河東哲夫の発言 (国際経済・外交に関する調査会)
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○参考人(河東哲夫君) どうもありがとうございます。河東でございます。
藤崎大使がもうほとんど私の申し上げたいことをおっしゃったんであれなんですけれども、もうちょっと原則的な立場から幾つか申し上げたいと思うんですけれども、お手元にお配りした五ページぐらいのメモに従ってお話し申し上げたいと思います。
今日は二つの話題がありまして、一つは外交体制についてなんですけれども、まず、その外交体制について感じていることを申し上げると、やっぱり外務省だけいじればいい問題ではないと思います。サッカーとは違うんで、ワールドカップのチームに全部任せておけばいいということではないんで、外交は日本全国に関わることなんで、やはり外務省だけができる問題ではないということがございます。
その中で幾つか問題があるんですけれども、一つは、そこに書いてありますように、体制の問題です。体制というのは、憲法が定めている外交についての日本の政策決定の過程の問題であります。具体的に言えば、政官の関係それから外務省の権限が問題になると思います。
政官につきましては、最近、政高官低という議論が随分強まって、本来、憲法からいけば三権分立なんですけれども、そこの政高官低と三権分立の間のバランスがまだルールとして確立されていないんではないか、それが制度的に担保されていないんではないかという問題があると思います。まあ、申し上げても仕方のないことなんですけれども。それから、外務省の権限が外交全般をコントロールするには足りないという問題がございます。それについては、また後ほど詳しく申し上げたいと思います。
次に、日本の社会、それから教育の問題があります。
先ほど、藤崎大使から外交官試験の問題が提起されましたけれども、教養の問題にかかわらず、それから外交官の気質の問題があるんだと思います。もちろん本当に、何というのかな、オリジナルな考え方ができる外交官たくさんいるんですけれども、そうでない、言葉は悪いけれども体制順応型の外交官もたくさんいると思います。今の世界は、自ら新しい枠組みを構想して提案して調整する気概のある外交官が必要とされているんですけれども、その数がまだ少ないと思います。
それから、何というんですか、在外で大使館に出ても、それから日本の国内にいても、自分の組織の外に出ていろんな分野の人と付き合って、その付き合いを広げていろいろ仕事を広げるというような意識が足りない人もまだたくさんいると。それはやはり日本の社会、教育が背景にあるんではないかと思います。
次に、その体制の問題として、日本の世論が外交についても非常に不必要なほどイデオロギーの線に従って割れているということがあります。これは、反米であるとか親米であるとか、反中であるとか親中であるとか、これが現実の日本のニーズからかなり離れたところで対立していて、それが外交政策の決定を難しくしている面があると思います。
もう一つは、マスコミの性質がありまして、これはどこの国でも同じなんですけれども、マスコミは紛争、対立をあおる側面がございまして、例えば、ワシントンではほとんど話題になっていないような日本に関する発言であっても、それを日本の新聞が大きく取り上げることによって、あたかもそれがアメリカで物すごい大きな問題になっているかのような理解に我々がされてしまって、対応を迫られ、それによって日米の対立が不必要に拡張されるということがございます。まあ、これは言っても仕方のないことなんですけれども、そういう問題があるということであります。
それから次に、以上は社会全体の問題だと思うんですが、外務省自体にも問題がございます。
一つは、一番大きなことなんですけれども、外交は日本全体に関わりますけれども、外務省の国内調整の権限が欠如しております。これは外務省にこの権限を与えてほしいということではないんで、限界があるということでございます。国内のいろいろな調整の権限はほかの省庁が持っておりますから、当然、外務省の権限は制限されるわけです。
それから、世界に出ましても、日本は、国際金融、それから海外で働いている日本の企業との関係ではその調整権限がございませんから、限られていますから、そこで手が縛られているという問題があります。
次のページに行きますと、これは外務省の中の体制の問題なんですけれども、人数の問題、あとは行政改革の問題に関わりますけれども、局と課、これの数が縛りを受けているということが外交をかなり縛っております。
例えば、私のいたウズベキスタンを担当している中央アジア、これは課ではなく中央アジア・コーカサス室という室が担当していて、先方の諸国に対しても非常に失礼な状態になっております。それから、一つの局長が数十か国もの国を担当しているために、ほぼ毎日東京で開かれている在京の外国大使館のレセプションの類い、これにも局長が全部出ることはできない、そういうような限界が出ております。
次に、c)なんですけれども、省内の縦割りの問題がございます。これは、欧州局であるとか中東局であるとか、そういうふうに地域別に分かれているために、例えばアフガニスタンのような、中東にも関わるし、中央アジア、これは欧州局なんですけれども、それから南西アジア、インド、パキスタン、そういった複数の地域にまたがる国については、その省内の調整が不足しがちな問題がございます。
