野川忍の発言 (厚生労働委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○野川参考人 私は、労働政策審議会雇用保険部会の公益委員であり、また、本日の参考人の先生方とは違って法律学者でございまして、今までの先生方はかなり具体的、現実的な内容についてお話をくださいましたが、私はちょっと理念的、原則的なことをお話をしたいと思います。若干大学の講義のような内容になるかもしれませんが、皆さん、学生時代にもつまらない講義を聞くと眠たくなったことと思いますが、ちょっと御寛恕をいただければというふうに思います。
 お話しすることはおおむね三点でして、一つは、雇用保険法及び雇用保険制度というのが日本の法体系の中でどう位置づけられているのか、その位置づけの中から、今回の改正については、どういう限界といいますか制約が出てくるのか、あるいはどういう考え方が出てくるのかということ。第二点は、日本の雇用保険制度の特徴、とりわけ、先ほどもお話が出ましたが、国庫負担率の問題、それから弾力条項による保険料率の決定の問題についてお話をし、それから第三点として、今後の課題について少しお話をしていきたいと存じます。
 まず、憲法の二十七条一項は、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」というように書いてございまして、これは小学校で学ぶことの一つなんですね。
 というのは、小学校の社会科では国民の三大義務というのが出ております。その中に働く義務というものがあって、その観点からこの二十七条一項というのは小学生のときから覚えるんですが、この働く義務の方ではなくて働く権利の方、全て国民は勤労の権利を有しているという労働権というのは、日本における雇用政策の憲法上の原則を示しておりまして、実は雇用保険制度は、この労働権保障という憲法上の理念に由来しているわけでございます。
 この労働権というのは、本来は、働く意欲と能力がある人には適当な職場が与えられるように国が施策を行う、こういう意味でございます。労働する権利というと、自分は職が欲しい、だから職を下さいと言えば国が自動的に職をくれる、そういう意味ではない。日本は、マーケットメカニズム、市場経済を採用している国でございますので、そうではなくて、できるだけ職が与えられるようなサポートを政策によってしていく、こういう趣旨でございます。
 この考え方から、第一に、完全雇用を目指す雇用政策の策定、第二に、行政によるサポートとして、働く意思がありながら職が見つからない事態を避けるための具体的な制度を整え、あるいは失業者が職を見つけるまでの支援措置を設置し、運営していくというシステムを講じる必要が出てくるわけでございます。
 このことから、非常に重要なのは、日本においては、例えば金融市場であるとか住宅市場であるとか、さまざまな製品の市場についてどのように国が経済政策として介入を行うかは、これは純粋に政策の問題ですが、労働市場についてはそうではない。唯一、労働市場だけは、これに国家が政策的な介入をすることが憲法上要請されているので、労働市場を何ら手をつけないまま放っていくことは憲法違反なんですね。よろしいでしょうか。労働市場という市場だけは違うんです、ほかの市場と。必ず国家が政策的介入を行わなければならないということが憲法によって定められているという国なんですね。ほかの国では必ずしもそうではありません。日本はそういう国であるということです。
 ここから、国は、労働者に対して、能力と意思に応じて適切な就労の機会が与えられるよう政策上の対応をすることと、それから、労働の機会が得られない労働者に対する一定のサポートを行うことを要請されております。
 前者の要請によって、日本には、雇用政策の策定と実施に関する基本法規として雇用対策法を初め、主として労働市場における労働力の円滑な活用等を内容とする職業安定法、それから労働者の能力開発を支援、促進するための職業能力開発促進法など、多様なアプローチによって労働権の保障を実効あらしめるための法制度が整えられております。また、働く意思と能力がありながら、実際には職を得られず、あるいは職を失ってしまった者のための支援措置として、雇用保険法と、それから、近年、求職者支援法という新たな法律が出ているわけでございます。
