2015-03-04
参議院
小峰隆夫
国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会
小峰隆夫の発言 (国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○参考人(小峰隆夫君) 法政大学の小峰でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
本日は、このような場にお招きをいただきまして、大変光栄に思っております。どうもありがとうございました。
私から、「デフレからの脱却と成長戦略」と題しますレジュメをお手元にお配りしておりますので、これに基づきまして簡単に私の考えを申し上げます。
いわゆるアベノミクス、安倍内閣になってからの経済政策というのが二〇一二年末から始まっているわけですけれども、私はこれを三つに時期的に分けるというのが適当ではないかというふうに考えております。第一幕というのが、このアベノミクスが始まって二〇一四年の三月ぐらいまでの時期が第一幕。それから、その後、これは二〇一四年末ですね、二〇一四年末までの第二幕。それから、一四年末、最近になってからの第三幕という、そういう三つに分けて考えるのがいいのではないかということです。
まず第一の第一幕なんですけれども、これにつきましては、一連の財政金融政策が大変大きな効果を発揮したというふうに判断をしております。
まず金融政策ですけれども、これは、金融政策自体がマネーの動きを変えたり等々によって効果があったというよりは、むしろアナウンスメント効果、つまり、こういうことを言ったと、発言したと、約束したと、そういう言ったこと自体が市場関係者、周りの人々の期待を変える、考え方を変えたという、これはよくレジームチェンジとかそういう言い方をされるんですけれども、そういうものをもたらして大変大きな効果を発揮したのではないかというふうに判断をしております。
具体的には、まずインフレターゲットというのを採用いたしまして、政府と日銀が二%という目標を共有して、これに近づくべく政策を打っていくということを約束したわけです。この二%のインフレターゲット自体はそれほど珍しい政策ではなくて、ほかの国でもやっておりますので、そんなに驚くようなものではなかったんですけれども、このインフレターゲットを採用する前に日本ではいろんな議論がありまして、インフレターゲットを採用すればうまくいくという議論と、いや、そんなのはとんでもないという議論が非常に極端に分かれて議論しておりましたので、その一方の採用するということを決めたことがますます大きなインパクトを持ったんじゃないかというふうに、実体以上に大きなインパクトを持ったんじゃないかというふうに考えております。
それから、黒田新総裁になりまして異次元金融緩和というのが行われまして、これは金融緩和の中身自体も相当思い切ったものだというふうに判断できるわけですが、それ以上に私が大変印象に残っていますのは、この金融緩和の打ち出し方というか説明の仕方、プレゼンテーションというのが大変前任の白川総裁とは変わりまして、白川総裁のときには何となく、金融緩和をやっても本当はそれほど明確な効果は期待できないんだが、まあやらざるを得ないのでというようなニュアンスが非常に強かったんですが、黒田新総裁になって、これをやればできますということを非常に明確におっしゃって、これがまた市場のセンチメント、期待を大きく変えたのではないかというふうに判断をしております。
それから、二番目、こういった中で株高とか円安が起きたわけですけれども、私は特に円安の効果が大きかったというふうに考えております。これは、輸出製造業の収益を増やし、輸入物価が上昇しましたので消費者物価が上昇する、デフレからの脱却を助けるという意味で大変大きな役割を果たしたという判断をしております。
これについては、一ページ目の下に図表がありまして、円安下での経済パフォーマンスという、ここ二年ちょっとの円レートの動きと関連指標を整理したものを表として出しておりますが、これにありますように、円レートはアベノミクスが始まる二〇一二年の頃は約八十円ぐらいだったんですけれども、これが約百円、百六円、最近はもっと円安になっていますけれども、こういう形で、これは年平均ですのでこれぐらいになるんですけれども、大変大きく円安に二年間で動いたということが分かります。
