坂元一哉の発言 (安全保障委員会)
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○坂元参考人 大阪大学の坂元でございます。
本日はお招きくださり、ありがとうございました。
日米同盟は、二十一世紀に入ってすぐ、九・一一テロ事件への対応という正念場を迎え、それを何とか乗り切りましたが、今また新たな正念場を迎えております。言うまでもなく、北朝鮮の核兵器への対応という問題であります。日米同盟が朝鮮戦争を契機として生まれましたことを考えますと、この同盟に関して言えば、テロよりも大きな危機が目前にあると言ってよいのではないでしょうか。
私は、日米両国がこれまでのところ核問題についてよく連携していると思います。思いますが、両国間の連携に微妙なすき間風が吹いて、それが思わぬ大きな風になり同盟を揺さぶる可能性が全くないとは言い切れません。
なぜなら、核の脅威と申しましても、やはり遠近の差がございまして、日本の場合はそれが近くにあって直接の脅威になりますが、米国の場合は遠くにあってまだ間接的な脅威にすぎないからです。日本の場合はごく少数の核でも困りますが、米国の場合はごく少数の核なら慌てる必要はない。どちらも北朝鮮の核を安全保障上の脅威ととらえてはいるものの、危機感には差があるように思います。特に、米国は今イラクで手いっぱいになっておりますので、相対的に北朝鮮の核については危機感が薄れます。
一つエピソード的な例を挙げますと、最近、米国において、日本問題に関心と経験を持つ識者のグループが日米同盟に関する報告書を出しました。代表者は国務副長官を務められたアーミテージさんで、アーミテージ・レポートとも呼ばれています。この報告書は、二〇二〇年までのアジアの将来を予測しつつ、日米同盟の重要性を再確認し強調するものでして、私は基本的に歓迎しております。
ただ、中に気になる記述がございました。それは、この同じグループが二〇〇〇年にも報告書を出しているのですが、その二〇〇〇年以降、アジアで起こった最も重要な出来事は中国の爆発的な経済成長かもしれないと書いているところです。確かに、中国の驚異的な経済発展が地域だけでなく世界の将来にとってとても大きな意味を持つことは間違いありません。それはそうなんですが、安全保障に関する報告書として見た場合、私としてはやはり、二〇〇〇年から二〇〇七年の間にこの地域で起こった最も重要な出来事は昨年十月の北朝鮮の核実験だと書いてほしかったと思います。
しかし、それはやや揚げ足取りかもしれません。大事なことは、日米がしっかりと連携することで、そのこと自体は今度のアーミテージ・レポートでも全体を貫くテーマになっております。北朝鮮の核の脅威に直面した今、日米同盟を強化し、同盟間にすきま風が吹かないようにする。その努力の必要がますます高まっているのは確かではないでしょうか。
本委員会で審議がなされています駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法案は、その意味でも重要な法案だと思います。私は、米軍再編と日米同盟のすり合わせを速やかに進めて、日米同盟を強化する、そのために日本が行う努力の財政的基盤を整える本法案の成立を希望いたします。もちろん、国民の税金に絡むことですから、国会での徹底した御審議も期待しております。
米軍再編は、米国が軍事技術の驚異的な発展を踏まえて、テロとの闘いなど二十一世紀の国際環境が生み出す新しい脅威に対抗するため、米軍基地と部隊を再編し、米軍をさまざまな事態に効率よく対応できる軍隊に変化させる試みです。かぎになるのは米軍の迅速な展開能力で、米国本土以外の基地が果たす役割が小さくありません。特に日本の基地は、イギリスなどとともに、非常に重要視されているようでございます。
数年前から、この米軍再編と日米同盟をどうすり合わせるか両政府間で話し合いが行われ、昨年、大枠で合意がまとまったわけです。その円滑な実施には、まだ再編で影響を受ける自治体と地域住民の理解を得る作業が残っておりますが、私は、両政府間の合意については基本的に支持しております。
