土屋美明の発言 (法務委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○参考人(土屋美明君) 共同通信社で司法などを担当しております土屋です。
司法制度改革推進本部の裁判員制度・刑事検討会と公的弁護制度検討会の両方の委員を務めておりますけれども、この二つの検討会では、法律家でない委員というのが私と清原委員の二人だけしかおりません。法律家に交じって素人が意見を述べることがいかに大変であるかということを、本当に身につまされて感じています。
本日は、このような一般国民が参加しやすい制度にするという政策的な選択が重要なことを訴えさせていただきたいと思います。少し乱暴な言い方で語弊があるかもしれませんけれども、制度全体の理論的な整合性を保つことよりも、多くの国民が過重な負担を感じることなく刑事裁判に参加しやすくする、そういう道を国会は選択していただきたいと願うものです。
今回審議されております法案に私は基本的に賛成です。国民の司法参加を実現することが民主政治を徹底させ、司法の国民的基盤を強化する、そういう重要な意義を持つと信じるからです。法案の内容には検討会で私が述べてきた意見と違う部分もありますけれども、もし不都合な点があれば、早い時期に見直しをし、改めていけばいいのではないかと考えています。
どこの世界にもルールを逸脱する者はおりまして、とかく刑事司法は国民不信の前提に立った制度設計になりがちですけれども、国民への信頼なしには司法参加はあり得ないはずです。多くの国民は重大な刑事裁判を担えるだけの良識を備えている。国民を信頼して、その良識に結論をゆだねることこそ、司法参加を論じる上で重要な態度だというふうに私は思っています。
衆議院では附帯決議と修正が行われました。これらの方向性にも賛成です。参加する側にとって、当初の案よりも望ましいものになっていると考えます。ただ、まだ不徹底に感じたり、幾つか注文を述べたい点もございます。主な点を簡単に述べさせていただきたいと思います。
まず、裁判員制度法案ですけれども、四点ほど指摘しておきたいと思います。
一つは裁判体の構成ですが、裁判官三人に裁判員六人という基本構成は妥当であろうと考えます。重大事件の審理をするのにふさわしい数の職業裁判官と良識ある国民の目が確保できたというふうに思います。裁判員は六人いれば意見を言いやすく、多角的な視点からの評議が期待できます。
争いのない事件では裁判官一人に裁判員四人の構成になることについて、検討会で私は違和感があるというふうに述べました。争いの有無で裁判体の構成を分けるという理屈に、それまでの議論と異質なものを感じたからです。私は、争いのない事件は被告の権利を損なわない限り、速やかに終結させて、争いのある事件に人材とエネルギーを集中させるべきだという趣旨の意見を述べていますけれども、それは即決裁判手続の創設という形で結実したと考えておりました。しかし、小さな裁判体もあり得る選択であって、反対はいたしません。
重要なのは裁判員の選任です。できるだけ多数の人が参加するのが極めて大事なのですが、法案には不満があります。これが二つ目の点です。
第一は、就職禁止事由が広過ぎます。法律関係職種であっても、刑事事件を扱わない弁理士、司法書士らを就職禁止とする理由は乏しいのではないでしょうか。自衛官を除外するのも理解に苦しみます。
第二は、辞退事由として掲げられた政令に定めるやむを得ない事由です。政令で思想、信条を理由とする辞退を認めるということには私は反対です。国民は裁判員に当たったらその役目を引き受けるべきものなのだという強いメッセージを送ることこそ大切なのに、これではまるで思想、信条を理由に挙げれば逃げられるということでも言っているようなものです。確かに、国民の心理的な負担は軽くなるでしょう。しかし、重大な刑事事件の裁判は元々気持ちの負担の重いものです。それを国民があえて引き受けてこそ、この制度を行う意味があるのではないでしょうか。
三つ目は、裁判員、補充裁判員、裁判員候補者の個人情報の保護です。住所、氏名、年齢など、個人が特定される情報の保護は、外部の不当な圧力などを回避するために、特に裁判の進行中は必要です。法案では、任務を終えた裁判員については本人の同意があれば公表してよいということですが、私は、裁判終了後には裁判員の個人情報は本人の同意にかかわらず公表されてもよいのではないかと考えています。公表は公正な裁判が行われたことの何よりのあかしになるというふうに考えるからです。
四つ目は、裁判員の守秘義務です。守秘義務の範囲と罰則が衆議院で修正されたことを私は評価しています。検討会で再三述べたことですけれども、守秘義務違反の罰則は罰金にとどめることが妥当だと思います。罰則を重くすれば、国民は裁判員になるのを避け、裁判所の呼出しに不出頭でこたえて、過料に甘んじる道を選ぶかもしれません。その方が不健全な制度の在り方ではないでしょうか。どうしても重大なプライバシーの暴露などが懸念されるというのならば、それに限って重く罰すれば済むことだと考えています。
罰則以上に重要なのは、守秘義務の範囲を明確にすることです。何が処罰され、何が許されるのか、それをだれもが容易に判断できるようになっていなければなりません。私は検討会で守秘義務を三つに限定すべきだと述べました。裁判官と裁判員の意見、評決の数、それから特に秘密を守るべきだと合意された事項という、この三つです。また、義務を守る期間も、裁判終了後一定期間に限るべきだと述べました。守秘義務の範囲の単純化と明確化は、これは更に突き詰めた議論をしていただきたいと思います。
刑事訴訟法等の一部改正案に移ります。懸念される点など、以下の七点について述べます。
