進藤兵の発言 (内閣委員会公聴会)
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○進藤公述人 進藤と申します。きょうは大変失礼いたしました。
本日は、公聴会において意見を述べる機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
私は、今、都留文科大学におきまして政治学を担当しておりまして、これまで、政治学、行政学の視点から、日本の政治、行政について研究をしてまいりました。その立場から、内閣提出の国家公務員法一部改定案、政府法案と、塩崎議員外提出の二つの法案、野党の対案とお呼びしますが、この両者について、私の意見を申し述べます。
お手元にレジュメと資料を配付いたしましたので、それをごらんになりながらお聞きいただければと思います。
まず、国家公務員制度改革全般について述べます。
国家公務員制度の歴史をごく簡単に総括いたしますと、戦後、日本国憲法の国民主権原則と議院内閣制度、そして十五条、「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」という規定に基づいて、国民に対し公務の民主的かつ能率的な運営を保障することを目的とする法律として、国家公務員法が制定されました。
この目的を具体化するべく、一九五〇年には国家公務員の職階制に関する法律、いわゆる職階法が制定され、前後して中央人事機関として人事院が設置され、日本においても、職階制と呼ばれる近代的な国家公務員制度の確立が目指されたところです。その際の基本的な立場は、戦前型の官僚制の特権的、身分的な秩序の打破、民主制、そして専門的能力の高い公務員制度の構築という三点であったと考えられます。
ところが、戦前型官僚制による抵抗がとても強く、結果的に職階制導入は挫折をし、国家公務員採用試験上級甲種、現在の1種という区分がつくられ、その合格者がいわゆるキャリア組とされ、事務次官を頂点とする、キャリア組支配とでも言うべき特権的官僚制の構造が定着していったわけです。
このキャリア組支配の構造は、国民から見て二つの問題点があったと言えます。
第一は、国民を疎外した特権的な体質です。
今回の外務省密約問題ですとか、あるいは公共事業や補助金をめぐるいわゆる族議員や業界との癒着、それに伴う天下りや不祥事はそのあらわれです。
第二は、国民生活向上、福祉増進という観点から見たときの、意外なほどの専門的能力の低さです。
さまざまな薬害問題を見ましても、また近年の貧困の増大と、雇用や福祉、年金、医療の既存の仕組みの行き詰まりを見ましても、また地方における経済の衰退を見ましても、あるいはグローバル化時代の日本の進路という点を見ましても、中央省庁は有効な対応ができていないのではないかというのが、国民が官僚に対して不信感を抱く理由になっているように思われます。
その後、橋本内閣の行政改革会議最終報告を画期としまして国家公務員制度改革が進み、二〇〇七年には国家公務員法一部改定があり、これにより職階法は廃止され、さらに二〇〇八年に国家公務員制度改革基本法が成立をし、この基本法の枠組みに基づいて、今回新たに、国家公務員法一部改定について、政府法案、野党の対案の両者が提出されているところですが、その内容を見ますと、これは後ほど述べますけれども、種々問題があるように考えられます。
また、国家公務員の労働基本権問題も残されておりまして、これは来年の通常国会で議論になると伺っております。
そこで、私としましては、この際、拙速に陥らないためにも、今国会では、両者の法案とも一たん廃案とし、そもそもの枠組みである国家公務員制度改革基本法そのものに立ち返って、さきに述べた特権的、身分的秩序の打破、民主制、専門的能力の高い公務員制度の構築という観点から深く再検討し、法改正をするべきではないかと考えております。
次に、どのような問題があるのかを申し上げます。
第一に、これは別の法案、政治主導確立法案にかかわることですが、将来、国家戦略スタッフが新設されるという点です。
日本では、職階制が導入されず、キャリア組支配の構造が残っている中で新たに国家戦略スタッフ制度を設けたとき、今以上に国家公務員幹部の特権性が強まるのではないか、その割には国家公務員の専門的能力が高まらないのではないかという疑いがあります。
第二に、政府法案と野党の対案の両者にどのような問題があるかという点ですが、職員人事が党派化するおそれがあるという点です。
政府法案の六十一条の二では、内閣総理大臣が幹部職員の標準的職務遂行能力を判定する適格性審査を行い、これに合格した者から成る幹部候補者名簿を作成するとしており、具体的な実務は官房長官、そして新設される内閣人事局長が担当することになりますが、官房長官、内閣人事局長とも与党の政治家です。適格性審査についても中立第三者である人事院が関与しておらず、名簿の作成の仕方については政令に白紙委任するとされています。
さらに、幹部候補者名簿には六百人を大きく超える候補者が掲載されるわけですので、個々の候補についての詳細な人事情報を二人の与党の政治家、そして幹部職員の任命権者である各省大臣が把握した上で客観的な人事を行うということは事実上困難であると考えられます。そこから、党派的、恣意的な人事がなされるのではないかという疑いが生じます。
野党の対案、幹部国家公務員法案では、内閣による行政の遂行、内閣との一体性の確保が強調され、幹部公務員について政治的任用にするものでして、党派化のおそれはさらに強くなると考えられます。
第三に、両者の法案とも、いわゆる天下り問題の根絶につながらないという点です。
国家公務員の不祥事を防ぐためには、官と民の癒着をなくすことが何よりも重要です。従来は、国家公務員法の百三条そして百六条で、退職後の営利企業などへのいわゆる天下りを原則禁止し、退職前五年、退職後二年というルールを設け、例外について人事院が承認するという仕組みを定めております。このルールをすり抜けるケースが多いということで、三年前には民主党から、事前規制を強化する法案も提出されていたところです。
