榊原英資の発言 (国際経済・外交に関する調査会)

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○参考人(榊原英資君) 私の方は、アジア経済の現状と、経済的な日本とアジアの関わり合いというようなことを中心にお話ししたいと思います。
 一九九八年にアンドレ・グンダー・フランクという、これはドイツ生まれのアメリカ人ですけど、これが「リオリエント」という本を書きまして、二〇〇〇年には邦訳されておりますけれども、これは、要するに世界の経済の中心がオリエント、アジアに戻ってくると。オリエントというのは方向性を変えるという意味がありますから、二重の意味でリオリエントという言葉を使ったわけでございますけれども、欧米が一時中心だった世界経済がアジアに戻ってきているというような話をしたわけでございます。
 実は、一八二〇年、十九世紀の初めでございますけれども、このときの世界のGDPをアンガス・マディソンという経済史の専門家が推計しておりますけど、このとき世界のGDPの二九%が中国、一六%がインドということでございますから、中国とインドで世界のGDPのほぼ半分を占めていたと。これに日本とか韓国とかASEANを加えますと、大体五二%がアジアのGDPだったということでございますから、十九世紀初めまで非常にアジアの比重が多かったと。さらに、それを一五〇〇年とか一六〇〇年に遡りますと更に中国、インドの比重が多くなってまいります。大体一五〇〇年、一六〇〇年では中国とインドで世界のGDPの六〇%、アジア全体では七五%というようなことでございまして、まさに長い二〇〇〇年の世界の歴史を見ますと、そのほとんどの時代、アジアが経済の中心だったということが言えるわけでございます。
 アジアが衰退しますのは、十九世紀の半ばから欧米によるアジアの植民地化が行われたということでございます。アジアの国の中で実質的に植民地にならなかったのは実は日本だけでございます。タイが形式的な独立を保っていますけれども、これもイギリスの支配下にあったものですから。そういうことで、アジアが植民地化によって衰退するということが実は十九世紀の半ばから起こったわけでございます。
 一八四二年には香港と九龍半島がイギリスの植民地になる、あるいは六三年には上海が事実上英米の租界になるというふうなことがありましたし、それからインドも一八七七年にはイギリスの植民地になるというようなことがあって、これでアジアが衰退するということが起こったわけでございますけれども、第二次世界大戦後、アジアの国が次々と独立するわけでございます。一九四六年のフィリピンの独立から始まりまして、日本も一九五二年には占領が終了するということで、大体五〇年代の初めまでにはアジアの国々が次々と独立していったということでございます。
 そういうことでアジアが次々と独立した後で、非常に高い成長率をアジアが達成するわけでございますけれども、まず日本が高度成長、これは一九五六年から七三年、平均成長率九・一%ですから極めて高い成長率ですね。日本に次いで韓国、台湾、香港、シンガポールというところが成長率を高め、それにまたASEANが続いたということでございます。それから、一九九〇年代になりますと、インドと中国が計画経済から市場経済に移行するということが実は起こってくるわけでございまして、ここで一九九〇年代以降は中国とインドが極めて高い成長率を達成するということでございます。
 資料の四十四ページにも書いてございますけれども、一九七九年から二〇〇八年の三十年間、成長率のトップテンは全てアジアの国でございます。中国が九・八%とほぼ一〇%に近い成長率を達成したわけでございますけれども、中国に次いでシンガポール、ベトナム、ミャンマー、マレーシア、韓国、台湾、インドというようなことで、アジアの国が第二次世界大戦後、独立後極めて高い成長率を達成するわけでございます。ちなみに、七九年から二〇〇八年のアメリカの成長率は二・九%、日本の成長率は二・四%ですから、エマージングアジアがこの間にいかに高い成長率を達成したかということが分かるわけでございます。
 現在のGDPでございますけれども、購買力平価ベースでは、GDPでは中国がアメリカを抜いているわけでございますね。これは計算にもよりますけれども、若干中国がアメリカを抜くというようなことでございます。それから、二〇三〇年、二〇五〇年ということになりますと、これは推計でございますけれども、プライスウォータークーパースというアメリカのコンサルティングファームが推計しているわけでございますけれども、二〇五〇年には実はインドがナンバーツーになる、インドのGDPがアメリカのGDPを抜くというような推計をしております。中国がナンバーワンで、二〇五〇年、六十一兆七百九十億ドル、インドがナンバーツーで四十二兆二千五十億ドルということで、アメリカが四十一兆超でございますから、中国とインドがGDPの二大大国になるということでございます。
 中国、インド、アメリカ、インドネシア、ブラジル、メキシコということで、大体日本が第七位ぐらいというようなことになるわけでございます。ですから、これから二〇五〇年にかけて、グンダー・フランクが言ったリオリエント現象、要するに世界経済の中心がアジアに戻ってくると、中国とインドが中心でございますけど、そういうことが起こってくるわけでございます。
