吉川春子の発言 (憲法調査会)

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○吉川春子君 私は、今回の国民投票制の調査で、スイスとフランスにはそれぞれ国民投票制が国民の間に定着していて、民主主義を支える制度として機能していることを実感しました。これは、立憲制度の立場からも大変必要な制度であり、同時に日本とは比較できない長い歴史と地方自治の上に存立していることを感じました。
 日本では、憲法を改定するため、とりわけ九条二項の戦争放棄規定を廃止するという目的を持って、あるいはその一段階として国民投票法が提案されようとしていることは、この制度を論じるには今は適当な時期なのか、本来この制度の持つ意味がゆがめられるのではないか、私は大きな懸念を持っています。
 第一に、両国には長い歴史があり、スイスの立法は議会の議決のみでなく国民投票が必要ですが、一年間に二十回から三十回もの国民投票が行われています。この直接民主制は、既に十九世紀前半には近代的な形で整えられています。
 過去に行われた国民投票のうちで国論を二分するようなテーマがあったかとの質問に対し、最も適切な例の一つとして、一九三六年の国民投票で、ヨーロッパに戦争が迫ってくる中で経済を統制経済にしなければこの危機を乗り越えられないのではないかという趣旨から提起された国民投票で否決されたという例が挙げられました。一九三六年の日本がどんな状況であったかを考えると、既にこの時期にスイスが国民の意思を問うて政治を進めようとしていたことは驚くべきことです。
 第二に、両国とも地方自治がしっかりと根付いていると感じました。
 スイスは人口七百三十九万で、日本の十五分の一ですが、二十六の州、三千の地方自治体があります。フランスは人口六千百六十八万人で、三万五千のコミューンがあり、五十万人の地方議員がいます。フランスもスイスも、議員は他の職業を持っているということを計算に入れても、人口比でこれだけの地方議員が多いということは、政治を身近に感じることができるのではないかと思います。
 日本では町村合併が行われ、三千三百あった自治体がこの数年間で千八百を切るようなすごさですが、私の視察に行った中の自治体には、住民投票も意向調査すらもせずに、議会や長の判断で合併に踏み切ったところも少なくありません。反対されるからとの理由で住民投票を行わなかったところも幾つかありました。合併で住民自治が崩れようとする危険をはらんでいる日本のことを思いました。
 第三に、社会のありようというか、国民の価値も日本とはかなり違っていると感じました。
 私たちがパリに入ったとき、折しもマルセイユでは労働者のストライキが四十日目でしたが、国民の支持がある程度ないとこんなには長く続かないと思いました。
 パリから五十キロ離れた田舎、フォンテーヌブロー、今回私たちもこの町を通りましたが、ここに住んでいる日本人作家の池澤夏樹さんは、町で会ったバカロレア制度に反対する高校生五百人程度のデモが、陽気で楽しそうでにぎやかだ、路上でデモを見る人の反応が良かったと書いています。そして、僕は東京の惨めなデモのことを考えざるを得ない、まるで日本社会には良識ある国民はデモなどをしてはいけないという了解があるがごとくだと書かれていますけれども、本当にその感覚の違いというものを感じました。
 それで、国民投票の手続ですけれども、スイスでは活字による広報は認められていても、テレビ、ラジオでの宣伝が禁止されています。国営放送に近いメディアしかないということがその理由のようです。フランスでは、テレビ等の宣伝は政府がお金を出しているという違いがあります。どうすれば国民の意思が公平に正確に反映できるか、実践の結果、そうした結論に至ったのではないかと思います。
 当委員会でも参考人から指摘されていたことですが、フランスではナポレオン三世、ドゴール大統領の時代など、人気投票に利用されたという苦い経験を教訓に生かそうとしているように見えます。
 それとの関係で、今度のEU憲法を国民投票にあえて付したシラク大統領の思惑についてもいろいろな意見を伺うことができました。政府が国民投票に付した際に、数千万部作成して国民に配布した資料をいただいてきました。これですが、A4版で百九十一ページに及んでいます。活字は九ポイントか八ポイント程度なので相当文字数は詰め込まれています。これをウイ・オア・ノン、投票することは本当に冒険で、短期間に国民がこれを読む時間的余裕があるのかという印象を持ちました。
 私は、今回のヨーロッパ視察では、日本の憲法改定を目的として国民投票制を短期間で国会に付して結論を得るということは大変危険であるということを今回の調査で強く感じたことを申し上げて、発言を終わりたいと思います。

発言情報

speech_id: 116414184X00120060222_010

発言者: 吉川春子

speaker_id: 26901

日付: 2006-02-22

院: 参議院

会議名: 憲法調査会