川口章の発言 (経済・産業・雇用に関する調査会)
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○参考人(川口章君) 同志社大学の川口と申します。よろしくお願いします。
本日は、このような場におきまして意見を述べさせていただく機会を与えていただきましたことを深く御礼申し上げます。
私の今日の報告ですけれども、企業の取組と政策課題というふうに題しまして、主にワーク・ライフ・バランスについて企業がどういうふうに取り組み、またその成果がどういうふうに上がっているかということを最新の調査を基に御報告させていただき、その後、政策課題についてお話ししたいと思います。(資料映写)
報告の概要ですけれども、まずは企業が何を目的にワーク・ライフ・バランスを実施しているかということですね。ちなみに、ワーク・ライフ・バランス、スライドではちょっと、片仮名にしますと非常に長いので、ワークのWと、ライフのLと、バランスのBと、略しましてWLBというふうにスライドでは表示させていただきます。二つ目は、ワーク・ライフ・バランスを、そういう施策を実施している企業がどういう業績を上げているのかということを、これも調査に基づきお話しします。そして三つ目に、どういう政策をすればワーク・ライフ・バランス施策を実施している企業を支援できるのかということをお話しさせていただきたいと思います。
海外では、ワーク・ライフ・バランス施策と企業の業績に関連する研究というのは非常にたくさんあるんですけれども、日本の場合はまだそれほど調査がなされていません。最近やっと本格的になされた調査が二つありまして、一つは、一昨年、ニッセイ基礎研究所が「仕事と生活の両立支援と企業業績に関する調査」というのをされています。これにつきましては、学習院大学の脇坂教授がこの調査会でその結果を一部報告されたと伺っています。それからもう一つが、労働政策研究・研修機構が昨年の六月に行いました「仕事と家庭の両立支援にかかわる調査」というのがございます。これは私も調査の計画段階から参加させていただきまして、現在そのデータを分析して報告書を作成しておる最中であります。
今日は、このデータに基づきまして幾つか今日のテーマと関連のあるところをピックアップしてお話しさせていただきたいと思います。
この調査の特徴でございますが、通常の調査ですと企業に調査をしてそれで終わりということなんですけれども、この調査は、企業に調査すると同時に管理職とそれから一般社員についても、その企業の制度をどういうふうに利用しているかとか企業の制度の実態がどうかということを同時に調査しております。回答した企業が八百六十三社で、回答した一般社員が六千五百二十九人、回答した管理職が三千二百九十九人ということで、かなり大掛かりな調査でございます。
その結果ですけれども、まず企業がどういう目的でワーク・ライフ・バランス施策を実施しているかと。ちょっとスライドの字が小さくて申し訳ないんですけれども、お手元の資料に同じものがございますので、それをごらんになっていただきたいんですけれども、七六%の企業は企業の社会的責任を果たすというのを第一の目的に挙げています。ただ、これは非常に抽象的な目的でして、これ以下の具体的な目的の方が我々の関心のあるところでございます。二番目に多いのが女性従業員の定着率を高める、これがおよそ三分の二の企業が挙げております。さらに、女性従業員の勤労意欲を高める、これも六割を超えています。約五割ぐらいありますのが、採用で優秀な人材を集める、それから、従業員の仕事に対する満足度を高める、続きまして、女性従業員の帰属意識やコミットメントを高める、この辺りが四〇%を超えております。
ここから下、七番目になりますとかなりギャップがありまして、これ以下の項目は余り企業が期待していないということですね。特に、男性従業員の帰属意識でありますとか定着率、こういう、男性従業員の働き方の変化というのに対しては余り企業は期待しておらないというのが調査の結果から分かります。
続きまして今度は、それぞれの項目を目的とした企業のうち何%が実際にその目的を達成できた、効果が大いにあったというふうに考えているかというのを表に、図にしましたのがこの図二でございます。
企業に対してどういう効果がありましたかということを複数回答で尋ねております。企業は大いに効果があった、ある程度あった、なかったという三段階で答えておりまして、その中の大いに効果があったという、そう答えた企業の割合を棒グラフにしたのがこの図でございます。