 このように、雇用保険制度というのは憲法二十七条の労働権保障の理念に立脚しておりまして、その対象範囲を画するのは働く意思と能力でございます。つまり、働く意思と能力のある全ての国民に対して雇用保険制度は適用されるというのが原則でございますので、性別、年齢、あるいは障害の有無といったことによってこれを限定するというのは、その必要がある、非常に例外的な場合に限られる。
 つまり、社会保険のメカニズムを採用しておりますので、必ずしもこの理念が全面的に常に実現するというわけではありません。しかし、原則と例外の関係ははっきりしております。つまり、全ての国民が雇用保険制度の適用対象となるべきであって、これまでのように六十五歳未満の国民にしか適用されていなかったのは、さまざまな事情に基づく例外であるということです。
 したがって、今回の改正で、この雇用保険法本体の改正として最も重要な内容である、六十五歳以上の求職者を高年齢被保険者というカテゴリーによって明確に制度の対象としたということは、原則に戻るということであって、必ずしも政策的に新たな、いわば付加をした、つけ加えたということではないということを御理解いただきたいと思いますし、私は、この方向は大変適切なものであると。
 今後も、事情によっては制約があり得ますけれども、雇用保険法というのは全ての国民に対して押しなべて例外なく適用されていくということを確認したいと思います。
 この雇用保険法にはいろいろな特質がございます。その中で申し上げたいのは、日本の雇用保険制度は、労使の負担する保険料のみによらず、一定割合の国庫負担によっております。これは、雇用保険制度が昭和二十二年に発足した失業保険法というのを出自としているわけですね。もともとは失業保険法と言った。失業保険制度というのは、当時の深刻な雇用情勢への対応という趣旨を有していたことから、かなりの割合の国庫負担を伴うことが初めから想定されていたわけですね。昭和二十年代の前半ですから、大変労働市場は混乱しております。かなり国が積極的な財政的対応をもってこれに当たらなければならなかったという事情がございます。
 当初は基本手当の三分の一が国庫負担によるものとされていたんですが、その後、四分の一に引き下げられ、雇用保険法に移行してからも、一時期を除いて、ほぼ一貫して四分の一でございます。現在、先ほどもございましたが、一三・七五%。日雇労働求職者給付については一八・三%ですが、いずれにせよ、二五%にはほど遠いという状態であります。
 この国庫負担については、国の財政状況によって弾力的な運用が図られているものですが、雇用保険が果たしている役割の変化に対しても一定の意味を有していると思います。
 すなわち、もともと労使の保険料負担によりつつ、政策の実現という観点等により国庫からの支出が正当化されるというのは、先進諸国における同様の社会保険の共通の構造ですが、特に日本の場合には、基礎的な負担率に加え、さらに一定率を乗じて減額する措置が恒常化する傾向にあり、とりわけドイツやフランスなど大陸ヨーロッパ諸国に比べて国庫負担率の割合が低いわけです。
 この点をどう考えるか。失業や劣悪な雇用を労働市場の必然的な負荷と捉え、その救済や改善、労働市場の参加者である労使の拠出による社会保険システムを通して実現されるのが原則である、こういうように考えるのか、あるいは、労働市場は国家の責任においてコントロールされるべきであると考えるか、大きくはその違いによるわけですが、日本は言うまでもなく前者の立場をとっているわけです。
 しかし、今後、求職者支援のための恒久的な制度を拡充していく必要性等がありますので、それを考えますと、雇用保険をどう位置づけるかについては、なお検討が必要であります。
 その中から、国庫負担の率が、現在、本則二五%でありますが、かなり低い率になっているということ、これをそれでいいと見るのか、あるいは戻すと見るのかということも、この雇用保険法の役割いかんをどう考えるかということによって決まっていくものであろうと思います。
 それから、弾力条項というものがございまして、労働保険の保険料の徴収等に関する法律によって、失業等給付に係る弾力条項と雇用保険二事業に係る弾力条項があって、要するに、厚生労働大臣が保険料率を変えることができる。これによって、保険料率は、平成二十七年度は一三・五パーミルということになっております。本来は一七・五パーミルですから、保険料率は低い。
