清水學の発言 (国際・地球環境・食糧問題に関する調査会)

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○参考人(清水學君) 御紹介にあずかりました帝京大学の清水と申します。
 私の名字は清水というので、名前だけは水に関係しているんですが、具体的には、私は水文学でもありませんし、水の技術的なことは全然分かりませんので、今日は主として中央アジアの水をめぐる国際関係というか、そこに焦点を絞らせていただいてお話をしたいと思います。
 なお、今日は、いつもお世話になっております中山先生が、大変厳しい先生がいらっしゃるので特に緊張しております。
 それでは、お配りしております地図がございますが、カラーの地図がございますけれども、これはもうあえて御説明することはないと思いますが、今日お話をさせていただくのは中央アジアの五か国、旧ソ連圏に属しておりました五か国でございます。それで、このうちタジキスタンだけが、タジク人だけがいわゆるペルシャ系の民族でございまして、あとの四つの国の主要民族はいわゆるトルコ系、広義のトルコ系ということで若干違いますが、一つの中央アジアとしてまとめて考えたいと思います。
 それで、御存じのように、中央アジアの水問題を考える場合に、幾つかの前提条件がございます。
 一つは、一九九一年に、御存じのようにソ連が解体いたしまして、その過程で中央アジアの五か国が独立いたしました。それまでは連邦国家の構成国だったんですが、いわゆる完全独立ということになります。それ以降、各国がまず独立国家としての機構整備をしなくてはいけませんし、それから、一つの国としての国民的なアイデンティティーをつくる、それからあと、市場経済化という、経済体制転換という、この三つの大きな課題を同時に遂行するということになりました。
 その過程で、今まである意味ではソ連圏の中で、モスクワのある意味ではコントロール下で一定の調整を行っておりました水、エネルギー、石油資源等の問題が、言わば調整役がなくなってしまうという状況になってしまって、いわゆる国民国家同士の国益が衝突するというような状況が出てまいりました。ですから、基本的にはスローガンとは別に統合よりも分離の力学が働きやすい、そういう状況がまだ続いているというふうに御理解いただけると思います。
 それから、水にかかわりましては、ここは半乾燥・乾燥地帯が主要でございまして、農業用水は基本的に天水への依存はできません。それで河川水と地下水ということになりますが、その河川水といった場合に、やっぱりシルダリアとアムダリアという大変大きな川があるんですが、これが中心であります。それで、シルダリアとアムダリアは、ソ連時代はある意味では国内河川というふうに位置付けられることができたわけですけれども、しかし、ソ連邦が解体した後はある意味ではこれは国際河川に転化しちゃったということで、これが中央アジアの水問題を考える上で特有な条件であります。
 それからさらに、水資源がこの地域に平等に分配されているということではありませんで、上流国にありますキルギス共和国とタジキスタンにほぼ八割の水源、つまり氷河、雪解け水ですが、これが集中しております。ですから、水源地が非常に偏っているというところに特徴がございます。
 それから、後から窪田先生の方からお話があるんですけれども、ソ連時代の負の遺産がかなり残っておりまして、その中にアラル海の枯渇という問題がございます。これは後からお話を伺えると思います。
 それで、その次に二枚目のところで、中央アジアの五か国の本当に概観の大ざっぱな数字を出させていただいていますが、ここで見ると分かりますように、面積からいうとカザフスタンが抜群でございまして、日本の八倍ぐらいの面積ですが、人口は千六百万人ぐらいです。それに対して、ウズベキスタンは、面積は日本の一・五倍ぐらいですけれども、人口は中央アジアで一番多い、約半分を占める二千七百六十万人ということでございます。その後、タジキスタン、キルギス、トルクメニスタンは、人口からいうと五百万から七百万ぐらいのまた一桁小さい数字でございます。面積も小さいわけです。
 現在のGDPの規模を見てまいりますと、全体の規模もございますけれども、やはり資源が、特に石油、天然ガス資源に恵まれているところが相対的に高い一人当たりの所得を享受しておりまして、それに対して、たまたま上流国になりますけれども、タジキスタン、キルギスはその中でも非常に貧しいという状況であります。現在、カザフスタンが一人当たり所得が大体八千八百ドル程度ですが、その後トルクメニスタンがその半分ほど、それからウズベキスタンが更にその四分の一ぐらいになりまして、あと、タジキスタンとキルギスがもう一つ低いということで、所得格差がかなり大きくなっている。つまり、元々あったわけですけれども、大きくなってきているというのが実情でございます。
 それぞれの国の経済発展戦略というのがかなり独特なものがありまして、これについて時間を割くわけにはいきませんが、キルギス、それからカザフスタン、タジキスタンが比較的市場経済化のテンポを速く進めてきたというふうに言えるんですが、トルクメニスタン、それからウズベキスタンはある意味ではゆっくりと、特にトルクメニスタンは非常に緩やかな形での改革を志向してきたということが言えると思います。
