小川敏夫の発言 (本会議)
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○小川敏夫君 民主党・新緑風会の小川敏夫です。
会派を代表して、刑事訴訟法等の一部改正案について質問いたします。
本法律案は、通信傍受法、いわゆる盗聴法の拡大、司法取引の導入、取調べの一部可視化など、十分な議論を尽くすべき重要な項目が複数あります。例えば、平成十一年に当院で行った通信傍受法の審議の時間は四十四時間余りを費やしています。司法取引制度の導入や取調べの可視化についても、導入の是非や手続の在り方については多様な観点から十分な議論を尽くさなければならない事項であります。一方で、これらの項目は、併せて審議しなければならない相互の関連性は特段ありません。
最近、政府提出の法案で、このように本来各個別に審議するべき法案が一括にまとめた形にして提出されることが目立つようになっています。その結果、一つ一つの課題に対する審議が十分に行われなかったり、法案に対する個別の対応ができなくなるなどの弊害が生じています。国会は政府御用達の便利屋ではありません。国会の存在意義を踏まえた対応がなされるべきであると思いますが、今回の刑訴法改正案について、各個別の法律案としないで一括法案とした理由について、法務大臣にお尋ねします。
今回の刑事司法制度の検討は、平成二十二年秋に、いわゆる郵便不正事件の中で無罪となった厚生労働省元課長に係る捜査において、検事が証拠品を改ざんしたことが明るみに出たことなどを契機として、冤罪の発生を防止するための仕組みを構築することを目的として始められたものであります。
ところが、今回の法案では、冤罪の防止のために必要な取調べの可視化は不十分な内容でしか採用されない一方で、司法取引を新たに採用し、通信傍受、いわゆる盗聴捜査を拡大するなど、捜査手法が拡大されています。これでは、冤罪防止の検討にかこつけて、ていよく捜査手法を拡大する検討にすり替えたように思えてなりません。しかも、他人の犯罪をしゃべれば自分の罪が免除あるいは軽減されるという司法取引制度の導入は、自分の罪を逃れたいためにうそをついて他人の犯罪をしゃべることを誘発し、新たな冤罪を生むおそれがあるのではないでしょうか。
前述の郵便不正事件では、虚偽の証明書は実際に作成されていました。元課長の無実が明らかになりましたが、その裏には、無実の元課長が虚偽証明書の作成を指示したという虚偽の供述をして罪を元課長に押し付けて自己の罪責を免れた者がいたということになるのではないでしょうか。こうして、他人に罪を押し付ける供述がなされた結果として生まれた冤罪事件の反省から出発した検討の結果が、冤罪を生みかねない司法取引の導入というのは悪い冗談としか思えません。
本法案の成立によって冤罪防止の目的が達成されるのか、法務大臣の所見を伺います。
司法取引制度の導入ですが、本法案では、他人の犯罪を供述した場合に自分の罪が軽減される制度が導入されていますが、自己の犯罪を認めた場合の制度は設けられていません。この点について、立法の趣旨を法務大臣にお尋ねします。
ところで、本法案は、修正がなされ、供述に係る他人の犯罪と供述者との関係性が認められる場合にのみ司法取引が適用され、供述者と他人の犯罪との関連性がない場合には適用されないと説明を受けましたが、法文上はその事情を考慮事情としただけで適用除外にはなっていません。
そこで、法務大臣にお尋ねします。供述者と他人の犯罪との関連性がない場合には司法取引は適用されないのでしょうか。事情によっては適用されるのでしょうか。
法案に関する説明では、司法取引は経済事犯等の犯罪に限定したと聞きました。その限定適用される犯罪の中に贈収賄が入っています。これまで多くの贈収賄事件で贈賄側の供述の信用性が争われ、贈賄者の供述の信用性が否定された裁判の例も多くあります。中には、県知事等の政治家を追い落とすための陰謀ではないかとの指摘がされた例もあります。司法取引によって贈賄側が免責されることになりますと、政治家や行政担当者を追い落とすための陰謀に利用されることにはならないでしょうか。議員の皆様にも重大な問題意識を持っていただきたいと思います。この点について、法務大臣の所感をお尋ねします。
次に、通信傍受、いわゆる盗聴捜査についてお尋ねします。
通信の秘密は、憲法二十一条二項に通信の秘密は侵してはならないと規定してあるように、基本的人権の主要なものの一つです。このため、犯罪捜査のために通信の秘密を侵してもよいのか、あるいは、制限できるとしても許容される範囲はどこまでかについて十分な議論を積み重ねる必要があります。仮に、捜査の必要性によって通信の秘密を制限できるとしても、捜査上その必要性が高いという条件だけではなく、他にこれに代わる適切な方法がない場合、そして必要最小限の範囲で行うという三条件を満たすことが必要だと考えますが、法務大臣のお考えをお示しください。
平成十一年に強行採決で成立した通信傍受法の審議においては、濫用防止策が不十分なため通信の秘密が侵害されるのではないかという議論が主要な論点となっていました。今回の法改正に先立つ法制審議会の議論では、通信傍受の範囲の拡大に議論の中心があったように見受けられますが、濫用防止をより確かにするための議論はどのように行われたのでしょうか、法務大臣に説明を求めます。
例えば、通信傍受が実施された場合、傍受された当事者は、傍受された事実を知らないまま強制捜査により通信の秘密を制限されたことになります。秘密裏に行われる傍受の性質上、事後的にならざるを得ないとしても、傍受を受けた当事者は、強制捜査によって自身の通信が傍受された事実を知らされるべき立場にあります。
