海野徹の発言 (本会議)

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○海野徹君 私は、民主党・新緑風会を代表し、財務大臣の財政演説に対し、小泉総理及び関係大臣に質問いたします。
 一九九〇年代初めのバブル崩壊から十年余、バブル不況からデフレに突入して四年、この期間に日本は多くのものを失いました。株価と地価を例に取ってみても、それらの下落のために失った富の総額は第二次大戦の敗戦時のそれを上回ると言われ、金額にして千三百兆円、ピーク時からの減少率は四三%とも言われております。背景には、これこそ日本経済再生の妙薬という政治的な掛け声の下に内閣が打ってきた政策が、きちんとしたビジョンに乏しく、全く無駄であったことがあります。
 更に問題は、小泉総理は不良債権の抜本処理を勇ましく掲げたものの、デフレという副作用を緩和する処方せんを十分に用意しないまま船出をするという愚を犯してしまったことです。
 こうした内閣の経済無策により、若い人、高齢者を問わず失業者が町にあふれ、地域の中小零細企業は塗炭の苦しみにあえぎ、工場が廃墟となり、商店街がシャッター通りと化しています。そして、倒産に追い込まれた経営者やリストラされたサラリーマンが自殺に追い込まれており、三年連続で年間三万数千人の自殺者が出ています。背景には経済的理由があり、調査によれば、その予備軍である心の病の症状を訴える人々は我々の想像を超える数字となっております。これは解決すべき極めて大きな政治テーマであるにもかかわらず、適切な対策が講じられておりません。
 日本が依然として閉塞感に覆われており、かつては英国病と言われたものが今日日本病と称される事態は遺憾の極みであります。これまでの度重なるデフレ対策は全く効果がなかったのではないでしょうか。
 ここまで深刻化し長期化しているデフレの基本的原因をどう分析し、現在の我が国の経済がいかなる局面にあるのか、世界のデフレと日本のデフレとの違いを明確にして、総理の認識を伺いたいと思います。
 関連して、最近の銀行の自己資本増強策について質問します。
 大手銀行は自己資本比率を維持するためにあの手この手で資本増強をしようと躍起になっております。高利の優先株配当、不良債権分離会社での増資、合併差益による含み損一掃、取引先企業への出資要請などです。
 これらの自己資本強化策は極めてテクニカルな問題であり、一部には変形とやゆされるように、金融再生プログラムの形骸化につながりかねません。本質的な問題の解決はまた先送りされていくのではないかと懸念するところでありますが、とりわけ、保険会社への出資要請はBIS基準に照らしても国際的にも資本性が薄いと指摘されるのではないかと考えますが、竹中金融担当大臣の見解をお伺いします。
 今回の補正予算は、約五兆円の国債を追加発行し、総理が金科玉条のように唱えてきた国債三十兆円枠を突破しました。
 総理は、昨年の施政方針演説で、歳出面における努力や歳入面における税外収入の確保などにより、国債発行額三十兆円を守り、税金を無駄遣いしない体質へ改善を図る、それとともに将来の財政破綻を阻止するための第一歩を踏み出すことができましたと公言されております。まさか自分の発言を忘れてしまったとおっしゃることはないと思います。その舌の根も乾かないうちに安易な方針を転換したことは誠に無責任極まりないものと断ぜざるを得ません。
 さらに、平成十五年度当初予算においては、国債新規発行は過去最大の三十六兆円台に達し、国債依存度は四四・六%と最悪の事態になる見込みです。内閣府の試算した中期経済見通しによれば、財政再建は更に大きく後退し、平成十六年度以降、毎年四十兆円規模の国債発行が必要になるとのシナリオが描かれています。これでは将来の財政再建のめどが立たず、後は野となれ山となれという、そういう方針ではありませんか。プライマリーバランスの回復もますます遠のくばかりであります。さらに、昨年初めて国債未達が生じていますが、国債消化が計画どおりできるかどうか、これも定かではありません。
