森英介の発言 (憲法審査会)
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○森会長 この際、衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団を代表いたしまして、御報告を申し上げます。
私どもは、去る七月十一日から二十日まで、英国、スウェーデン及びイタリアの憲法及び国民投票制度について調査をしてまいりました。
この調査団は、本審査会のメンバーをもって構成されたものでありますので、この際、団長を務めさせていただきました私から、調査の具体的な内容について御報告させていただき、委員各位の御参考に供したいと存じます。
議員団の構成は、本審査会の会長である私を団長に、会長代理であった民進党・無所属クラブの武正公一君を副団長とし、自由民主党・無所属の会からは中谷元君及び上川陽子君、公明党からは北側一雄君、日本共産党からは大平喜信君、日本維新の会からは足立康史君がそれぞれ参加され、合計七名の議員をもって構成されました。
なお、この議員団には、衆議院憲法審査会事務局、衆議院法制局及び国立国会図書館の職員が同行いたしました。
まず、最初の訪問地である英国のロンドンでは、下院において、ヒラリー・ベン下院EU離脱委員会委員長及びレベッカ・デービース下院行政憲法委員会担当部長と相次いで意見交換をし、さらに昼食会を兼ねて英日議員連盟メンバーと懇談を行った後、デービッド・キャメロン前英国首相の個人事務所をお訪ねし、率直な意見交換をいたしました。その後、上院において、フィリップ・ノートン上院議員とも意見交換をいたしました。また、デービッド・コープ・ケンブリッジ大学教授をお招きし、長時間に及ぶ意見交換をいたしました。
以下、その概要について御報告をいたします。
まず、英国における国民投票について申し上げたいと思います。
英国においては、これまでに三回、全国規模の国民投票が行われております。すなわち、最初は一九七五年のEC残留の是非を問うもの、次は二〇一一年の選択投票制の採用の是非を問うもの、そして二〇一六年のEU残留か離脱かを問うものであります。
英国では、一九七三年のEC加盟以来、一定の反EC、EU的な政治勢力が存在しましたが、近年、強硬なEU離脱論を主張する英国独立党の存在もあり、当時のキャメロン首相は、保守党内のEU懐疑派からの圧力を封じるなどの思惑から、二〇一三年にEU残留、離脱を問う国民投票の実施を表明したと言われています。この国民投票は二〇一六年六月二十三日に実施され、離脱が残留を僅差で上回る結果となりましたことは、委員各位御承知のとおりでございます。
この昨年の国民投票の経験を踏まえ、次の二点の重要性が異口同音に述べられました。
第一に、国民投票というものが、時の政府への賛否の投票、すなわち信任投票になりがちであり、これを行うに当たっては慎重であるべきであるということです。
第二に、国民投票をする場合には、国民にそれが何の事項についての投票なのかをきちんと理解して答えてもらうようにすべきであるということです。
これらの点に鑑み、国民投票においては公平公正なプロセスが大切であり、そのためには、賛成、反対の双方の立場を公平にサポートするとともに、客観的で正確な情報が提供されることが肝要であることが強調されました。
また、国民投票運動の際、報道内容に関連して、マスメディアに対して政治家が不満を述べることは、農家が天気に文句を言うようなものであって、文句を言うのではなく、反論のための事実を用意するなどして、きちんと対策を講じておくべきであるという意見も伺いました。
さらに、投票者は現状維持に票を投じがちな傾向があるから、国民投票で現状を変更したい側は、過半数の賛成で安心するのではなく、少なくとも六〇%程度の賛成が得られるような状況にしておく必要があるとの指摘もありました。
次に、英国で二〇一一年に制定された議会任期固定法についても調査いたしました。
従来、議会解散権は、国王大権の一つとして、首相の要請に基づいて比較的自由に行使されていましたが、二〇一〇年に行われた下院総選挙の後、保守党と自由民主党間における連立政権合意に、議会の任期を五年に固定する旨の方針が記載されました。それを受けまして、二〇一一年議会任期固定法が制定されました。
同法の制定により、五年の任期満了による自動解散を原則としつつも、例外が二つ設けられました。一つ目の例外は、下院が定数の三分の二以上の多数で繰り上げ総選挙の実施を可決したとき、すなわち自律解散です。二つ目の例外は、下院が不信任案を可決した場合において、その後十四日以内に信任案を可決しないときです。解散はこれらの場合に限って行われることとされました。