次に、藤崎大使もおっしゃったんですけれども、出張費が不足していて肝腎の外交官が余り外国に出られないと。特に、本省にいる外交官、それから外国で勤務している若手の外交官も周辺の外国になかなか出かける機会がないということなので、これは外務省員の世界知らずという変な現象を生んでおります。
次に、e)なんですけれども、やっぱり外務省員の研修が不足していると思います。藤崎大使がおっしゃった一般教養の不足の問題にも関わるんですけれども、それから研修で全てが解決されるわけではないんですけれども、特に経済問題、金融問題、軍事問題、これについての知識が欠如している例が多いと思います。それから広報なんですが、その発信力なんですけれども、この場合にはメディアにどういうふうに対応するかということについては幾つかの具体的なテクニックがございますから、そういったテクニックを具体的に学ぶようなコースが必要なんですけれども、これをもっと拡充する必要があると思います。
あとは、要人を招待する枠が不足しているとかですね。要人を招待するためには予算が必要ですから、いつも省内でどこの国の首脳を呼ぶかというのが取り合いになっているわけです。
最後に、外務省の問題なんですけれども、ODAに対する意識をこれまでの黒から白に変えていただきたいと思います。ODAというのは日本外交に残された数少ない道具というのか重要な手段なんですけれども、これを絞りぎみにしますと、やはり日本の外交に差し支えるんだと思います。
次に、2の、もう一つの大きなテーマの対外発信力なんですけれども、対外発信は二つのカテゴリーに分けることができると思います。一つは政策広報のカテゴリー、これは別の言葉で言えば世論工作、相手の国の世論を工作するということであります。それから、もう一つのカテゴリーは一般広報、これは一般的な日本についてのイメージ戦略でありまして、ここには文化交流が含まれております。
最初に政策広報について申し上げますと、これは本来、秘密会でないと十分な議論はできないと思うんですけれども。なぜならば、政策広報というのはかなり工作と似ている面がございまして、例えばロシアで領土問題についての広報をしますと、私のいた九〇年代は自由でありましたけれども、現在、ロシアで北方領土問題の広報をしようと思いますと、ロシアの公安から縛りが掛かってきます、違法なんですね。ですから、ロシアでは領土問題の広報というのはスパイ活動に類するようなものになります。それから、アメリカでは、特定の法案について広報をしようとしますと、それはロビー活動ということになって、やはり法律の縛りが掛かります。
ですから、政策広報、例えば尖閣の問題であるとか北方領土問題であるとか、そういった特定の問題について広報をやろうとしたらば、それは新聞に全面広告を打つのはむしろ逆効果になる場合がございます。なぜ逆効果になるかというと、新聞というのは多くの国で読む人が少ないという問題、それから、読んでも政府の広報だと思いますと誰も信じないんですね。それで、しかも外国政府の広報だと思いますと反発する人が多いということで、むしろ逆効果になります。
それよりも、むしろ藤崎大使のおっしゃったように、先方の政策決定者を個々に説得することが政策広報の基本であるだろうと思います。そのためには、数名の物すごい能力の高い外交官を準備する必要がございます。在米の大使館では、そのために議会班であるとか広報班であるとか、そういった外交官が何人も張り付いていて、最高度の語学力と、それから現地の理解力と、それから社交力を駆使しているんだと思います。
次のページに行きますと、そういうわけで、政策広報に伴う問題というのは、政策広報に対しては予算が必要なんですけれども、それに対して、外務省はこれこれこういう政策広報をやっていますという日本国内での広報が非常にやりにくいという面がございます。
なぜかといいますと、ロシアでは日本大使館はこういうことをやっておりますとか、ワシントンではこういうことをやっておりますというようなことを詳しく広報しますと、ロシアの場合、ロシアの公安がそれはけしからぬと言ってきますし、アメリカの場合には、尖閣の場合だったら中国の大使館が、そういうことをやっているのか、では、ついては我々も似たようなことを対抗してやろうとまねされるわけですよね。日本側の手のうちを知られるわけです。ですから、政策広報の広報というのはまた非常に難しいという問題がございます。
それから、政策広報については心得るべき点というのが幾つかございまして、一つは、相手国の大衆には、日本の政策のほとんどが関心がないということでございます。例えば、今回トランプ大統領を選んだアメリカの大衆、彼らに日本の政策の細かいことを言っても全然関心がないと思うわけですね。そういう場合には、大衆相手には、尖閣は古来日本のものですというツイッターの一行だけで十分なので、少々不正確なんですけれどもそれで十分なんだと思います。
それからもう一つ、政策広報の限界なんですが、理屈を幾ら説いても意見を変えない者が必ずいるということでございます。
一つは、例えば実例を挙げますと、中国の反日は中国共産党の政策でございますし、これはいつまでも日本の頭を抑えておこうという政策でございますし、それから、米国の反ロシア・プーチンはちょっと除きますけれども、韓国の慰安婦問題というのは、これは韓国の与野党対立の中で野党が乗ったりとか、それから韓国の国内のNPOにとっては慰安婦の問題というのはNPOの存立自体に関わる問題であるというようなことがございます。この場合にはからめ手から攻めて、日本の政策を批判させないくらいがせいぜいのことであると。