最も効果があったのは女性従業員の定着率を高めるということで、やはり女性従業員、ワーク・ライフ・バランスによって離職率が大きく低下するということが分かります。二番目が企業の社会的責任を果たす、三番目が女性従業員の帰属意識やコミットメントを高める、四番目が女性従業員の勤労意欲を高めるということで、やはり女性従業員の働き方あるいは満足度というのがかなりこのワーク・ライフ・バランス施策によって増すんだということが分かります。そのほか、顧客に対するイメージアップですとか、あるいは優秀な人材を集めるというのも二〇%前後の数字を残しております。
したがって、ワーク・ライフ・バランス、企業がどういう目的でワーク・ライフ・バランスを実施しているかといいますと、まずは女性従業員の定着率の上昇、続きまして、女性の帰属意識、あるいは労働意欲、満足度の向上、さらに優秀な人材を確保すると、こういう目的でワーク・ライフ・バランスの施策を行っていると。これはもちろん将来の生産性の上昇につながることを企業は期待しております。更に言いますと、もっと長期的には、これが利潤の拡大につながるというのが企業の目的だというふうにまとめることができると思います。
それでは次に、実際にワーク・ライフ・バランス施策を実施している企業が生産性を上昇させているかどうかということにつきまして、この調査の結果を御紹介させていただきたいと思います。
調査では、一般従業員が企業のワーク・ライフ・バランスがどの程度充実しているかということを五段階で評価しております。これは、例えば結婚や出産後も働きやすいかどうかという質問に対して、非常に働きやすいと思うとか、やや働きやすいと思うとか、どちらとも思わない、働きやすいとは思わないとか、五段階で評価しているわけですね。そういう一般従業員の企業の評価と、もう一つ、今度は企業が過去五年間で生産性がどの程度伸びたかというのを、これは企業が五段階で評価しています。この二つの質問を掛け合わせまして、一般従業員がワーク・ライフ・バランスを高く評価している、企業のワーク・ライフ・バランスを高く評価している企業で生産性が果たして伸びが高いのかどうかということを調べてみました。
これは、育児休業が取りやすい企業と取りにくい企業で過去五年間の生産性がどういうふうに違うかということなんですけれども、育児休業が取りやすいと思うというふうに従業員が答えた企業では、その企業のうち二二%が過去五年間で生産性が高くなったというふうに答えております。それに対して、従業員がやや育児休業が取りやすいと思うと答えた企業では、その企業のうち一八%が生産性が高くなったというふうに答えております。等々、この棒グラフを見ますと、育児休業が取りやすいというふうに従業員が思っている企業では、五年間の生産性が高くなったというふうに答えている企業が傾向として多くなっております。
例外は、一番下の育児休業が取りやすいとは思わないという、ここで一七%の企業が生産性が高くなったというふうに答えておりますので、一番下は例外ではありますが、これを統計的に検定いたしますと、相関関係は、育児休業が取りやすい企業では生産性が伸びたというふうな相関関係が統計的にも明らかになります。
こちらも同じような質問でございます。今度は、育児休業の取りやすさではなくて、結婚、出産後も働きやすい会社かどうかという質問に対して、そういうふうに従業員が答えた企業では企業の生産性が伸びているかどうかというのを見た図でございます。これも非常によく似た図の形をしておりまして、結婚や出産後も働きやすい会社では五年間の生産性が伸びる傾向にあるということが分かります。
続きまして、それでは、生産性が伸びている、育児休業とかそういうワーク・ライフ・バランス施策が充実している企業では生産性が伸びている、そういう傾向にあるということが分かったわけですが、では果たして利益が伸びているかどうかというのを見たのが次の図でございます。利益も企業が過去五年間に伸びたか伸びてないかというのを五段階評価したその結果のうち、利益が伸びたという企業の割合を表したのがこの図でございます。この図ですと、先ほどとはちょっと違いまして、ワーク・ライフ・バランスの充実度と利益の伸びというのは相関関係がないというふうに結果が出ました。この図を見ますと、ほぼ二五%弱で数字がそろっていまして、ワーク・ライフ・バランスの充実度と利益の間には余り相関がないということですね。