この議会任期固定法については、政権が安定し、首相が五年間の計画を立てることができるメリットがある一方、必要なときに適宜民意を問うことができるといったようなこれまでの柔軟性がなくなってしまったというデメリットも指摘されています。
一方、ことし五月にメイ首相の主導で行われた下院の自律解散の例を見てもわかるように、結局、政府が主導して下院が賛成すれば解散が可能である以上、議会任期固定法に意味があるのかという議論も出ており、同法の見直しも提唱されているとのことでありました。
次の訪問地であるスウェーデンのストックホルムでは、国会において、マリア・ストックハウス国会議員と意見交換を行いました。また、マッツ・エーナション元基本法調査委員会委員をお招きして意見交換を行いました。
以下、その概要について御報告をいたします。
スウェーデンにおいては、統一的な憲法典は存在せず、現在は、統治法、王位継承法、出版の自由に関する法律及び表現の自由に関する基本法の四つの法律が国家の基本法として位置づけられていますが、まず、統治法の最近の大改正について申し上げたいと思います。
統治法は、一九七四年の制定以来、幾多の部分改正を経てきましたが、二十一世紀に入って包括的な見直しが行われることとなり、超党派の国会議員を中心に構成された調査委員会における四年半にわたる調査検討を経て、制定以来の大改正が、ほぼ全ての政党の賛成を得て二〇一〇年に行われたとのことでありました。
その際、各党の合意点の一つとして、改正に当たっては、統治の仕組みをいつまでも議論するのではなく、なるべく早く合意に達して実際の政治課題に取り組むべきであるという点が挙げられるという話を伺いました。
次に、スウェーデンの教育無償化について申し上げたいと思います。
スウェーデンでは、分権的な制度のもと、地方が、国の制度や方針の範囲内で、みずからの裁量に基づき、初等中等教育を中心とする教育行政を実施しています。また、スウェーデンでは、義務教育は七歳から十六歳までですが、任意で利用できるものとして、一歳児から六歳児までの就学前の幼児教育がほぼ無償で提供されており、また、高校のほか、大学などの高等教育についても、博士課程を含め、授業料は無償とされています。
この教育無償化政策について、スウェーデンにおいては、これに反対したり、その政策上の優先度を引き下げたりしようとする政党はないとのことでありました。また、子供の就学が親の経済状況で左右されてはならないとの考え方は、憲法に明文で規定されているわけではありませんが、スウェーデン国民にとっては自明のことであって、これを憲法上規定するという議論はなされていないとのことでもありました。
第三に、情報公開について申し上げたいと思います。
スウェーデンでは、国民やマスメディアが政府や国会などの全ての公共機関の行動をコントロールできるようにするために、公共の文書は国民が読むことができるようにすべきとの考えが行き渡っており、これが充実した情報公開制度につながっているという話を伺いました。
例えば、公務員には原則として非公開の情報に関して守秘義務が課されていますが、マスメディアに対して非公開情報を提供した場合、一定の場合には守秘義務違反をしても不可罰となることが憲法及び法律で定められているとのことであり、我々議員団は大きな驚きを持ってこれを受けとめましたが、スウェーデン国民は、このような仕組みに大変な誇りを持っているとのことでありました。
最後の訪問地であるイタリアのローマでは、下院において、レナート・ブルネッタ下院フォルツァ・イタリア会派長と、首相府において、アンナ・フィノッキアーロ議会関係担当大臣と、上院において、ステファニア・ジャンニーニ前教育・大学・研究大臣と、また、下院において、アンドレア・マッツィオッティ・ディ・チェルソ下院憲法問題委員会委員長を初め委員の方々と意見交換を行うとともに、在イタリア日本国大使館にステファノ・チェッカンティ・ローマ・サピエンツァ大学教授をお招きし、意見交換をいたしました。
以下、その概要について御報告をいたします。
まず、イタリアでは、昨年の十二月に憲法改正の国民投票が行われましたが、そこに至るプロセスについて申し上げたいと思います。
