山本隆一の発言 (総務委員会)

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○参考人(山本隆一君) 本日は参考人として意見を述べさせていただく機会をいただき、ありがとうございます。
 私は、医師で医療情報の研究者をもう三十年以上やっておりますので、医療情報の観点から今回御審議中の法制度についての意見を述べさせていただきます。
 資料を一枚おめくりいただきまして、二ページ目に、いわゆる実地の医療、介護あるいは医学研究における従来の個人情報保護制度下の課題というのが列挙されております。一番上が、保護は追求されているんですけれども公正な利用の促進に対する対策が不十分であるとか、あるいは個人情報保護法は情報取得主体によって異なるルールで運用されている、それから遺伝する情報の本人同意の影響範囲が不明瞭という問題点、さらに四点目には、不正利用に関して実効性のある悪用防止の手だてが必要とか、五点目には、個人情報の定義が曖昧で匿名化が定義できないとか、それから本人が自らの個人情報の現状を知るために医療、介護分野で安心して利用できる共通IDが必要とか、これらの点が問題点として挙げられておりました。
 その下の三点に関しましては、現在御審議中の法制度、あるいは既に決められております個人情報、新個人情報保護法等で、あるいは政府の方針等で一応の手だてが、手当てが打たれているものと思われます。上の三つに関してはまだ少し、医療、介護あるいは医学研究の観点から少し不安がございます。
 次のページは、医学の教科書を上に四つ並べていますけれども、これ、私が医学部の学生の頃からこれらの本は同じような本がございまして、今も使われている有名な教科書ですけれども、この中に書かれている知識というのは実際の患者さんの知識がほとんどでありまして、実験室でつくったとか実験動物での知識というのはこれほとんど含まれていない、つまり患者さんのプライバシーセンシティブな情報から精製されたものであります。
 下の二つの絵は、これは一つはイギリスのアカデミー・オブ・メディカル・サイエンスが二〇〇六年に出したレポート、左側がそうで、右側がアメリカのIOMが二〇〇九年に出したレポートで、いずれも、データ保護法あるいはHIPAAのプライバシールールが制定されてから、公益的な医学研究に非常に手間が掛かって遂行が難しくなって、なおかつ患者さんのプライバシーの保護が不十分であるというふうなレポートが出ております。それ以外にもこの二つのレポートには解決策をかなり詳細に書かれておりますけれども、いずれの国も、個人情報の保護と、それから人類あるいは公益に資する医学研究あるいは疫学研究等の兼ね合いにかなり悩んできているというのが現状だろうと思います。
 その次の四ページ目は、これは厚生労働省の保険局が運用しているレセプト情報・特定健診情報データベース、俗にNDBと呼んでおりますけれども、私、これの有識者会議の座長をして、七年間これの、育ててきたといいますかお世話をしてきたんですけれども、今既に百億件を超えるレセプトが入っておりまして、一億数千万件の特定健診が入っております。
 ここでどういうふうに、これは法律に基づいて集めていますので、個人情報保護法の対象外ではあるんですけれども、集めるときに、これは複雑な形をもって一応匿名化をチャレンジをしています。それが五ページ目で、審査支払機関の出口でハッシュ、ハッシュというのは一方向に変換する関数でございまして、変換されたものから元に戻らないという性質を持っていますが、極めてまれな例外を除いて同じハッシュ値に変換されることはないので、例えば一人の人のレセプトは時期をたがえて出してきたレセプトも結び付けることができると。つまり、一人の人の情報は全てひも付けできるけれども誰のかは分からないというふうな工夫をされております。
 この情報が、今六ページ目に現状、ちょっとこれ古いデータですけれども、百億件を超えているということで、いろんなデータセットを作って様々な目的で利用できるようにということで提供してきておりますけれども、やはりこれ匿名化、完全に個人の情報でないとは言えないというような立場で行われています。もちろん新しい個人情報が制定される前ですけれども、いわゆる新個人情報保護法で言う匿名加工情報として扱えるように、安全管理をかなり厳しく審査した上で、公益性を審査した上で別途データを提供するということになっています。これが今御審議中の法律で非識別加工情報に相当するかどうかというのがかなりこの運用に関しては大きな問題でありまして、これは是非、その非識別加工情報に相当するというふうに判断をして、あるいはそれに相当するような加工をしなければならないと考えているところです。