 それで、今日の本題であります、この中央アジアの国の上流国と下流国の間の係争事項、これがある意味では地政学的な問題として大変大きな問題になってきておりまして、今後ともこれは非常に重要な問題としてあり続けるだろうということが予想されるわけです。
 それで、先ほど申し上げましたように、ソ連時代は言わばモスクワが事実上のコントロールをしておりましたので、下流国が炭化水素燃料を上流国に提供し、上流国が下流国の農業用の河川水を管理するというような構造が一応成立していたんですが、それが独立以降非常にぎくしゃくしてきております。それは、キルギスあるいはタジキスタンが下流国から受け取っている、特に天然ガスですけれども、その代金の支払に滞ることになりますと、その支払の問題と同時に、近くにあるより低廉な水力発電によってエネルギーを供給しようという誘惑にどうしても駆られるわけです。
 それで、以前は上流国は冬に水を蓄積して、そして春、夏に下流国の農業用水用の、かんがい用水用の水を放出するという、こういう一つの伝統的放出があったんですけれども、これがシステムがずれ始めまして、発電ということを重視いたしますと、夏季に水を蓄積して寒い冬に放出するという方向にウエートがずれてきたわけです。そうすると、今度は下流国の農業国であるウズベキスタン等にとっては大変困った問題を引き起こしがちということになります。それで、キルギスはシルダリア川の支流のナリンという川があるんですが、そこの水管理、それからタジキスタンはアムダリア支流のヴァクシュとか、この辺りの水管理で同じような方針を採用することになりました。
 そしてさらに、争点をここ最近先鋭化させているのは、当面の電力需要、電力を確保するという上流国の動きだけではなくて、やや長期的な開発戦略として、場合によっては電力輸出までを視野に入れた大規模水力発電プロジェクト、これを再開、着手するということに、非常に何というか開発戦略を懸けようとしているところがあるからであります。
 そして、具体的に申し上げますと、キルギスはナリン川にカンバラタⅠとⅡという、これ実はソ連時代に作られた構想、構想ができて、それで部分的には作られていたんですが、その後、手を付けられなくて、お金の問題もあって、これをもう一度再開する。タジキスタンはヴァクシュ川にあるログンという水力発電プロジェクト、これもまた非常に大規模なんですけれども、こういうものをやろうという動きをし始めています。
 これに対して、ウズベキスタンとしては、特に下流国の代表ですが、非常に激しく反発して、場合によってはウズベキスタンを経由してタジキスタンに入る輸送用のトラックがこの問題とかかわっていると見られる動きとしてストップさせられて、ある意味では非常にそういう問題にまで影響を及ぼすというような形になっております。
 さらに、紛争を激しくしている理由の一つは、ソ連時代に形成された分業システムあるいはモノカルチャーと言ってもいいんですが、この発想が意外にまだ根強く生きているところがありまして、全てではありませんが、それが代表的なのはタジキスタンのアルミ産業であります。タジキスタンは、現在輸出額の約六〇%がアルミニウムなんですが、面白いことに原材料のアルミナは全部輸入です。そして、低廉な電力を使うということによって比較優位を出そうということでやっているわけですけれども、タジキスタンは、今の発想では今後更に水力発電を強化して、またアルミ生産を拡大して、それを輸出として更にやろうという、そういう構想もまだ生きているということであります。
 それで、そのためのログンダムについては、ここに注一というところで簡単に紹介してございますけれども、意外にソ連時代のものが歴史が古いということだけをちょっと見ていただければと思います。もちろん、現在ダムを建設したりする場合は新しい技術でやりますのでそのままではありませんが、発想そのものはソ連時代からのものが生きているということでございます。
 それで、三の方に参りまして、中央アジアの水・電力問題を取り巻く、今は上流国、下流国の間の対立の問題を述べましたけれども、これをさらに、その外堀、外回りの国々との関係でこの中央アジアの水問題が一つの緊張を生み出しています。
 それは一つは、ロシアは場合によっては上流国に援助して、そして電力を場合によってはロシアに引くという可能性も一つ考えている。それから中国は、今西部大開発の中でいわゆる新疆ウイグル自治区への電力供給の可能性のある地域として例えば中央アジアを考えたいと。それからアメリカは、アフガニスタンの問題もありまして、アフガニスタンやパキスタンへの電力供給としての中央アジアというようなことも考えておりますので、さらに、アフガニスタン復興についてはアムダリアの水まで使うということになってきますと、更に水の問題をめぐった緊張は緩和されることは当面予想されないということになります。
 それから二番目は、この水の問題が政治ゲームの中に入り込んできております。
