生熊茂実の発言 (厚生労働委員会)
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○生熊参考人 きょうの委員会審議の参考人に招致いただきました全国労働組合総連合副議長・全日本金属情報機器労働組合中央執行委員長の生熊です。
本日は、陳述の機会をいただき、ありがとうございました。
私は、きょうこの場に立つに当たって、私なりに頭を整理してまいりました。しかし、審議が進めば進むほど、この法案の持っている矛盾あるいは混乱が明らかになっていると思います。改めて、慎重審議をまず最初にお願いしたいというふうに思います。
第一の問題は、社会政策上の観点であります。
私は、これ以上、雇用が不安定で、賃金や労働条件の劣悪な労働者をふやしてはならない、こういうふうに思います。孫子の代まで安心できる日本社会を残すためにも、劣悪な雇用や労働条件で働く派遣労働者を一層ふやすような本法案を成立させてはならない、このことを最初に訴えたいと思います。
今回の法改正は、派遣労働者をふやすものではない、あるいは、正社員になりたい人は正社員化ができる、こういう議論がありますが、それは事実に反します。
なぜ派遣労働者がふえると言えるんでしょうか。
ちょっと話がかわりますけれども、私は、二〇〇三年の労働基準法改正法案の参考人質疑で、やはり同じこの場に立ちました。その当時、その法案、解雇は自由というふうなものに対して全ての労働団体が反対をいたしました。そして、民主党の山井議員や当時の共産党の山口議員などとともに協力して、社会通念上相当でない解雇は無効と修正させた重要な委員会審議でありました。
そのとき私は、その法案に含まれていた有期雇用契約の上限を一年から三年に延長するということについて、その危険性を指摘いたしました。有期雇用の上限を三年にすれば、製造業などでは一年の臨時雇用ができないことも相当できるようになる、そうすれば有期雇用がふえて不安定雇用が増大するだろうというふうに申しました。少子化が問題になっているときに、若者の有期雇用がふえ、雇用が一層不安定になり、それでは結婚や出産をためらうことになって、少子化が一層進み、深刻なことになる、そういうふうに申し上げました。
残念ながら、その心配は現実のものとなりました。現在は、非正規雇用労働者が四割近くになってしまいました。製造現場でも有期雇用がふえ、二年半あるいは二年十一カ月で全ての労働者を入れかえるための雇いどめが当たり前のように行われております。しかも、その契約は、六カ月契約程度の繰り返しであります。いつ雇いどめになるかわからない状況であります。三年働くことさえ保証されていません。
有期雇用労働者も派遣労働者も、いつ雇いどめ、契約解除になるかわからない、こういう不安の中で働いています。そのことが、どんな無理を言われても働かざるを得ないという劣悪な労働環境を押しつけることになります。そういう中で一層少子化が進んだことは否定できないというふうに思います。
とりわけ派遣労働者は、どんな不満があっても派遣先には何も言えないという状況にあります。苦情を言えば派遣元から雇いどめされたり、派遣先を変更されたりすることが日常行われているからであります。また、派遣期間制限三年を前にして直接雇用に変える、また三年以内に派遣労働に戻す、こういう雇用のキャッチボールもされました。
これでは正社員への道は開けないことは明らかであります。事実に基づく法案審議を行うためにも、こういう実態の調査、把握を求めたいと思います。それを本委員会に報告して、審議を慎重に行っていただきたいというふうに思います。
また、なぜ少子化が起こるのか、どんな問題が起こるか、もう少し意見を述べたいと思います。
非正規雇用労働者は、若者では五割を超えます。若者が将来の夢が持てず、結婚や出産に踏み切れない労働者が多い、これが少子化の原因の大きな一つであることは否定できません。少子化は、労働力不足をもたらすだけでなく、消費意欲の高い若者の減少が国内消費の大きな減退を招いていることも事実であります。そして、若者の雇用が不安定になることが、税金や社会保険料の減収につながり、年金や健康保険にも悪影響を与えています。まさに大きな社会問題になっているところであります。
五月二十七日、日銀の岩田副総裁が北海道で講演をいたしました。消費税増税の悪影響が予想を上回ったのは、低調な雇用環境が続いて低所得者が増加し、高齢化が進展していたなどの要因があると認めざるを得ませんでした。この低調な雇用環境、低所得者の増加に、派遣労働者などの非正規雇用労働者の存在が含まれていることは明らかであります。