 この利活用は、高齢者の医療の確保に関する法律で決められたデータベースですので、法律に基づいて利用する場合はそのまま粛々と利用しておりますけれども、極めて学術的にも有益性の高いデータベースですので、それ以外の目的に関しては有識者会議による審査で、先ほど申しましたように、いわゆる匿名加工情報あるいは非識別加工情報に相当するものとして様々な条件を十分審査した上で提供しているという制度になっています。
 こういったデータベースが、これからがん登録でありますとか、あるいはDPCのデータベースとか様々出てまいります。これが十分活用できることは、これから日本の社会保障の持続性を保障するに当たっては非常に重要ですので、是非この利活用を進めていくような形で、なおかつ患者さんあるいは介護施設の利用者のプライバシーは確実に保護されるという方向で進めていかなければならないというふうに考えております。
 それから、現実の問題として、困っている問題として八ページがございますが、医療機関は実は国立国際医療センターやがん研究センターのように国立の組織もございます。それから、当然ながら自治体立の市立、県立あるいは町立の医療機関もございますし、あるいは独立行政法人の国立大学病院もあります。それから、それ以外の大部分は民間でありまして、患者さんからするとどの主体の医療機関にかかろうと恐らく関係はないわけですね。なおかつ、現在は一つの医療機関で医療が完結する時代ではなくなってきております。複数の医療機関が連携をして情報共有をして一人の患者さんのケアをしていくというふうなことがもう当たり前の世界になってきておりますけれども、この主体が変わることによって個人情報保護に関わる制度が変わってくるということが実際の医療の現場でかなり大きな問題になっております。
 今回御審議中の法案で、独立行政法人あるいは行政機関の非識別加工情報に関しましては個人情報保護委員会が民間と同様に一貫してそれを指導していくということになりましたので、民間、国、独立行政法人は改善されるというふうに考えられますけれども、自治体立の医療機関との間が、これがまだ残っております。
 これは、制度が違うことが問題ではなくて、ルールが違うことが問題ではなくて、責任主体が異なるということが問題でして、責任主体が異なるために、各自治体では個人情報保護委員会が設けられていて、そこに、こういった医療連携を継続的にするというふうな計画があった場合にその個人情報保護委員会にかけて許可をもらわなくてはいけない。これが例えば十の自治体をまたぐような地域医療連携ですと、十の自治体の個人情報保護委員会に申請をして許可を得なければならない、これが非常に大きな事務的な負担になっております。
 それから、要配慮情報、これは病歴が新個人情報保護法では要配慮情報として明記されております。この病歴をどう捉えるかによってかなり現場での扱い、あるいは医学研究のいろいろな扱いが変わってまいります。
 一般には、広く医療情報を病歴と捉えるというふうに思われるのが普通だと思いますけれども、その場合はやはり若干の例外と申しますか、現場での取扱い上の利便性というのを考慮されなければなりません。これは法律ではなくて恐らく政令あるいは指針等の話になると思いますけれども、ここは十分配慮をしないと、現場に非常に大きな負担になると同時に、いわゆる患者さんあるいは介護の利用者と医療従事者あるいは介護従事者の間で意識の乖離が生じると、実際には信頼性に基づいて行われるべき医療、介護でありながらそういったことで、プライバシーの侵害を起こす起こさないという問題ではなくて、単に意識の違いで信頼性が失われることになると非常に大きな影響があるというふうに思われます。
 それから、十ページ目が遺伝する情報でございまして、これはなかなか難しい問題が含まれております。現在、厚生労働省のゲノム医療推進タスクフォースで議論がされているところでありますけれども、遺伝子情報は個人識別情報で、個人識別情報であれば要配慮情報であるという整理になっているというふうに聞いております。
 ただし、遺伝子情報と申しましても、遺伝子の部分情報である場合やあるいは一定程度統計処理をした情報などは個人情報に該当しない場合もあるので、今後検討するというふうに記載されております。
