木下敏之の発言 (国民生活・経済に関する調査会)
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○参考人(木下敏之君) 参考人の木下敏之でございます。
平成十一年の三月から十七年の九月まで、九州の佐賀市の市長を務めておりました。今日はこうして皆さんに私の考えを説明する機会をいただきまして、誠にありがとうございます。心から御礼を申し上げます。
では、座ってお話をさせていただきたいと思いますが、私が話をいたしますのは九州の佐賀市というところでございまして、平成十七年の十月に合併の選挙をいたしました。私はその合併のときの選挙で負けて、今は政治から足を洗いまして、研究活動、それからベンチャービジネスの経営に関係しておるわけでございますが、今から説明するものは旧佐賀市でございます。今の佐賀市は一市四町で合併をいたしましていささかサイズが違っておりますので、合併する前の佐賀市を佐賀市と言っているということで御理解をいただきたいと思います。
後ろのパワーポイントを使いますが、お手元にほとんど同じ資料が出ておりますので、どちらを御覧いただいても結構でございます。(資料映写)
まず、佐賀市がどういうところかということを簡単に御説明したいと思いますが、人口が当時十七万人ぐらいで、既に人口の減少が始まっておりました。それから、高齢化率が大体二〇%ぐらい。そして、出生率が一・四七。それから、後でお話をいたしますが、建設業以外に主要な産業がございませんでして、工業生産額もかなり落ち込んでおります。財政力指数が当時が〇・七三、今も〇・七ぐらいは保っているかと思っております。
私がお話しする話はあくまで九州の佐賀市の話でございまして、この二年間全国いろんなところで講演や研究活動に回っておりますが、非常に日本というのは地域によって全く状況が違うなということを痛感をしております。
私は、主に人口の減り方、それから高齢化の進み方、それによって自治体を四つに分類しておりますが、佐賀の場合は人口の減少が始まっていて高齢化の進行は大体終わっております。余りこれから高齢化が進むことはないということで、この赤い丸のところに位置をしております。本来ならばこれにもう一本軸が入りまして、その地域に主要な産業が建設業以外にあるのかどうかということで更に八つに本当は分類するべきなんでしょうけれども、今回はあくまで人口と高齢化の推移だけでお話をしたいと思います。
今回は幸福度についてのお話でございますが、私は、簡単に申しますと、徹底した行政改革をやって、そして生み出されたお金を教育と子育て支援とそれから建設業に代わる産業の育成に使うということを六年半やってきておりました。結果としてはうまくいかなかった点が多いなと今振り返っておりますが、そういったことをこれから順にお話をしていきたいと思います。
平成十一年の三月、もう今から十年近い前のことでございますが、当時の佐賀というのは、少なく見積もってもこの五つぐらいの大変にまずい状態がございました。人口は減り始めているし、人口が減りますと税収も減ってまいります。それから、高齢化に伴ってお金がどんどん増えていく。公共事業も縮減をしておりましたし、隣に博多、福岡という大変に商業的に集積したところがございまして、電車で三十分で参ります。中心市街地も空洞化していると。バブルのときの考え方に染まった事業が、破綻を目前としていたやつが山ほどありまして、ただ、こういった危機を残念ながら住民がほとんど当時意識をしておりませんでした。
人口の全体の変化の話は先生方よく御存じと思いますが、これは一九五五年から二〇五五年までの百年間に日本がどういうふうに人口が変わっていくかという表でございます。ちょうど一九九九年ごろというのは、日本の国の在り方自体、人口の在り方自体が大きく変わる時期でございましたので、この時期に住民に人口の減少ということを言ってもほとんど理解はされませんでした。残念ながら、私も最初のうちは言っておったんですが、途中から、人口の減少が始まっている、大変なことになるという話は佐賀の市民には言わないようになってしまいました。
実際に佐賀市の人口がどうなるかということでございますが、これは厚生省の人口問題研究所のホームページのプログラムを使って作成をさせていただいたものです。簡単に言うと、五十年間で人口が半分になる、働く世代がどんどん減っていくと。高齢化はある程度進んでおりましたので、大体二〇一五年ぐらいで高齢者の数自体は横ばいになるという感じでございました。これをなかなか住民に言っても、子供をたくさんつくれば人口が戻るんじゃないかということを言う方が多くて、子供の数がどうなるかというのは、親の数と出生率、その二つの変数で決まるんだと、だから、どんなに子供を一生懸命御夫婦がつくったとしても、親の数が急激に減っているんだから子供の数は増えませんよということはなかなか理解をしてもらえませんでした。恐らく、今も佐賀市民は大部分がそのことを理解していないような気がしております。