日本経済の再生、成長のためにも、これ以上不安定な雇用をふやしてはならない。派遣労働などの非正規雇用は、働く者個人の暮らしや人生に悪影響を与えるだけではなくて、日本経済や社会保障の土台にとっても大きな悪影響を与えることになります。
繰り返しますが、社会政策の上から見ても、これ以上不安定雇用をふやしてはならない、このように考えます。
第二点であります。
今回の内閣提出法案には、厚生労働大臣は、法の運用に当たっては、派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とするとの考え方を考慮するとしています。しかし、法案の内容は正反対の事態をもたらすことになり、この法案自体が大きな矛盾を抱えていると言わなければなりません。この点は、五月二十日の本委員会の審議で、維新の党の井坂議員の質問でも指摘されたことであります。
派遣労働が職業安定法の例外として認められたのは、あくまでも限定した業務によるものでした。業務に専門性があるので交渉力が強いとか、あるいは臨時的かつ一時的業務だから派遣労働を認めるというものでした。いずれにしろ、業務が基本になっていたことは疑いありません。
もちろん、派遣労働は間接雇用であります。ですから、労働基準法第六条や職安法第四十四条で禁止されている中間搾取や労働者供給を野放しにしないという意味でも、臨時的かつ一時的でなければならないというふうに思います。
業務による期間制限は一年、上限でも三年という規定は、その業務を継続して行おうとするならば、人を入れかえても派遣労働は利用できなくなります。ですから、直接雇用にしなければならない、こういうことになります。そのようになれば、経営者にとっても、正社員になってもらってしっかり働いてもらおうという契機になることは明らかであります。
業務による期間制限は、直接雇用、正社員化の推進力となっていることは明らかです。直接雇用、正社員化を推進しようというのなら、絶対にこれは維持されなければならない、このように思います。
ところが、人を単位にして、同じ業務でも人をかえれば派遣労働を利用できる、また、同一の派遣労働者でも、課単位と言っていますけれども、課単位をかえれば派遣労働を利用できる、そうすれば、いつまでも派遣労働者を利用できる。このようになるなら、経営者は正社員の雇用は控えることになり、正社員は激減するということは明白ではないでしょうか。
そして、派遣労働者は、正社員になる道を閉ざされます。いわゆる生涯派遣、一生派遣ということになります。しかしながら、生涯派遣といっても、生涯安定した派遣で働けることは何にも保証されていません。あくまでも派遣先の仕事の状況に左右されるのであります。
そしてまた、派遣労働は業務の遂行能力だけが必要とされています。派遣先による個別の労働者の特定は許されません。それは、派遣先による雇用と同じことになるからです。
ところが、人を単位にし、課をかえて派遣労働を続けさせるということになれば、それは必ず個別労働者の特定、選別につながる、このようになります。全ての派遣労働者にそのように派遣労働を続けさせる、こういうことは想定することはできません。それは明らかに労働者の特定ということになり、派遣労働の根幹が崩壊することになります。この問題をどう考えるんでしょうか。
業務単位から個人に単位を変えるということによって、このような大きな矛盾がこの法案には含まれています。
また、五月二十日の本委員会の審議で、臨時的かつ一時的労働の原則と、派遣労働がいつまでも利用できるようになる、この整合性を問われて、政府委員はこのように答弁をいたしました。三年でリセットされるから、次の三年も臨時的、一時的労働になる。さすがに議場でも失笑が漏れました。法案には派遣可能期間の延長となっております。これをリセットするというような答弁は成り立つのでしょうか。
こういうことを見ると、派遣労働の考え方の土台が全く変わってしまった、異次元の政策転換になる、このように言わなければなりません。繰り返しますが、派遣労働の原則の根幹が壊れています。
また、三年ごとに自分のキャリアを見直す契機にする、このような議論もあるようですが、三年ごとに見直すべきなのは、本当に臨時的かつ一時的労働が利用できる業務なのかどうか、そのことを検討することではないでしょうか。継続して存在する業務なら、直接雇用、正社員化を図るべきです。
また、派遣期間制限なしの専門二十六業務は、その運用がわかりにくいと言われ、それが今回の法改正の論拠の一つともなっています。