 このことによって、遺伝子情報が要配慮情報に相当するという原則を立てることによって、DTC、DTCというのはダイレクト・ツー・コンシューマーで、これは民間企業が直接利用者の遺伝子を分析するというビジネスベースの遺伝子検索ですけれども、こういったことが、不完全な同意の下で本人の意図しない利用を防止することはこれで対応可能だというふうに考えておりますけれども、一方で、共同研究におけるデータ共有が困難になることが予想されるとか、あるいは、同意の問題として、遺伝子の場合は、本人がたとえ同意をしていても、その個人情報の取扱いに関わる影響が血縁親族に及ぶことがあって、影響が及んだ人が同意をしていないというふうな問題も起こり得ます。
 十一ページ目は、これはアメリカのNIHのホームページのコピーでありますけれども、ゲノミック・データ・シェアリング・ポリシーとございまして、これはNIHがサポートする研究に関しましてはデータは全てシェアリングすることを義務付けている。これは何も無条件という意味ではなくて、限定された公開であるとか、あるいは非常に厳しい条件を付けた公開とかいろいろありますけれども、少なくとも共有しないということの選択肢はないということで進めています。
 これは、遺伝子の研究は、現在残っている分野というのは、やはり非常に少ない、難病に対する研究であるとか、そういったものでありますと、一つの研究プロジェクトで集められるサンプルでは不十分なことが多いわけですね。したがって、様々な目的で集められたサンプルであっても、それを共有することによってそういった希少疾患に関する診断あるいは治療に結び付くということが期待されますので、このNIHのグラントを受けている限りはこのデータ・シェアリング・ポリシーに従うということが義務付けられております。
 それから、十二ページは、これは我が国の科学技術振興機構が運営しておりますバイオサイエンスデータベースセンターで、これも今、遺伝子に関わる研究費を取りますと、結果をこのNBDCに登録することを強く勧められています。
 こうして様々な目的で収集された遺伝子情報を共通に利用することによって、まれな疾患あるいは非常に重要な疾患に関する診断及び治療への研究に結び付けようという努力をされているわけですけれども、実際にデータを収集するときに、その利用目的が、将来にわたる利用目的が全て分かるわけではないですね。したがって、全てを説明して同意をいただいているわけではないので、これがその要配慮情報を厳密に適用すると利用目的を明示した上で同意をいただかないと利用できないということになり、これらの動きが非常に制限されると。また一方で、国際的な協力というのも非常に進められているところでありまして、これも我が国だけが置いてきぼりになるというふうな可能性もないではないとちょっと危惧をしております。
 十三ページは同意の在り方で、これはいろんな同意があるということをここにお示ししただけでございまして、これ要配慮情報で禁止されているのはオプトアウトだけなんですけれども、これはもう少し緻密な議論が必要ではないかというふうに考えております。
 最後に、まとめですけれども、個人情報の保護は明らかに改善されると。それから、個人情報保護委員会を匿名加工情報あるいは非識別加工情報のコミッショナー、扱いのコミッショナーとすることで基準が明瞭になると。ただし、地方自治体による差が相変わらず残ってしまうということで、これは更にこれから努力が必要だろうというふうに思われております。
 それから、要配慮情報に病歴が含まれる、それから遺伝子情報を含むということで濫用されるリスクは低下しますけれども、その一方で、公益研究、特に多施設共同研究や国際共同研究に不要な負荷がないように十分な対策を望みたいと考えております。
 それから、遺伝する情報の保護は、先ほど言いましたように、個人情報保護法はやはり同意ベースでありますので、同意の有効範囲が及ばないところで影響が出る可能性があるということで、それ以外の制度的な裏付けが必要ではないかと、あるいはこれで十分なのかという検討が必要だというふうに考えております。
 私の意見は以上であります。
 どうも御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 山本隆一

speaker_id: 22202

日付: 2016-05-12

院: 参議院

会議名: 総務委員会