仁比聡平の発言 (憲法調査会)

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○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
 現在、国民投票法が制定されていないことが怠慢である、あるいは立法不作為であると言われる世論状況にはないということ、また自民党の新憲法草案など改憲への政治日程が具体的に掲げられる中で公正中立な手続のみの議論はあり得ないこと、また当調査会の調査が衆議院憲法特別委員会理事懇談会に呼応する形で進められることは、調査会本来の任務と在り方に反して許されないという我が党の立場は前回強く申し上げたとおりでございます。
 それを敷衍する意味で、憲法九十六条は国民投票に何を求めているのかという観点から私の意見を申し上げたいと思います。
 代表民主制と政治不信の高まりの中で、直接民主制に対する期待が広がっています。九〇年代以降、全国で原発やごみ処理場、吉野川可動堰計画、基地建設や米軍再編、あるいは市町村合併などについて住民投票でその地方議会や首長の決定と異なる結果が出され、首長や地方議会多数派の政策が変更されることが相次いでいます。住民投票条例を制定する自治体も増えております。
 しかし、いずれの住民投票も具体的事業の是非について単一の争点が問われるものであること、また、その効果が自治体首長や地方議会に対する諮問的なものである点において、憲法九十六条が規定する国民投票とは本来の性質を異にするということを我々は認識しなければならないと思います。
 国民投票に問うことなく解釈改憲によって立憲主義を壊してきたのは正に改憲派であって、そのねらいは、解釈改憲によってはどうしても乗り越えられない限界が依然として非常に大きく、その意味で、九条二項の歯止めを取り払おう、解釈改憲を打破して明文改憲を行おうという強い衝動にあります。
 国民投票から逃げ続けてきた改憲派が、今、国民自身の手によって初めて憲法を定めるのだという理由のキャンペーンで新憲法制定を主張することに、私はある種の欺瞞を感じます。もし憲法改正が国民投票なしになされ得るものであるならば、このようなことが語られるわけはないのではないでしょうか。
 憲法九十六条は、国民投票を憲法改正の成立要件としております。憲法改正の成立要件として、特別多数による国会の議決だけでなく国民投票による承認が置かれているのは、憲法改正を発議する国会の意思とは別に、その上に主権者である国民の意思が優位すると考えられているからであります。したがって、主権者である国民の意思は、国会の議決とは別に自由につくられ、国会とは異なる決定を行うことが十分に保障されなければなりません。それが憲法九十六条の直接の要請であると考えます。
 ここで決定的に重要なことは、主権者国民の意思決定、すなわち国民投票に至る一人一人の国民の意思形成の過程で十分な討論が行われることであり、そういった意味での国民投票運動の徹底した自由と十分な保障が憲法上求められているというところにあると思います。
 憲法あるいは憲法改正が扱う問題は、気分や衝動に左右されることもあり得る人気投票ではありません。単に一人の個人だけにかかわるものではなく、その個人を含む社会の成員全員に共通の問題であり、投票する国民が態度決定をするに当たっては、その判断理由が問われることになります。もちろん、その判断理由を自覚すること、あるいは表明することが他者によって義務付けられることがあってはなりません。それは、内心の自由の問題です。しかし、一人の個人だけでなく、社会の成員全員にかかわる共通の問題についての表決が、つまるところ一人一人の有権者の選択によって定まる場合、投票者が自由で十分な討論、すなわち個人の選択と投票理由についての他者との応答関係、納得してもらったり同意してもらったりする関係から離れた、利害だけに基づく投票となることのないよう憲法は要請していると考えるべきです。そして、どんな人でも、自らの判断理由を自覚した、その人ならではの判断をするためには他の人々と討論することが欠かせないのであります。
 個々の投票権者は、最終的には投票所で秘密投票に臨みますが、それまでの過程では、発議された提案にかかわる十分な情報に接し、様々な見解と出合い、意見交換することが保障されなければなりません。
 このように考えるとき、憲法上、国民投票を国会による憲法改正の発議を追認する制度あるいはそのような効果を持つような制度にしては断じてならないこともまた明らかだと思います。
 また、九十六条を論じるならば、今日の国民主権の現実的な行使の在り方、その抑圧、制限の実態を徹底して検証し是正することこそ求められているのではないでしょうか。
 国民投票における自由で十分な討論の保障の要請を考えるとき、公務員法や刑法その他によって国民の表現の自由、政治活動の自由、市民的・政治的自由が現実に侵害され抑圧されていることを正面からとらえ、正さなければならないと思います。国民投票制度の調査といいながら、国民投票運動の制限、規制やメディア規制の是非、過半数要件や一括投票の是非、投票権者の範囲などが論点とされているのは、結局、私が申し上げてきたような、自由で十分な討論の要請に目を背けているからではないのでしょうか。
 まず改憲ありきという動機に基づくからこそ、憲法改正のためにはどうしても国民投票が必要だから、言わば改憲発議を国民に追認させることができるよう、本来国民主権の直接行使であるにもかかわらず、国民投票運動に様々な規制を掛ける、そんなやり方は断じてやめるべきだと強く申し上げ、私の発言といたします。
 ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 仁比聡平

speaker_id: 18362

日付: 2006-04-26

院: 参議院

会議名: 憲法調査会