小川敏夫の発言 (本会議)

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○小川敏夫君 私は、民主党・新緑風会を代表して、ただいま提案のありました法案について質問いたします。
 通信傍受法案についてでありますが、憲法第二十一条で保障された通信の秘密と公共の福祉による制限との兼ね合いで、犯罪捜査の必要性という公共性をもって通信の秘密に関する基本的人権を制約できるのか、そしてそれが可能であるとするなら、その範囲をどこまでと考えるのかという基本的な問題があります。この基本的問題について、総理大臣の見解をお尋ねします。
 次に、法の運用に当たって、捜査機関が政治的目的による情報収集を行うなど、法の目的とは異なる意図で通信傍受を行うこと、あるいは法が定めた通信傍受の手続要件を潜脱して違法もしくは乱用に及ぶ通信傍受を行うことなどの危険性を回避する方策が十分に講じられているのかという問題があります。捜査機関やこれを指揮する立場にある政治権力によって、違法もしくは乱用に及ぶ通信傍受が行われ、憲法が保障する通信の秘密に関する基本的人権が侵害されることは絶対にあってはならないからであります。
 本法案が昨年三月に国会に提出された際、当時の橋本総理大臣は記者団の質問に答え、こういう法律で一番怖いのは本来の目的以外のところで法律がひとり歩きして乱用されることだと述べ、乱用の防止が必要であることを強調しました。小渕総理はこの乱用防止の必要性についてどの程度の重要性を持って認識しているのか、この点をお示しいただきたい。
 そして、乱用の防止のためには、捜査官がその意図を持って試みても乱用ができない程度の厳格な乱用防止策が制度として保障されることが必要であると思いますが、小渕総理もそのようにお考えでしょうか、お答えください。
 本法案には、捜査官の乱用に及ぶ通信傍受を十分には防止できないという欠陥があります。
 まず初めに、裁判官の令状によるものとする事前チェックが必ずしも機能しないことについて述べます。
 十三年前に発生した神奈川県警警察官による日本共産党幹部宅の盗聴事件は、そもそもが法の手続によらない違法な盗聴事件でありますから、法の手続を定める本法案の乱用防止とは別の議論でありますが、この違法盗聴事件は、権力というものが法を犯してまで盗聴を行い情報収集に努めるものであるという実態を如実に示すものであります。このような権力の本質を見るならば、捜査機関やこれを指揮する政治権力が本法を不正に利用し、あるいは乱用して通信傍受を行うことが現実のおそれとして考えられます。そのために乱用を防止するための制度的保障を講じることが絶対に必要なのであります。
 実際に、平成六年、福岡県警南署警察官が白紙調書を用いて虚偽の供述調書を作成し、これを証拠資料として裁判官から捜索令状の発付を受けて違法捜索を行った。平成七年、岡山県警水島署警部補が白紙調書を用いて虚偽の供述調書を作成し、これを証拠資料として裁判官から捜索令状の発付を受けて違法捜索を行った。平成七年、群馬県警前橋署警部補ら警察官三名が拳銃押収を捏造した。平成七年、愛媛県警警部ら警察官三名が短銃押収を捏造した。平成九年、警視庁城東署警察官三名がみずからが所持する覚せい剤を無関係の人の車内に置き、これを発見したとして無関係の人を違法に逮捕し、覚せい剤を押収した。平成九年、警視庁蔵前署警部ら警察官二名がみずから拳銃を埋蔵した上で虚偽内容の供述調書を作成し、これを使用して差し押さえ令状の発付を受けて拳銃の押収を偽装したといった事件が続発しており、警察に対する国民の信頼が大きく損なわれているのが実態であります。
 発覚した事件では、警察官が上司や裁判官を欺いて令状の発付を受けているのですから、本法案が単に令状の請求権者を警視以上の上級捜査官に限定し、請求先を地方裁判所とするだけでは解消できない問題であります。共産党の幹部盗聴事件では、警察が組織ぐるみで行ったと裁判で認定されています。このような観点から、捜査機関が不正に令状を取得することを防止する手だてを、単なる綱紀粛正のかけ声だけではなく、具体的な手続や制度として導入することが絶対に必要であります。この点について、国家公安委員長から具体的に答弁をしていただきたい。
 その具体的方策の一つとして、令状請求のために裁判所に提出された捜査記録の写しを裁判所に一定期間保管し、令状請求の当否及びその審査に供された証拠資料の適正さを後に検証できる制度を導入するなどの令状不正取得を防止する制度的保障策を講じる必要があると思われますが、こうした制度の導入について、法務大臣のお考えをお聞かせください。
