板橋功の発言 (国際経済・外交に関する調査会)

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○参考人(板橋功君) 公共政策調査会の板橋でございます。
 本日は、国権の最高機関であります参議院においてこのような所見を述べる機会を与えていただきましたことに深く感謝申し上げますとともに、大変光栄に存じます。
 私は、テロリズム問題、とりわけ国際テロ情勢とかテロ対策が専門でございます。今日のテーマであります中東におけるイスラム過激派の動向と国際社会の対応の在り方及び我が国の役割の中でも、とりわけ私は、国際社会の対応の在り方及び我が国の役割について、これを中心にお話しさせていただきたいと思います。
 その前に、若干、国際テロ情勢について見解を述べさせていただきたいと思います。
 なお、イスラム過激派組織の動向につきましては、後ほど御専門の高橋先生より詳しい御所見が述べられると思いますので、私は簡単にこの部分は述べさせていただきます。
 それでは、レジュメに沿って御説明申し上げます。
 まず、国際テロ情勢の変化でございますが、先生方も御案内のとおり、国際テロリズムというのは冷戦構造の崩壊により大きく変化いたしました。一九八九年の十一月にはベルリンの壁が崩壊し、東欧諸国が民主化しました。九一年十二月にはソ連邦が崩壊し、独立国家共同体が創設されたわけであります。
 このようなことから、テロリズムも、共産主義イデオロギーを標榜するテロ、反資本主義ですとか反帝国主義ですとかあるいは反米ですとか、そういうものから、宗教や民族、分離独立などを標榜するテロへと変化していったわけであります。
 また、アルカイダの形成、台頭でございますが、冷戦構造の崩壊を挟んだ二つの戦争が大きく関わっていると私は考えております。
 まず、冷戦構造下での戦争でありますアフガニスタン戦争ですが、一九七九年十二月にソ連軍がアフガニスタンに侵攻するわけであります。それとともに、世界中からイスラムの若者たちがアフガニスタンに入り、ソ連軍と十年にわたる戦いを行ったわけであります。結果、ソ連軍はアフガニスタンから撤退し、世界中から集まったイスラムの若者たちは勝利するわけであります。実は、これが後のアルカイダの中核になるわけであります。
 もう一つの戦争ですが、これは、冷戦崩壊期のまさに湾岸危機、湾岸戦争であります。一九九〇年に、御案内のとおりイラクがクウェートに侵攻し、アメリカを中心として砂漠の嵐作戦が展開されました。なお、このときに米軍がサウジアラビアに駐留したわけであります。御案内のとおり、サウジアラビアは、メッカ、メジナの二大聖地のあるところであります。
 この二つの戦争によりアルカイダは形成され、台頭したわけですが、その後の九・一一の後、アフガニスタンへの軍事行動とイラク戦争により、アルカイダのみならず、国際テロ情勢は大きく変容していくわけであります。
 アフガニスタンへの軍事力の行使ですが、これ、あえて戦争という言葉を使っていません。これは、九・一一はまさにアルカイダによるテロでありましたが、この拠点がアフガニスタンにあったということで、ここに対する軍事行動、まあ後の状況を見ますと戦争と呼んでいいかもしれませんが、九・一一後の当初はやはりアフガニスタンへの軍事行動という言い方をするのが適切かと私は考えております。
 この攻撃によってアルカイダはアフガニスタンの中枢機能を失います。また、イラク戦争によってイラクやイエメンでの活動を活発化させるなど、変容するわけであります。さらに、○○のアルカイダ、例えばイラクのアルカイダですとか、フランチャイズ化されたような形態を取るわけであります。あるいは、イラクのアルカイダから実は現在問題になっているISILの台頭に至るわけであります。
 イラク戦争は、テロリズムを研究している者から見ますと、テロ組織のフランチャイズ化や過激化、あるいは今問題になっているホームグローンやローンウルフ、ISILの台頭などを招き、まさにテロの裾野を拡大させたと言ってもよいかもしれません。
 次に、ISILによる邦人殺害事件の日本へのテロの脅威についてお話ししたいと思います。
 その前に、ISILとは一体何なのか。私にも実は詳しいところは分かりません。恐らく欧米諸国でも完全に実態をつかんでいるとは言い難いと思います。起こっている現象を見ますと、どうもやはり単なるテロ組織ではないという印象を受けます。
 我々が目にするものは、指導者と言われるバグダディの映像ですとか、外国から集まってきた戦闘員の映像、これはよく目にしますが、果たして本当に中枢は誰なのかというのがよく分かりません。ただ、今回の日本人人質殺害事件を見ますと、どうも、やはり旧フセイン政権時代の情報機関やあるいはバース党の人間が関わっていないとこういう展開にはならないんじゃないかと思うところが多々あります。
 あるいは、奪った兵器を翌日には使いこなしている、こういうところを見ますと、恐らく旧フセイン政権時代の軍隊の上から下まで、将官から下士官、兵まであらゆる階層が関わっているのではないか。例えば、奪った戦車を翌日には使っているということはどういうことかというと、前使っていた人間が使っている。