 二〇五〇年のGDPの大きさでトップセブンというのをプライスウォーターハウスクーパースが推計しておりますけれども、トップが中国、二番目がインド、三番目がアメリカ、四番目がインドネシアということでございまして、その次、ブラジル、メキシコ、日本と続きますけれども、トップセブンのうち日本を含めてアジアの国が四か国というようなことでございまして、非常にアジアの国が今後大きく伸びてくるというようなことが予想されているわけでございます。
 二〇一五年から二〇五〇年の平均成長率というのも、これもプライスウォーターハウスクーパースが推計しておりますけれども、最も高いのが実はナイジェリアで五・四%、その次がベトナム、バングラデシュ、インドということで、アジアの国が続くわけでございます。それから、フィリピン、インドネシア、パキスタンというようなことで、二〇一五年から二〇二〇年の成長率のトップテンのうちアジアが七か国ということでございますから、これから極めて高い成長率をアジアの国が達成するというようなことでございます。
 世界の総GDPに占める中国のシェアというのは、大体二〇二五年辺り、今から十年弱先でございますけれども、このときには中国が世界のGDPの二割、二〇%に達するというふうに考えられております。まあ、大体二〇%ぐらいで安定するのではないかと。現在、インドは世界のGDPの七%ですけど、これは二〇五〇年に向けて一四%まで増えていくということでございまして、先ほど申し上げましたように、二〇五〇年にはインドのGDPがアメリカを抜くというようなことが予測されているわけでございます。二〇五〇年には中国とインドで世界のGDPの三四%を占めると。一八二〇年には四五%でしたから、一八二〇年には及びませんけれども、中国とインドが世界の二大経済大国になっていくということが今後実現されてくるわけでございます。
 それから、人口から申し上げましても、御承知のように、中国が最大の人口、現状では十三億七千六百五万人、その次がインドで十三億一千百万人程度でございまして、中国がトップ、インドが二番目、インドネシアが四番目ということで、アジアの国が人口でも非常に大きいわけでございます。
 実は二〇五〇年になりますと、中国は一人っ子政策なんかを取りましたから、実は人口がピークを打って減っていく可能性があるわけですね。ですから、二〇五〇年には中国の人口は今と余り変わらない、あるいは若干減少する、それから老齢化ということも起こってくるということでございますけれども、実はインドは今後ともずっと人口が増えるということでございまして、二〇五〇年にはインドが人口でトップになって、十六億六千万人というようなことになるというふうに言われております。しかも、インドは今人口構成が若くて、二十五歳以下の人口が五割以上を占めておりますから、これからインドの人口増加というのは生産年齢人口の増加ということにつながっていくわけでございまして、こういうことでインドの成長率はかなり高く維持されるだろうというふうに考えられるわけでございます。
 実は、インドと中国の成長率が二〇一五年に逆転しているんですね。中国は、先ほど申し上げましたように、一九八〇年から二〇一一年までは一〇%弱の成長を達成したわけでございますけれども、二〇一二年辺りから成長率が落ちて七%台、現在は六%台まで落ちているわけでございますね。今後、恐らく二〇五〇年にかけて中国の成長率というのは三%ぐらいまで落ちていくだろうということが予測されているわけでございます。人口が減る、老齢化が起こるということで六%ぐらいに減っていくわけでございますけれども、インドはしばらくの間七%の成長を続けるというふうに考えられております。
 二〇一六年の数字ですと、中国の成長率が六・五九%、インドの成長率は七・六二%でございますから、まだGDPの絶対的な大きさからいうとインドは中国の三分の一ぐらいでございますから、その意味ではまだまだ伸びる余地があるということでございまして、恐らく今後、二〇五〇年まで六、七%の成長を維持するということが考えられるわけでございます。
 そういうことでアジアの成長が非常に高いんですけど、中でもインドが非常に高い成長率を今後とも維持していくと。また、インドネシアも大体五%ぐらいの成長を今遂げているわけでございますけれども、これも中国、インドに次ぐ人口を持っている国でございますね。アジアの大国でございますけれども、インドネシアもポテンシャルとしては五%前後の成長率を維持していくということが考えられるわけでございます。
 日本との関係ということでいいますと、日中関係とか日韓関係というのは時々ぎくしゃくするわけでございまして、これは戦前から戦時中の日韓、日中のその関係からそういうことでございますけれども、日本とインドというのはずっと極めて良好な外交関係を維持しているんですね。
 というのは、日本が戦時中からインドの独立を支援したわけですね、日本は英米と戦ったわけでございますから。逆に、インドの人たちの一部、インドの国民会議派の例えばチャンドラ・ボースなんという人がいますけれども、チャンドラ・ボースとかビハリー・ボースとかいう人は、これは日本に亡命しまして、日本と一緒になってインドの独立を達成しようというふうにしたわけでございます。実際に一九四四年にはチャンドラ・ボースが義勇軍を組織して、日本軍と一緒にインパール作戦というのをやって、たしかあれはビルマで英国と戦っているわけでございますね。
