久保田英幹の発言 (法務委員会)

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○参考人(久保田英幹君) 日本てんかん協会副会長の久保田でございます。てんかんの専門医でもあります。
 本日はこのような機会を賜りましたことを心から御礼申し上げます。不慣れではございますが、精いっぱい意見を述べさせていただきたいと思います。
 最初に、交通事故で犠牲になられた方々の御冥福をお祈り申し上げるとともに、御遺族の皆様には心からお悔やみを申し上げます。
 私たち日本てんかん協会は、てんかんの子を持つ親の会とてんかん患者を守る会が一九七六年に統合したもので、国際てんかん協会の日本支部としても承認され、医療と福祉の谷間に置き去りにされていたてんかんのある人の生活の質向上のため、社会啓発や福祉、教育、労働などに関する調査、研究、提言などを行ってきました。中でも、患者、家族が病気に関する正しい知識を持ち、病気と向き合い、積極的に社会参加するための相談会や講演会は会の中心的な活動です。
 今回検討されております法律に関する意見を述べる前に、てんかんとはどのような病気なのか是非とも御理解いただきたいと思います。
 てんかん発作は、大脳の神経の一時的で過剰な活動、つまり神経の活動が一時的に高まることによって起こり、脳の極めて多様な働きからお分かりのように、症状は過剰な活動の始まった場所と広がり方により実に様々です。
 資料の二ページを御覧ください。
 具体的には、意識を失ったり、ぼうっとするような発作が三分の一、六分の一の発作は、意識を失わず、吐き気や耳鳴りなど患者さん自身にしか分からない感覚あるいは身体の一部が動くだけの発作で、四分の一は全身のけいれんです。
 ところが、日本てんかん協会が実施した市民意識調査では、八七%の人が、てんかん発作というと急に倒れてけいれんする危険な症状と考えていました。この認識のギャップが患者さんの悩みの一つです。意識を失ったりけいれんするのは、血糖などを含む血液成分の異常や心臓の病気、脳の血流の異常でも起こり、危険性は突然眠ったりする症状とも同じです。てんかん発作だけが特別に危険な状態に陥るわけではありません。
 発作時の対処方法は静かに見守るが原則ですが、調査では、五八%の人が口に物をくわえさせると、してはならない対処法を選択しました。揺する、押さえ付けるも合わせて八%の人が選択していましたが、これも正しくありません。
 発病のピークは乳幼児期と老年期です。特に高齢者で増えており、小児期を凌駕しております。原因は、脳の血管障害や外傷、炎症、腫瘍、脳の形成過程など様々ですが、特定の遺伝子で発病することはまれです。反面、発病に関する遺伝子は誰もが持っております。百人に一人という神経の疾患の中では高い有病率はそのためで、患者数は百万人と推定されており、これは脳血管障害の患者数百三十万人に匹敵します。
 てんかんは遺伝するという誤った考えを多くの人が持っています。てんかんのある人は、長期的には五〇%の人が発作が止まり服薬も不要となり、二〇から三〇%の人は服薬していれば発作は止まっており、残り二〇から三〇%の人が服薬しても発作が止まりません。この中には、外科手術で発作が止まる人もいます。日本で外科手術の対象になるのは年間二千人と推定されておりますが、実際に受けているのは五百人にすぎません。
 治療に関する調査項目で、一般市民の四八%の人は治るかどうか分からない病気と答え、一一%の人は治らないと答えております。鍼灸、加持祈祷、信仰で治ると答えた人が合わせて四%もおりました。
 服薬の有無にかかわらず五年以上発作が止まったら医学的に寛解、治癒とみなされます。しかし、発作が抑制され医学的に服薬の必要のない人でも、万が一のことを考え服薬を継続している人は少なくありません。てんかんがありながら社会の様々な分野で多くの人が活躍しています。ノーベル賞のノーベルや、ドストエフスキーもその例です。
 以上、述べましたように、てんかんに関する医療情報は市民に十分伝わっておりません。日本では、てんかんどころか発作の介助に関する教育も行われておらず、これが認識のずれや偏見を招いております。どの病気もそうですが、患者さんはなりたくて病気になったわけではありません。多くの患者さんは、その不幸をしょいながら、しっかり自己管理し、病気と闘いながら頑張っております。ただ、病気が悪いように意見されるものですから、身を縮め生活しているのです。
