上川陽子の発言 (憲法審査会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○上川委員 おはようございます。自由民主党の上川陽子です。
 参政権の保障をめぐる諸問題をテーマに、党を代表して発言いたします。
 衆議院憲法審査会における昨年十一月の議論を拝聴しますと、制定以来七十年、日本国憲法は国民にも社会にも定着し、大きな役割を果たしてきたのであり、制定過程におけるGHQの関与による押しつけ憲法論からは卒業すべきであること、日本国憲法の三大原理、すなわち、基本的人権の尊重、国民主権、平和主義は堅持すべきことなどについて、各会派が共通の認識を持っているという確信を持ちました。同時に、次の七十年、成文の憲法典だけでなく、憲法附属法規や一連の基本法などを含めた総体から構成される生きた憲法、リビングコンスティチューションのあり方を議論していくことの大切さを改めて認識いたしました。
 今後、憲法審査会が議論を進めていくに当たっては、現時点の議論の到達点を踏まえ、憲法制定以来我が国のあり方を規定してきた三大原理を縦軸に、制定後七十年を経て浮かび上がってきた個別の論点を横軸に据えて、論点の深掘りをしていくべきと考えます。
 さて、国民主権の観点から参政権の保障をめぐる諸問題を考えるとき、一票の格差の問題を避けて通ることはできません。
 最高裁の判例は、投票価値の平等が憲法の要求するところであると明言しつつ、国会議員が全国民の代表である以上、人口の格差が投票価値の不平等を正当化するものではないとしています。
 しかし、一票の格差の問題は、地方の過疎化、人口減少と切り離して語ることができません。
 現行憲法が制定された七十年前から現在まで、我が国の人口は約五千万人増加しましたが、そのうちの約半分が首都圏における人口増加であるなど、世界でもまれに見る首都圏への人口一極集中が進んでいます。
 さらに、国立社会保障・人口問題研究所によると、二〇一五年には約一・二億人であった我が国の人口は、二一〇〇年には約〇・五億人まで減少するという試算がなされています。その結果、地方は、過疎の問題を通り越して、地方消滅と言われるまでの深刻な人口減少に直面する結果、自治体による行政自体が成り立たなくなるといった指摘や、人々が地域で生きていくこと自体が困難になるといった指摘がされています。
 にもかかわらず、全国民の代表としての立場を過度に強調し、厳格な人口比例を国会議員の選出に反映させると、日本においては、都市部選出議員はどんどん多く、地方選出議員はどんどん少なくなるという傾向が続き、極端に言えば、都市部の一区画から選出された議員ばかりとなりかねません。その場合、地方在住の国民にとっては、政治にアクセスする機会が都市部在住者よりも圧倒的に少なくなることは、容易に想像することができます。
 日本国憲法制定以来七十年の間に社会が激変し、どんな努力をしても、地方消滅ともいうべき、トレンドとして避けられない深刻な人口減少を迎えつつある状況下においては、厳格な人口比例を前提としても自然に全国津々浦々から代表者が選出されていたという従来の前提自体が崩れつつあると言わざるを得ず、投票価値の平等が守られていれば国民主権の基礎が守られていた時代は過去のものになってしまったのではないでしょうか。
 以上を前提として、参政権についての憲法論議の方向性について申し述べます。
 国民主権という切り口から参政権を考えるに当たっては、公正かつ効率的な代表という視点とともに、有権者と政治の対話という視点も必要と考えます。
 参政権は、政治へアクセスする権利と位置づけられますが、有権者の政治へのアクセスは、投票をして議員を選び、議会が構成されることで終了するのではなく、議員は常に議会における議論の状況を有権者にフィードバックし、議員と有権者の意見交換を議会における討議と立法に反映させていくという循環的な対話を維持することが必要ではないでしょうか。その循環を維持するためには、一票の格差の是正という数値的な意味での政治へのアクセスの確保だけでなく、質的な意味でのアクセスの確保が必要と考えます。
