加藤良三の発言 (外務委員会アジア・太平洋に関する小委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○政府委員(加藤良三君) ただいま御紹介いただきました外務省アジア局長の加藤でございます。
 小委員長を初め小委員各位に対し、現下の台湾海峡地域の情勢及び台湾をめぐる問題に関する我が国政府の立場を御説明申し上げます。
 台湾海峡地域の平和と安定は東アジアの平和と安定にも重要な意味を持っており、我が国としても情勢の推移に大きな関心を払ってきたところであります。現在の情勢について述べる前に、これまでの台湾海峡情勢を簡単に振り返ってみたいと存じます。
 近年、中国政府と台湾当局との関係は、緊張の要素をはらみながらも、おおむね安定的に推移してまいりました。特に、一九八七年に台湾当局が戒厳令を解除し、また住民の中国大陸親族訪問を解禁して以降、海峡両岸の間においては人的往来や投資、貿易等が活発に展開されています。人口約二千百万人の台湾において、昨年までに中国を訪問した住民の延べ数は約八百四十万人に上ります。また、香港を経由する中台間の貿易は往復で昨年二百十億ドルに達しましたが、これは九〇年の五倍の伸びを見せております。ちなみに、昨年の日中貿易額は往復で約五百八十億ドルでございます。
 このような交流の進展と並行して、台湾海峡両岸では九〇年代初めに実務面を担当する民間窓口機関がそれぞれ設立され、さまざまな問題について話し合いを積み重ねてきました。しかしながら、台湾の指導者がいわゆる実務外交を展開するようになると中国側が不信感を高め、特に昨年の夏に台湾の李登輝総統が米国を訪問したことを契機として、中国は台湾当局の政策が中国からの独立を進めようとするものであるとして強く反発し、民間窓口機関間の話し合いは中断され、両岸関係は緊張の度合いを深めることとなりました。
 現在の状況でございますが、台湾をめぐる問題に対し中国が従来から表明している基本的立場は、一国二制度による平和的統一に向けてあくまでも努力するが、外国勢力が台湾問題に介入したり、また台湾が独立を目指す場合には武力の行使を放棄しないというものであります。
 昨年一月に江沢民主席が発表した台湾問題に関する八項目を内容とする談話では、中国はこのような基本的立場を確認しつつ、中国人は中国人を撃たないといったやわらかい表現も見られましたが、李登輝総統が訪米し、台湾での総統選挙が近づくにつれて、最高首脳部の発言は極めて厳しいものへと変化していく中で、選挙間近の三月に入り、中国軍は台湾周辺においてミサイル発射訓練、海空軍による実弾演習、陸海空軍の統合演習といった大規模な軍事演習を相次いで行いました。
 この間、我が国として、台湾に対し直接の武力行使が行われるとの差し迫った状況にあるとの情報には接しませんでしたが、台湾海峡の緊張は一挙に高まり、我が国を含む東アジアの平和と安定の観点から憂慮される事態が生じました。
 中国側は、今回の演習の対象は選挙でも民主化でもなく、台湾の独立に断固として反対するためであると説明していますが、軍事的圧力を用いてその立場を台湾に伝えようとする今回の中国のやり方には我が国として疑問を呈さざるを得ず、また今回の演習が中国の意図したような効果をもたらしたかどうか定かではありません。さらに、今回の中国のやり方には、東南アジア諸国を初め中国の周辺諸国も少なくとも戸惑いを覚えているのではないかと考えられます。
 次に、台湾問題に対する我が国の基本的立場でありますが、これは日中共同声明において表明されているとおり、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認するとともに、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であるとの中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重するというものであります。このような基本的立場に立って日中関係を発展させ、また台湾との間に非政府間の実務交流を進めてきたことは東アジアの安定と繁栄に大きく寄与してきたと考えており、我が国としてこの基本的立場を今後も堅持していく方針に変わりはございません。
 同時に、我が国として東アジアの平和と安定の観点から、台湾をめぐる問題が平和的に解決されることを一貫して強く希望してきておりまして、バンコクにおける日中首脳会談及び外相会談において、関係当事者が平和的解決という基本的な考えに立って行動することを強く希望していることを明確に中国側に対して伝えました。また、その後、中国が前述した軍事演習を実施する過程において、私から二度にわたり在京の中国大使館に対し、総理及び外務大臣が表明した我が方の考え方を踏まえて、我が国の懸念を申し伝えました。これに対し中国側は、台湾問題に関する原則的立場を述べつつ、当該演習は通常の演習の一環である旨応答しました。また、我が方としては、航空、海運の安全などにつき、この申し入れに加えて在北京大使館を通じて別途申し入れを行った経緯があります。
 台湾の選挙を経た今後の展望でございますが、台湾において先月二十三日に初めて民選の指導者が誕生したことは、まことに意義深いものがあると考えています。台湾における選挙が終了した今日、我が国としては海峡両岸の関係当事者が現在の困難な局面を乗り越え、台湾をめぐる問題の平和的解決に向けた方途を見出すことを強く希望するものであります。
 去る三月三十一日には日中外相会談が長時間にわたり行われましたが、その際、池田大臣から銭其シン副総理兼外交部長に対し、台湾をめぐる問題に対する最近の中国の対応の仕方の影響もあって、日本国民の中国への親しみが減じていることを心配している旨指摘の上、台湾海峡情勢に関する我が国内外の見方を率直かつ明確に伝えた次第であります。