 患者さんは社会の正しい理解を求めています。現実には、危険で遺伝する不治の病という誤った認識の中、病気を隠さざるを得ない人も少なくありません。それを非難することはできません。運転に不適切なのは症状であり、病気そのものや病気のある人ではありません。てんかんのある人の七〇から八〇%の人は運転適性があります。
 今回の法改正の端緒は、鹿沼で起こった痛ましい事故です。どんな病気もそうですが、病気を持ちながら生活するためには、病気に応じた自己管理が必要です。てんかんであれば服薬は最低限必要で、それ以外に生活リズムを整えたり過労やアルコールを避けるということが薬と同じように重要な人もいます。大切なことは、一人一人が自身に必要な自己管理術を身に付けることです。クレーン車の事故を起こした人はその点が非常にまずかったのだと思います。しかし、そのような人はてんかんのある人の中では極めて例外です。
 一方、自己管理がうまくできない人が自動車運転に適さないのは、病気のあるなしにかかわりません。亀岡で無免許の上居眠り運転で事故を起こした青年や、市街地でドリフト走行を繰り返した末、車を宙に飛ばした運転者も、運転に対する自己管理ができなかった若者でした。例外的な人が病気を持っていたからといって、全てを病気で理解しよう、病気に結び付けようとするのは間違いだと思います。むしろ、病気が十分知られていないからこそ、クレーン事故イコールてんかんイコール規制といった短絡的な反応が出ます。
 繰り返しになりますが、運転に際して自己管理が必要というのは、事故防止のための普遍的な事柄であり、病気の有無とは直接関係ありません。
 道交法改正では、ごく一部の例外的な人の起こした事故をとらえ、形式的に病状申告率が低いという理由で病名を特定した厳罰化が実現しました。この法律は、病気を知られることを恐れ、静かに真面目に生活している人に強引に病気を開示させるものです。早く病気を忘れたかった、治ったので不要と思っていた、個人情報の漏えいが不安であった、特別な免許証になって病気が知られるのが怖かった。事実でないことも含め、運転適性がありながら申告しない人の理由は様々です。
 確かなのは、これら自己申告をしていない人の大半が、交通に関して危険を及ぼすことがないということです。道交法改正では、本当に危険な人をピンポイントで運転させないような制度設計でよかったはずです。多くの患者さんは、今回の道交法改正を病気のある人に過剰で無慈悲な規制と感じています。その上で今回の刑法の厳罰化があります。
 資料四ページ、五ページを御覧ください。
 てんかん発作による事故は、この二十二年間一定であるにもかかわらず、センセーショナルな事故報道と法律の厳罰化の動きは、てんかんが過度に危険な病気と印象付け、その結果、学校や職場での不適切な対応が急増しております。
 鳥取県では、養護学校の校長先生が、事故報道に触れ、てんかんがこんなに恐ろしい病気とは思わなかったと述べ、発作は危険であり、定時運行の妨げになるという理由で、てんかんのある児童のスクールバスの利用を禁じるという事件が起こりました。御両親は、離れた学校まで毎日子供を送迎せざるを得ない状況が続いており、関係者の努力のかいなく、いまだに解決しておりません。発作が止まっているにもかかわらず、てんかんというだけで長年働いていた職場を解雇されたなど、てんかん協会には、特に教育、労働における不適切な対応の相談が寄せられています。
 今春制定されたばかりの障害者差別解消法は、障害者に対する直接的、間接的差別とともに、合理的配慮の欠如を差別として禁じております。多くの不適切な事例の相談を受けるたびに、差別解消法さえあればとその成立を心待ちにしておりましたが、差別解消法以前の問題が多数起こっていることに愕然とします。
 今回の刑法改正について意見を述べます。
 てんかん協会は、当初より、罪を犯した人は病気の有無にかかわらず相応の社会的責任を負うべきである、社会が特定の罪に対して厳罰を求めるのであれば、その社会の一員として従うべきであると意見を表明してきました。ただし、法律が差別を助長するようなことがあってはならず、ましてや法律が差別そのものになってはならないとも要望してまいりました。
 本法の問題点を挙げます。