財政の状況なんですが、これは二十一年度までの推計を取りあえず入れておりますが、平成三年から十五年にかけて借金残高は急激に増えております。もっとさかのぼりますと、昭和六十一年から十八年間連続して借金の額が増え続けておりまして、ようやく平成十五年から借金を減らすことができたんですが、少なくともバブルが終わったときでも二百四十四億円ございました借金の残高、それが平成十五年には七百億まで増えております。ちなみに、佐賀市の一般会計は当時大体五百億円規模ぐらいでございました。
これも先生方よく御存じの話と思いますが、簡単にお話をさせていただきますと、人口の減少が佐賀市という経営体にとってどう困るかという話なんですが、端的に言うと収入が減ってまいります。佐賀市は、五百億円の財政規模のうち大体税金が四割程度でございましたが、そのうちの住民税がさらに半分、それから土地に関するもの、固定資産税がさらに半分という状態でございました。
当然人口が減ってまいりますと住民税も減ってまいりますし、さらに高齢化が進んで勤労者、働く世代が減ってまいりますと、その分も住民税が減っていくと。それから固定資産税ですが、やはり子供が減っていくと、新しく土地を買って家を建てようという需要がどんどんどんどん落ちておりまして、また、建設業以外に確たる産業もありませんでしたので、新しく建物を開発されて建てたり土地を求めて家を建てるということが非常に減っておりまして、これも今既に固定資産税の減少も始まっておると思います。
簡単に言うと、人口が減ると市役所に入ってくるお金は減り続けると。現実に、平成九年度をピークといたしまして、ずっと一貫して税収は減り続けておりまして、このままいくとどこかで増税をしない限りは恐らく財政はもたないだろうと思っておりました。
ほかにも困ることが幾つもありまして、例えば水道、下水道の整備をいたしましても、整備をした地域から人が減っていきますと、維持管理費用だけが掛かって収入が入ってこない。それから、バスの便が経済的に成り立たなくなる。農業用水も当然需要が減っていきますので、いろんな事業の採算が合わなくなる、サービスを維持できなくなるという不安を常に抱えておりました。佐賀市の場合は中心市街地もかなり衰退しておりますので、中心市街地の中でも空き家がかなり出てきておりまして、それを人に貸さないとか、崩れてしまって大変に安全性も美観も損ねるという問題も今かなり深刻になってきております。
それから同時に、数は大したことがないといいましても、高齢者の数も二〇一五年、二〇二〇年までは数として増え続けてまいりますので、福祉関係経費の伸びもこれから更に続いていくと見込んでおりました。これは高齢者のお金だけではなくて、若干子育て支援の関係のお金が入っておりますので、すべて高齢者対策ではございませんが、一貫して福祉に関するお金は増え続けておりました。高齢者に対する敬老祝い金ですとか敬老パスとか、随分そういったものもカットもいたしましたが、高齢者の関係のお金をカットするとやはり選挙には非常に不利でございまして、私は老人に冷たいといううわさも大分流されまして、ここを切り込んでいくのは本当に政治家としては難しいところかなと思っております。
いろいろ佐賀市の状況をお話をいたしましたが、問題は、一体どんな地域をつくりたいのかということによって行財政改革はやることはかなり変わってまいります。どんな社会を目標とするのか、またいつまでに達成するのかと。市長さんたちの中には正直に本音で、五年しのげれば取りあえずいいんじゃないですかとおっしゃる方もおりますが、それではやはりいけないんじゃないかと思っております。地域の置かれた状況も、佐賀のように既に人口が減っている地域もあれば、トヨタ自動車があるように、地域を支える産業がしっかりしているところもありまして、そういったところは全部違ってくると思います。
私が佐賀で何をしたかというと、これは根拠を言えと言われると非常に厳しいです。自分の理念というか思いのようなものなんですが、次の世代に今自分たちが二〇〇〇年当時に享受していた豊かさを伝えたいという、言わばシンプルな思いを私の市政運営の目標として定めておりました。これが何でだと言われるとなかなか説明しにくいんですが、いろいろ考えた末にこういったことをしたいなと思っておりました。
ただ、じゃ子供たちの幸福とは何かということを当時考えていたんですが、これもいろんな基準がございます、いろんな考え方が。私はどう考えていたかというと、良い教育を受けてもらいたいと。それから、借金をできるだけしょわしたくないと、意味のない借金ですね。それから、佐賀の場合はなかなか地元に働き口がない、結局地元に残りたくても子供たちは出ていくしかないという問題がございましたので、できるだけ雇用の場をつくってあげたいと。それから地球環境の問題ですね。そういった問題、いろいろ四つの観点でできるだけ整備をしてあげたいと思ってやっておりました。
