北側一雄の発言 (憲法審査会)
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○北側委員 十一月三日に日本国憲法公布七十年を迎えました。七十年前の日本国憲法制定に至る経過等について改めて確認をし、また、この七十年の日本国憲法の果たしてきた役割とその評価、さらに今後の憲法論議の進め方について所見を述べたいと思います。
ポツダム宣言の受諾、終戦、占領統治などの激動の過程で憲法改正論議が精力的に進められ、昭和二十一年十一月三日、日本国憲法は公布されます。
当時は、言うまでもなく、敗戦国日本をめぐる極めて厳しい国際環境にありました。占領統治に当たる連合国総司令部、GHQを初め、占領統治の最高機関であった極東委員会、その出先機関である対日理事会など、戦勝国による外的圧力下にありました。戦勝国の間でも、米ソの対立など、各国によって対日本統治の利害も大きく異なっております。また、国内的にも、敗戦直後の社会的、経済的混乱の中にあります。
こうした状況下で、当時の日本の政治家たちは、新憲法の制定へ、そしてその後の日本の主権回復と経済の自立をなし遂げてまいりました。先人たちの極めて大変な労苦と困難の中で戦後日本の礎が築かれたもので、私たちはこのことを忘れてはならないと思います。
吉田茂の「回想十年」という本がございます。昭和三十二年に発刊されました。きょう持ってまいりましたが、このような本でございます。終戦直前から主権回復までの政治の激動が吉田茂の言葉として見事に描かれております。書かれている個別の内容の評価は別といたしまして、当時の状況を知る上で大いに参考になると思います。
昭和二十年十二月から日本政府の新憲法制定への動きが本格的に始まりますが、昭和二十一年二月十三日、GHQから日本政府側に、いわゆるマッカーサー草案が交付され、これをもとに憲法改正草案要綱、さらに憲法改正草案が作成されました。このことを捉えまして、一部に、占領下でつくられた押しつけ憲法であり、自主憲法の制定が必要との意見があります。
私たちは、GHQの関与のもとで新憲法が制定されたことは事実であるとしても、こうした考え方には賛同できません。
なぜなら、第一に、憲法改正草案は、六月二十日衆議院に提出されますが、枢密院、衆議院、貴族院という三段階の審議を経て、数多くの修正がなされ、それぞれ圧倒的多数で新憲法改正案が可決、成立しています。
特に、衆議院は、憲法改正草案要綱が発表された後の四月十日、我が国で初めての女性参政権も含めた普通選挙による衆議院選挙が実施され、これにより選ばれた議員により議会が構成されました。ちなみに、衆議院では、賛成四百二十一票、反対八票で、共産党の皆さんが反対しております。共産党の反対の主な理由は、天皇制が存置されていること、そして憲法九条に反対であったことであります。
第二に、新憲法制定時の総理である吉田茂は、押しつけ憲法という批判に対し、さきの「回想十年」では次のように述べております。
「「押しつけられた」という点に、必ずしも全幅的に同意しがたい」とし、その理由として、GHQは「交渉経過中、徹頭徹尾「強圧的」もしくは「強制的」というのではなかった。わがほうの専門家、担当官の意見に充分耳を傾け、わがほうの言い分、主張に聴従した場合も少なくなかった。」「時の経過とともに、彼我の応酬は次第に円熟して、協議的、相談的となってきた」「議員のうちには、第一流の憲法学者をはじめ、法律、政治、官界のいわゆる学識経験者を網羅しており、しかもこれらの人々は占領下とはいいながら、その言論には何らの拘束を受くることなく、縦横無尽に論議を尽くしたのである。すなわち憲法問題に関する限り、一応当時のわが国の国民の良識と総意が、あの憲法議会に表現された」と述べております。
第三に、極東委員会は、昭和二十一年十月十七日、新憲法が真に日本国民が自由に表明した意思によってなされたものであることを確認するため、日本国民に対して再検討の機会を与えるべきである旨を決定し、これを受け、総司令部も、憲法施行後一、二年以内の憲法改正の検討を提案いたしましたが、日本政府は改正の必要なしとの態度をとりました。
第四に、日本国憲法公布から施行までの間に、新憲法に基づき、我が国の数多くの基本法制が制定されます。今話題になっております皇室典範もそうです。国会法、旧参議院議員選挙法、内閣法、裁判所法、地方自治法、旧教育基本法、学校教育法、財政法、労働基準法などです。全て戦後民主主義の基礎となった法律です。多くのこうした法律が、日本国憲法の施行である昭和二十二年五月三日に同時に施行をされております。押しつけ憲法で果たしてこのような詳細な基本法制が整備されるものでしょうか。
そして、最後に、何よりも日本国憲法はこの七十年、国民に広く浸透し、支持されてまいりました。押しつけ憲法という主張自体、今や意味がないと言わざるを得ません。
日本国憲法は、我が国の民主主義を進展させ、戦後日本の平和と安定、経済発展に大きく寄与してまいりました。国際社会からの信頼も広げてきました。特に、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義の三原理は、過去幾多の試練に耐え、確立されてきた人類普遍の理念であり、これからも堅持されなければなりません。私たちは、この日本国憲法をすぐれた憲法として評価しております。
しかしながら、憲法制定から七十年を経過いたしました。時代も大きく変化し、制定当時想定できなかった課題も明らかになっています。また、現行の規定のままで不都合があるならば、憲法の基本原理はあくまで維持をしながら条項をつけ加えていくという方法、いわゆる加憲方式で憲法改正論議を進めていくことがふさわしいと考えております。
また、憲法改正案は最終的に国民投票に付されますが、まず、憲法改正原案は、内容において関連する事項ごとに区分して個別に発議することとなっております。そして、国民投票は、憲法改正案ごとに一人一票で賛成または反対の文字を丸で囲む投票方式となっております。したがって、日本国憲法の全体もしくは数多くの項目の改正案を一括して国民投票に付すことはそもそも想定されず、現実的にも加憲という方法で憲法改正論議を進めるしかないと考えられます。
今後の憲法論議は両院の憲法審査会で着実に議論を進めることになりますが、その際、次のことが重要と考えております。
第一に、国民にオープンに論議を進めるということ。何よりも国民の理解を得つつ論議を進めることが不可欠だからです。
第二に、これまでどおり少数意見に配慮し、発言の機会を保障すること。
第三に、時の政局から一歩離れて、冷静に憲法論議を積み重ねること。
以上のことを憲法審査会で確認することをお願いし、私の本日の意見表明といたします。
ありがとうございました。