橘木俊詔の発言 (経済・産業・雇用に関する調査会)

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○参考人(橘木俊詔君) 私、京都大学経済学部の橘木と申します。
 こういう機会を与えていただいて、日ごろ私が主張していることの一端をお示しする機会を与えていただき、厚く御礼申し上げます。
 今日は、非正規社員をどう考えたらいいかというテーマでございますので、二つほどテーマを絞りましてお話ししたいと思います。一つは、非正規労働者が増加した理由、それと二つは、じゃ、正規、非正規の格差を縮小する政策としてはどういうものがあるかというこの二点に絞りまして話させていただきます。
 まず一点目、なぜ日本の企業において非正規労働者が増えてきたかといいますと、御存じのように、以前は一〇%以下の非正規労働者だったんですが、現在は労働者の三分の一が非正規労働者であると、パートタイマーだとか契約社員だとか、もういろんな形で正社員でない人たちの数が日本の労働市場で約三分の一いるというのはなぜかということを考えた場合に、いろんな理由があるんでしょうが、まず一番大事なのは、やっぱり企業が非常に不況に巻き込まれて労働費用の節約を図りたいというような政策を取りましたので、どうしても正規労働者ではなくて非正規労働者を雇った方が労働費用の節約になるというわけで、そういう手段に至ったというのはもう皆様すぐ分かる話でございます。
 そのほかにもいろいろ理由はございまして、そこに四つか五つほど書いてございますが、まず一時間当たりの賃金が違うと。もう正社員の五割とか六割ぐらいの賃金しかもらえないのが非正規労働者でございますし、もっと大事なのは、ボーナスの支払がほとんどない。正規社員には年に二回のボーナスがございますが非正規にはほとんどないというわけで、ボーナスまで含めたらもっと年収差は広がるということでございますので、企業から見たらそういう非正規の人を多く雇うことはいわゆる賃金費用の節約につながるというのは明らかでございますのでこういう政策を取ったと。
 それから二番目は、そういう非正規の人は非常に雇用調整がやりやすい。すぐ雇えるけどすぐ首にもできるというような形で、企業にとって欲しいときに雇うけど、欲しくないときはもう辞めてもらうというようなことがすぐできるというわけですから、正社員の場合は、日本の解雇というのはいろんな解雇四原則とかいろいろございましてなかなか簡単に解雇はできないんですが、非正規の場合は、例えば雇用契約期間が一年あるいは半年であれば、もうそのときにその企業がその人を必要でないと思ったら法律どおり契約解除できるということがございますので、どうしてもそういうような非正規の人たちを雇うということは企業にとっては雇用の調整がしやすいというのが大きな第二番目の理由かなというふうに思います。
 第三番目の理由は、これは結構重要でございまして、正規の労働者はいろんな社会保険制度に、もう半分義務的にといいますか、法律で定められた規定に従い社会保険制度に入るようになっていますが、非正規労働者はそういう社会保険制度から排除されているというのが実態でございます。
 具体的に御紹介したいと思いますが、失業保険、日本では雇用保険と言われておりますが、失業する人が生活に困るんで働いている期間に保険料を払ってやるのが雇用保険制度と言われるものでございますが、これに加入するには、週労働時間が二十時間以上ないといかぬという条件、あるいは雇用契約が一年以上でないといかぬという条件がございますので、そういうような条件から外れる人はそういう雇用保険に入れないという状況がございます。
 二番目の厚生年金、これは年金制度でございますが、これも週の労働時間がフルタイムの四分の三以上働いていないと厚生年金制度に加入できないというのがございますので、これも、もし四分の三の労働時間に満たない人であれば、そういう厚生年金に入らない、入れないという現状がございます。
 それから医療保険、いわゆる組合健保だとか政府管掌とか言われる保険においても、例えばだんなさんがフルタイムで働いていて奥さんがパートでいれば、年収百三十万円の以下であればだんなさんの医療保険に加入できるというようなことがありまして、百三十万円の壁というのがございます。
 そういう意味で、今御紹介した失業保険、厚生年金、医療保険等に関して、非正規労働者は社会保険制度に入れない、入らない。医療保険の場合は入らないという人もいます。自分の医療保険を、保険料を節約するために、意図的に百三十万円以下で年収を抑える人もいますから、そういう人は入らないというんですが、大半は入れないという状況で社会保険に入っていないという現状がございます。
 そうすると、企業にとっては社会保険料の事業主負担分の節約に大きくつながります。御存じのように、日本の社会保険制度というのは事業主と本人の保険料の折半、半々でございますので、そういう人たちが社会保険に入っていないということは企業にとっては事業主負担、労働費用の節約につながりますから、競って非正規の社員を雇って社会保険料の事業主負担の節約を図ろうという行動を取ります。これが結構重要でございますので、後で政策のところで申し上げたいと思います。
