吉岡吉典の発言 (憲法調査会)

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○吉岡吉典君 日本共産党の吉岡です。
 基本的人権に関しての十一回にわたる参考人聴取と一回の公聴会での論議を踏まえて意見を述べます。
 私は、まず、基本的人権という問題をどうとらえるかの基本として、国会の衆参両院が世界人権宣言五十周年に際して採択した決議で、「我々は、世界の平和と繁栄は、すべての人々の人権が尊重されることにより、初めて実現されるものと確信する。 本院は、ここに、世界人権宣言の持つ意義を改めて認識し、すべての人々の人権が尊重される社会の実現に一層努力することを決意する。」と述べていることを改めて想起したいと思います。
 日本国憲法は、こういう意義を持つ基本的人権を侵すことのできない永久の権利として現在及び将来の国民に与えられると明記したのです。そして、三十条にわたって人権についての豊かな規定を行っています。
 本調査会で日弁連の村越進参考人は、憲法の人権規定は大変充実した内容であり、制定当時はもとより、現在においてもその輝きを失っていないと述べました。私ども日本共産党も、憲法の基本的人権規定は国際的に見ても先駆的な内容を持つものと考えます。
 重要なことは、これが戦争の反省と教訓の上に規定されたことです。
 例えば、国際法学者の高野雄一氏は、第二次世界大戦を始めた独伊日のナチス政権、ファシズム政権、軍国主義政権は、この戦争に至る過程及び戦争そのものの過程で国民の生活と権利を抑圧し、国民を戦争に駆り立て、侵略を遂行したと指摘し、その教訓に立って、日本国憲法も国際的な人権規定も規定されているのであると強調しております。
 私どもは、基本的人権をどんなことがあろうとも侵されることがないよう日本国憲法を守り、生かしていかなければなりません。
 併せて重視したいことは、第九十七条が、この憲法が日本国民に保障する基本的人権は人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は過去幾多の試練に耐えてきたものだと言っていることです。日本国憲法が保障する自由と民主主義、基本的人権は、決してだれかに与えられたものではなく、幾多の試練を経ながら獲得したものだというこの規定は極めて重要な意味を持っています。参考人からもそういう指摘がありました。
 振り返ってみれば、明治以来、我が国でも自由と民主主義の闘いが展開されてきました。明治十年前後からの自由民権運動であり、第一次世界大戦後の大正デモクラシーと言われる進歩的知識人を中心とした民主主義運動であり、治安維持法による弾圧下の日本共産党を含む進歩的自由と民主主義のための闘いであります。これらは、憲法第九十七条の言う自由獲得の努力の一翼であったと考えております。
 このように歴史的に獲得した基本的人権規定について、改憲派の中には、権利規定が多過ぎて義務規定が少ない、あるいはこれは権利の濫用になるといった議論を展開する向きもあります。今日の新しい人権規定がないとする改憲論もあります。
 しかし、参考人の多くの立場は、市民的自由に関しては憲法をすぐに変えないと立ち行かないという状況はないというものであり、また、権利の濫用どころか、権利自体が保障されていないというものでありました。
 日本国憲法の基本的人権規定について考える際、今最も重要なことは、国際的にも先駆的な憲法の規定が生きておらず、現実と憲法との乖離が余りにも大きい問題であります。
 私が指摘したい第一の問題は、職場に憲法なしと言われるように、思想信条を理由とした賃金その他の差別、労働者に対する人権じゅうりんが今なお存在することです。サービス残業も重大な憲法違反であります。こういう事態は官公庁でも民間企業でも直ちに正されなければなりません。
 近年進められ、今も計画されている労働基準法の改悪など、一連の労働法制改定は労働基本権に対する新たなじゅうりんであります。
 思想、信条を理由とする労働者差別については、例えば東京電力、中部電力、関西電力では二十数年掛けての裁判でやっと解決しました。それにもかかわらず、今もZC管理名簿、すなわちゼロコミュニスト計画といった形の労働者差別が問題になっている大企業があります。憲法制定と、それを受けての労働法制定当時の論議に照らしても許せないものであります。
 第二に、社会保障の改悪、後退です。
 そもそも日本国憲法は、福祉の向上は戦後世界の崇高な義務であるとする国連憲章やILOの理念に沿ったものでした。
 参考人から、第二十五条を具体化するための国の社会保障の充実義務、強化義務は法的義務であり、それが充実していないことは憲法違反の問題が起きてくるという意見が述べられました。
 今、政府が強行する医療、福祉、年金の大後退も、正に憲法違反の問題が起こり得るものであると言わなければなりません。
 第三に、男女平等の問題です。
 憲法の下、前進があったとはいえ、決して男女差別は克服されていません。参考人からも、昇任昇給差別は続き、男女の賃金格差が近年拡大を続けている、男女賃金格差は、パートを除く一般労働者の所定内給与は男性の六五・五%、パートを含めると五〇%にすぎず、国連からも是正を求められているという憲法と相入れない実情の打開が提起されました。基本的人権について問題にするなら、こういう事態の是正にこそ目を向けるべきであります。
 その他、子供の人権、障害者の人権、アイヌ民族など少数者の権利、外国人の権利など、多くの分野で憲法の規定する基本的人権保障の努力が求められました。基本的人権についての調査で明らかになった今日的課題は実にたくさんあるのであります。
 そうした今日的課題の一つとして、本調査会でも論議された治安維持法など過去の問題のある法律により人権侵害を受けた人に対する救済問題、例えば昨日の横浜地裁判決で新たにクローズアップされた横浜事件などの治安維持法犠牲者への救済問題について述べなければなりません。
 治安維持法については、東京裁判の判決でも、日本はこれによって国民の目、耳、口をふさいで戦争に導いたことを告発しております。治安維持法による送検者は七万五千六百八十一人に上りました。これは明治憲法の下での弾圧であります。当時の、しかし当時の世界の到達点から言っても許されない人道に対する罪でもあります。
 本調査会で、国際法学者横田洋三参考人は、治安維持法は古い大日本帝国憲法の下で作られたが、その被害者及び家族に対する新しい日本国憲法の下でどう対応するか、国際的には、以前の問題のある法律による被害者にきちっと対応するのが国際的常識になっていると述べました。
 私は、この問題や従軍慰安婦問題の解決など、明治憲法下の人権の問題でも日本がもっと積極的に行動を取ることこそが日本を実際に世界の水準に高めることになることだと思います。
 以上です。

発言情報

speech_id: 115614184X00520030416_008

発言者: 吉岡吉典

speaker_id: 4589

日付: 2003-04-16

院: 参議院

会議名: 憲法調査会