蔦壁寛明の発言 (経済活性化及び中小企業対策に関する特別委員会)

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○参考人(蔦壁寛明君) 蔦壁でございます。
 私からは、景気の現状判断を行った上で、今回の総合経済対策の評価に移り、しかる後に、今後予想される景気のシナリオを提示したいと存じます。レジュメでは最後の方に若干中長期的な視点を触れておりますけれども、時間の関係では質疑応答の方に回すことになるかと思います。
 まず、昨年十-十二月の実質経済成長率がマイナスの〇・七%になったわけでございますが、この一-三月期につきましても、公表されております各種統計などから判断してまいりまして、〇%ないし若干のマイナス成長を記録した公算が大きいと考えております。
 二四半期連続してマイナス成長を記録いたしますと、米国ではリセッションと申しますけれども、その定義によりますと、まさしく日本はリセッションに入っているというところでございます。
 こうした状況を生んだ背景といたしましては、そもそも資産デフレのさなかにあった日本経済が、多少回復の兆しが見えた段階で財政再建に軸足を移すような政策、すなわち消費税引き上げほか合計九兆円の個人から財政部門への所得移転を行った。そのことによってすっかり国民の消費意欲が冷えてしまったこと、これが第一に挙げられると思います。第二に、昨年秋に大型の金融破綻を経験し、先行きに対する不透明感が各経済主体の間で増幅してきたこと、これが挙げられると思います。
 財政再建につきましては、いずれ手をつけなくてはならない問題であったと認識をしておりますので政策選択としては間違っていないとは思いますけれども、タイミングを読み間違えたために政策が逆噴射を起こしたというのが実感でございます。
 その結果、経済は現在大変な需要不足に陥っているわけでございます。資産デフレに加えて、フローのデフレに突入しかねない状況になってきております。卸売物価を見ますと、昨年八月から九カ月連続で前月比マイナス。消費者物価も弱含んでおります。いずれ卸売物価の低下の影響が消費者物価にも波及してくるものと思われます。
 また、最近注目されますのは、マネーサプライあるいは広義の流動性といった金融指標でございますけれども、二カ月連続して大幅に前月比で低下を見せていることであります。いわゆる信用の収縮と呼ばれる現象が発生しているように思われます。
 こうした一連の動きが本格化いたしますと、需要の減少、物価の下落、それが企業の売り上げの減少になり、それが企業収益を圧迫し、雇用調整を起こす、この雇用調整が新たな需要の減少となるという、いわゆるデフレスパイラルに陥る。今はまさにその瀬戸際に立っているという状況かと思います。
 そうした中で、経済対策十六兆円余りの決定を見たのでありますが、既に超低金利政策が大分継続しておりますために、金融政策はその余地並びに効果両面において既に限界に来ている。そういう状況でありますだけに、財政政策の発動は当然と理解しております。
 問題は、その効果であります。真水十二兆円ということで、それだけのお金が投入されるのですから効果のあることは疑いありません。しかし、公共投資を初めとした財政の刺激策にはそれ単独の効果でなく民間需要に対する呼び水効果が期待されるわけでございますが、現在の局面ではこの後者の効果について過大な期待を寄せるのは無理ではないかと思っております。
 まず、今までの経済対策が打たれた局面との決定的な相違というのは、金融システム不安に起因いたしますところの社会不安でございます。定量化することは不可能ですけれども、企業、個人、各経済主体ともコンフィデンスクライシスに陥っているように思います。
 次に、近年の経済対策でございます。九五年九月の大型経済対策、このときには九六年度に三%を超えるパフォーマンスをもたらしたわけでございますが、あの局面と現在とを同列に論じることはできないと存じます。当時は、対策と前後いたしまして住宅投資ブームが沸き上がりましたが、これは消費税率引き上げ前の駆け込み需要によるものでございまして、対策の有無とは関係が薄いと思われます。また、他の需要の地合いを見てみましても、パソコンではウインドウズ95とか携帯電話の急激な普及でありますとか、情報関連の設備投資や情報関連の個人消費もまずまずの底力を当時は持っていたと、そう思うからであります。
 そうした事実に引き比べまして、現状は投資、消費ともリードする主役が存在しておりません。むしろ余りに物がさばけないために在庫率は平成不況突入以来の最悪のレベルに達しております。