 それから四番目は、非正規労働者というけれども、自分で進んで非正規労働者になる人もいるということを我々は認めざるを得ない。本当は正規で働きたいんだけれども職がない、あるいはだれも雇ってくれぬから非正規になる人が多いですが、中には自分で労働時間を抑えたいと、週の労働時間は自分は二十時間に抑えたいとか三十時間に抑えたい、いろんな事情がございます。高齢者だとか家庭の奥さんだとか、あるいは若者は自分で進んでパートタイマーだとか契約社員だとかそういうのを願う人もいますから、そういう人は自分の意図でそういうことを選択しているのであれば、周りがそう心配する必要もない。
 しかしながら、企業にとってはそういう人を雇うということは、これ繰り返しになりますが、社会保険料の事業主負担の節約につながるというようなところがございますので、企業は、もし意図的に非正規労働を望む人がいればそういう人を喜んで採用しようというのは当然言えるかというふうに思います。
 そういう意味で、非正規労働者が日本で増えてきた理由というのは、一にも二にも不景気が第一の理由でございますが、じゃそれ以外にどういう理由があるかといえば、そのような四つの理由にほぼ要約できるんではないでしょうかという感じがします。
 じゃ、正規労働者と非正規労働者の格差がこれだけ大きい時代になって、これを縮小する案というふうに書いておりますが、縮小しなくてもいいという意見も当然あり得ます。これは、企業はそう思うかもしれないし、労働者だって中にはそういうことを思う人もいるかもしれませんし、格差拡大何が悪いという大上段の議論もございますので、一概には格差があることが駄目だとは言えませんが、私の個人的な意見を申しますと、できればそういう格差は小さい方がいいというような意見を持っておりますので、私の立場からは格差を縮小する案を考えてみたいというふうに思います。
 そのことに関しては三つか四つ御紹介したいと思いますが、まず一つは、一番目に書いてございますが、これは先ほどお話しされた城さんと全く同じなのでもう詳しくは申しません。同一労働同一賃金の方向へと。同じ仕事をしている人は時間当たり賃金をなるべく格差は小さくするという方策を取っていただきたいと。
 これはもう成功した例がございます。オランダのワークシェアリングというのは、これを法律で導入しました。同じ仕事をしている人は一時間当たり賃金を一緒にせいと。これは政労使が合意して、有名なワッセナー合意という合意があった後、同一労働同一賃金は後で成立した法律なわけですが、オランダはワークシェアリングを成功するためにこういうことをやったと。したがって、労働者の賃金格差は、何時間働いているかということだけに依存するというような国もございますので、オランダは参考になるかなというふうに思います。
 ただし、城さんが御指摘になったように、日本の社会において同一労働同一賃金、全く一緒にするというのはまだそういう時期はなかなか難しいであろうと。正社員から見たら、上役に今日は忙しいから残業をやれと言われて、嫌ですと断れる雰囲気はないですよね。正社員はそれだけのやっぱり会社への対応を問われていると。それからパートタイマーは、五時になったら、はい、私は帰りますというような、自分の都合のいい時間を働いているというわけで、正社員から見たら何か働き方違うなということもございますので、そういう働き方の違いのある人たちをすべて同一労働同一賃金というふうに持っていくのは難しい。しかし、その方向に行ってほしいというのが私の希望でございます。
 そのための手段は、職務給の導入というのが私も城さんと同じ意見でございまして、労使関係の歴史をたどりますと、実は戦後、労使は職務給制度を入れようとした時期がございました。日本の今後の賃金体系あるいは処遇体系には職務給というのがいいということを真剣に議論した時期がございました。しかし、実際には入りませんでした。
 それはなぜかといいますと、理由は、当時、戦後十年とか十五年、日本は貧乏でございました。非常に貧乏なので、労働者の生活ないしは賃金を決めるときには、中年や高年がもっとお金が掛かるだろうと、住宅があるとか子供の教育費だとか、そんなことで中高年は高い賃金をもらわないとやっていけぬだろうという配慮がございました。それを我々のタームで生活給制度というわけなんですが、若者は余り、単身だったらそんなにお金も要らぬだろうというわけで、当時大変な賃金、労使関係の議論において生活給制度の方が望ましいというようなのが大勢になりまして、日本は年功序列制度ということを基本にしました。それを電産型というふうに我々は称しております。