円レートが動きますと、まず輸出価格、輸入価格が当然変化することになります。
輸入価格の方は、これは話は簡単で、今まで輸入していたものが円安の分だけ高くなりますので、円建てで見て輸入価格は上昇するということになります。これで見ていただきますと、輸入価格は二〇一三年、一四・五%、一四年も四・三%上がっておりますので、これは円安がそのまま輸入価格の上昇となって現れた。
輸出価格の方は、これはちょっと話が複雑でして、これには二つの考え方があります。一つは、今までと同じ値段で売っていれば、外貨建てで今までと同じ値段で売っていれば円の手取りが大きく増えるという効果があります。逆に、今までと同じ円の手取りでいいと考えれば売る値段を大きく下げることができる。どっちを取るかは企業の判断だということですが、ここにありますように、結果を見ると、ほとんどの輸出企業は値段を変えなかったというのが結果から出ている。これを見ていただきますと、輸出価格の円建てというところがありますが、値段を変えなければ円建ての輸出価格は上昇するということなんですが、これは大変上昇していまして、一三年は一一・七%、一四年は三・四%上昇している。したがって、今までと同じ輸出をしていて手取りが大きく増えるわけですから、これは製造業の収益は大幅に増えるということになります。
一方、契約通貨建てという統計もあるんですけれども、これを見るとほとんど下がっていません。二〇一三年が一・八、二〇一四年は一・七、つまり、輸出企業は販売する値段を変えなかった、下げなかったということです。したがって、値段を下げなかったんですから売る量は変わらないということになりまして、しばしば円安になったのに輸出量が増えないという話が出てくるんですが、これは私に言わせれば当然だと、つまり、輸出量が増えるためには値段を下げなければいけないんですけれども、下げていないと。で、輸出数量はほとんど変化しなかったというのもこのデータから分かります。
したがって、これはしばしば経常収支にどう影響したかというと、円建てで見ると輸入価格が大きく上がって輸入金額が増えます。輸出の方は、輸出数量が余り増えませんので、輸出金額はまあそれほどは、円建ての分だけ増えるんですけれども、輸出数量が上がっていくということにはならない。したがって、かつてJカーブという議論がありまして、Jカーブがあれば、円安になってしばらくたつと貿易収支が黒字の方向に向かうということが期待されていたんですけれども、輸出数量が増えないわけですから、このJカーブは現れないということになって、経常収支は黒字がどんどん減っていくということになったということだと思います。一方、輸入価格が上がりましたので、消費者物価はゼロ、マイナスから脱してプラスになっていった、それから製造業の経常利益は大幅に上昇したと、こういうことになっていたのではないかと思います。
それから、元の文章に戻っていただきまして、公共投資も大変大きく第一幕の成長に寄与しまして、一三年度の公共投資、公的固定資本形成は一〇・三%も増加しておりますので、これだけで成長率を〇・五%引き上げていると。大変大きな効果があったと思います。
結論から言うと、(4)に書いてありますように、二〇一三年度の成長、また物価上昇というのは、ここでは四点セットと言っているんですけれども、円安、株高、公共投資、それから消費税の駆け込み、この四つが大きく影響したというふうに判断をしております。
次のページに進んでいただきまして、第二幕になるとこれがどうなるかということになりますが、第二幕になりますとだんだん問題点の方が、限界の方が現れてきているというのが私の診断になります。
まず、金融政策の異次元緩和の方なんですけれども、私はこれをブーメラン効果と言っているんですけれども、最初うまくいったことが一年ぐらいたって逆に作用し始めているということでブーメランと言っているんですけれども、これはどういうことかと申し上げますと、黒田新総裁は異次元緩和を打ち出すときに、二年間で二%の消費者物価を実現する、それができそうもないときはちゅうちょなく追加緩和を行うということを明言しておりました。これを明言したことは、明言した時点ではさっきのセンチメントを変えることによって市場に非常に大きなインパクトがあったということなんですが、ところが、二年間で二%というのがだんだん難しくなってきております。