 総理は、予想に反して税収が下回ったのだから国債増発、すなわち公約破りは当然と強弁しておりますが、しかし、この二兆五千億円を超える税収不足はひとえに小泉不況が原因なのです。その自らの失政こそが国民生活を破壊し、公約破りにもつながっていることをまず認識すべきです。今日の不況、デフレが自らの失政が招いたものであることも認識できない総理には日本の経済財政運営をゆだねることはできません。唯一、律儀に守って、かつ結果の出ている公約は、国民に痛みを与えることだけです。スローガンの絶叫だけでは事態は改善しません。
 公約違反を犯し、政策をこっそり転換して国民に負担だけを求めるのならば、そこには正当な理由を明示し、責任者として国民にわびることから始める必要があると考えますが、総理の認識を伺います。
 私たちは、行政改革、経費節減、無駄な公共事業の中止によって財源を賄い、喫緊の課題である雇用失業対策、中小企業対策に最重点を置いた斬新な補正予算を編成するよう求めてきました。しかし、今般の補正予算の内容を見ると、従来型施策を踏襲しており、雇用対策は現行補助制度の予算拡充、中小企業対策も見せ掛けの事業規模を膨らませているだけで、サラリーマンや中小企業の経営者の期待を大きく裏切る内容となっております。公共事業は都市再生や環境といった体裁の良い冠を付けただけで、従来どおりの土木型事業が中心となっています。本当にこのような補正予算で今日の危機を脱することができるのでしょうか。
 日米構造問題協議に端を発し、生活大国の実現をうたい上げた公共投資基本計画が九一年に決定されました。その後、九四年に改定され、九七年に期間を延長しましたが、総額六百三十兆円という枠組みは残り、日本の財政を大きくむしばんでいます。そうした状況下で編成された補正予算ですが、景気への波及効果、経済活性化への展望等、具体的な補正予算の効果について政府はどのような見込みを持っていらっしゃるのか、総理及び竹中経済財政政策担当大臣の答弁を求めます。
 特に雇用政策については問題があります。政府がこれまで雇用対策と称して実施した事業の中には、退職前長期休業助成や建設業労働移動支援助成金等、ほとんど活用されず、求職者の再就職には役に立たなかった制度もあります。再就職先が決まらないうちに失業給付が期限切れになってしまう事例が今増えています。補正予算案に盛り込まれた雇用対策費には、過去の政策への反省が見受けられません。民主党は、非自発的失業者の生活基盤を守り、新たな需要がある分野への就労を支援するための能力開発に重点を置いた事業こそ必要だと考え、訴えております。
 補助金で創出される雇用には継続性がなく、規制改革等による雇用創出、新産業育成が重要であります。経済産業省の試算によりますと、規制緩和や行政サービスの民営化、民間委託などが進み、公共サービス分野における就業者比率が米国並みに高まると仮定すると、最大で約八百万人の雇用創出が可能とされております。
 今回の補正予算で雇用はどれだけ増えますか、新事業創出の効果はどれぐらいあるのでしょうか、具体的な数値を示していただきたい。これは竹中大臣より明らかにしていただきたいと思います。
 次に、中小企業・産業政策について質問いたします。
 我が国の事業所の九九%以上が中小零細企業で占められております。この中小零細企業が元気になることが日本経済再生の最低条件だと考えます。しかるに、厳しい不況は中小企業の経営者、従業員やその家族の生活を圧迫しております。
 まず第一に、中小企業金融政策を抜本的に組み替えるべきです。銀行を始めとした金融機関は、大企業向けの不良債権処理を棚上げして、自己資本比率維持のために、中小企業に対する貸し渋り、貸しはがしを容赦なく行っている実態があり、地方からは悲痛な叫びが上がっております。
 民主党は地域金融円滑化法案を国会に提出いたしました。地域金融円滑化評価委員会が金融機関に資料の提出を求め、金融機関が地域金融の円滑化にどの程度寄与しているかを公表するものです。この法律は、情報開示によって貸し渋り、貸しはがしに代表される不公正な金融慣行を是正し、これによって金融機関が地元の中小企業に積極的な融資を行う有益な存在になるそのための環境をつくることができると確信しています。全国の四百を超える地方議会で、超党派により、この金融アセス法案の早期成立を求める意見書がまとめられ、採択されております。また、中小企業の方々を中心に八十万人を超える署名も集まっております。
