を植民地として五十年間支配してきた。それが日中国交という中国との外交関係の樹立によって、いわば領土問題、台湾の地位という問題に関してそれまで日本が一貫して言ってきたことでもありますので発言する立場にはない。つまり、アメリカが平和的手段によって統一かあるいは何らかの解決をやらなければならないというふうに言うのに対して、日本はこの問題に関して発言する立場にはなくて、むしろ領土の放棄という側面の方に力点が置かれていたというふうに私は理解しております。
したがって、アメリカの台湾関係法というものが今日のいわゆる台湾海峡の緊張状況においてどういつだ意味合いを持つのかということが問われなければならないわけでございますが、しかしこれまた必ずしも明確なものではございませんで、極めてあいまいな部分がまだあると思います。
この七九年の国交のときに行いました米国の国内法としての台湾関係法は、これはその後の八二年の米中コミュニケと比較して議論するとはっきりするわけです。要するに、米台の防衛条約を破棄した段階で台湾の安全をどうするかということを考えるときに、いわゆる兵器、武器の供与を台湾側に対して行うということ。ただし、その文言は、ここにも書いておりますように、大統領が議会に報告して憲法上の手続に従いながら適当な行動を決定するというような文面でありまして、そのことでもってアメリカがこの台湾問題、台湾海峡の問題に関してどの程度関与するのかということに関してははっきりと物が言えない、そういう文言だというふうにも言えます。
ただ、議会のてこ入れででき上がりましたこの台湾関係法は、米国の国内法ではあっても、これが存在することによって米国から台湾へのいわゆる武器の供与が正当化されているということであります。もちろん中国側はそれを批判しているということであります。
その時点からもう一歩進みまして、米中関係が八二年の段階に来たときに三つ目のコミュニケが交わされました。ここではソ連のアフガン侵攻、つまりソ連の存在は依然として非常に重視されていたという状況の中で、いわゆるチャイナカードという言葉が使われ始めましたように、中国をソ連に対するカウンターウエートとして、そこにバランスを見て、そして米中の双方の関係を強くする、こういう時期でございましたので、八二年の米中コミュニケは、これまた玉虫色の部分がありますけれども、しかし中国主導型のものであった。したがって、先ほどの台湾関係法に基づく問題に関しては、武器の供与を漸減していきまして、緩やかに減らしていって、そして最終的にはゼロに持っていくと。つまり、米中国交段階であった防衛体制、兵器体制の状況にまで戻すというような、そういうコミュニケがここでできたわけであります。
しかし、これは今日から見ますと、天安門事件を経て、その後ブッシュ政権の末期、後半の時期に入りまして台湾問題が徐々に新たな形で今日のような重要性を増してくる。つまり、台湾の経済あるいは政治の変化、あるいは現実外交、実務外交と言われているような台湾の国際的地位の上昇、そういう点を踏まえてブッシュ政権も対中、対台湾のバランスというものを考えなければいけなくなってきた。
したがって、先ほど平松先生からもお話がございましたF16戦闘機の対台湾供与というものは、ブッシュさんの当時の大統領選挙に向けたいわば国内的な事情という側面もございますけれども、同時に台湾へ百五十機の戦闘機を供与する、売却する、こういうバランスであります。つまり中国がソ連からスホーイ27という戦闘機を買う、こういう状況の中で台湾海峡における軍事力のバランスというものをとっておかなければならない、そういう判断が出てきたわけであります。
その後、クリントンさんの時代になってまいりますと、クリントン政権は内政重視ということを最初から言われていたわけでありますが、外交面ではある意味で非常にあいまいさの残る、あるいははっきりとした政策が打ち出せない中で内政問題に忙殺される。それから同時に、旧ユーゴほかいろいろな国際問題があちこちで冷戦後の状況として出てくる。それらに一つ一つ対応していくわけですが、対アジア政策という点に関してはきっちりとしたものを持ってやるということがなかなかできない状況の中である種の思いつき的な外交をしてしまったという点があります。