しかし、通信傍受法は、傍受を必要とした犯罪に関する通信だけを記録する傍受記録というものを定め、傍受記録の当事者のみに通知することとしています。そうすると、違法、濫用により傍受してはならない通信の傍受が行われた場合、傍受を受けた者は犯罪に係る通信をしていませんので傍受記録の当事者にはなりません。その結果、通知は不要となります。
このように、違法、濫用に及ぶ通信傍受が行われた場合にこそ、特に傍受を受けた当事者に通知がなされる必要があるのでありますが、その場合には通知が不要という摩訶不思議な仕組みとなっています。要するに、適正に傍受した場合だけ通知し、不都合な場合は通知しなくてもよいというのが通信傍受法の規定です。
今回の改正によっても、こうした欠陥は何一つ改められずに、単に適用範囲が拡大されるだけに終わっています。ただいま示した通知制度の欠陥を含め、濫用防止策の充実についてどのように検討してきたのか、そして今後どのように取り組む方針であるのか、法務大臣に説明を求めます。
現行法では、濫用防止の観点から、傍受の際には通信事業者の立会いが義務付けられています。しかし、本改正案では、新たな傍受装置の導入により、捜査機関施設において通信事業者の立会いをなくして行うことができることと改められています。これでは、濫用防止の充実どころか、濫用防止の空洞化へ後退したと言わざるを得ません。
この点について、捜査担当者とは別の警察官による部内監視を行うとの法案修正協議がまとまったとの話を聞きましたが、法案には何も盛り込まれていません。警察において、この監視の仕組みについて、具体的にどのように構築し、運用して濫用防止の充実を目指していくのか、国家公安委員長に説明を求めます。
あわせて、これにとどまらず、警察において通信傍受の濫用防止全般についてこれまでどのように取り組んできたのか、そして、今後どのように取り組むのかについても説明を求めます。
ところで、立会人を不要とした新たな傍受装置による傍受は、その仕組み自体が通信の秘密を侵害する構造にあります。
現行法の傍受の仕組みは、犯罪に関わる会話だけ傍受し、それ以外の会話の場合は会話が犯罪に関係しないと判明した時点で直ちに傍受を中止するというものでした。しかし、改正案による新傍受装置は、傍受装置により全ての会話を自動的に収集録取した上で、その後、捜査官が会話を聞いて犯罪に関するものとそれ以外とを判別するという仕組みです。立会人は廃止されました。
現行法では、犯罪に関係しない会話は傍受しないという構成によって通信の秘密は侵害しないとしてきたものですが、本改正案では、犯罪に関係しない会話も一旦収集してしまうのです。収集すること自体で通信の秘密を侵害しているのではないでしょうか。そして、犯罪に関係するか否かを聞いて判定する作業の場には立会人はいません。これでは、犯罪に関係しない会話が取り放題、聞き放題にされてしまいます。判定後、犯罪に関係しない会話の記録は廃棄あるいは封印するといっても、秘密というものは知られてしまうことで全てが終わっているもので、秘密を記録した記録媒体が廃棄等されるかどうかの問題ではありません。
このように、犯罪に関係しない会話まで全てを記録してしまう仕組みと、判定作業に立会いがないために犯罪に関係しない会話が聞かれてしまうことを防止できない仕組みでは、通信の秘密を侵害し、これを保障した憲法に違反するのではないでしょうか。その上、不正に傍受された者は、前述のように傍受が行われた通知を受けませんので、そのような不正な傍受を受けたことを知り得ません。この点について、法務大臣の見解を求めます。
取調べの可視化を導入することは評価しますが、しかし、その範囲は裁判員裁判対象事件及び検察官独自捜査事件だけとされ限定的であり、なおかつ例外も緩やかに認められています。十分な可視化とは言えませんが、今後可視化を更に進めて充実していく方針の下で、最初は小さく導入したということなのでしょうか。法務大臣の所感を伺います。
今回、即決裁判手続の申立て後に、被告人側の対応状況により検察官は公訴を取り下げ、再捜査の上で再度起訴手続を取ることができる制度が導入されています。これにより、争われたらやり直せばいいという考えで、弁解の聴取や捜査をいいかげんにして即決裁判の申立てをするような事例を誘発することにはならないでしょうか。法務大臣の所感を求めます。
皆様は、米国に、FBI長官の座に四十八年の長きにわたって居続けたフーバーという人物がいたことを御記憶のことと思います。盗聴など捜査権限を濫用して多くの政治家など要人の秘密を握り、盾突く者を黙らせたと言われています。
我が国の法務・検察や警察は、諸外国との比較において信頼できる捜査機関と評価されています。我が国が諸外国と比較して良好な治安が保たれていることも評価しましょう。
しかし、一方で、かつて警察による共産党幹部宅の組織的盗聴事件がありました。警察官が、虚偽の証拠を捏造の上、これを基に捜索令状等の発付を受けて強制捜査を行うなどの不正捜査事件が繰り返されています。検察においても、検事が証拠を改ざんした郵便不正事件の例があります。
捜査の在り方を考えるに当たっては、警察や検察を信頼するかしないかという情緒的な発想でその仕組みを考えるのではなく、不正や不心得な意図を有する捜査官が現れたとしても、権限の濫用や逸脱、不正行使などができない仕組みを構築することが適正捜査の実現の基本であることを述べて、私の質問を終わります。
なお、答弁が不十分な場合には再質問をさせていただきます。(拍手)
〔国務大臣上川陽子君登壇、拍手〕