尾崎正直の発言 (憲法審査会)
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○尾崎正直君 高知県知事の尾崎正直でございます。
きょうは、こういう発言をさせていただく機会をいただきまして、まことにありがとうございます。
私からは、防災対応上の必要性について、そして地方自治に関係する点について、ぜひ論点として憲法審査会で大いに御議論いただきたい、そういう趣旨の発言をさせていただきたい、そのように思います。きょうは、防災大臣も御経験の古屋先生、中川先生、お二人においでいただいておりますので、ぜひ防災という観点から憲法についていろいろ御議論をいただきたい、そのように思います。
お手元にお配りしております資料の一ページであります。
こちらに、南海トラフ巨大地震が発生した場合のいわゆる想定被害、最悪のパターンと言われるものについての記載をさせていただいております。南海トラフ巨大地震、死者数約三十二万人、避難者数約九百五十万人、経済被害約二百二十兆円ということが想定をされているわけでありまして、死者数だけでも東日本大震災の約十六倍という巨大災害となる可能性がある災害であります。
二ページを少しごらんいただきたいと思いますが、こちらに、南海トラフ地震が起こりました場合の想定被害につきまして、やや詳しく書かせていただいております。
例えば高知県におきましても、最高波の津波高三十四メーターということが想定をされておりまして、こういう巨大な津波からどうやって県民を守るのかということについて、できる限りリアルに状況を想定して対応していこうと日々努力をしているところでございます。
この南海トラフ巨大地震が発生いたしますと、左下にありますように、全国民の約五三%がこの地震により影響を受けることが想定をされております。さらには、製造品出荷額の約六六%が影響を受けるというわけでありまして、恐らく日本の製造業は全てとまってしまうなぞという事態が生じるのではないか、大変な事態が待っているということであります。
このような地震はなかなか実際には起こらないのではないかというふうに言われてもいますけれども、歴史を振り返ってみますと、右側にありますように、大規模な巨大地震がいわゆる三連動型で発生をしてきたという現実がございます。
例えば一七〇七年、宝永地震が発生をいたしましたときは、南海、東南海、東海地震が三連動型で発生をし、さらにその四十九日後に富士山が大爆発を起こすという非常に厳しい状況に日本は置かれたわけであります。
現代においてもこういうことが起こり得ないわけではありません。いかに最悪の事態をリアルに想定してあらかじめの対応を考えておくべきか。
その点から、私としては、一ページにお戻りいただきたいと思いますが、ぜひ、国民の生命財産を守るため、迅速に法整備、補正予算編成が行われる体制を整えていただきたい。その際、国会が正常に機能しない場合が考えられるのではないかという点について、ぜひ御議論をいただきたいと思っています。
具体的には、国会議員の任期や選挙期日の特例、政府の権限の特例を憲法に規定する必要がないか、御議論いただきたいと思います。
二番目でありますけれども、迅速な救助、応急活動などなどを実施するに当たって、どうしても憲法が保障する権利を制限せざるを得ない場合というのも考えられるのではないか、その現実論に立った御議論をぜひいただきたいと思います。このことは、緊急時を理由とした過剰な権利制限を防止するという観点からも非常に重要な点ではなかろうかと考えておるところです。
少し詳し目に御説明させていただきます。三ページをごらんいただきたいと思います。
こちらは、まず第一の論点であります国会が正常に機能しない場合の対応についてでございます。
一番上にございますように、南海トラフ巨大地震が発生した場合には、新たな法整備や補正予算編成などを迅速に図っていくためにも国会が正常に機能することが求められますが、現行の憲法の規定では、幾つかの点において不安が残ります。
まず、想定される事態でありますが、南海トラフ巨大地震が衆議院の解散中または任期満了前の選挙期間中に発生した場合、先ほどのような被害が発生する中、とてもではないですけれども、衆議院選挙を実施するということはできない、そういう事態に陥る可能性があります。この場合、国会議員が長期間不在になってしまうおそれがあります。