 ちなみに、平成十年度には十八万七百四十二件の差し押さえ、捜索、検証令状の請求がなされ、そのうち却下されたのは九十三件にしかすぎません。その割合は〇・〇五%強であります。
 次に、本法案では通信傍受自体のチェックも全く不十分であることについて述べます。
 法案においては、傍受令状に記載された傍受すべき通信に該当するか否かを判断するために、傍受すべき通信ではない通信を傍受することが認められています。これによって、その判断をするためにということで令状に記載のない通信の傍受がなされます。そのこと自体が問題ですが、さらには、これにかこつけて捜査官がすべての通信を不正に傍受したとしても、これを防止する制度がとられていないのです。
 法案では立会人の立ち会いが定められていますが、これを具体的に検討すると、乱用が防止できる措置であるとは到底考えられません。立会人が捜査官の乱用を防止する目的で立ち会おうとするなら、捜査官とともに傍受しなければならず、これに加えて、傍受の目的、すなわち、被疑事実やこれに関連する人物等をあらかじめ知っていなければ、傍受が正当であるか乱用に及んでいるかを判断することができません。本法案では、立会人は傍受をしないのですから、傍受の内容を知ることができませんし、多少の状況をうかがい知れたとしても、刑事訴訟法等の刑事手続に関する知識を持たない者である回線の管理者に被疑事実を知らせずに立ち会わせることによって乱用を防止できるとは到底考えられません。そして立会人には、傍受を中止させる権限も与えられていないばかりか、傍受の内容について質問することさえ規定されていません。
 このように立会人を置くことが乱用の防止の決め手にはならないのですが、法務大臣はこの点をどう考えているのでしょうか。私の指摘した立会人に関する法案部分の説明が正しいか否かについてお答えの上で、考えを聞かせてください。
 そして、立会人の制度を実効あるものとするためには、弁護士あるいは裁判所書記官等の刑事手続に関する知識を持った者に被疑事実等を知らせた上で立ち会いをさせ、捜査官とともに通信を傍受させることが必要であります。このような制度的保障を採用することについてもあわせてお答えください。
 次に、本法案においては、傍受を終了した後の措置についても、傍受の乱用を防止する有効な手だてが講じられていないことについて述べます。
 法案は、傍受した通信を録音等した記録について、刑事手続において使用するために当該部分を記録した傍受記録とそのほかの部分の傍受部分とで取り扱いを分け、傍受記録の部分についてのみ当事者への通知、当事者による記録の確認、当事者の不服申し立て権などの手続を定めています。
 一方、傍受記録以外の傍受部分については、こうした措置がとられていません。唯一、裁判所に対し記録の確認を求めることができるとする規定がありますが、傍受されたことを知らされない人はその記録の存在自体を知らないのですから、確認を求めることは考えられず、およそ実効性が認められない規定です。法務大臣は、この規定がどのような場合を想定しているのか、具体例を挙げて説明してください。
 結局のところ、試し聞きとして聞かれた通信については、当事者は何も知らされないままに終わります。また、傍受した通信を録音等した記録は封印されて裁判所に一定期間保管されます。この措置は、単に裁判所を倉庫がわりに使うだけで、裁判官がその記録を検証し傍受が正当であったかを判断するためではありません。このように傍受された当事者にも、裁判官にも、乱用を発見し得る機会が与えられておらず、捜査官による乱用を防止する手だてが全く講じられていないのです。
 このように傍受記録以外の通信傍受に対する事後点検制度が採用されていないことについて、法務大臣としては何らかの措置を講ずる考えがないか、お聞かせいただきたい。
 裁判所に保管する原記録について、裁判官が傍受の適正さを確認するため、検証する制度を導入することはどうでしょうか。その点の考えもお聞かせください。
 乱用に及ぶ通信傍受によって入手した情報を端緒とする証拠の排除原則を導入することも乱用の防止に有効な措置と思いますが、この点については法務大臣はどうお考えでしょうか。