 ちょうどリーマン・ショックで、特にタジキスタン、キルギスは非常に大きな打撃を受けました。特に出稼ぎ労働者が最近非常に多くなっているのが現状ですが、その中で外貨危機に見舞われたわけですけれども、ロシアがそのときにかなり大盤振る舞い的な援助を提案していました。しかし、その中には二つのカンバラタそれからログンのダムの建設再開を援助するということになるわけですが、そうすると、今度は、下流国にとってみては、言わばウズベキスタンとかその他をある意味ではロシアが間接的にコントロールする問題とつながっていくというような形の地政学的な形の判断をいたします。そういうことで、それでまた状況が変わってまいりますと、ロシアは立場を少し変えてきまして、やっぱりこれは客観的な調査に基づいて再開を決めたいとか、下流国の合意を前提にするというような形で態度を変えたりしますけれども、これが政治ゲームの中に入り込んできているということが言えると思います。
 最後に、時間がもう限られていますけれども、これは列挙していることでございまして、一つ、中国のプレゼンスが非常に急速に今中央アジアで拡大しているということでございます。中国商品もありますし、それからトルクメニスタンからウズベキスタン、カザフスタンを経て中国の新疆省に既に二年前から天然ガスのパイプラインが開通しております。非常に長距離であります。
 それから、ロシアの中央アジア復権の動き。
 それから、先ほど申し上げた今旧ソ連圏の出稼ぎ労働が急増しております。ソ連時代よりも人の動きがある意味では活発化しているというのが現状でございます。
 あと、アフガニスタン問題に関連して、アメリカ・NATO軍の作戦でパキスタン依存がどうしても不安定ということで、中央アジアの戦略的地位が高まっているということがございます。
 それから五番目は、これは静かな動きですけれども、イスラム復興というのは中央アジアでもこれは静かに、着実に進行しております。これはテロということじゃないんですが、ちょっとこれも最近を見る上の一つのあれでございます。
 それで、最後になります。
 日本はどのような援助が可能かということでございますけれども、先ほど申し上げたように、中央アジア諸国間の水問題、ダム建設問題というのは非常に高度に政治化しておりまして、これを片方に肩入れするような動きというのは日本としては恐らく取れないということで、これは直接関与というのは事実上、当面は難しいしということであると思います。
 それから他方、むしろ省水・省エネルギー技術やマネジメントに関するいわゆる地道な協力というのが、ある意味では中央アジア五か国共通の利益ということで進められる課題の一つだろうと思います。ソ連時代の小規模かんがい施設というのは、かなり今メンテナンスが悪くてひどい状況であります。これはどうするのがいいというのはちょっと簡単な回答がないんですが、これも残された課題であります。
 それから、市場経済化の中で、大規模農業から小規模農業への自営業的動きが、全てではないんですけれども、一つの流れとしてあります。これについては、日本の小規模農家経営の経験を学ぶべきだとする声が現地からも時々聞こえてまいります。
 それから、あと四番目は、中央アジア・プラス・ジャパンというのは二〇〇四年、日本側が提案をしているわけですが、これはダイアログですが、この考え方は、基本的には中央アジアの結束をある意味では長期的に固めていくという方向への援助に重点を置きたいという発想がございます。これは、ある意味ではASEANの経験も考慮に入れているわけでございますけれども、現在、中央アジアの国が必ずしもまとまる方向ではなくて、ある意味では逆のベクトルもかなり強く働いていると。
 しかし、長期的にはあの地域の共通の利益というのは様々な面でありますので、これはやはり中央アジアの結束がまとまっていくという、そういう動きは、長期的な目で、やはり日本としてはそれが望ましいという姿勢をいつも表明しておく必要があるのではないかなと思います。
 最後ですが、ちょっとした話題でございますけれども、水管理の問題なんですが、この管理の問題で、最近は水利組合はどこの国もできているんですが、必ずしもうまくいっておりません。それで、実はソ連時代に水管理の問題について大きな変化がありまして、ソ連が成立した一九二四年の段階では、実は中央アジアの水管理の問題については、それ以前の伝統的なイスラムの法律に乗っかった形の水管理法はかなり蓄積されておりまして、それをソ連自身が非常によく研究して、それを適用しようという時期がございました。
 それが、スターリンが非常に力を持つようになった一九三〇年代ぐらいからこれが事実上消えてしまったんですが、現在再び、そんなこれにかなり水が足りないところでの水管理の知恵があるのではないかということで、中央アジアの行政官とかあるいは水の問題をやっている方がそういうものを掘り起こして、今もう一度それが使えないかというような動きがございます。
 ですから、ソ連時代にも一つの、ソ連と言われる時代の中でも最初は比較的柔軟な動きがあったんですが、その後も非常に強引な大規模農業の中でそういう知恵が埋没してしまったと。それがまたひとつ、これが日本の援助にどうつながるか、ちょっと私分かりませんが、私個人が非常に興味を持っていますので、ちょっと御紹介させていただきました。
 ちょっと二、三分、時間をオーバーしてしまいましたけれども、大急ぎでございましたけれども、これで私のお話を終わらせていただきたいと思います。
 どうもありがとうございました。

発言情報

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発言者: 清水學

speaker_id: 27018

日付: 2012-02-22

院: 参議院

会議名: 国際・地球環境・食糧問題に関する調査会