 竹中大臣自身が履物店を営む両親の下で育ったという、そういう原点に立ち、今、中小企業の再生のために政治決断をすべきそのときに来てはおりませんか。私たちの提案する法案を実現する意思があるのか否か、大臣の明確なる答弁を求めます。
 また、私たちは、借り手ばかりではなく貸手の責任も明確にし、事業者がむやみに貸し渋りに遭わないためのセーフティーネットを確立すること、担保至上主義を廃止し、個人保証の要らない事業者ローンを実現すること、ベンチャー支援税制を強化することなどを提言しております。この点についてどう取り組むのか、竹中、塩川両大臣の答弁を求めます。
 また、通商政策、産業空洞化対策においては、海外の通貨とのレートの問題が大きな意味を持ちます。かつて、日本は、一九八五年プラザ合意を始め、急激な円高を受け入れざるを得なかった経緯があります。このことが我が国の産業競争力の低下を招き、産業空洞化の一因となっている側面も否定できません。日本の輸出依存度は一割程度であり、しかしながら、輸出動向が日本経済に与える影響は誠に大きいものがあります。購買力平価に基づく水準以上に評価されている実力以上の円高を是正するため、政府、日銀は大胆に円安への誘導策に踏み切るべきではないでしょうか。それが日本経済再生のかぎです。その手段の一つとして、公的部門の資金の対外証券投資の拡大を行うべきであります。
 さらに、中国がWTOに加盟したことを重く受け止め、中国人民元あるいはアジア通貨との関係を先進諸国の共通の議題として取り上げ、適正な為替レートに落ち着くように、日本政府は積極的に働き掛けるべきではないでしょうか。
 為替政策は、経済問題である以上に国益追求のために必要な外交努力をすべき課題であり、政治指導力の問題であると考えますが、以上の諸点について、小泉総理、平沼大臣、塩川大臣の答弁を求めます。
 昨今、アジア太平洋地域においてはFTAに向けた動きが活発化していますが、日本には出遅れ感があります。川口外務大臣は、先日、インドで汎アジア経済圏構想を提唱されましたが、経済連携構想など言葉遊びを脱却して、日本経済の発展のために自由貿易が重要であることを改めて示し、包括的FTAとして、韓国や台湾を筆頭に、日本が中心となってアジアの自由経済をつくり上げていくことが肝要であります。多くの国とのFTA締結により、海外からの対内直接投資を促進し、地域経済の活性化につなげることができます。その際に経済特区を効果的に利用することができれば、更に日本経済に活力が出ることにもなります。自由貿易協定の推進、骨抜きにならない経済特区の仕組みづくりについて小泉総理の答弁を求めます。
 次に、国家ビジョンの提示についてお尋ねします。
 昨年度の米国における企業別特許取得ランキングでは、上位十社のうち七社が日本企業です。ノーベル賞のダブル受賞など民間部門では個別の強さが目立つものもあります。しかし、そうしたミクロでの強さをマクロでの強さに昇華できておりません。正に国家が合成の不利益状態になっているのです。
 まず、国家戦略上、あるべき社会像を掲げることが必要になってきます。これまでの高度成長願望から脱却した、個人の心の満足に基づく新たな成長ビジョンです。公共を担うものは民間であるとの基本認識の浸透、教育と労働の一体化を進める起業家教育の促進、あるべき日本型資本主義をともに考えるための金融教育の推進、分かりやすい税制と日本版SEC創設による信頼される直接資本市場の育成、転職インフラ、企業再生インフラの早急な整備など、将来への活力となる政策が必要であります。
 総理は、道は近きにあり、しかるにこれを遠きに求む、事はやすきにあり、しかるにこれを難きに求むという言葉を御存じのことと思います。日常生活においても、周囲を見渡してみても、こんな経験を総理もしておいでのことと思います。未来は遠くにあるものでも見えないものでもありません。未来は現在の中に潜んでいます。特別な才能がある、あるいは特別な人間だけそれが発見できるものではありません。望ましい未来を描いてみること、そしてきちっとしたビジョンを持つことでそれが見えてくるものであります。