 そして、重要なことは、乱用を点検する制度もないことが乱用を誘発することになるのです。言い方をかえるなら、傍受記録にすることを考えないのなら、捜査官は幾らでも乱用に及ぶ通信傍受を行うことができるのです。捜査官が悪意を持ったときには令状をとりさえすれば幾らでも違法な盗聴ができる構造になっているのが本法案であります。捜査官による令状の不正取得の例は、前述のとおり繰り返されており、発覚したものは氷山の一角にすぎないでしょう。
 総理大臣は、捜査官による不正あるいは乱用に及ぶ通信の傍受を防止することも事後点検することもできない構造になっている本法案について、これを改める考えはないか、お聞かせください。
 また、本法案は衆議院において提出された原案を一部修正したものでありますが、この修正によってもこの本質に変わりがないことを申し添えます。
 次に、弁護人の秘密交通権及び報道の自由に関する取材源の秘密に対する侵害が予想されることについて述べます。
 本法案では、犯罪後の被疑者の電話等及び被疑者が使用すると思われる電話等の通信傍受が認められています。一方、被疑者らは弁護人と連絡をとる可能性があります。これについて、弁護人が当該受任事件の業務として行う通信は傍受の対象から除外されておりますが、この除外事由の該当性を判断するために傍受が行われることになります。そして、弁護人と被疑者との会話を裁判上の証拠として使用することはできませんから、これが傍受記録とされることはないでしょう。そして前述のように、傍受記録を作成しない傍受については、傍受時も傍受後も何ら有効な点検制度はないのです。すなわち、捜査官がその会話を聞きたいだけ聞いて、後は素知らぬ態度をとっても、これを発見し対処する手だてがないのです。
 このように、弁護人の秘密交通権が侵害される可能性が大きいのですが、これを防止する制度的保障の導入について法務大臣はどう考えているか、お答えください。
 あるいは、ファクシミリ送信文書や電子メールのように試し聞きのないまま通信文が全部入手される場合はどう処理するのでしょうか。この点についてもお答えください。
 そして、報道者による取材等は、法案において通信傍受の除外の対象とすらされていません。民主主義の基本理念の一角をなす報道の自由を支える取材源の秘密が守れない事態を招きます。この点についても法務大臣のお考えをお示しいただきたい。
 この点に関し、本法案において、通信傍受に係る原記録を裁判所に保管し、傍受記録を除くすべての捜査官手持ちの記録を消去することになっているから通信の秘密は守られるという意見があります。しかし、そうでしょうか。
 まず第一に、本法案上記録の消去を確認するための制度が採用されていません。ですから、消去が完全に行われるのかという疑問を払拭できません。消去を確認する手続を設ける必要がありますが、法務大臣はどうお考えでしょうか。
 そして、そもそもの本質論として、秘密の保持というものは、記録の消去という問題ではなく秘密が聞かれてしまうか否かという問題なのであります。
 通信が他人に聞かれてしまうことによって通信の秘密は侵害されており、それが録音されるか否かは重要ではありません。秘密が聞かれてしまった後、録音が消去されたとしても、聞かれてしまった秘密は傍受した捜査官の記憶に残り、あるいはメモされて残ります。聞かれてしまった秘密は聞かれていない状態に戻すことができないのです。この点についてもお答えください。
 権力が違法、不当に収集した人の秘密にかかわる情報を利用して、権力を維持増大させる危険性があります。アメリカのFBI元長官のフーバーは、収集した個人情報を握って四十年余もその地位に君臨し、大統領よりも強い権力を握っていたとも言われています。このように個人情報を収集した権力者がその情報を武器として批判を封じ込めることは、民主主義に明らかに反します。
 このことは、本法案に賛成する与党の皆様にとっても懸念されることではないでしょうか。与党内の権力争いに個人情報が使われることも考えなければなりませんし、成立した法律はずっと続きますが、与党の立場はすぐに変わるかもしれないのです。
 この法律は、与野党を問わず、そして国会議員にとどまらず、宗教団体、労働組合、業界団体等の諸団体、そしてすべての国民にとって現実の不安として重くのしかかるものであることを強く訴え、私の質問を終わります。(拍手)
   〔国務大臣小渕恵三君登壇、拍手〕

発言情報

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発言者: 小川敏夫

speaker_id: 21676

日付: 1999-06-09

院: 参議院

会議名: 本会議