 あるいは、一瞬のうちにして、去年の六月からですが、面で支配をしています。単なるテロ組織には面で支配するということはなかなかできません。よく考えてみますと、もし当時のフセイン政権時代の軍人が関わっているとしたら、守っている方ですから弱点がよく分かります。そうするとつじつまが非常に合うのでありますが、実はこの実態がよく分からない。
 私はテロリズムの研究者ですので実態面から見ていますが、恐らくここの部分は地域の研究者やあるいはイスラム教を専門とする研究者の人たちが解明することと期待しております。
 ということは、どうも単なるテロ組織ではないなということであります。それから、シリアとかイラクにおいては、やはり明らかに内戦の当事者であると見なければいけないんだろうと思います。
 さて、日本国内の脅威でありますが、確実にISILの邦人人質殺害事件以降、日本の脅威は上がっていると見るべきだと思います。私は、日本国内でのテロについては若干楽観視をこれまでしてきたのですが、とても厳しい状況にあるという認識を持っています。
 その脅威ですが、三種類考えられます。一つは、外国からテロリストが入ってきて日本でテロを行う。この際、日本で一旗揚げてやろうと思うテロリストが出てきても不思議ではない状況にあります。それから、国内の外国人、これが過激化しテロを行うという可能性も十分今は考えられます。それからもう一つ、今までは余り考えてこなかったんですが、御案内のとおり、昨年、日本人、北海道大学の学生がISILに参加しようとしています。あるいは、NHKなどの報道ですと、ISILとツイッターでやり取りしている人物がいるというような報道もあります。ということは、日本人が過激化する可能性もある、これは否定できないという状況にあると考えております。
 この三つの脅威、国内においては存在するであろうと思います。いつ起こっても不思議ではないなと思っております。
 それから、日本の権益を狙った在外における脅威ですが、これは、アルカイダやISILはもちろんのこと、当該国や地域におけるテロ組織、あるいは当該国や地域におけるアルカイダやISILの支持者。例えば、カナダの議会がISILの支持者によって襲撃された事件があります。今回の事件を契機に、実はカナダの議会を狙わなくても、そこに観光に来ている日本人を狙ってもいいんじゃないかという論理が成り立つようになりました。ということは、世界中どこにいても日本人が狙われる時代になったということです。
 外務省は、恐らく初めてだと思いますが、広域情報というのをこの邦人人質殺害事件以降出しました。実はアメリカでは既に出ていまして、ワールドワイドコーションというんですが、アメリカ国務省は、全世界にいるアメリカ人に向けてテロの脅威が高まっているという警告を、恐らく九〇年代から出しています。そういう時代にもしかしたらなってきた、日本人が世界中のどこへいてもテロのターゲットになってきたという時代になったと言えるかもしれません。
 それから、日本はこれから重要な国際的なイベントを控えています。まだ会場は決定しておりませんが、来年、G7サミット、それに伴う大臣会合等、多数の国際会議が開かれることになります。それから、二〇二〇年の東京オリンピック・パラリンピック。こういった国際的な重要なイベントというのは常にテロのターゲットになってきました。ですから、こういった重要行事を控えた日本というのは、やはりプレゼンスが高まる、脅威が高まると考えなきゃいけません。
 それから、ISILによる邦人人質殺害事件後に、新潟在住のジャーナリストがシリアに渡航しようとして外務大臣から旅券返納命令を受けましたが、私はこれは極めて妥当な判断だったんだろうと思っています。この地域は、ISILのみでなく、多くの武装組織が三つどもえ、四つどもえで戦闘状態にあります。ですから、どこの武装組織に拘束されてもおかしくない状況だったと思います。今現在がどういう状況か分かりませんが、当時はかなり厳しい状況にあっただろうと思います。
 それから、北大生がISILに戦闘員として参加しようとして強制捜査を受けたわけですが、このときは、初めて刑法九十三条、私戦予備及び陰謀の罪による強制捜査が行われました。考えてみますと、国連でも二〇一四年の九月二十四日に外国人テロ戦闘員に関する安保理決議というものが採択されております。これは、ISIL等に参加しようとする自国民をなるべく出国させないという措置をとるべきだという決議であります。我が国においても何らかの法的な措置がやはり必要なんだろうと実は思います、これに対応するためにですね。
 それから、国際社会の対応の在り方でありますが、私は二〇一〇年に「対テロ戦争の終焉」という論文を書かせていただきました。今日皆さんのお手元にお配りしてありますが、この趣旨は、テロの脅威がなくなったということではありません。対テロ戦争はまさにテロを拡大させてしまった。
