関谷勝嗣の発言 (憲法調査会)

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○会長(関谷勝嗣君) 日本国憲法に関する調査を議題といたします。
 先般、本院から、スイス連邦及びフランス共和国における憲法事情並びに欧州連合における欧州憲法条約への対応等の調査のため、海外派遣が行われました。
 この際、本調査会において、海外派遣議員から報告を聴取することといたします。
 それでは、まず私から総括的な報告をさせていただきます。
 着席のままで失礼をいたします。
 自由民主党の関谷勝嗣でございます。
 昨年十一月十二日から二十一日にかけて行われました重要事項調査第四班、憲法調査の概要を御報告いたします。
 本班の調査目的は、スイス連邦及びフランス共和国の憲法事情、特に国民投票制度に関する実情調査をし、併せて、政治経済事情等を視察すること、並びに欧州連合の動向及び欧州憲法条約の批准状況等を実情調査することであります。本憲法調査会の国民投票制度に関する調査に資する観点から、御報告させていただきます。
 具体的な調査項目といたしまして、
 一、スイス連邦では、スイスの国民投票制度及びその運用状況、最近のスイス憲法の改正状況、スイスの二院制の意義・特徴、スイスの連邦制・地方分権等について、
 二、欧州連合(EU)では、欧州憲法条約の制定経緯及び内容、フランス、オランダにおける同条約批准の国民投票での否決とそれに対する考え方・今後の対応等について、
 三、フランス共和国では、フランスの国民投票制度及びその運用状況、最近のフランス憲法の改正状況、フランスの二院制の意義・特徴、フランスの地方分権、憲法院の機能、特に国民投票手続との関係等について、それぞれ調査いたしました。
 以下、調査内容につきまして、その概要を調査日程に従って御報告いたします。
 スイス連邦は、十九世紀以降、永世中立国として、平和的かつ安定した民主主義国家体制を築いてまいりました。特に、州・地方自治体レベルにおいてはもちろん、連邦レベルにおいても、レファレンダム(国民投票制度)及びイニシアティブ(国民発案制度)の両制度を取り入れて運用し、世界でも直接民主制を最も高いレベルで実現している国家として知られております。レファレンダムには、連邦憲法の改正と集団安全保障のための組織又は超国家的共同体への加盟など義務的に行うべきものと任意に行うもの、すなわち、有権者五万人の署名又は八つの州から国民投票の要求があった連邦法律や条約等との二種類が憲法で定められています。また、イニシアティブについては、有権者十万人以上の署名があれば、連邦憲法改正の提案を行うことができると定められております。なお、連邦法律の提案は含まれていません。
 十一月十四日午前、まず、首都ベルンにあるスイス連邦国民議会を訪問し、政治制度委員会のヴァイエネス委員長らと会談しました。
 スイス議会の特徴としては、議員は他に本職を持ちながら国への奉仕として議員活動が行われていること(ミニッツ・システム)、また、コンセンサスが重視され、主な政党は政権に入り、そのため政権の交代は余り起こらないことが挙げられます。
 国民投票制度については、これはスイスでの立法過程の重要な一部を成しており、同時に、スイス市民にとって非常に重要な権利とされています。そのため、国民に受け入れられないような法案だと議会は通っても国民投票で否決されかねないので、政府と議会が緊密に協力する傾向があるとのことでした。
 国民投票は、連邦レベルで原則的に年間四回のスケジュールで行われ、他に州や地方自治体レベルのものがあり、スイス国民は一年間に二十から三十回もの投票を行っていることになります。二院制を取っていることも相まって、一つの法律を通すのに時間が掛かることは確かでありますが、国民が自ら合意したという点で納得性が得られやすいし、民意の裏付けがあるという点では正当性が高いというのが国民投票制度のメリットとのことでした。
 その後、連邦内閣府のヴィル政治的権利担当課長と会談をいたしました。
