中原正孝の発言 (国際・地球環境・食糧問題に関する調査会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○参考人(中原正孝君) ただいま紹介いただきましたJICAの中原と申します。
本日は、南アジアの水問題とJICAの取組について述べさせていただきたいと思います。
私の南アジア部で所掌しております地域は、西からアフガニスタン、パキスタン、インド、バングラデシュ、北の方でネパール、ブータン、南でスリランカ、モルディブと、計八か国で成り立っております。(資料映写)
このスライドを御覧になってお分かりのとおり、この地域は安全な水の確保といった課題のほかに、環境、気候変動の影響によるネパールやブータンにおける氷河湖決壊のリスクや、二〇一〇年、二〇一一年と二年連続してパキスタンで発生いたしました大洪水やバングラデシュでのサイクロンによる被災など、様々な水にかかわる課題がございます。
本日は、地域に共通してニーズが大きく、JICAとしても大変積極的に取り組んでおります上下水道、安全な水の確保という課題に焦点を当てて述べさせていただきたいと思います。
最初に、南アジアの人口と貧困について、ほかの地域と比較してみたいと思います。
まず、人口です。
二〇二八年には中国を抜いて十四億人を超える、また二〇五〇年には十六億人を超えて世界最大の人口を抱えるインドを筆頭といたしまして、南アジアは世界で最も人口の多い地域となる見込みでございます。人口が増えれば、食料増産のための農業用水の増加とともに、工業用水や生活用水なども増加することが考えられます。
また、南アジア地域は依然として貧困層の割合が高く、人口はサブサハラ地域を上回り、世界の貧困層の約四割を占める最大の貧困地域でございます。このことは、南アジア地域が、安全な水とともにトイレや下水などの衛生環境改善のニーズが依然として大きいということを示しております。また、一人当たりの所得が増えれば、一定の生活水準を支えたり、あるいは更に上げるための水需要というものは増加してくるものというふうに考えられます。
南アジアにおけるミレニアム開発目標の現状を示したものでございます。
濃い青の部分が南アジアを示しております。この資料の中ではどういうわけか中心部に対象の人口の合計が出ておりませんが、まず左側の、安全な飲料水を継続的に利用できない人口は全世界で八億八千四百万人となります。うち南アジア地域は二億七百万人で、全体に占める割合は二三・四%と、サブサハラ・アフリカに次いで世界第二位でございます。右側の、下水やトイレなどの基本的な衛生施設を継続的に利用できない人口は全世界で二十五億三千三百万人、このうち南アジア地域は十億七千九百万人で、全体に占める割合は四二・六%と、最も高いものになっております。
さて、南アジアの水問題の特色についてでございます。
まず、水の需給ギャップの増大。人口の増加、特に都市人口の増加に伴い給水能力と需要とのギャップが大きくなっております。インドの首都デリーの給水時間は一日に僅か六時間でございます。インドの水源に乏しい小都市では数日に一、二時間程度の給水時間でございます。
二番目は、施設老朽化と脆弱な運営能力による高い無収水率。南アジアの国の多くは旧英国の植民地で、当時に布設した給排水管の老朽化が深刻な状況でございます。中には七十年から百年前のもので、老朽化に伴い漏水問題が顕著な地域が目立っております。漏水は、必要としている地区まで給水ができないばかりか、漏水箇所から汚水が混入し水質を悪化させるとともに、様々な水の関連した疾病の原因ともなっております。
三番目は、安全な水の確保でございます。南アジアには弗素や砒素という大きな問題がございます。インドでは弗素症の被害者が約六千六百万人に上るという報告がございます。また、砒素につきましてはインドの東側の西ベンガル州やバングラデシュの主に南西部において大きな問題となっております。
バングラデシュにおきましては、砒素の影響を受ける人は三千三百万人に上っております。ここに記載している人口、安全な水にアクセスできない人口が二千二百万人というのは、この砒素を受ける人たちに対して何らかの対応ができた後の人数でございます。
弗素は、長期の摂取により体が硬化し、最悪の場合、歩行困難となります。砒素は、皮膚の角化や、内臓、胎児に影響を与えるとともに、がんを発症することがございます。
四番目は、低い下水道の普及率でございます。上水道の普及率以上に下水道の普及はこの地域の大きな課題になっております。南アジアのほとんどの国で上水道へのアクセス率に比べて下水道のアクセス率は下回っております。