今度は、結婚、出産後も働きやすい会社かどうかということと利益が高くなったかどうかということですけれども、ここでも余り明確な相関関係は見られません。統計的に検定しましても相関関係が見られないという結果になりました。
以上をまとめますと、調査から分かったことですが、ワーク・ライフ・バランスの施策が充実している企業では傾向として生産性が上昇している企業が多いということが言えます。ただ、それが経常利益の増大にまでは直結していないということですね。これについては更に詳細な分析が必要でありますけれども、一つの説明としては、ワーク・ライフ・バランス施策にはいろいろ費用が掛かります。したがって、そういう費用のために経常利益までは増大していない、あるいは実際に利益につながるまでは時間が掛かるのかもしれないということです。
いずれにしましても、少なくともワーク・ライフ・バランスを実施することによって従業員の満足度、やる気というのは高くなったと評価している企業が多いわけですから、少なくとも利益にマイナスにはなっていない、従業員の満足度を高めながら利益にマイナスの影響は少なくとも与えていないという点で、そういう点では評価できるのではないかと思います。
政策課題を次に説明させていただきます。
いろんな政策が必要かと思いますけれども、本日は時間の関係もありますので、ただ一点だけ説明させていただきます。
その政策というのは、企業のワーク・ライフ・バランス施策を、そういう情報を公開するような制度を導入してはどうかという提案でございます。具体的に申し上げますと、例えば、育児休業制度があるかないか、あるいは短時間勤務制度とかフレックスタイム制度とか、育児や介護のときに利用できるそういういろんな制度があるかどうかということを公開すると。ただ、制度の有無だけではなくてその利用実態、利用者、男女別にどれぐらいの数の従業員がその制度を実際に利用しているかということですね。さらに、会社の中での男女の比率でありますとかあるいは既婚の社員がどれぐらいいるか、これは結婚や出産後も働きやすい会社かどうかということが分かります。それから、離職率、これが何%ぐらいであるかとかいう数字。あるいは、平均の残業時間が何時間ぐらいか、年次有給休暇が何%ぐらい取得されているか。あるいは、残業時間や年次有給休暇の取得上昇への取組がなされているかどうかというような企業のワーク・ライフ・バランス施策の実態を公開するような制度を導入してはどうかということを提案させていただきます。
なぜこういう制度が必要かと申しますと、求職者には企業のワーク・ライフ・バランスの実態が非常に分かりにくいという現状がございます。現在、大学生、私の学生も一生懸命就職活動しておりますが、なかなか企業の実態が分からないということをよく聞きます。これはワーク・ライフ・バランスの実態を詳細に公表している企業というのがまだほとんどないと。先ほど家本さんの御説明にありましたけれども、家本さんのような企業というのはまだまだ少ないということでございます。
一方、日本の場合、財務情報の公開、これは非常に進んでおります。当然、上場企業なんかは非常に詳しい財務情報を公開しているということですね。このワーク・ライフ・バランスを始めとする労働条件の情報と財務情報のこの公開の度合いというのは非常に大きなギャップがあるということですね。
それから、求職者が就職の面接などで詳細なワーク・ライフ・バランスの実態を尋ねるというのは、これは日本ではなかなかやりにくいと。海外では詳細な労働条件を尋ねるというのは当然のことでございますが、やはり日本の会社では、面接に行って育児休業だとか有給休暇だとか、休むことばっかり聞くと働く意欲がないのではないかと誤解されてしまうんではないか、そういうふうに学生とか求職者は心配して話せないということですね。
それから、これも日本の特徴なんですが、制度があっても利用しにくい企業が非常に多いということですね。海外では、制度がありますと、これは労働者の権利ですから利用するのが当然でございます。例えば年次有給休暇、日本は消化率が半分を切っているわけですが、海外ではそういう調査自体が存在していないと。なぜかというと、年次有給休暇は取るのが当たり前だということですね。だから、制度があっても取れないという実態がございますので、果たしてどの企業がワーク・ライフ・バランスが充実しているのかというのが、形式的な制度だけ知ったのでは分からないという実態がございます。