 第一に、アルコールや薬物と病気は、運転適性に関する心身の状態が異なるという点です。前者はそれを摂取した時点で運転適性がないのに対し、病気は一定の条件の人だけが運転適性を欠きます。したがって、法の対象に関して病気という表現は適正ではありません。病気のために運転適性を欠く人が対象であるということを法に明記する必要があります。
 第二に、道交法六十六条には、運転を禁ずる状態として、過労、病気、薬物の影響その他と記されておりますが、過労運転だけを本法の対象から外しました。理由は、睡眠とは意識と無意識を行き来しながら最終的にすとんと落ちるため、過労、すなわち眠気の認識の立証が困難というものです。てんかん発作こそ正常な運転ができなくなる瞬間の認識は困難であり、この理論では、てんかん発作の故意性は問えません。過労と病気で同様の現象に対する解釈が異なっているのは問題であり、結果的に一部の病気による事故が重大視されることになります。
 対象となる疾患を過大に危険視し、重大な処罰の対象とするのは差別です。平成二十三年度版交通事故統計年報によれば、発作、急病による事故は二百六十六件であるのに対し、過労運転による事故は四百十三件でした。
 本法はまた、薬物による居眠り運転を対象としておりますが、一方で、居眠り運転を対象としながら、過労運転の直接の原因である居眠りを対象としないという矛盾も内在しております。過労運転に関する議論を深める必要があります。
 さらに、法制審に出された法務省の資料によれば、外国では、ドイツの刑法にアルコールと病気に関する刑罰があり、五年以下の自由刑とされています。ただし、病気に相当する項目は、精神若しくは身体の欠陥の結果とだけ記されており、特定の病気は全く指定されておりません。
 資料十二ページ以降を御覧ください。本法がよるところの海外の道路交通法を見ますと、英国では百五十三疾患、オーストラリアでは五十の疾患が運転不適切な状態としてリストアップされております。収縮期血圧が二百ミリメートルHg以上、あるいは拡張期血圧が百十ミリメートルHg以上の高血圧、直径五センチ以上の胸腹部大動脈瘤など具体的です。したがって、もしどうしても病名を挙げる必要があるというのであれば、諸外国のように事故の危険性のある病気を徹底的に挙げるか、あるいは反対に、運転に必要な認知、予測、判断、操作に適性を欠く状態を呈する病気と一行だけ総論を示すべきです。たった六つの病気を取り上げるということは、差別を助長するどころか差別そのものであり、絶対欠格事由を相対化させた理念に反するものです。
 対象となる病気は政令で定められるとされておりますが、法制審では、対象を道路交通法から引用し、六疾患に絞るとしております。さきの道交法改正に関する参議院内閣委員会において政府は、それら六疾患が統計上危険という根拠はないが、医学的に病気として概念が定着していると述べております。要は、統計はないが、医学的に危険性は確立しているということです。
 お手元の資料八ページを御覧ください。日本の多くの、八学術団体から本委員会にあてられた要望では、これら病気による事故率が他の要因に比して高いという医学的根拠はないとしております。根拠なく特定の疾患だけを刑罰の対象にすることは、障害者に対する差別の禁止を定めた障害者基本法四条に抵触するのみならず、法の下の平等を定めた憲法十四条及び社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進を定めた憲法二十五条に違反するとともに、障害者差別解消法が禁ずるところの直接的差別にも該当するもので、病気に対する差別を助長し、病気の早期発見や適切な治療を妨げるものです。
 本法の審議には十分な時間を掛けていただくとともに、三条二項は削除していただき、過労運転を含め、対象の選定から審議をやり直すべきと考えますが、差別を生まないという視点から、最低でも三条二項の表現は変えていただきたいと思います。同条項の病気として政令で定めるものを、病気の症状として政令で定めるものと是非とも修正していただき、法制定後は病気のある人に与える影響を検証し、五年を目途に見直すことも切にお願い申し上げます。
 御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 久保田英幹

speaker_id: 3494

日付: 2013-11-14

院: 参議院

会議名: 法務委員会