ここで取り上げているスリランカはその例外で、二〇〇八年の統計でございますが、上水へは九〇%、下水を含む衛生施設へのアクセスは九一%に達しております。
このような状況もあり、スリランカ政府は下水道を各家に接続する率を現在の二・三%から二〇二〇年までに七%まで改善することを目標としております。
これらの課題、これらの国に対してJICAとして取り組んでいることにつきまして述べさせていただきたいと思います。
まず、上水供給能力改善支援ということで、インドのデリーの上水道改善事業に今後取り組んでまいる予定でございます。多くの日本企業が進出している首都ニューデリー地区を含むモデル地域を対象に、現在朝夕の一日二回、合わせて六時間程度しか給水がされていない状況を、大きな新しい施設を建設することなしに既存の施設を改修することによりまして、インドにおける大都市の初の二十四時間連続均等給水を目指すものでございます。また、事業効果の表の中にございますとおり、現在の無収水率五〇%を一五%に減らすことも目標にしております。
続きまして、パキスタンでの老朽化施設の改善と水道事業体の能力強化支援の取組についてでございます。
パキスタンでは、無償資金協力と技術協力を通じて水問題に取り組んでいる事例として取り上げております。パキスタンは、南アジア地域の中でも都市における人口の比率が約四割と比較的高く、パキスタンの人口一億七千万人のほぼ半分を占めるパンジャブ州、その州都の上下水道公社を対象といたしまして、左側に見えます排水ポンプの更新を含めた排水能力改善の機材供与と、右側の技術協力で取り組んでおります水道公社の能力向上を目指すものでございます。このラホールにおける取組を元に、パンジャブ州のほかの都市に展開を図る予定でございます。
続きまして、バングラデシュにおける持続的な砒素対策プロジェクトについてでございます。
バングラデシュでは、地下の十五メートルから六十メートル程度の浅い層が砒素で汚染されていることから、当面の対策として、汚染の少ない地下百五十メートル以上の深井戸を代替水源として開発したり砒素の除去装置の設置などを進めております。このプロジェクトの特徴といたしましては、住民が主体となって中央や地方の行政機関が支援する形で、三者が連携しながら砒素対策に取り組んでいる点でございます。この事業につきましては、豊富な経験を持つアジア砒素ネットワークと連携して取り組んでございます。
スリランカのキャンディ市の下水道整備事業でございます。
首都コロンボに次ぐスリランカ第二の都市キャンディ市は人口約十二万人でございますが、上水道の普及や人口、観光客の増加に伴い、汚水の排出量が増加する一方で十分な汚水処理が行われていないため、衛生状態や水源河川の水質が悪化しております。本事業は、有償資金協力により下水処理システムや貧困層を対象とした衛生設備の整備により、河川の水質を向上させ、地域の生活状態の改善と健康状態の改善に貢献することを目標としております。
ただいま述べさせていただきましたとおり、JICAは技術協力それから有償資金協力、無償資金協力という様々なプログラムを用いまして最も効果的、効率的な取組を図っているところでございます。
このスライドでは、南アジア地域の上水道分野でどの程度の支援を行っているかということでございます。二〇〇六年から二〇一〇年度までの五年間におきまして、南アジアでは円借款につきましては、上下水関連は第一位の二一・三%の事業を行っております。また、無償資金協力につきましては、当該の期間に実施しました金額のうち約一三%をこの上下水分野で活用しております。
また、様々な自治体や大学とも一緒になって連携をしているところでございます。
最近では、本年一月に横浜市とともにアジア地域の上水道事業経営・人材育成セミナーを開催し、南アジアから五か国、十五名の関係者が参加いたしました。また、横浜市はインドのムンバイ市と姉妹関係にあることから、今年の一月にムンバイ市を訪問して水を含む都市問題について意見交換を行いました。また、東京都の水道局も本年一月にバングラデシュを訪問し、今後の支援の可能性を検討しております。
このように、日本の自治体も積極的に南アジアの水問題に取り組むという姿勢を見せていただいているところでございます。
二十一世紀は水の世紀と言われるほど、南アジアに限らず、世界的な問題でございます。世界最大の貧困人口を抱える南アジアにおきましては、人間の安全保障にかかわる上下水道事業のニーズと優先度は大変高く、JICAといたしましても、日本企業の技術力と自治体の運営ノウハウを活用して、資金協力や技術協力を組み合わせて、効率的、持続性の高い事業を今後も形成、支援してまいりたいと考えているところでございます。
御清聴ありがとうございました。