さらに、情報公開の必要性として、先ほどは求職者の立場で御説明申し上げましたが、企業の立場にとっても、ワーク・ライフ・バランスを熱心に推進している企業は、こういう情報をすべての企業が公開すると、自分の企業がいかにワーク・ライフ・バランスで優れているかということが非常によく分かるということですね。そうすると、ワーク・ライフ・バランス制度を導入しようというインセンティブが高まるということです。
現在のようにワーク・ライフ・バランスの実態が分からないまま就職をしているという状態では、どういう不都合があるかといいますと、まず離職率が高くなってしまうということが考えられます。これは、就職して初めて、えっ、こんなに毎日残業があるのとか、日曜がもう全然ないのは知らなかったとか、そういう声をよく聞きます。また、それが原因で半年足らずで離職するという人も多いようです。したがって、事前に企業のワーク・ライフ・バランスの実態をきちんと公表して、それによって就職活動を行うということで、離職率が減るのではないかということが期待できます。
さらに、企業は、ワーク・ライフ・バランスの実態を求職者に知らせることができない、にもかかわらず、賃金については、これはかなり情報が行き渡っております。賃金の情報は、初任給が幾らとか、これはもうどこの企業も公開しております。そうすると、どういうことが生ずるかといいますと、ワーク・ライフ・バランスは充実していてもしていなくても余り分からないので、ワーク・ライフ・バランスはそれほど充実させなくて、賃金でより優秀な人材を集めようというふうに企業は考えるのではないかと。そうすると、ワーク・ライフ・バランスは低めに、賃金が高めにという企業が多くなるんではないかというふうに考えられます。
これは、例えて言えば、最近、食料品、野菜とかお肉とかでも、産地がどこでありますとかどういうふうに作られた野菜であるとか、非常に詳細な情報が消費者に与えられています。もしそういう食料品の品質の情報がないまま食料品を買おうとしますと、我々消費者は、もう値段を見て値段だけで判断すると。そうすると、品質が悪くて値段の安いものばかりになってしまうということですね。それと似たような状況が労働市場で生じているんではないかと。ワーク・ライフ・バランスの実態が悪くて賃金は比較的高いという企業が多くなるんではないかということです。
また、現在では、企業が経営情報の公開、経営の透明性というのに、だんだんその重要性を理解する企業が増えているというふうに考えられます。
失礼いたしました、その前に、情報公開制度の利点として二点ほど挙げさせていただいております。
この最大の利点は、費用が掛からないということですね。国にとってほとんど費用が掛からないということです。これは、どういう情報を公開すべきかという項目を決定するのと、あとは虚偽の情報を公開している企業がないかを監視すればよいということですね。これは、企業の内部告発とか、そういうのでもかなり分かると思います。したがって、例えば今、育児支援制度について様々な助成金を国が出しているんですけれども、何十万、時には何百万を超えるような助成金を企業に出しています。そういう制度、もちろん評価されるわけですが、そういう制度と比較しても、この情報公開の制度というのは費用が掛からないということですね。
また、企業側にとってもほとんど費用が掛からないと。そういう情報は人事部が既に把握しておりますので、それを公開すればよいということですね。
最後に、経営情報公開につきましては、最近は経営者の間でも非常にそういう経営情報公開への認識の高まりというのが見られるということです。したがって、こういう制度を導入するような土壌が整いつつあるのではないかというふうに考えられます。
その背景にありますのは、企業の社会的責任、CSRと略されますが、これについての認識が非常に高まっていると。いろんな企業の不祥事でありますとか、あるいは環境汚染とかが過去にありまして、企業は利潤を上げるだけでなくて社会に貢献しなければいけないという認識が高まったことによって経営の透明性というのを強調する経営者が増えております。その影響で、環境や財務に関する情報というのはかなり詳細に企業は公開しているということですね。
したがって、その延長線上で是非ワーク・ライフ・バランスの実態も公表するようなそういう共通の制度ができ上がれば非常にいいのではないかというふうに考えております。
以上です。
どうもありがとうございました。