 ここに言う質的な意味でのアクセスの確保とは、人口の少ない地域の住民も意見交換や議論を通じてみずからの地域の問題点を議員に伝えるという意味でのアクセスの確保を意味し、このようなアクセスが確保されていなければ、対話的な循環は成り立ちません。
 このような視点からすると、衆議院と参議院の選挙制度はいかにあるべきでしょうか。
 衆議院については、国民代表機関の世界的標準に照らして人口比例を厳格に適用すべきという見解もありますが、この点については、参政権の有権者と政治の対話という側面に着目した上で慎重な議論が必要と考えます。
 一方、地方の利益に目配りするという意味での補正の役割に着目するとき、特に参議院選挙における合区は早急に解消することが強く求められます。
 しかし、最高裁は、参議院について人口比例の要請と院の権限の相関関係のバランスが崩れているとの認識を持っていることがうかがわれ、このような点も踏まえた本質的な議論が求められます。
 参議院のあるべき姿については、参議院憲法審査会を初めとして参議院が長年にわたって取り組んでいるところであり、その成果を踏まえて衆議院においても議論を深めていくべきでしょう。その上で、国会における議論の進展次第では、法改正では足りず、憲法改正が必要になることも考えられます。
 いずれにせよ、衆議院と参議院の選挙制度の問題は、国と地方の権限分配の見直しや、地域自体の統治構造改革にも広がりを見せることが予想され、ひいては憲法第八章のあり方も議論の対象となるでしょう。その意味で、いずれ衆議院憲法審査会においてテーマとされるであろう地方自治の問題とも密接に関連してくると考えます。
 次に、緊急事態における国会議員の任期の特例について申し述べます。
 緊急事態については、既に衆議院憲法調査会における議論の蓄積があり、調査会報告書において、平常時の憲法秩序の例外規定を規定すべきとする意見が多く述べられたとされています。このような議論の蓄積を踏まえて、今後、深掘りをしていくべきです。
 本来このテーマを考えるに当たっては、そもそも緊急事態とは何か、どのような緊急事態を想定するのかを設定する作業が必要となるはずです。例えば、南海トラフ巨大地震が発生した際に想定される被害は非常に広域にわたることが予想され、最大で、死者は三十二万人、建物の全壊、焼失二百三十八万棟、資産等の被害百七十兆円と試算されています。このような自然災害を起因とする未曽有の国難を緊急事態と想定することが考えられるでしょうか。
 その上で、内閣総理大臣等への権限集中や人権制限などが必要なのか必要ではないのか、法律整備で足りるのか、それとも憲法改正まで必要になるのかという丁寧な仕分け作業も必要になります。何より、いかなる状況においても、憲法が統治原理の根幹に据える国民主権の観点から、民主的コントロールを貫徹するためにどのような制度を構築する必要があるのかが必須の視点となります。
 日本国憲法は、緊急事態条項の一種として参議院の緊急集会を用意していますが、これは、衆議院の解散中から特別会が召集されるまでの七十日間を想定した制度とされています。東日本大震災のときには、被災地では最大八カ月の間、地方選挙ではありますが、選挙を執行できませんでした。もし非常事態発生により被災地での選挙の執行が困難な事態に陥ったとき、選挙の延期や議員の任期の延長といった手当てを講じないと、被災地選出議員は不在になってしまいます。
 しかし、国会議員の場合、憲法上、衆議院議員と参議院議員の任期が明記されていることに鑑みると、この手当てのためには憲法改正が必須となります。国会議員が全国民の代表である以上、被災地選出議員がいなくても支障ないという形式的な議論は、非常事態においては特に成り立たないのではないでしょうか。少なくとも国会議員の任期延長等の手当てを憲法上行うことは、民主的コントロールを貫徹し、国民主権を機能させるために必須であることを強調して、私の発言を終わります。

発言情報

speech_id: 119304183X00120170316_007

発言者: 上川陽子

speaker_id: 1920

日付: 2017-03-16

院: 衆議院

会議名: 憲法審査会