 この弾力条項は、被保険者の負担軽減という意味では確かに重要な役割を果たしているわけですが、他方で、これはよく言われることですが、雇用保険財政は潤沢ではないか、ならば、むしろ給付額の増額に向けるべきではないかという考え方もあり得るのは言うまでもありません。
 国庫負担を弾力的に引き下げる仕組みとあわせ、現在の雇用保険制度が、可能な限り国や労使の負担を回避する方向で運営されているというような見方が可能であろうと思います。これも、それをよいと見るのか、それとも、そうではなくて給付額の引き上げ等にどんどん向けていくべきであるというふうに見るのかということは、雇用保険という制度の基本的な考え方によるだろうと思います。
 それから、今後の課題について、二点ほど申し上げたいと思います。
 一つは、先ほどちらっと申し上げましたが、近年、求職者支援法という法律ができました。これは何かといいますと、最近の労働市場は、御承知のとおり、非正規雇用が大変増大しておりまして、既に四割に達している。もう以前から、女性は半分以上が非正規雇用で働いているわけです。このような状況から、雇用保険からの支給を受ける要件を満たすことができない労働者がたくさん出てきているわけですね。
 つまり、間欠的に、二カ月の期間雇用で働いたらその後三カ月失業しちゃった、その後一年間働くことができたけれども、また半年失業してしまったというようなことをしていきますと、働いている期間は足せばそれなりに長いけれども、雇用保険の要件を満たさない、だから雇用保険からの給付を受けられないという方がたくさん出てきているわけです。
 こうした状況は、国際的に見ても共通でございまして、それを見越して、ドイツなどでは、ハルツ改革といって、前世紀の終わりに大改革が計画され、シュレーダー政権のときに、さまざまな法律の改正によって、求職者基礎給付といって、そういった雇用保険、ドイツでは失業保険の適用を受けることができない者に対して一律のお金をまず与えて、それを土台として職業訓練を受け、仕事を見つけていくということが定着し、ドイツ経済はそれで随分とよくなりました。
 日本でも、そのいわば日本版として求職者支援法ができ、いろいろな要件はありますが、月に十万円という額のお金を元手としてさまざまな職業訓練を受け、ハローワークと連携して労働市場に出ていく、こういう仕組みでございます。
 この仕組みが、今後、より一層重みを増していくだろうと思います。
 というのは、先ほど申し上げましたように、なかなか、雇用保険の要件も随分緩和されてきてはおりますけれども、それでもそれに対応することができない方は多い。こういう求職者支援法の拡充と、要するに、財源はやはり雇用保険になりますので、雇用保険の役割とをどのようにバランスよく考えていくのかということが重要なんだろうと思います。
 最後に、マルチジョブホルダーについてちょっと申し上げておきます。
 マルチジョブホルダーというのは、単一の事業主のもとで働いていないという方でございまして、例えば、週十時間ずつ三カ所の使用者のもとで働く、こういう労働者は、現行法のもとでは雇用保険の対象となり得ません。しかし、そういう方は多い。
 要するに、三十代でもフリーター、ニートというのが問題になっております。仕事を見つけてもせいぜいアルバイト的。幾つもそれをやっていると、週何十時間も働いているのに、一カ所の事業所では七時間、八時間ということですと、雇用保険の対象になり得ない。
 こういう方もこれからどんどんふえていくという状況のもとでは、このマルチジョブホルダーに対してどのように雇用保険を適用していくのかということが本格的に考えられなければならないと思います。
 それに当たっては、やはり、単にどんどん付加的に制度を加えていくというよりは、労働市場が、一つの企業で雇用を維持していくというよりは、労働市場全体で雇用を維持していくという方向に変わってきていることを踏まえた抜本的な雇用保険のあり方というものの見直しにつながっていかなければならないだろうと考えております。
 以上でございます。ありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 119004260X00520160315_010

発言者: 野川忍

speaker_id: 25833

日付: 2016-03-15

院: 衆議院

会議名: 厚生労働委員会