ですから、財政的にはどんどん厳しくなるのが分かっておりましたので、お年寄りへのサービスは基本的に据置きをさせていただきました。介護保険でも自宅の改造の予算を認めたりはいたしましたが、それはトータルとして介護保険の経費が安くなるという判断があったものだけしかやっておりませんでして、できるだけお年寄りのサービスは据え置いて、いろいろ行政改革をやって浮いたお金を子育て支援に回すという方針でやっておりました。
ただ、いろんな自分の議会との関係もございまして、何を重点としてやるかということをやはり考えなくてはなりませんでした。取りあえず三期やったら辞めるのかなとおぼろげに思っておりましたので、一期ごとに何をやっていくかということを考えたんですが、やはり当時は破綻しかかった第三セクター商業ビルですとか、いろんなバブル時期の考え方に染まった事業がかなりございましたので、それの後始末をきれいにして、それから各種の計画を人口減少の時代に合ったものに変えて、ある程度子供たちに余計な借金をしょわせないというめどが立った時点で子育て支援と教育に力を入れる、産業の育成もですね、という方式でやっておりました。途中で負けたので途中で終わりましたけれども。
出血を止めるということについては、これは一応きれいにやりました。たくさんあるので今日は個別にお話はいたしませんが、止められたものも止められないものもあるんですが、何百億かの事業をストップしたり節約をしたりということをやっております。
それから、これも行政改革の常道ですけれども、事業の選別をさせていただきました。これから人口が減りますので、特にこれは急いでやらないといけないと思いましたが、全く基本に沿ってやっております。市が行う必要のない事業はやめる、それから行うものは極力民間に委託をすると、こんな改革をやっております。
ほかの市がまだ余りやっていないことは、人口の減少を前提とした都市計画を変えたり道路計画の見直しをしたり下水道計画の見直しをするということでありまして、こういった事業については、人口が増えるという前提で計算されるようなものも幾らもございます。特に佐賀市の場合はあんこ型というか真ん中にきっちりと人口が集積していて、外部の農村部には開発規制を掛けているということがかなりきちっとできておりましたので、そういったことをさらに外部に開発の伸びていくことをやめるような計画を作っておりました。
下水道も、これは農村下水道の事例なんですが、人口が減るという前提に立たない計画を作ることが非常に多かったですね。これは平成十九年度に供用開始して平成二十五、六年ぐらいに各家庭が下水道に接続するパターンなんですけれども、定住人口は平成十三年の計画人口のままでずっといく、それから建物面積、空き家がたくさんあるんですが、空き家がたくさんあっても建物面積で流入人口を計算するというようないろんな不都合がございまして、いろいろと現実に合った提案をして下げるというようなこともやっております。
子育て支援対策は、ともかく待機児童を減らそうということで補助金の付く範囲で最大限やりまして、千二百名の定員を六百名まで増やすと。それから、保育所だけではなくて幼稚園は定員が余っておりましたので、夏休み預かってもらって、本来幼稚園に行かせたいけれども夏休みが駄目だから保育園に回っている方をこっちに回すというようなことをやっております。
一番やりたくて十分にできなかったのがこの教育の問題でございまして、これは何が基準としていいかといろいろ意見は分かれると思うんですが、これは二〇〇六年度の代ゼミが発表した大学入試センター試験の県別ランキングです。私はやはり地域の格差の最大のものは人材の格差だと思っておりまして、何とか教育に力を入れないと駄目だと思っていたんですが、現実にこのような差が付いておりましたので、この順位を少しでも上げたいということでやっておりました。
ただ、教育は非常に問題が多くて、ともかく偏差値のいい子は東京の大学に出して、もう地方に帰ってこぬでもいいというスタイルの教育をやっておりました。高校の先生の評価はどれだけ偏差値のいい大学に入れたかで決まって、故郷ににしきを飾れとか寄附をしろとか奨学金をつくりなさいという教育は今は残念ながら行われておりません。
それから、佐賀の場合は校長先生が一年から二年でころころ異動する、みんな出世するためなのかよく分からないんですが、そういったこともあって、いろいろ教育関係の政策をさせていただきました。