私が支持します理由は、この合意が、米国の戦略的要請に対応しつつ、そればかりでなく、その一方で、日米同盟の構造的弱点の是正を進めることにもつながるのではないか、そう期待するからであります。私が構造的弱点と申しますのは、近年、大分変化してきたとは申しましても、この同盟が依然として基地を貸して安全保障を得ることを基本とするものであり、互いに互いを守るという、通常の意味での同盟関係の側面が弱いことであります。そして、その側面が弱い分、基地負担が重くなります。
基地を貸して安全保障を得るという形は日米それぞれの事情と戦略を背景にしてできたもので、双方に大きな利益がございます。あるから長続きしてきたわけです。ただ、残念ながら、この形はお互いに感情の摩擦を生じさせやすいところがございます。と申しますのも、基地を貸す方は、借りる方が基地の負担と危険を十分に理解していないのではないかと疑い、逆に基地を借りて軍隊を置く方は、自国の若者に命のリスクまで負わせて抑止力を提供しているのに評価されないと感じる、そういうことになりやすいからであります。
米軍再編に伴う日米の話し合いの中にもその摩擦が見られました。在日米軍基地の整理統合は、米軍のプレゼンスに伴う抑止力を減ずることなく基地負担の軽減や分担を図るやり方、つまり、抑止と負担のバランスでもって進められたわけです。それは当然のことですが、問題は、抑止というものが目に見えにくく、反対に負担は目につきやすいということです。ですから、二つのバランスと申しましても、どうしても負担をどう減らすかがクローズアップされる。そうなりますと、今度は米軍の方が、何だ、おれたちはただの負担か、こういうことになっておもしろくない。
私は、日米同盟が二十一世紀も活力を持って続いていくためには、同盟協力の形を、基地を貸して安全保障を得るということだけに頼らず、互いに互いを守るという要素をできる限りふやしていくべきだと考えています。そうすることで、基地をめぐる双方の不満を、すべてではないにしろ、和らげていくことができるし、抑止と負担のバランスもより気持ちよく実現できると考えるからです。
そうした観点から今回の両政府間の合意を眺めましたとき、合意のさまざまな中身の中で私が特に注目しておりますのは、グアムについての合意であります。
グアムは、西太平洋マリアナ諸島最南端に浮かぶ米国領の島で、皆様御存じのように、日本から飛行機で三時間ほどで行ける常夏の島です。人口約十六万人、毎年何十万人もの日本人が観光に出かけております。実はこの島は、米国が米軍再編において、日本、イギリスなどと並び、世界大の米軍展開を支える重要拠点の一つと位置づける島でもあります。
日米両政府は、このグアムに関して二つのことを合意いたしました。一つは、沖縄に駐留する第三海兵機動展開部隊司令部など、沖縄から八千名の海兵隊員とその家族九千人が県外に移転します。これは、米国政府が、日本政府の働きかけに応じて、沖縄の基地負担軽減の目玉として打ち出した措置です。在日米軍基地が集中する沖縄の負担軽減は、基地を貸して安全保障を得る形の同盟をスムーズに運営するため、極めて大事な取り組みであることは改めて言うまでもありませんが、このグアムへの移転は、沖縄の負担を日本国内の他の基地が分担することで軽減するというやり方ではなくて、日本全体として負担を軽減するものです。
もっとも、グアムへの移転経費の約六割、六十一億ドルを日本側が負担することになっております。真水の財政支出は、日本側の上限が二十八億ドル、米側は三十二億ドルで米国側が多いのですが、日本側は財政支出に加えて、家族住宅や基地インフラの建設について、国際協力銀行などを通した出資、融資を三十三億ドル行うことになっています。そういうことを国際協力銀行ができるようにするのが今回の特別措置法の主たる目的の一つですが、そういう特別措置法をつくらなければならないことをとってみても、この経費分担がかなり異例なことであることがわかります。
あるいは、世界に例を見ないことかもしれません。何しろ、他国の領土に他国の軍事施設をつくる、その資金を出すというわけですから、これはどういう理屈で出すのか、それが問題になるのは当然だろうと思います。国会でもそこのところは十分に議論していただいて、間違っても、わけがわからないうちに出したということにはならないようにしていただきたく思います。
もしそういうことになりますと、国民も不満でしょうし、また、米国側に安全保障に関する日本の姿勢について誤解を与えるおそれもあります。あの国は、同盟を結んでおいて、我々を助けるとはなかなか言ってくれないが、基地を貸したり、お金を出したりすることは簡単にやってくれるといった誤解であります。そういう誤解は国家の名誉や品格にかかわります。