わかりにくいというなら、現在の二十六業務が本当に専門性があるのかどうか、そのことを検討して、専門性に疑義がある業務を省令から外すこと、これこそわかりにくいという問題を解決する道ではないでしょうか。
今回の改正で、現在二十六業務で就業している派遣労働者が切り捨てられるという心配があります。二十六業務の派遣労働者にも三年の期間制限を適用して、それを超えて派遣労働を利用しようとするなら、直接雇用、正社員化を促進する、このことが必要だというふうに思います。
実例を挙げて紹介したいと思います。
徳島にあります、トヨタ自動車の関連会社ジェイテクトの子会社、光洋シーリングテクノという会社です。私は、この問題の初めから、全ての人が正社員化されるまで、直接、団体交渉にも参加してきた当事者であります。
二〇〇四年から違法な偽装請負と闘う中で、労働者の違法な働かせ方に対するマスコミや世論の批判、三年の期間制限もあって、経営者が、技術や技能の継承には直接雇用がいいという結論になりました、このように団体交渉で回答してきました。かなり長い期間はかかりましたが、当時の派遣労働者全員が直接雇用、正社員になることができました。
これによって、五十歳の労働者は、ボーナスも出るようになったこともあり、年収が三百万円から倍加いたしました。一人平均でも年収が二百万円ふえ、結婚ができた、あるいは、住宅ローンが借りられ住宅を持つことができたなど、地域経済にも好影響がありました。全体で百人以上の正社員化になりましたから、地域には最低でも二億円以上の所得が循環するようになりました。
一方、仕事の上でも、雇用を守るためにも、品質をよくするよう会社にも意見を言い、協力しながら頑張っております。
正社員化というものは、遠い夢ではなくて、現実にできるのです。コスト削減だけを考えていては企業もよくならない、このような証明だというふうに思います。
第三点です。
派遣労働者でも派遣会社の無期雇用なら雇用が安定するから期間制限をなくす、これも実態から見ればあり得ない話であります。また、派遣労働者がキャリアアップすれば正社員になれる、こういう議論もありますが、実態とかけ離れています。
派遣会社の無期雇用の派遣労働なら雇用が安定するのか。そんなことはありません。二〇〇八年のリーマン・ショック後の派遣切り、期間工切りのことを覚えていらっしゃると思います。私も、二〇〇八年の十二月三十一日、日比谷公園の年越し派遣村の開村式の現場におりました。当時、派遣切りに遭った派遣労働者にも、少なからず無期雇用の派遣労働者がいました。当時の調査では、解雇、雇いどめされた派遣労働者は、派遣元で無期であろうと有期であろうと、ほぼ同じでありました。
派遣元で無期雇用なら雇用が安定しているというのは、派遣先企業が派遣労働を利用する目的についての誤解があるからだというふうに私は思います。
私の知人が経営している派遣会社では、派遣労働者全員が無期雇用です。溶接技術が高く、派遣先の労働者に仕事を教えることもあるほどであります。しかし、橋梁などの大きな物件ですから、仕事の繁閑があることは避けられない、こういう状況にあります。ですから、幾ら労働者が技術を持っていても、腕がよくても、仕事が少なくなれば契約解除になります。それが派遣労働の実態だというふうに思います。
そうなれば、派遣元で無期雇用であったとしても、派遣先から契約解除されれば、派遣会社の利益、収入の源泉が閉ざされるわけですから、真面目な経営者であっても、不本意ながら解雇せざるを得なくなることは自明であります。
また、良識のない派遣会社の経営者のもとでは、派遣先から契約解除になったら、解雇されなくても返品とか不良品と言われ、賃金が払われないとか、払われても休業補償のみ、こういう実態もあります。
結論です。
本法案の提案理由で、派遣労働者のより一層の雇用の安定、保護を図るとされていますが、今三点にわたって述べましたように、本当に矛盾と混乱に満ちています。
この法案は、労働者派遣の実態に基づいていないこと、業務単位で期間制限を設けている現在の制度がわかりにくいということを、個人単位やあるいは労使双方にとってわかりやすい制度にする、こういう点において、解決の方向が全く逆になっていることであります。
本法案の土台が派遣労働の根幹を崩壊させる異次元の転換である、このことを強く指摘して、後世にうらみを残さないように、必要な資料をもとに、実態に基づいて慎重審議を行われることを強く願うものであります。
本法案は廃案とし、派遣労働の実態に基づいた抜本的な改正をしていただくように心からお願いいたしまして、私の意見といたします。
ありがとうございました。(拍手)