 ちなみに、在庫率水準を見ますと、大体一貫して一二〇レベルでございましたけれども、現在は鉱工業全体で一二〇、建設財では一七〇、資本財では一六五というレベルでございます。公共投資で資材の発注があっても一義的には在庫の取り崩しで対応されるために、生産にはそれだけおくれて波及する地合いになっているということであります。
 また、潜在成長率と現実のGDPとの乖離、いわゆるデフレギャップを私どもなりに試算してみますと、九五年半ばごろでは約三%、それが足元では六%程度に拡大しているものと思われます。これも公共投資が民間需要を誘発する際の制約要因になると思われます。また、需要不足がそれだけ大きいわけですから、対策の規模の割に回復感が乏しいという感じになる結果ではないかと思います。
 レジュメの中では中期構造要因として三点指摘しておりますけれども、そのうちの二つ、公共投資の乗数とバランスシート調整についてはよく聞く議論でございますのでとりあえず割愛させていただきまして、二点目の企業の期待成長率の低下を問題にしたいと思います。
 この春実施いたしました経済企画庁の企業行動に対するアンケート調査、これによりますと向こう三年間にわたる企業の期待成長率は一・四%まで低下してきております。換言いたしますと、仮に投資をしてもそのリターンというのは一%半ばしかないという状況でございます。片や中期的な借入金利というのは二%半ば、あるいはそれを多少上回るという状況でございますから、仮にキャッシュフローが来ますと、返済に回した方が企業にとっては合理的な行動になるという状況があるわけでございます。民間投資を誘発しない理由はここにも存在するというように考えております。
 次に、減税の効果に移りたいと存じます。
 二月に所得税減税があったにもかかわらず、消費性向が上昇したというニュースはいまだ皆様のお耳に新しいと存じます。実は、これと同じ現象が九四年に五・五兆円の減税を実行した際にも生じているのであります。個人が所得のうちどれだけ消費に回すかという最大のポイントは、その所得が将来にわたって安定的に入ってくるかどうかという点でございます。通常、月給に対する消費性向は高く、ボーナスに対する消費性向は低いのが常でありますけれども、一時所得というのもボーナス同様に受けとめられるというわけでございます。
 加えますに、現状は、将来に対する不安というものが消費者の心理の周りに山積しております。向こう一年間を見ても、みずからの職場が確保できるのかという雇用不安が非常に高まっております。最近の失業統計を分析してみますと、世帯主の失業が徐々に拡大の兆しを見せておりまして大変不気味でございます。また、私どもの試算でございますけれども、最近は企業収益が圧迫されまして過去のトレンドを上回って労働分配率、いわゆる付加価値のうち個人の取り分が上昇しておるわけでございますが、これを仮に九〇年代の平均まで企業が圧縮したらどういうことになるか、それを調整圧力と見まして試算してみますと、企業内の過剰雇用というのは約百八十万という一応結果を得ることができます。現在の失業者は実際は二百八十万弱でございますから、百八十万ということはそれだけ雇用調整圧力が強いということでございます。片や、日本型雇用環境あるいは労使関係というものが存在するとはいえ、雇用をめぐる環境は大変厳しく、先行き不安感を原因とした生活防衛型の貯蓄パターンというのはそう簡単には是正されない可能性が高いと思います。
 以上、公共投資並びに減税の効果についての評価をしてまいりました。これらを踏まえまして今後のシナリオをラフに描いてみますと、レジュメにお示ししたような姿かと存じます。
 経済対策の効果は幅を持ってとらえねばなりませんが、一から一・五%程度GDPを押し上げると見られます。効果発揮の時期は夏場も遅いころと見ております。その結果、年末から年度末にかけては現状の不況感が徐々に薄らぐことが予想されます。ただ、るる指摘してまいりましたように、民間需要に火がつくという要素はなかなか見当たりませんので、明けて九九年度が自律回復の年になるのか、あるいはことし打ったようなさらなるカンフル剤を必要とするのか、その判断にはもうしばらく景気の地合いをじっくりと見る必要があろうかと存じます。
 冒頭での意見陳述は以上にさせていただきます。

発言情報

speech_id: 114214079X00319980525_013

発言者: 蔦壁寛明

speaker_id: 29384

日付: 1998-05-25

院: 参議院

会議名: 経済活性化及び中小企業対策に関する特別委員会