この③の後に「(参考)」というのがありますが、これはESPフォーキャスト調査というのがありまして、約四十人の第一線のエコノミストにこれからの経済のことを毎月アンケートで聞くというのがあるんですけれども、二年間で二%が実現するかという問いに対しては、最新時点では、実現するという答えはゼロ、ほとんど全員の第一線の専門家はこれは実現できないという判断をしている。
これが、昨年の秋頃からだんだんそういう感じになってきたものですから、ちゅうちょなく追加策というのをやらなければいけませんから、昨年の十月末にちゅうちょなく追加緩和を行ったということになります。
ところが、これによってまた第二段の円安が起きたわけですけれども、この円安が、さっき申し上げましたように、一時的に企業収益は増やすんですけれども、輸出数量になかなか結び付かない。輸出数量が増えないんですから企業は設備投資もしないということになって、持続的な成長にはつながらないということがだんだん明らかになっていった。つまり、効果は一時的であると。したがって、もう一度追加緩和をやってまた円安になったわけですけれども、これも持続的な成長にはつながらないということは同じだというふうに思われます。
それどころか、原油が安くなって、原油が安くなることは日本にとって実質所得が増えるという形でプラスの影響があるんですけれども、円安が更に進んだために、むしろ円安によって輸入価格が上がりましたので、せっかくの原油安の効果が打ち消されてしまったということで、私から見ると、これはやらない方がよかったということになります。しかし、最初の段階でちゅうちょなく緩和ということを言っていますので、その約束を守るためにはやらざるを得なかったということで、逆にブーメランとなって返ってきているというのが私の判断です。
それから、(2)の公共投資ですけれども、これも先ほど申し上げましたように、第一幕では大変大きな効果を発揮したんですが、これは元々公共投資を増やしているときにしか効果はありません。二〇一五年度、これは政府の見通しが出ていますが、二〇一五年度は公共投資は一五%も減るという見通しになっていますので、アベノミクスの第二の矢の財政、公共投資というのは、むしろ一五年度については大きく足を引っ張るような効果しか出てこないということです。しかも、歳出を増やしていますから、財政赤字の拡大というこれは非常に大きな副作用をもたらすということになって、公共投資についても限界、むしろマイナスの側面が出てきているということだと思います。
問題は第三幕で、これからどうするのかということですけれども、これは当然、多くの人が言っていますように、成長政策というのを着実に実行することが一番重要だということだと思います。
元々、財政金融政策というのは、財政金融政策で持続的な成長が実現するかというとそうではなくて、財政金融政策というのは一時的な経済の振れを是正するという効果しかないわけで、財政金融政策で時間を稼いでいる間に本来の持続的な成長に結び付く成長戦略を実行していくということが本来必要であったということだと思います。
その基本は、この②に書いてありますように、基本的には企業が活動しやすい経済環境を整えて人的資源の質を高めていく、そのためにはいわゆる岩盤規制のような規制緩和を行っていくというのが、これが多くの経済学者が考える最もオーソドックスな成長戦略だということになります。
そういう成長戦略を実行していきますとむしろ日本の生産性が上がりますので、為替レートは恐らく円高に進むであろうというふうに思われます。したがって、多くの人は円安に経済を浮揚させる力を期待しているんですけれども、私はむしろ、長期的に経済がうまくいけば円高になるということですので、持続的な成長と整合するのはむしろ円高であると。これは別に円高にすれば成長するというわけじゃないんですけれども、むしろ円高になることを覚悟するというか、そういう環境にするのがむしろ望ましいのではないかというふうに考えております。
それから、そういった中でも特に雇用面の改革というのが大変重要だというのが私の判断で、これは最近よく雇用のタイプをメンバーシップ型とジョブ型というふうに分ける分け方が随分議論されているんですが、メンバーシップ型というのは、あるメンバーに入れてもらうと、後は雇用が安定して賃金も上がっていくということなんですけれども、ジョブ型というのはメンバーに入らないで、自分はこういうジョブをする人間であるという専門能力を持って、特定のメンバーシップにはこだわらない、メンバーシップを移動しても構わないというタイプの働き型がジョブ型ということなんですが、まあこれは詳しい議論は省略しますが。