私自身は、海兵隊の沖縄からの移転が日本側の要請であったこと、グアムに移転した米海兵隊は日米同盟の目的のために使われること、移転を早めて沖縄の負担を早期に軽減できること、真水の財政支出自身は米国の方が多いことなどを考え合わせて、六十億ドルというのは巨額ですが、移転経費の分担はやむを得ないと考えております。ただ、そう考えていますが、それでも多少ひっかかるところはございます。そのひっかかりを私なりにどう納得しているかは、最後に述べたいと思います。
もう一つ、グアムに関して、米軍再編と日米同盟のすり合わせの結果出てきたものとして、米国がグアムの訓練施設を拡張するのに合わせてグアムにおける日米共同訓練を強化することがございます。これは、自衛隊と米軍の相互運用性、能力、即応性の向上に貢献します。既に、陸上自衛隊と航空自衛隊がグアムで共同訓練を行い、成果を上げていますが、特に航空自衛隊は、広い訓練空域を使って、日本ではやりにくい電子戦の訓練ができますし、米軍との真剣な訓練で戦技の向上にも役立つそうです。
こうした訓練は、自衛隊と米軍が協力して日米同盟の有事対応能力を高め、東アジアの軍事バランスを日米両国にとって有利なまま維持するのに役立ちます。日米同盟を互いに互いを守る同盟に近づけていくという観点から見た場合に、共同訓練の基地としてグアムがより頻繁に活用されることは、海兵隊のグアム移転に劣らず大きな意味があると考えます。
そして、その観点からさらに言えば、グアムへの海兵隊移転についても、むしろ移転後の海兵隊の使い方に注目すべきかもしれません。といいますのも、抑止と負担のバランスでグアムに海兵隊司令部が移転するわけですが、その基地負担が減った分、抑止力維持のための日米間の仕事の分担はどう変化するのかという問いが必ず出てくると考えるからです。
私は、米国側には、この移転した海兵隊が日米同盟の目的に即して移動する場合には、日本側から輸送、整備、補給などの後方支援協力を得られるという期待があると思います。将来的にそういうことができるようになるならば、日米は互いに守るという形の協力をまた一つふやすことができます。
アジアには今、一方に、域内の経済発展、経済関係の緊密化、観光や文化交流の増大といった平和的潮流がある反面、他方には、北朝鮮の核問題、台湾問題、そして前年比二けた以上の軍事費増大を続けて脅威になりつつある中国の将来という不安定要因がございます。日本の平和と繁栄は、まさに日米同盟が、後者の潮流を抑え、前者の土台を固める、そのことにかかっているのではないでしょうか。日米同盟強化の必要は明らかです。
ただ、同盟強化と申しますと、これまで大抵は、まず米国側に強化のための構想が生まれ、次に米国側から提案ないし要求があり、その後、日本側がのろのろと対応を考える、のろのろしているうちに国内が大もめになる、そういうことになりがちでした。残念ながら、今回の米軍再編についても、そういった側面が全くないとは言えません。私は、これからは、たまには日本の方から積極的に何かを提案し、動けないものかと考えております。
例えばグアムに関して言えば、日米同盟も、日本がアメリカに基地を貸すばかりではおもしろくありませんので、突拍子もない話かもしれませんが、私は、何か協定を結んで、グアムに訓練目的の基地を借りたらどうだろうかと思ったりいたします。もしそれがいろいろな理由で難しいとしましても、そのくらいの気持ちで、グアムの施設を訓練に使わせてもらうような提案をしたらどうでしょうか。
あるいは、もし海兵隊の輸送に協力するとしたら、それに合わせて、日米が協力して、グアムと沖縄の間のシーレーン防衛を行うという提案をするのはどうでしょうか。
そうした形で、グアムをいわばてこにして、基地を貸して安全保障を得る同盟の形を、互いに互いを守る同盟に近づけていくことができますならば、つまり、日米同盟の構造上の欠陥を埋め合わせていくことができますならば、六十億ドルという移転経費の負担は決して無駄ではない、そういうふうに私は割り切ろうとしております。もちろん、そういう割り切りでよいかどうかは今後の展開次第ではございます。
以上、好き勝手なことを言わせていただきました。法案審議のお役に立ったかどうか自信はございませんが、私の話はこれでひとまず終わらせていただきます。
御清聴ありがとうございました。(拍手)