 まず、スイスの立法過程について、国会を通過した後に国民投票が控えているため、常に国民投票で多数を取れるかを念頭に置いて法律案の協議が行われ、行政府もこれを念頭に置いて法律案を作らなければならないという特徴があること、また、スイスでは、主要四政党すべてが政権入りしており、閣僚ポストを二対二対二対一の比率で割り当てる「魔法の公式」と呼ばれる慣行が続いてきたが、それは国民投票があるがゆえであるとの説明がありました。
 国民投票案件の内容は、国民によく理解してもらう必要があります。国民への国民投票に関する情報提供については、有権者には、何が国民投票の議題になっているかを国民に知らせるための小冊子が配布され、それには、議案や政府の見解だけでなく、政府見解に反対する意見や政治的に中立な立場から記述した解説も掲載されるとのことでした。なお、反対意見は、政府が書くのではなく、「委員会」がつくられ、その「委員会」が文言を作成し、それがそのまま掲載されるとのことです。
 国民投票運動について、個人又は政党を含む団体が自ら行う運動には、他の法律に反しない限り国民投票運動であるという理由での特別の規制はないが、マスメディアを通して行う啓蒙活動等に対しては、新聞や週刊誌といった紙媒体のメディアを使う場合は、国民投票であるという理由での特別の規制はないものの、テレビ、ラジオを通じた広告は全面的に禁止されており、一切認められていないとのことです。これは、スイスでは、ごく小規模の例外的な民間放送局はあるものの、ほぼ完全に国営放送が独占的な支配権を持っているためで、基本的にすべて民間によって運営されている紙の媒体とは異なるという考えによるものであります。
 投票方法について、スイスでは、投票用紙にマル・バツやチェックといった記号ではなく、賛成か反対かを書くようになっています。また、投票全体のうち、郵便投票の占める割合は八〇%にも達しますが、投票の秘密を守る厳重な工夫がなされているということです。
 なお、国民を二分した国民投票の例として、一九三六年の統制経済実施に関する国民投票(結果は否決)、一九九二年の欧州経済共同市場参加に関する国民投票(僅差で否決)、二〇〇二年の国連加盟に関する国民投票(僅差で可決)などが挙げられるとのことでした。
 翌十五日は、スイスにおける連邦制及び地方分権の実態を調査するため、バーゼル都市州議会を訪問し、マツォッティ議長、ブルクハルト副議長らと会談しました。バーゼル都市州は、スイス北部ライン川沿いに位置し、独仏国境と接していることもあって、古くから交通の要衝として栄えてきた地域であります。
 州と連邦との関係について、連邦、二十六の州、そして約三千の地方自治体の三者は、予算もそれぞれ約三分の一ずつを担っており、行政の内容として、連邦は安全保障、コミュニケーション、交通、教育、インフラを、州は保健、教育、文化、治安、連邦からの委託業務を、自治体はインフラ、州からの委託等を担っている、また、州と連邦が摩擦を起こす可能性は常にあるが、連邦法は州法に優越するので連邦法に合わないところがないように注意しているとのことでした。
 国民投票制度については、最後は有権者が決めることがスイスの長い伝統である、ただし、このシステムの欠点として、決定に時間が掛かり、ダイナミズムに欠ける点が挙げられるとのことでした。
 その午後、欧州連合(EU)本部のあるブリュッセルに移動いたしました。
 欧州連合(EU)には現在二十五か国が加盟しており、更なる拡大も見込まれています。欧州憲法条約は、EUのこのような拡大に伴い、より効率的、機能的にすることが必要との認識から生まれ、ローマ条約以降のEU諸条約を集大成させるとともに、閣僚理事会の表決において人口比を反映させ(特定多数決の場合)、さらに欧州理事会(EU首脳会議)常任議長及びEU外務大臣ポストの新設、欧州委員会委員の削減などを内容としています。同条約については、ドイツ、イタリア等十三か国が既に批准しましたが、フランス、オランダでは政府の意に反して国民投票で批准が否決されました。その波紋は大きく、デンマーク、イギリス等五か国も相次いで国民投票の延期を決めたため、昨年六月の欧州理事会で二〇〇六年十一月までの批准期間を当分の間延期することを決定いたしました。フランス、オランダでの否決は、議会では圧倒的な多数で採択されたのに国民投票では否決されるという意味で、代議制の危機も象徴していると言われております。