私は、メンバーシップ型、日本は終身、いわゆる終身雇用というのは全くのメンバーシップ型ですから、非常に強いメンバーシップ型の雇用制度を維持している、これが回り回って女性の社会参画を阻んでいる、又は少子化の原因にもなっているといったようなことで、むしろマイナスが目立っているということですので、長期的には働き方をメンバーシップ型からジョブ型へというふうに変えていくことが重要だというふうに考えております。
それから、今後は、アベノミクスというのはこれまで三本の矢ということで、金融政策、財政政策、成長戦略というのが三本の矢というふうに言われていたんですが、私の判断では、先ほど申し上げましたように、第一の矢の金融政策、第二の矢の財政政策の限界、むしろマイナス点が出てきているということを考えれば、もはや三本の矢という組合せは不適当である、むしろ三本の矢に入っていない分野に力を入れる必要があるということを考えております。
その一つが財政再建ということなんですけれども、これは、政府は三つの財政再建目標を持っていますけれども、しばしば議論になります二〇二〇年度基礎的財政収支を黒字にするという目標は相当困難ということが、いろいろ計算してみると大体明らかになってきております。
多くの人はこの二〇二〇年の議論をするわけですけれども、私は二〇二〇年度以降の方がもっと厳しいというふうに判断をしております。というのは、デフレからやがて脱却したときには金利が上がってきます。それから、二〇二五年ぐらいから、これは私がそうなんですけれども、団塊の世代が後期高齢者になっていく。その段階で社会保障に対する経費が非常に膨らんでくるということを考えると、二〇二〇年度というのは通過点にすぎない、本当の問題はその後だというふうに考えております。
このときに、金利が上がってきますとこれは財政にマイナスの影響がありますので、まあ場合によってはこれを更に金融政策で金利の上昇は抑える、しかし物価は上がるということになりかねないということなんですが、これは何をやっているかというと、預金が目減りしますので、政府の借金も目減りするんですけれども、国民全体が持っている預金が目減りしますので、これは言わば貯蓄税だと、消費税ではなくて貯蓄税で財政再建をすることになってしまうという、これは非常に最悪のシナリオだと思いますけれども、そういった懸念も十分あるというふうに考えております。
それから、社会保障の改革というのも大変重要で、これも三本の矢に入っていないものとして重要だということで、これは財政上も重要ですし、それから、現在、社会保障の費用が、言わば企業の負担又は働く人の所得からの負担という形で働く人からかなり取っているという形になっていますので、これは言わば企業にとってみれば、人を雇えば雇うほど社会保険料が上がってしまうという形で一種の雇用税になっているということですから、これは成長戦略としても社会保障改革を進めるということが大変重要だというふうに考えております。
それから最後に、三ページ目に、最近大きな問題になっております地域再生という、これも三本の矢には入っていないけれども大変重要な課題であるということですが、私は、この二番目にあります地域づくりの在り方というのを長期的に考えてみますと、国から地方へ、それから分散から集中へ、それから社会資本依存から地域資源活用型へという大きな流れであるべきだという、これはべき論なんですけれども、そういうふうに考えておりますが、最近の地域づくりは、再び国が地域創生を主導するという方向に向かっている、それから東京一極集中是正ということで再び分散を志向している、それから国土強靱化という中で社会資本に対する期待が非常に大きいという点で、私はこれは本来あるべき姿から逆行しているという点があるのが心配だというふうに考えております。
それから、地方再生というとどうしても遅れた地域をどうやって元気にするかという点を議論しがちですが、私は大都市にこそ大きな問題があると。これから後期高齢者は大都市で大きく増えますし、医療、介護の問題は大都市圏でこそこれから大きな問題になっていくということですので、地域の問題は大変重要ですけれども、都市の問題というのも是非考えていく必要があるというふうに考えております。
以上で私の意見陳述を終わらせていただきます。
どうもありがとうございました。