例えば、韓国なんかに行きますと、場合によってはほとんど殴り合いもいとわないぐらいの気迫も外交官には必要になるというふうに聞いております。
もう一つ、最後に、政策広報のあれなんですが、トランプ大統領がツイッターを随分多用しておりますけれども、やはり現在の状況に鑑みると、日本の総理大臣の一言ツイッターというようなものを使う重要性が高まっていると思います。ただ、こういうのは日本の官僚制、まああらゆる国の官僚制にはなじまないので、まずその案を起案して、それで数名の了承を取って、サインをもらって、それから三日ぐらいたってからツイッターを書くと、そういうようなことでは全然役に立たないので、これをどうするかという問題がございます。
次のページ、もう一つの広報のカテゴリーの一般広報なんですけれども、なぜイメージが重要かということになりますと、それは、どこの国でも大衆は外国のことなど考えている時間はないので、ですからからめ手から攻めて、いつも日本についてのいいイメージを刷り込むということが必要になるわけでございます。
その場合、いいイメージを刷り込むためには、日本の国としての基本的なコンセプトというものを、上からきっちり決める必要は全然ないし望ましくないんですけれども、日本人のできるだけ多数のコンセンサスとして持っていることが重要だろうと思います。私は、日本人はちゃんとしているとか、それから日本人の政治家は大衆の利益を考えて行動しているとか、それから日本はいつも外国とは互恵の関係を考えているんだとか、そういった基本的なコンセプトをイメージとして打ち出していけば十分であろうと思います。
そのときに心掛けるべきことがございますけれども、品位を大切にする必要がございます。例えば、中国の悪口をやたら言う人もいるんですけれども、それは日本の品位を自らおとしめますので、中国については褒め殺しといいますのか、褒めて自ら転ばせるというような、まあ悪の外交なんですけれども、そういうのが必要になると思います。
それから、文化交流も、お高く止まった歌舞伎とか能を見せてすごいだろうというよりも、それも必要なんですけれども、外国人が自ら参加、体験できるもの、それから刹那的にいいなと思うもの、これを売り込むことがいいと思います。そこに書いてございます「ドラえもん」はアジア全域で大変な人気がありますし、それから右側の写真はモスクワで行われているコスプレ大会でございます。
それから、もうそろそろ終わりますけれども、次のページ、最後のページになりますが、一般広報、それから文化交流について心すべきことは、やはりそのコストパフォーマンスを良くすることだと思います。コストパフォーマンスを良くするためには、コンテンツ流通の扇の要を押さえることが効率的でございます。それはアウトソーシングとも言いますけれども、例えばアメリカに行きますと、全米の演劇とかコンサート、これを差配している事務所みたいなのがあるようなんですけれども、例えばそこに歌舞伎公演などを国際交流基金の助成金付きで売り込むとか、そうしますと米全土で歌舞伎が、簡単とは言いませんけれどもやりやすくなります。
それから、東京で毎年、国際映画祭が開かれておりますけれども、そういったコンテンツが集まる、それから関係者が集まるオケージョンを国として支援するというようなことも効率的であると思います。それから、藤崎大使がおっしゃったように、コンテンツの輸出を支援することでございますね。
最後から二番目、日本語教育についてなんですけれども、日本語教育もただ数を増やせばいいということではないので、その問題の根幹をつくことが必要だろうと思います。
例えば、アメリカでは日本人教師が、特に高校レベル、まあ大学レベルでもそうなんですけれども、日本人の日本語教師が不足しております。ここではやっぱり現地の教員免状がないとなかなか就職できないんだそうで、そのためには、現地永住の日本人を含め、彼らがアメリカの教員免状を大学で勉強して取得する間、奨学金を支給するようなことを日本がやるべきだと思います。
それから、むやみに日本語教育を広めても、日本語を大変な時間を使って勉強した学生が就職ができないと困るわけですね。それから、面白くないと駄目なので、それはやっぱり漫画、日本語を勉強すれば漫画が読めるというようなコースを開発するべきだと思います。
最後に、人的交流なんですけれども、人的交流は随分予算が増えてきたと思うんですけれども、これを更に活用する体制をつくっていく必要があると思います。
日本に招いた場合、例えば新聞記者であるとか各界の有力人士を招いた場合、日本に行ってどういう人と話してどういう印象を持って帰ってもらうかというのを在外公館と本省が合わさって協議して、それに従って日本で会わせる人物、それから視察するべき施設等をプロデュースする機能がこれまでやはり足りなかったと思います。
あとは、ここには書いてございませんけれども、効率よくやるのであれば、プレスの関係者、それからテレビ局のプロデューサー、テレビ局の撮影チーム、こういったものの招待を増やすことは、先方の諸国のマスコミ、それからテレビ局を通じて日本のコンテンツが流れる非常に大きなよすがになると思います。
どうも時間を取りまして失礼しました。
どうもありがとうございました。