 そういう意味で中高年の方がお金が掛かるから、そういう人たちに高い賃金を払おうという制度が今までずっと続いてきた。ここ十年、二十年、年功賃金制度の見直しが叫ばれ、いわゆる能率給あるいは成果主義というのも入ってまいりましたし、もう一つ議論すべきは、職務給制度の復活というか、一度日本でそういうことを議論されたわけですから、一度労使でもって職務給制度、これを定着させるためには、その人がどういう仕事をしていてどういう能力が必要であるということをちゃんと労使で合意の下で、同じ仕事をしている人には同じ賃金を与えられるという制度に持っていくのがまず一番目に重要な方向かなというふうに思います。
 二番目は、もうこれが私の理由で申しました三番目の理由に対する対処でございます。非正規労働者は、先ほど具体的に申しましたように、いろんな形で社会保険制度に入っておりません。できるだけ非正規労働者も社会保険制度に加入できるようにするというような方策が是非とも必要であると。これは労働条件の格差の是正にもつながりますし、非正規労働者のセーフティーネットを確保する意味においても非常に重要な制度であるかなというふうに思います。
 これはもう政府もそのような方向であるし、実は前回の厚生年金制度の改革においてもこういうことを政府は意図しました。ところが、実業界から猛反対がございました。もう産業を言ってもいいでしょう。流通業と飲食業でございます。非常にたくさんの非正規労働者を抱えている産業から、そんな人、社会保険に入ったら、自分たちの社会保険料の事業主負担が増えて困るというんで猛反対をしまして、結局成立しませんでした。
 そういうような事情がございますので、次の改正のとき、あるいはもう今からでもいいですが、是非とも国会議員の先生方が先頭に立っていただいて、経営者を説得するぐらいの気力でもって、こういうことが重要であるというようなことを是非ともやっていただきたい。これはもう法律で決定できることですから、産業界の、一部の産業界の強い反対があっても私はできる話ではないかなというふうに思います。それは厚生年金のみならず、失業保険、介護保険、医療保険、全部を含めての話でございます。
 それから三番目、これやっぱり非正規労働者、パートだとかいわゆる派遣社員だとか、そういう人たち、やっぱり最低賃金以下で働いている人が結構多うございます。そういうような事情がはっきりしておりますので、最低賃金制度以下の労働で働いている労働者の数をできるだけ少なくするというような方策が必要でございますし、できれば最低賃金制度をもう少し上げるという政策も私は必要かなと思います。
 日本の最低賃金額というのは欧米と比べて低うございますので、そういう意味でもやっぱり国際スタンダードにするには最低賃金の額を上げるという案も私はあり得るかなと思います。
 最後、そこには書いてございませんが、四番目の理由として、労働分配率が下げ続けておりますので、労働分配率を上げる。これは自由経済の社会でございますので労使の交渉に任せなければなりませんが、法律でもって労働分配率上げろなんという政策はとても無理でございますが、これは過去五、六年、労働分配率が下がっておりますので、労働者の分け前を増やすというような策を取っていただきたい、これはもう労使関係でやるしかないわけですが。
 そこで、あえて大胆なことを言いますと、労使関係でもって労働者の分け前、賃金、総支払分を増やすというような政策が導入されたとしても、だれがどれだけ持っていくかという配分の問題になります。その問題を、正規労働者と非正規労働者、一体どっちの取り分を多くするかというようなことになりますと、私は非正規労働者の取り分を多くしてほしい。ということは、実は正規労働者の賃金、犠牲になることもあり得るということをいわゆる正規の労働者は覚悟しないと格差の是正はできないということでございます。
 要するに、格差の是正というのは、下を上げて、下を上げるだけというのはなかなか困難でございますので、上にいるフルタイムの男性の賃金も犠牲にならざるを得ないことがあると。先ほど城さんの見事な表で五十代のフルタイムの男性はもらい過ぎであるというようなことまで言われましたが、そういう状況であれば、それは五十代のフルタイムの男性の賃金カットして非正規の人たちに回すということだって私は進められるかなという気がいたします。
 そういう意味で、四番目の方策としては労働分配率を上げる、労働者への賃金還元をもっと増やすと。その賃金還元額を増やしたときに正規と非正規どっちに配分を多くするかというと、非正規に配分を多くしてほしいということがございます。
 そのようなことが私は日本における正規・非正規労働者の格差の是正につながるんではないかなという気がいたしております。
 以上が私の話でございます。
 どうもありがとうございました。

発言情報

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発言者: 橘木俊詔

speaker_id: 16437

日付: 2006-11-22

院: 参議院

会議名: 経済・産業・雇用に関する調査会