猪熊重二の発言 (本会議)

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○猪熊重二君 関根議員の御質問にお答え申し上げます。
 最初の御質問は、脳死に関する世論の動向についてのお尋ねであります。
 脳死を人の死と認めるか否かについての世論調査は、昭和六十年以降、政府、脳死臨調、各種マスコミ等により数多く実施されており、脳死臨調答申後のこの五年間においても各種マスコミにおいて実施されてきております。
 その細かい数値は申し上げませんが、概説すれば、これを肯定する数値は五割ないし六割近く、これを否定する数値は二割ないし三割程度と認識しております。
 これらの世論調査の結果を見た場合、肯定・否定の数値は、時間的経過に並行して上昇もしくは下降することなく、そのときそのときの調査で不規則に変動しているという事実が認められるのであります。このことは、この五年間をとってみても、国民が脳死肯定・否定のいずれとも決しかね、思い悩んでいる姿の反映であると私は考えます。
 ところで、脳死臨調は平成四年一月二十二日の答申において、臨調自体の世論調査の結果、すなわち一九九一年九月の、脳死肯定四四・六%、脳死否定二四・五%の結果にもかかわらず、委員の多数意見をもって、脳死を人の死とすることについては、「概ね社会的に受容され合意されているといってよい」と結論づけていますが、この五年間の世論調査の結果は、右の脳死臨調の多数意見の結論が全く正当性を持っていないことを明らかにしていると言えるのではないかと考えるところであります。
 次の御質問は、私たちの法案、すなわち脳死状態にある者をいまだ生者とし、この者からの臓器摘出を認める法案の妥当性に関するお尋ねであります。
 まず私たちは、厳格にすべての要件を充足して判定された脳死状態にある者を生者とし、この生者からの臓器摘出行為は、殺人罪ないし承諾殺人罪の違法性を阻却し、何ら犯罪となるものではないという立場に立っております。
 その理由の第一は、特定の個人が健全な意思を有している段階において、将来、自己が脳死状態に陥ったときはその判定を受認すること、さらに脳死状態と判定された場合には臓器を摘出して有益に移植することを承諾する旨の書面を作成している場合、当該個人の自己の生命の尊厳に対する決定権は最大限に尊重されるべきであると考えるからであります。
 さらに、このような本人の自己決定権に基づき医師が臓器を摘出することにより死に至ったとしても、当該医師の行為は移植目的のためのものであって、単に死を結果することを目的とする承諾殺人行為などと法的評価において全く異なるものであって、同罪の違法性がいささかも認められないと考えるからであります。
 なお、私たちは提供者と受領者との間の生命の価値に差を認めるものではありません。すべての人間の生命の尊厳、価値、不可侵性は同一であります。そして、違法性阻却とは、当該行為が国家社会の秩序維持、公共の福祉の観点から正当な行為として許容されるか否かの問題であります。したがって私どもは、脳死状態にある者からの臓器摘出行為は、医師のモラル、倫理と何らかかわるものではない社会的正当行為であると考えております。
 次の御質問は、脳死判定基準・判定方法の確実性及び蘇生限界点の問題についてのお尋ねであります。
 まず、脳低体温療法によって脳の蘇生限界点が延びてきていることは事実と認められるべきであり、医学の進歩、研究、発展に敬意を表するところであります。しかし、脳死状態とは全脳の機能が不可逆的に停止することでありますので、蘇生の可能性がある者、すなわち蘇生限界点がどのように延びてきた場合であっても、蘇生の可能性のある者が脳死状態と判定されることは本来的にあり得ないことであります。
 しかし、実際の脳死状態の判定において、蘇生限界点内にある者を脳死状態にあると誤認する可能性は、関根議員御指摘のとおり常に内包している危険性であります。それゆえ私たちは、法案において、脳死判定を行う者を移植と無関係な専門医師二名以上とし、その二名以上の医師の判断の一致によって判定することとし、判定の正確性を期しております。さらに、判定の細部については厚生省令において同省と医師専門家組織との慎重な協議によって厳格に規定されるべきものと考えております。
 また、判定基準の変更についてでありますが、医学を中心とする科学技術の進歩により、今後判定基準がさらに厳格に変更されることも十分に予想されるところであります。それゆえにこそ私たちは、現行の判定基準を納得し、承認し、正常な意思のもとにおいて脳死状態の判定をみずから受認した個人に対してのみ脳死状態の判定を行うこととしております。将来変更する可能性を持っている判定基準によって国家が脳死イコール死を国民に強要することなど、個人の尊厳を基調とする日本国憲法のもとにおいて認められるべきではないと信じているからであります。
 次の御質問は、移植実施の体制に関するお尋ねであります。
 移植実施に向けての脳死状態判定医師の資格や判定実施機関の選定、ドナーやレシピエントの情報把握に関するネットワークの整備、移植実施医師や移植実施機関の選定等について、法案では厚生省令の定めるところとしております。これらの事項は法案に具体的に規定することが不適当な内容であること、それ以上に、これらについては保健・医療行政の担当省庁である厚生省とプロフェッショナル組織たる医学界との協議決定に委任することが妥当と考えた結果であります。御了承を賜りたいと思います。
 なお、関根議員御指摘のとおり、移植施設を限定すべきとの御意見は、心臓等の移植の実績のない現在の我が国の状況のもとにおいてはまことに相当な御意見と存じます。
 次の御質問は、臓器提供者の意思の尊重並びに医の倫理確立についてのお尋ねであります。
 臓器提供者の提供臓器の範囲の限定に関する意思が尊重さるべきは当然のことであります。法案第二条の基本理念にその旨を明記したところであります。また、私たちは、法案第六条、第七条において、臓器を移植術に使用されるため提供する意思を表示した書面という場合の「臓器」とは、本人が具体的に指定した臓器を指すものであり、臓器一般とか全臓器とかを意味するものとは考えておりません。また、本人の意思確認のためのドナーカードの具体的内容・形態については厚生省令の定めるところとしております。
 また、議員御指摘の臓器摘出に当たっての厳格な倫理規定の確立についても全く同意見でありまして、法案では第九条に摘出に際しての礼意の保持を規定しておりますが、この点を含め、厚生省、プロフェッショナル組織としての各大学医学部、医学関係学会・諸団体において適切な倫理規定が作成、遵守されるよう期待しているところであります。
 最後の御質問は、臓器移植に関する国民への情報公開についてのお尋ねであります。
 私たちは、臓器移植に関する諸事情、例えば脳死状態とは何か、判定基準や判定機関の信頼性や公平性、移植ネットワークの必要性、公平性、開放性、我が国の実情と諸外国との比較等々の諸事情につきすべて国民に開示されるべきは当然であり、必要なことと考えております。このために、国の機関としての厚生省が、専門医師組織のみに頼らず、みずから積極的に情報を開示することが必要と考えております。
 以上で答弁を終わります。(拍手)
   〔国務大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕

発言情報

speech_id: 114015254X02619970519_008

発言者: 猪熊重二

speaker_id: 24845

日付: 1997-05-19

院: 参議院

会議名: 本会議