 十六日午前は、まず、欧州委員会事務総局を訪問し、スタンカネリ欧州憲法条約担当法律顧問と会談しました。
 欧州憲法条約を考えるとき、EUは、国家でも連邦でもなく、また国連のような国際機関でもない、国際条約によって加盟国との関係が規律され権限を付与された、政策などを促す組織という位置付けを確認することが必要であり、そして、欧州憲法条約制定の背景には、一、EUの政策効果を高めること、二、EUの民主主義次元での機能を強化すること、三、既存の複雑な条約を簡明にすることの三つの理由があるとのことです。また、同条約は、フランス、オランダにおける国民投票の否決によって事実上中断しており、今後の対応のため、EU市民社会を巻き込んで議論を推進した後、報告書をまとめることになったが、否決の背景として、一、フランス政府への不信、二、経済・雇用の不安、三、市民レベルでEUへの理解が足りないという三つの要因があったと指摘されました。
 続いて、昼食を挟み、EU関係のシンクタンクである欧州政策センター、デュラン政治アナリストと懇談をいたしました。
 欧州憲法条約は、ニース条約後、今後のEUの様々な危機に対応していくには制度的に不十分という意識がEU指導部に生じたことから構想されたものであり、これまでもEUと市民のギャップをどう埋めるかが最大の問題であったため、同条約はEUと市民とを近づけることを目指したのであるが、それがフランス、オランダの国民投票で否決された結果になったことは皮肉であると述べられ、さらに、このギャップは、EUの機能が十分理解されず、またEUが市民のパートナーと考えられていないことから生じており、その原因について、EU、各国政府、メディアそれぞれに責任があるが、特に、欧州を統合したいという強いリーダーシップが各国首脳に欠如していたと指摘されました。
 なお、欧州の地理的範囲及びその妥当な規模について、グローバル化に対応するにはある程度の大きさが必要となるが、三十五か国まで拡大するのが妥当かは問題であり、このまま拡大を続けていけばEUの目的や求心力が薄まるおそれがある、特にトルコの加盟には、「欧州」というアイデンティティそのものが問われると指摘されました。
 同日午後、欧州委員会対外総局を訪問し、E・ランダブル対外総局長と会談をいたしました。
 欧州憲法条約は、様々な主権国家をEUの下に効率的に調整する仕組みをつくろうとするものであり、現在の案は、長い議論を経てできた最良の妥協案と言えるものであるが、フランス、オランダでの否決により、今後は代替案も考えていく必要があること、それには、一、EUの価値と原則、二、EUの機関と分権の仕組み、三、EUの政策の三つから構成されている欧州憲法条約から、反対が集中している三を切り離すことが妥当であること、また、新しい提案を出すタイミングは二〇〇七年のフランス大統領選後がよいとの考えを示しました。
 翌十七日の午前、パリに移動しました。
 フランスの現行憲法(第五共和制憲法、一九五八年制定)は、国の主権は人民に属し、人民はその代表者を通じて及び国民投票(レファレンダム)により、主権を行使する(第三条第一項)と定め、単に代表者を選挙するだけでなく、問題によっては直接に国民が意思を表明して主権を行使できることを定めています。このような制度は、「半直接民主制」と呼ばれていますが、歴史的にもフランスはその代表国的存在であり、また、イタリア、スペイン等現代憲法の多くが採用している制度でもあります。昨年五月のフランスでの欧州憲法条約批准に関する国民投票は、国民の代表である政府・議会と国民の意思が乖離する場合があることを如実に示すとともに、否決により同条約が凍結される結果になるなど、国民投票の有する影響力の大きさを示す例と言えます。
 同日午後は、フランス上院を訪れ、イエスト法務委員長と会談いたしました。