まず、裁判員制度の下では、国民の負担はできる限り軽くしたい、そのために最も必要なことは審理期間の短縮です。長過ぎる裁判に多忙な国民は付いていけません。裁判の長期化が続くならば、今度の刑事司法改革は水泡に帰すおそれがあります。裁判員制度の成否のかぎは、どこまで審理期間が短縮できるかに懸かっているとさえ言ってもいいと考えます。検討会で私は、裁判員の任期は原則二十日に限ったらどうかという意見を述べました。そのくらい本気で国民負担の限度を明確にする必要があると考えております。
刑事裁判の充実、迅速化を図る方策として、新たな準備手続の創設、計画的、集中的な審理のための様々な方策、直接主義、口頭主義の徹底が図られましたけれども、さらに今後、法曹三者の間できめ細かな運用が行われることを期待しております。
国民参加によって刑事司法は普通の国民にも理解できるように変わらざるを得ませんが、今回、一定類型の証拠などについて開示範囲の拡充と開示ルールの明確化が行われたことは、刑事被告人の権利保障という面から見ても現行制度のかなりの改善だと考えます。しかし、これで必ずしも十分だとは思えません。将来は更に開示の方向を推し進めて、すべての証拠を事前に弁護側へ開示するところまで行くのが理想的だと考えます。あらゆる捜査資料は国民の血税を使って集められた公的な性格を持ちますから、それにふさわしい使い方が模索されるべきでしょう。
開示証拠を目的外使用することが原則的に禁じられるのは、これはやむを得ません。しかし、衆議院の修正によって、諸事情を考慮した上、目的によっては使用を認める余地が生まれました。具体的な裁判の研究あるいは報道、そういった公益目的の使用が可能になったことは歓迎です。
容疑者の取調べの状況を文書で記録化することは、被告の供述の信用性をめぐる無用な争いや冤罪の防止に向けて一定程度の改善になると受け止めています。しかし、これも将来的にはもう一歩進めて、ビデオや録音テープへの記録に切り替えていくべきだろうと考えています。
容疑者の勾留段階から国選弁護人を選任できるようにしたことは人権保障の面で大きな意義があります。弁護士会の態勢が十分に整っていないのが残念ですけれども、対象を短期一年以上の懲役若しくは禁錮の事件に限るのは当面やむを得ない事情があります。そういうふうに考えます。被疑者、被告人がその資力によって不平等な扱いを受けることがないように、この対象も将来的には拡大されていくべきだろうと考えています。できるだけ早期に必要的弁護事件へ、さらには、すべての身柄拘束者へと広げられていくことを願っています。
少年事件についても、原則的には国選弁護人の選任を拡大すべきだと考えます。現状では、弁護士会の態勢がこれも不十分なために見送らざるを得なかったのは残念ですけれども、将来、態勢が整えば、少年にも成人の公的弁護と同じような制度的保障が与えられてしかるべきでしょう。
検察審査会法の改正については一点だけ強く反対したい点があります。罰則です。
審査員の守秘義務違反に懲役刑がありますけれども、審査員の職務は公訴提起の当不当を判断することに限られますから、被告の有罪、無罪を判断する裁判員より職務は軽いと言えるでしょう。それなのに制裁が同じというのはいかがなものでしょうか。それに加えて、これまで秘密漏示罪で起訴された例も最高裁の把握する限りゼロだということですから、懲役刑へと引き上げるだけの立法事実もありません。現行の罰金で十分だと考えます。
起訴相当の決議に拘束力を認めるのに、いわゆる二段階の慎重な構造が採用されておりますけれども、決議に当たって弁護士の審査補助員が関与するなどしますし、私は現行の一段階で足りるという意見です。ただ、罰則を除いては反対はいたしません。
私は日本新聞協会を代表する立場ではありませんけれども、報道等の関係について一言申し上げます。
新聞協会は、法案の内容についてこれまで四回にわたり見解を表明しております。その概略を御説明しますと、いわゆる偏見報道禁止規定が法案に盛り込まれなかったことを評価する一方、現在での問題点として、第一に、裁判員を退いた人にまで接触を禁止すると、公正な裁判が行われたのかどうかということを事後的に検証することなどが難しくなるので、元裁判員への接触には禁止の網を掛けるべきではないこと。第二に、裁判員の守秘義務は義務の範囲と期限をより明確にすること。第三に、開示証拠の目的外使用を罰則付きで禁止することは取材の制限につながる危惧が大きく、懸念されることなどを指摘しております。そして、裁判員制度の施行時には取材・報道のガイドラインとなる指針を決定することも表明し、既に最高裁、法務省、日弁連との意見交換も始まっております。
裁判員制度について国民の理解と支持を深めるためには、可能な限り多くの情報を提供することが必要だというのが共通認識です。裁判に関する報道は裁判員制度の定着に大きく貢献するはずです。新聞協会の意見を尊重していただくようにお願いしたいと思います。
最後に要望がございます。
裁判員法案では、裁判員が休暇を取得したことなどを理由として解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないと定めていますけれども、これだけでは国民が参加しやすくなるとは言えません。裁判員に必要な知識を盛り込んだハンドブック、ビデオなどの作成が必要でしょうし、裁判員用の待機室とかロッカールームを設けたり、また、じっくり資料を調べたい人が使える部屋を用意したり、そういったことなども考えてほしいことです。
裁判員制度そのものの周知徹底が大切なことは申すまでもありません。十分な予算措置を講じた上で、裁判員が参加しやすい条件作りをしていただきたいと思います。
以上です。