 総理は、構造改革なくして成長なしと訴えられておりますが、いまだに二年後、五年後、十年後といった後の日本の社会、経済の姿を国民のだれもが理解できるように具体的な内容をもって示しておりません。改革後の成長の姿が明確になっていないから、すべてが期待外れに終わって、痛みだけが増しているというのが国民の実感であります。
 今回の補正予算の内容にその萌芽すら見えないことに落胆しますが、この点について小泉総理の答弁を求めます。
 次に、消費税についてお尋ねします。
 年明けから税率引上げ論議がにぎやかです。今、小泉政権は、経済無策によって不況を拡大するだけではなく、医療保険、介護保険、雇用保険の保険料の引上げで国民に負担を押し付けようとしています。さらに、発泡酒、ワインへの増税、配偶者控除の廃止、拙速な外形標準課税の導入など、庶民や中小企業の税負担を安易に増やそうとしています。正に安心、安全を縮小させ、不安と負担だけを拡大させています。
 国民は、将来への不安が高まっていることから、最後の支えとなっている個人消費が控えられ、このことがますます景気を冷やし、失業や倒産が増える悪循環が生まれております。特に、財務大臣等が軽々に消費税の大幅引上げにも言及していることが国民の間で不信感を増幅させております。
 消費税の税率問題については、政府がきっちり手順を踏んで、やるべきことをやって、議論を進めるべきではないでしょうか。
 私は、以下の五つの点を明確にした上で消費税率の在り方を考えるべきだと思います。
 第一に、国民に負担を強いる前に、政府自らが汗をかくことであります。民間で行われている厳しい合理化、省力化に匹敵する行政スリム化が不可欠です。
 第二に、社会保障ビジョンを明らかにすべきです。単に年金の財源をどう確保すべきかという財源論だけではなく、いかなる哲学、原則に基づいて福祉体制を構築するのか、国民に示すべきです。
 第三に、財政再建の道筋を確立することです。かつて一般消費税は財政再建には充当しない旨の国会決議がなされておりますが、国債償還の部分を安易に増税で穴埋めすることのないよう歯止めを講じるべきであります。
 第四に、国民の生活コストの問題と併せた議論を行うことです。欧州諸国の付加価値税率は高いと安易に指摘する意見がありますが、そうした税金を含んだ物価そのものが日本の物価よりもはるかに安い国が多いことを思い起こすべきです。構造改革、規制改革と併せて、適正な生活費の負担のビジョンを示すことです。
 第五に、抜本税制改正の骨格を示すことであります。直間比率をどうするのか、国税と地方税の割合をどうするのか、これを明らかにすべきであります。
 以上、申し上げました五つの前提条件を明確にした上で、初めて消費税の税率論議が成り立つと思います。
 こうした手順を踏まずしては、政府は安易な消費税率引上げは行わないと国民に約束をすべきです。政府にとっては、年金の財源として消費税率の引上げは魅力的に映っているようで、その魅力に負け、首相在任中は税率を上げないとの発言も、これまでの数々の公約と同様に簡単に撤回するのではないかとの危惧を感じざるを得ません。この点について、疑念を払拭し得る答弁を小泉総理、塩川大臣に求めます。
 最後に、詩人フランシス・ポンジュは、人間は人間の未来であるとうたっています。人間が人間社会をつくり出そうとする不断の努力がそのまま歴史になるのです。今、歴史的に、人間の夢と希望を行動基準にして、人間の社会をより人間らしい方向へと社会のハンドルを切り、人間に従属する経済システムをつくるときが来たように思います。コーポレートバリュー一辺倒の時代から地球規模のヒューマンバリュー追求の時代へと時代は移行していくことでしょう。
 環境保全や食の安全など人類の生存のための価値を意味するヒューマンバリューに今日の日本全体を覆う閉塞感打破のかぎがあることを指摘して、私の質問を終わります。(拍手)
   〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕

発言情報

speech_id: 115615254X00220030122_004

発言者: 海野徹

speaker_id: 1076

日付: 2003-01-22

院: 参議院

会議名: 本会議