ところが、今回の政府法案は、退職する職員の再就職のあっせんを一部を除いてしないというものでありまして、天下り原則禁止とはなっておりません。野党の対案も、違いはありますけれども、基本的には同じ立場と言えます。
第四に、国民が望むような専門的能力が高い幹部公務員を育てる仕組みが見えないという点です。
国家公務員制度改革基本法では、採用試験のあり方、幹部候補育成課程の整備、人事評価制度が指摘されていますが、その新しい採用試験制度についても幹部候補育成課程についても、従来のキャリア組支配を一掃するものであるのかはっきりしておりません。
また、今回の政府法案では、幹部候補者名簿に掲載されるかどうかは標準的職務遂行能力によって判定するとしていますが、その内容は抽象的なものにとどまっておりまして、幹部職員の専門的能力の向上との関係が見えません。
幹部公務員に対して、職務の専門的内容を明記した職務明細書についても規定がございません。確かに、法案の附則において「事務次官その他の幹部職員の位置付け及び役割について検討する」とされていますが、これが、従来のキャリア組支配を一掃し、専門性の高い国家公務員制度につながるものなのかはっきりしておりません。
その上、法案の三十四条では、事務次官と局長と部長を同一の職制とみなすという規定が入っております。一般職給与法の方では、職務の複雑、困難、責任に応じた給与の格差づけがなされておりまして、職務の専門性を重視する立場に立っておりますが、それと政府法案とは矛盾するのではないでしょうか。全体として、幹部職員の専門的能力をどのように高めるのか、その道筋が見えません。
野党の対案も、職務明細書については規定されていますが、事務次官を廃止し、局長と部長を同一職制とみなすもので、仕事の内容の専門性に応じて幹部職員を張りつけていくという立場ではありません。事務次官廃止が行政の日常業務に混乱を招く疑いもあります。
それでは、国家公務員の専門的能力を高める仕組みとはどのようなものでしょうか。
ここで、イギリスの例を御紹介したいと思います。お手元の資料をごらんください。
イギリスでは、従来、ゼネラリスト優位の官僚制でありましたが、二十世紀を通して専門的能力の高い公務員制度への改革が徐々に進んできました。そのポイントは、幹部ポストの一つ一つについて職務の内容を明確化し、どのような専門的能力が必要なのかを明らかにして、そのような専門的能力を持った者をそのポストに張りつけるという点です。
内部昇進の場合もありますし、近年は公募人事も行われていますが、いずれにしても、このポストにはこういう専門的力量が必要であるということを明確にして、それを満たしている専門的能力がある者を幹部に登用するという仕組みになっております。どこの大学を卒業したかとか、1種試験を合格したかとか、幹部養成課程を修了したかとか、あるいは内閣一元化したかということだけではありませんで、どのような専門的能力を持っているかということを基準として幹部を登用する仕組みに改革されてきているわけです。こういう改革がなされているからこそ、英国では、幹部職員そして国家公務員全体の専門的能力を高めることができているわけです。
お手元の資料は英国における幹部公務員の公募の事例でございまして、外務・英連邦省、日本の外務省に当たるものですが、そこの上級職に当たります会計課長の公募のものを私が翻訳したものです。
細かい点はさておきまして、見ていただきますと、等級、業務分野、給与、任期の有無、勤務形態が明記されまして、書類審査と面接により選考がなされるということがわかります。御注目いただきたいのは、職務明細ということが書かれてありまして、このポストにはどのような職務があるかということが比較的細かく書かれております。さらに、定員補充明細というところでは、現在このポストを取り巻く状況の説明があって、どういう能力が求められているかということが書かれてございます。
右側の方を見ていただきますと、このポストに必要な技能ということが六点にわたって書かれております。必要な資格、この場合には会計士の資格ですが、必要とされるということもあります。さらには、このポストにつくまで、それ以前にどのような経歴が必要かということで、七点にわたって必要とされる経歴があります。
こういうものを満たした人が応募し、その人の中から書類審査と面接により選考するということになっておりまして、1種試験に合格したから何年かたてば課長になれるという仕組みにはなっていないということです。こういう形で、幹部職員そして国家公務員全体の能力を高める仕組みは、英国は工夫をしてつくっているということでございます。
そして、ここで強調したいことは、このような改革の道筋というのは、実は戦後の日本でいうと、職階制の導入によって目指されていたということです。日本では、職階制導入が目指されながらそれが挫折をし、キャリア組支配が定着してしまい、それが今日さまざまな問題を引き起こしているわけですので、今必要なことは、諸外国の例にも学びながら、キャリア組支配の構図を打破し、本当の意味で専門性が高い国家公務員制度に再構築することだと考えております。
最後になりますが、第五に、今回の国家公務員法改定の議論を拝見いたしますと、国家公務員総人件費の削減が前提となった議論がなされておりまして、国家公務員削減ありきの議論になっているのではないか、そのことに大変強い危惧を抱いております。
公務員は、国民全体の奉仕者であって、国民生活の向上と福祉増進に役立たなくてはなりません。国家公務員にもさまざまな職種があり、地方の出先機関もあり、税務それから社会保障、労働、福祉、医療、教育、海上保安、国有林野などさまざまな分野で仕事をしております。削減すればよいという存在ではありません。現在、国民が置かれているさまざまな状況を考えるならば、むしろふやさなければならない分野もいろいろあるかと思います。その点を深く踏まえて、人件費削減、公務員削減ありきの議論が進められるのではないということを強く期待するものです。
以上で私の意見を終わります。ありがとうございました。(拍手)