ただし、対中あるいは対アジア全般に関してそうなんですけれども、最近言われておりますアメリカの包括的あるいは積極的な関与政策、いわゆるエンゲージメントポリシーと言われるような政策が今日のアメリカの対中政策の基調になっています。これは、アメリカの従来の対中政策の伝統というものをある程度反映しているというふうに言ってもいいわけです。
特に、ナイ・リポートと言われておりますアメリカのジョセフ・ナイ前国防次官補を中心にしてつくりましたアジア太平洋地域におけるアメリカの戦略に関する報告書なんかは、まさに関与政策ということをうたっておるわけであります。それは、ここにも書いておりますように、基本的に中国の軍事力をまだ弱いものというふうに見ている。そういう前提のもとで、現時点では米軍の兵力をアジアに残しながら中国との対話を通じて中国を国際的ルールに従わせ国際クラブの中に組み入れていくと。これはまた非常にあいまいな表現なんですけれども、いわゆる関与政策という形であらわれているわけであります。
そういうあいまいさを持っているアメリカの対中政策でありますけれども、そういう点に対してアメリカの場合は議会、特に共和党優位になった議会の側から強い大統領府批判が出てくる、またそれを世論が後押しすると、こういう構図が出てまいりました。
特に、九四年秋の中間選挙で共和党が圧倒的な優位に立ち、もともと反共保守的な雰囲気の強い政治家の人々を中心にして、それから同時に民主党のもともと民主主義あるいは人権といったものを重視する議員の人々の間に一種の連合が成立いたしまして、そしていわゆる議会主導型の対台湾政策の変更、つまりそれによって李登輝訪米を可能にし、同時に先ほど申しました台湾関係法の重要性というものをより強く訴えて、八二年の米中コミュニケを上回る決議を行って、大統領にあえて署名を迫るというような状況が出てきた。つまり、アメリカにおいても議会を中心に台湾の存在というものをより強く意識する、そういう台湾政策の変更という点が出てきているわけです。
そして、御案内のとおり、最近の台湾海峡情勢における中台関係の緊張という中で、アメリカは第七艦隊の台湾海峡近海への派遣を含め、アメリカの台湾へのコミットメントと同時に対中国牽制という、こういう図式が出てきているわけでございます。そのことの持つ意味合いが、これは単に台湾だけの問題あるいは中国だけの問題ではございませんで日本にも及ぶ問題だということで、それなりの意見の違いはございますけれども、アメリカの中に幾つかのいわば議論が散在しております。
代表的なものを申し上げますと、アメリカは大統領府、国務省、そして国防総省、ここでは先ほど来申し上げた積極的関与政策という基調を基本的に崩していない。ただし、それで済むのかというようなことが議会の側から出されてきている。とりわけ今回の軍事演習というような状況の中で、議会は決起大会を開くなり意思を強めてますます大統領にいわばこの問題でのイニシアチブを迫る、そういう状況が今出てきているわけでございます。
ただ、最後に私は、ここにも書いておりますけれども、片方で国務省を中心に米中の間の対話というものも進行し始めているわけであります。そういう中でこの米中関係と米台関係の両方を眺めながら、この昨今の台湾海峡の緊迫した状況に対してアメリカがどの程度関与するのか。それはぎりぎり難しい面もございますけれども、既にある程度の牽制が行われ始めているということは言えるかと思います。
時間を超えておりますので申し上げませんが、そのことといわば立場を全く同じくするわけではない日本、しかしながら日米の安保体制というものを持っている、しかも沖縄問題を含めて日米安保の再定義ということが言われるような時代において、中台関係、台湾海峡の緊張状況を一つのきっかけとしてもう一回日米関係を考えるような案も、また考え方も出てくるであろうし、ここに至って日本の戦略面、安全保障面を含めた外交のあり方というものが問われる。
つまり、平たく言いますと、こういう米中関係の状況の中で、日中関係をとるのかあるいは日米同盟関係をやはり基軸としていくのか。もし台湾海峡に何らかの事態が生じてそれに対してアメリカが介入するというようなことになりますと、そういう日本の微妙な立場が問われることになるわけでございまして、そこを我々は考えていかなければならないというふうに考えております。
どうも失礼しました。