 そういうことで、その時期から国民会議派の左派といわれる人たち、国民会議派の中心にいたガンジーとかネルーは、どちらかというとイギリスとも友好な関係を維持し続けようというふうに考えていた節がありますけれども、チャンドラ・ボースとかビハリー・ボースとか国民会議派の左派の人たちは、むしろ日本と組んでイギリスと戦うということを選んだわけでございます。
 そういうこともあって、日印関係というのは戦時中から極めて良好でございまして、現在も非常に良好な関係を維持しているわけでございますね。たしか、日本とインドの間には、一年ごとに両国の首相が相互訪問するということが制度化されております。恐らく来年は安倍さんが向こうに行く番ですかね、ナレンドラ・モディが今首相でございますけれども、そういうことで、両方の首相が交互に訪問するということが制度化されていると。もちろん、首脳の訪問というのはいろいろあるわけでございますけれども、交互の訪問というのが制度化されているのは日本とインドだけでございます。
 そういうことで、日本とインドというのは外交関係も良好ですし、対日感情あるいは日本のインドに対する感情も非常に良好ですから、今後やはりインドというのは日本にとって非常に重要な国になっていくということでございます。
 それからまた、先ほど申しましたように、成長率も非常に高いまま維持されるということになりますから、非常に重要な市場になっていくと。日本の自動車会社というのはほとんどが今インドに進出しておりますけれども、バンガロールか何かに工場を持って進出しておりますけれども、これから例えば自動車の販売量とか、あるいは耐久消費財の販売量というのはインドは急速に増えていく可能性があります。そういう意味で、市場としてインドを見た場合に、日本の企業にとって極めて有望な市場ということになっておりまして、自動車とか自動車部品の企業がインドに進出しておりますけれども、今後とも日本企業のインドに対する進出は続いていくんだというふうに考えております。
 そういうことで、今後の日本の外交ということを考えた場合に、やはりアジアとの外交というのが非常に重要になってくる、特に経済的にはアジアとの外交が極めて重要になってくると。安全保障の面では日本の最大のパートナーはアメリカでございますけれども、実は経済ということに限っていうと、日本の最大のパートナーは中国なんですね。日本の貿易ということ、例えば輸出ということを考えましても、日本の輸出の一五%弱がアメリカでございますけれども、もう中国への輸出は日本の輸出の二〇%になっていると。それに香港、台湾などを加えますと、中国圏への輸出は日本の輸出の三〇%を超えているわけでございますね。あるいは、アジア全体ということでいいますと、日本の輸出の六〇%はアジア全体に対する輸出ということでございますから、これからやはり経済的にはアジアというのが非常に重要な日本の相手、パートナーになってくるということでございますから、これは今後の日本の外交政策を考える上で極めて重要ということでございますね。
 既に日本の企業というのは相当中国に進出しておりますけれども、今はインド進出というのが一つの流れになっておりまして、多くの日本の企業はインドに次々に進出をしているということでございまして、インドは実はスズキ自動車が非常に強いんですね。スズキが、インドの国民車をつくるというその要望に応えて、スズキ・マルチという合弁会社をつくってインド国民車の製造に協力したわけですね。ですから、実は今、インドの自動車市場の六割をスズキ・マルチが占めているということでございまして、元々はインドがマジョリティーシェアを持っておりましたけれども、今やスズキ、日本がマジョリティーシェアを持っておりますから、恐らく、正確な数字を持っておりませんけれども、スズキの自動車というのは日本よりもインドで売れているんじゃないかと、台数が多いんじゃないかというふうに思われますけれども。
 そういうことで、スズキが典型でございますけれども、今やトヨタもホンダも、あらゆる自動車企業がインドに進出してインドの今後のポテンシャルということを生かそうというふうに考えております。
 そういうことで、アジア全体の成長率が非常に高いんですけれども、中国は次第に減速していきますけれども、インドは相当高い成長率を今後二十年、三十年にわたって維持する可能性が極めて高いわけでございますから、インド市場ということを重視していかなきゃいけないということと、日本のアジア外交ということからいいましても日印外交というのが非常に重要になってきます。現在、既に非常に良好でございますけれども、これを良好のまま維持して、例えば総理の相互訪問などということを続けていくということが非常に重要ではないかと思っております。
 一応時間になりましたので、私の話はこのくらいにさせていただきます。

発言情報

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発言者: 榊原英資

speaker_id: 20726

日付: 2017-02-08

院: 参議院

会議名: 国際経済・外交に関する調査会