 アメリカのシンクタンクでありますランド・コーポレーション、実はこのランド・コーポレーションというのは、テロリズムの分析を七〇年代、八〇年代から、早くからやっておる機関であります。テロリズムに関する分析ツールをブライアン・ジェンキンスという当時の政治科学部長が開発して、これが恐らくいろんなテロリズム研究に波及していったと承知しております。そういう機関であります。このランド・コーポレーションが報告書を出しています。テロ組織の打倒というタイトルですが、テロリズムは軍事力では解決しない、戦争という概念を用いるべきではなく、従来のテロ対策、カウンターテロリズムに立ち返るべきであるとしています。
 国際政治学者ジョセフ・ナイでありますが、本日、この緑色の表紙の資料の百ページから百一ページにもナイ氏の論評が掲載されていますが、彼は、イラク戦争の後、テロとの闘いという言い方はやめるべきだ、テロは軍事力では解決しないとも述べています。
 テロ対策の基軸はどうあるべきなのか、テロ対策の基軸というのは軍事なのか、あるいは司法、法執行なのか。
 振り返ってみますと、日本もアメリカも民主主義国であります。民主主義の基本は法の支配。テロリズムは法の支配によって対応すべきであると私は考えます。ただし、自爆犯は法廷では裁けないという問題も存在しますが、やはり基軸は司法、法執行、インテリジェンスであるべきであると考えます。
 ただし、テロ対策の一環としての軍事力の行使はあり得るというのが私の考えであります、基軸ではありませんが。例えば、一九九八年の八月の東アフリカ大使館爆破事件、米国大使館爆破事件の後に、アメリカがアフガニスタンとスーダンにトマホーク巡航ミサイルを撃ち込みました。スーダンの問題はちょっと別なんですが、アフガニスタンは明らかに当時からアルカイダの基地に対する攻撃です。これはテロ対策上の軍事力行使として、当時から私は正当化されるものだと考えておりました。
 国際社会は、改めてテロの闘いから国際的なテロ対策の枠組みを再構築すべきではないかと考えます。これは、テロとの闘いから、司法、法執行を基軸として、インテリジェンス、外交、資金規制、開発援助などを含めた総合的、包括的なテロ対策の国際的な枠組みの再構築を行う必要があると思っております。
 だんだん時間がなくなってきましたが、次に、我が国の取組の在り方について述べたいと思います。
 まず、日本のテロ対策ですが、これは二つの側面から見なきゃいけません。当然、G8の一角を成し、国際社会における責任ある立場にありますので、国内でのテロ対策と同時に国際協力を行わなきゃいけない、この車の両輪であるわけであります。
 日本のテロ対策というのは、国内でやはりテロを起こしてはいけない、未然防止、それからループホールになってはいけない、抜け穴になってはいけない、テロの温床や抜け穴になってはいけない、そのための対策を取らなきゃいけないということであります。我が国も、二〇〇四年に北海道洞爺湖サミットへ向けてテロの未然防止に関する行動計画というのを作りまして、種々のテロ対策を講じているところであります。しかしながら、今後の課題としては、テロ対策基本法やテロ組織の指定制度、あるいはテロ対策のための本人確認制度、あるいはテロリズムに対する国家基本戦略の策定等がなされていませんので、これらは必要かと思います。それから過激化対策というのも不可欠であります。
 次に、対テロ国際協力でありますが、国際協力は、単に国際社会や他国への協力ということだけではありません。国際協力によって、実は我が国や我が国の在外権益も守られるということであります。とりわけ東南アジア諸国を中心に、キャパシティービルディング、テロ対処能力の向上や捜査能力の向上ということをやってきましたが、これは我が国の安全に直結するとともに、在留邦人の安全にも寄与してきたわけであります。日本政府は、幾つかの分野においてキャパシティービルディング支援を積極的に実施してきています。また、ISILの邦人殺害事件以降は、アフリカ諸国へのキャパシティービルディングの支援を表明しています。
 ということで、こういった人道的な支援、あるいは民生面での支援、非軍事面での支援を中心に行うことが我が国の役割であると考えます。それから、当然ながら、在外日本権益のテロ対策も行わなければいけません。
 最後になりますが、日本は、やはり非常にテロの脅威の高い状況にあるということを認識する必要がある。また、一六年のG8サミット、それから二〇年のオリンピックに向けてテロ対策を強化する必要がある。そして、テロ対策は総合対策で、あらゆる力を集結して対応すべきであると。そして、最後ですが、日本は国際的なテロ対策の枠組みの再構築の主導をすべきではないかと思います。
 以上で私の話を終わらせていただきます。

発言情報

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発言者: 板橋功

speaker_id: 26755

日付: 2015-05-13

院: 参議院

会議名: 国際経済・外交に関する調査会