 今日の二院制には、第一院は国民の代表、第二院は地域の代表であるとの考え方があるが、フランス議会もこのような例であり、上院は間接選挙制を採用し、地方(県や市町村)の代表として選出され、また、このような選出方法から、議員は政党から自立し、実際、政党より人物本位で選ばれることが多いと述べた上で、上院の役割は「賢人」の役割を果たすことであり、危機的状況にあって下院が過熱して一気に法案を通そうとする場合でも、上院は距離を置いて冷静に見ることができる点に価値があるとの考えを示しました。
 また、フランスの地方分権について、多くの小規模な地方自治体(コミューン)が存在するのは、中世以来、教会の教区を基に存在してきたという歴史的伝統によるものであり、現在、全国に約三万五千のコミューンがある、そしてこれら小さなコミューンにも議会があり、地方議員の数は合わせて約五十万人おり、これだけ多くの人々が草の根から民主主義を支えていると言えると述べました。
 翌十八日午前、フランスの憲法裁判所である憲法院を訪問し、プザン委員(裁判官)と会談いたしました。
 憲法裁判について、フランスでは伝統的に、法律は人民の代表が作るものであり、これを審査する必要はないと考えられていたため、裁判所が合憲性あるいは違憲性について審査するという伝統はなかったが、第五共和制憲法(一九五八年)で、憲法院が設置され憲法適合性の審査が始まり、憲法の変化に応じて発展してきた、審査は事前審査という形を取り、法律が議会で採択された後、大統領によって公布される前に行われると説明しました。
 国民投票と憲法院との関係について、そのルールは法律ではなく政府から出されるデクレ(政令)が定めるが、憲法院はこのチェックを行うとともに、国民投票がデクレに従い公正さが確保されて行われるように監視を行い、また、もし手続の瑕疵があるならば、投票の無効を判断できる権限も有するとのことでした。
 引き続いて午後は、フランス内務省を訪問し、国民投票担当課のリツク氏及びレルネル氏と会談をいたしました。
 国民投票には、一、公権力の組織に関する法案、経済・社会政策に関する法案、重要な条約の批准を国民投票にかける憲法第十一条の場合と、二、憲法改正に関する憲法第八十九条の場合との二種類があるが、どちらの場合でも国民投票の準備は変わらない、投票方法として、投票用紙には賛成又は反対の欄にチェックを付けるようになっており、このように非常に単純明快な形式で国民に問う形になっている、なお、郵便投票は、不正が余りにも多かったため七〇年代に廃止されたが、入院中の人や身体障害者などについては代理人投票が可能であるとのことでした。
 国民投票に関する国民への情報提供及び投票運動については、欧州憲法条約の場合、政府は、憲法院の同意を得て、有権者に対して欧州憲法条約条文を掲載したリーフレットとそれに対する政府の立場を説明した説明書を送付したが、なぜ政府が賛成するのかという解説に対しては中立性を欠くとの批判が多かったこと、また、通常の選挙キャンペーンとしてはポスター、テレビ、ラジオ、チラシなどがあるが、今回、インターネットや携帯電話のショートメッセージ、自費によるテレビでのコメントなどの新たな手法が登場したこと、国から認定された政党には八十万ユーロ(約一億千二百万円)を上限として国民投票運動のための助成金が出されたことを述べ、どのように政府の公正性を確保するか、また、有権者に対する情報提供をどのように行うかという二つの大きな課題が残ったことを指摘しました。
 今回の調査においては、数多くの要職にある方々と親しく意見を交換することができました。多忙の中、快く会談に応じていただいた方々、また仲介の労をお取りいただいた在外公館等の関係者の方々に改めて感謝の意を表します。
 報告書は既に議院運営委員会会議録に掲載されていますが、このほかに、インタビューの詳細を記しました冊子を作成配付しましたので、併せてごらんください。
 以上、御報告申し上げます。どうもありがとうございました。
 引き続き、他の派遣議員の方々からも御発言をいただきたいと存じます。
 なお、御発言は着席のままでお願いいたします。
 舛添要一君。

発言情報

speech_id: 116414184X00120060222_003

発言者: 関谷勝嗣

speaker_id: 15258

日付: 2006-02-22

院: 参議院

会議名: 憲法調査会