 中国では、現在、江沢民主席を中心とする集団指導体制のもとに政治運営が行われていると見ておりますが、台湾問題は中国にとって主権と統一に係る根本問題であり、予見し得る将来、中国指導部がこの問題に対する基本的立場を大幅に変更することは考えられません。しかしながら、台湾における選挙の後、中国の指導者や公式報道は、従来からの基本的立場を堅持しつつも、選挙前に見られたような激しい調子を控えているように見受けられます。また、台湾においても、中国との話し合いに向けてさまざまな検討が行われているとの話も耳にいたします。
 台湾海峡両岸関係の将来については今なお決して楽観するわけにはまいりませんが、台湾海峡両岸の当事者が、昨年夏までの間、両岸関係がおおむね安定的に推移してきたことが東アジア全体の安定と繁栄に少なからず寄与してきた事実を想起して、両岸関係の安定化に向けた努力を早急に開始することが強く望まれる次第であります。
 なお、明年七月に中国に返還される香港については、一国二制度のもとで現行の諸制度が最低五十年間は変更されず、外交、防衛の分野を除き高度の自治権を有することとなりますが、我が国としては、返還後の香港がよく整備された法制度のもとで自由で開かれた体制を維持し、安定と繁栄を続けていくことを期待しております。
 次に、米国の動向についてでありますが、米国は国内法において、台湾に危険が生じた場合にそれに対処するために大統領と議会がとるべき適当な措置について決定する旨定める一方、中国との間の三つのコミュニケにおいて、一つの中国、一つの台湾といった政策をとらないことを明確に表明しております。このような枠組みのもとで、米国は我が国と同じく台湾問題の平和的解決を強く求めていると承知しております。台湾の選挙を目前に控え中国の軍事演習が本格化した時期、米国は二隻の空母を含む海軍部隊を台湾近海に派遣いたしましたが、この米軍の行動は予防行動として通常の訓練を行いながら監視活動を行うことを旨としたものであったと承知しております。
 米国は、中国の軍事演習を挑発的かつ危険であるとする一方、中国との間に建設的関係を築くことは米国の国益にかなうものであり、そのような米中関係は台湾の安定と繁栄にとっても根本的に重要な要素であるとの認識を示しております。来る四月十九日にはハーグにおいて米中外相会談の開催が予定されておりますが、米中関係をこのような方向に進める上でこの会談が成果を上げることを期待いたしております。
 日米間では、台湾海峡情勢を含むアジア太平洋地域の諸問題について、さまざまなレベルで広範かつ緊密な対話と意見交換を行ってきております。日米安保体制は日米同盟関係の中核であるとともに、アジア太平洋地域の平和と繁栄の基盤をなすものであります。御案内のとおり、クリントン米大統領来日の際には、日米安保体制のこのような重要な役割を改めて確認する共同文書を発出し、二十一世紀に向けた日米同盟関係のあり方につき内外に明らかにしていきたいと考えております。
 このような日米安保体制の信頼性の向上、またこれを基盤とした日米間の協力の強化は、アジア太平洋地域の平和と安定にとって不可欠の要因であります。このような日米協力の強化が日中関係あるいは米中関係の進展を阻害するかのごときものでないことは申すまでもありません。
 日米両国とも、この地域の安定と繁栄にとって中国が担う役割の重要性を十分認識し、今後とも引き続き、さまざまな問題に関し中国との協力関係を発展させていく考えであります。さきの日中外相会談において池田大臣が、日米安保体制の重要性を確認することは日中友好協力関係の促進に矛盾するものではない旨述べたところがございますが、まさにこの考え方を示したものにほかなりません。
 二十一世紀はアジアの世紀と言われております。しかしながら、発展を続けるアジアの裏面には、食糧とエネルギーの不足、人口問題、環境問題等を抱えたアジアがあります。このような客観情勢の中で、中国の今後の動向いかんは地域の平和と安定に必ずや大きな影響を与えずにはおかないでありましょう。
 政府としては、中国が改革・開放政策の推進をみずからの国益に最も資するゆえんであるとの判断を堅持し、我が国がこれに実質的な協力を行うというシナリオが地域の平和と安定の維持のためには現実に最も望ましいものと考えております。
 今後の日中関係のあり方についてはさまざまな議論があり得ると思います。五月二十日には台湾で総統就任式が行われます。台湾への米欧からの兵器の供与も今後実施の段階に入ります。香港の返還は明九七年七月一日に予定されています。その間、中国の核実験、CTBTへの対応、人権問題、海洋法条約に伴う問題米国との間のMFN更新問題等々が世界の注目を集めずにはおかないでありましょう。我が国の安全保障にとって、米国との同盟関係を堅持しつつ、いかに中国との間に建設的なパートナーの関係を維持し得るかが最重要の課題となりましょう。
 日中間では、政治、安全保障、経済その他の分野での対話が行われておりますが、これを一層深める必要があります。それと並行して、既存の多数国間の枠組みの中における対話を推進することが重要であります。さらに、時宜に応じ日米中三者間の政策対話を推進していくといった必要もございましょう。結局、こうした対話の積み重ねと組み合わせが台湾海峡情勢を含む東アジアの平和と安定に寄与するゆえんであることは言をまちません。
 台湾をめぐる問題についての政府の基本的立場は既に述べたとおりでありますが、こうした考え方について本委員会の御理解、御支援、そして御批判、御示唆を承りたく、よろしくお願い申し上げます。

発言情報

speech_id: 113613974X00519960410_003

発言者: 加藤良三

speaker_id: 23672

日付: 1996-04-10

院: 参議院

会議名: 外務委員会アジア・太平洋に関する小委員会