日本国憲法第四十五条には、「衆議院議員の任期は、四年とする。」とはっきりと年限を画して書いてありまして、これは参議院でも同様であります。この期間を超えて選挙が行われない場合、長期間にわたって議員不在という状況になりかねません。
この衆議院の解散中の対応については、参議院の緊急集会制度が定められておりまして、一定の対応は可能であります。
しかしながら、先ほどのような広範な被災ということを考えますれば、南海トラフ巨大地震からの復興イコール国全体のグランドデザインを描く議論をしていただかなくてはならない状況であります。民意の反映という点で、特に衆参同一選の場合に、緊急集会のみの対応で本当に大丈夫なのだろうか、十分な御議論をいただきたいと思います。
民意を代表する多くの国会議員の議論を尽くす必要があるのではないかと考え、国会議員の任期、選挙期日の特例について憲法に規定することを御検討いただきたい、そのように思います。
さらに想定される事態といたしまして、南海トラフ巨大地震が発生し、その後、富士山が噴火し、さらにスーパー台風が全国を直撃するなぞという形での大規模複合災害が起こるおそれというのを否定できません。現実に、宝永地震では、三連動地震の直後に富士山が大爆発をいたした、そういうことがございました。
こういう中において、全国的に交通網が寸断されていく中で、国会の迅速な参集が困難になるおそれがあります。さらに言えば、定足数を満たす議員を集めることができるかどうかという問題も出てくる可能性がございます。やはり補正予算の迅速な編成などなどを行っていくためにも、政府に一定の権能を持たせる必要はないかということであります。
緊急時における政府への法律制定や補正予算決定と同等の効果を有する権限の付与について、国会の事後承認とあわせて憲法に規定する必要はないか、御議論いただきたいと思います。
そして、四ページでありますが、緊急時の権利制限に関する規定についてであります。
南海トラフ巨大地震の発生時に、憲法上の基本的人権、財産権、居住、移転の自由を制限してでも国民の生命身体を守らなければならない事態が生じ得ると考えます。
諸外国のように、緊急時の権利制限に関する規定についてあらかじめ憲法に規定する必要はないか、御議論いただきたいと思っております。これは、緊急時に名をかりた過剰な人権制限が長期間継続することを防ぐことにもつながる、非常に人権擁護という観点から大事な観点だと思っております。
想定される事態として二つのケースを挙げておりますが、例えば、財産権の侵害をどうしても図らないと避難場所、避難路を確保できない、そういう事態も想定されるわけでありますし、さらには、災害対策基本法で定める、人命を守るために退去を強制することができるという規定はございますけれども、しかしながら、非常時において、対応できる資源が極めて限られる中で効果的、効率的な援助等を行うためにやむを得ず退去を強制せざるを得ない場合などということも想定されるわけであります。
そのような権利制限について、諸外国でもそのような例があります、あらかじめぜひ御検討をいただきたい、そのように思います。
最後、五ページでございますけれども、地方自治の保障、地方分権の推進という観点から御意見を申し上げさせていただきたいと思います。
この五ページに掲げられておりますのは、全国知事会が平成十七年度に憲法問題に関する報告書として提出させていただいたものでございまして、日本国憲法において地方自治の基本原則をより明確に明記することなどの御検討をぜひお願い申し上げたい、地方分権を前提とするという形での憲法の規定の整備をお願いしたいと考えております。
そして、最後でありますけれども、ぜひ私として御検討いただきたいと思っておりますのは、参議院議員についてであります。
ぜひ、これは都道府県代表という性格も持たせていただきたい、そのように考えております。人口が多いところの議員の数が厚くなるという制度であれば、人口が多くなるところほど有利な政策が展開され続けるということになり、これがますます人口の過度の集中を招くということになりかねません。
人口が少ない地域の発展のためにも、人口が少ない地域の意見を反映する議員代表という考え方も必要だ、そのように考えております。アメリカ合衆国でもそうでありまして、上院の制度はそうなっているわけでございまして、ぜひとも、参議院議員は都道府県の代表としての性格も持つ、そういう方向でもっての憲法上の御議論というのをお願い申し上げたい、そのように思います。
以上であります。