指導力不足教員が各学校に大体一名ずつおりましたので、これは市の力で排除することはできませんでしたので、臨時の教員を派遣するとか、それから障害を抱えている子供のクラスもやはりかなり先生が大変なので、それも一人ずつやるとかといったようなことをずっとやっておりました。ただ、残念ながら県庁との対立がありまして、どうしても教員の人事権がもらえなかったり、指導力不足教員を排除してもらったりすることがうまくいきませんでした。
それから、できなかったことで最大の気掛かりだったことはこの児童養護施設の拡充でして、残念ながら児童養護施設にいた子はかなりの確率でまた戻ってくる、そのお子さんが児童養護施設に戻ってくることが多いんだということを児童養護施設の関係者の方が非公式の場でいろいろ言われておりまして、ここに何とか手を入れて大学卒業までしっかり育てることをしたかったんですが、ここもうまくはいきませんでした。
建設業以外の産業を何とか育てないといけないということで、企業誘致をしたり、福岡のお金を持った女性を佐賀に観光開発で呼び込むというようなこともやっておりましたが、企業誘致など、そこそこはできましたけれども、建設業に代わる産業を育てるということはやはりどうしてもうまくいきませんでした。
十分にできなかったこととして、これはやはり役人出身の自分の限界だということを感じておりましたが、稼げるプロジェクトというのをどうしてもつくり上げることがうまくいきませんでした。やはり民間の経営者の方が首長になるとか、企業出身者をもっと中途採用するとか、そういうことをしないとここが突破できないかなという気がしております。
それから、県の教育委員会との調整がやはり本質的なところでうまくいきませんでして、内容に至る教育改革が不十分でした。ですから、大学に行く時点でやはりかなり学力差が付いている状況を改善してあげることができませんでした。
各地を講演、調査で回って感じていることのもう一つなんですが、やはり地域間格差の課題、特に地方ですね、最大の理由が人材がいないということを認識していない、これはやはり痛感をしております。佐賀の場合でもそうでしたが、企業でも、なかなか営業にしても会社の方針にしても、ばりばりやれる人が実際には余りおりません。そこを残念ながら認識をされていないので、都会ではこれから大量に余ってくる団塊の世代の方、いろんな会社の経営経験をたっぷり積んでいらっしゃる方が地方に戻るという流れがまだうまくできておりませんでして、これを何とかすることが地域の経済が活性化する非常に大きな手になるんじゃないかと思っております。ただ、自分ではそれをうまくシステムとしてつくり上げることができませんでした。
最後になりますが、地方自治体というのは、かなりまだ削れるところがあるんですが、なかなか急いで行政改革をするというところがまだ難しいと思います。そして、急いで行政改革をやってお金がたまっても、それをどこに使うのかと、これはやはり役人だけで考えてもうまくいかないので、民間の方がトップに立つとか、たくさん中途採用するとか、そういったことが必要ではないかと思います。
実際に、役所はまだ削るところは山ほどございます。現業職でもまだ民間委託を終わっていないところもございますし、東京二十三区でも、基幹のコンピューターはそれぞれ何十億円というお金を掛けて別々に調達をしております。しかし、やっている事務はほとんど同じです。全部共同化すると、二十三区でしたら恐らく何百億という単位でお金が浮くと思います。それから、都道府県にいきましても、税金の徴収の作業は県と市町村が同じようなことをやっておりまして、こういったことも共同化することによって相当人を浮かせることができると思います。
多能工化ということなんですが、例えば、A市の住民票の写しの月別発行件数を掲げておりますが、三月に集中しております。通常は三月にこの事務が滞りなくできるように体制の整備をしております。A市のこれは税証明の月別発行件数ですが、六月がピークです。六月に滞りなく対応できるような人員の整理をしております。A市の場合は、税証明の発行とそれから住民票の発行を同じ課でやっておりまして、ピークが二つ来るような対応になっているんですね。こういったことをいたしますと、一足す一が二ではなくて、一足す一が一・五程度の人員で終わることになりまして、これがトヨタの多能工化の基本的な考え方に近いものなんですけれども、いろんな業務の月別のピークを見て、職員がいろんなことをできるようにしていくと現実にもっともっと減らせるんではないかと思います。
佐賀市も同じように住民の窓口は総合窓口ということで一か所にしておりますが、六十人いた人間が総合化するだけで三人人が浮いておりまして、自治体はまだまだそういったことがたくさんできるので、できるだけ急いで行政改革をやって、浮いたお金を子供たちのために使うということが次世代に対する一番のプレゼントではないかと思っております。
以上でございます。