イタリアの二院制は、選出方法においても、任期においても、権限においても、上下両院はほぼ同じであり、これほどまでに対称的な二院制は世界に類を見ないと言われています。その結果、下院と上院で同一の多数派が形成されない場合に国政の停滞を招くことがしばしばあり、長きにわたってその改革の必要性が主張されてきました。そして、二〇一四年から二〇一六年にかけて、ついに、上院の権限を大幅に縮小し、上院を地方代表の府と位置づけ直す憲法改正案が議会を通過しました。
この憲法改正案は、議会で三分の二の賛成こそ得られなかったものの、上下両院で可決されましたから、憲法上、必ずしも国民投票は必要ありませんでした。しかし、総選挙を経ていないレンツィ政権は、政権に対する民主的正統性を取りつけるなどの思惑から、署名を集め、あえて国民投票を行うことを選択しました。その結果として、同案は国民投票で否決され、憲法改正は失敗することとなってしまいました。
ところで、この憲法改正の試みは、当初は、各党の間の幅広い合意形成に十分配慮したものであり、政権の枠組みとは別の、広範な憲法改正賛成の多数派が形成されていたと伺いました。また、レンツィ政権の前のレッタ政権において国民の意識調査を行い、二十万人以上の国民から回答を得ましたが、その際には、二院制改革についても、地方制度改革についても、圧倒的な支持を得ていることが確認されておりました。しかしながら、その後、各党の政局的な動きに引きずられ、また、レンツィ首相が憲法改正の成否に自分の進退をかけることを表明したこともあって、最終的には、レンツィ政権への信任投票となってしまい、これに対する国民の拒絶反応が出て、否決されてしまったとの評価でありました。
このプロセスから得られる教訓として、以下のような指摘がありました。
第一に、憲法改正には議会における幅広い会派の合意が必要だということです。言いかえれば、政府を支持する多数派と憲法改正を支持する多数派は別の固まりであり、その時々の政治的多数派だけに頼って憲法改正をすることは極めて危険であるということです。
第二に、多数派が国民投票を自己の権力強化のための手段にしようとしないこと、国民に冷静な判断をしてもらうような工夫をすることが重要だということです。前者について言えば、憲法は国民の財産であるから、誰かの憲法改正であってはならないとの意見がありました。レンツィの憲法改革と認識された今回の憲法改正は、その点が大きな間違いであったと聞きました。
なお、二〇一六年の憲法改正案は、憲法全体の三分の一にも及ぶ条項を改正しようというものでしたが、これだけ幅広い改正をしようとする場合に、通常の憲法改正手続にのっとって、しかも、国民投票で賛成か反対かという一括した形式で国民に意思表示を求めることは不適当との指摘もありました。
例えば、戦後、イタリア憲法を新たに制定したときと同じようなやり方、すなわち、憲法制定議会のメンバーを比例代表選挙で選び、その憲法制定議会が一年と年限を限って議論して結論を出し、それを国民投票にかけるといった手続で進めることも考えられるのではないかという指摘です。
次に、この憲法改正案における上院改革に対する上院の姿勢について付言したいと思います。
最終的には国民投票で否決されてしまったものの、自己の定数を削減し、その権限を縮小するような改正案に上院自身が賛成したのは、私どもの感覚ではあり得ないことのように思われますが、イタリア上院の複数の関係者に伺いますと、異口同音に、国家のためには、自分たちを犠牲にしても、それが必要だと判断したから賛成したのだと答えておられました。
いわゆる新しい人権についても話を伺いました。
イタリア憲法は、一九四七年に制定されたものであり、国民の権利等について定める憲法第一部にプライバシー権や情報アクセス権などの権利は規定されておりません。
このような新しい人権を憲法に追加するための改正を行うべきとの議論はあるのかという質問に対しては、憲法第一部については改正しない方がよいと一般に理解されているとのことでした。すなわち、そのようなものへの対処は、憲法改正ではなく、憲法裁判所における解釈とそれに基づく立法措置で対応していくべきであり、かつ、それで十分と考えられているのであって、憲法改正の対象となるのは、主に統治機構について定める憲法第二部であるとの回答がありました。
振り返りますと、慌ただしく駆け足で回ってきた調査でありましたが、私は、この議員団に本審査会の多くの会派から御参加いただきましたことを大変ありがたく思うとともに、その真摯な調査への取り組みに敬意の念をあらわしたいと存じます。
そして、政治的立場や評価は別として、欧州各国における憲法や国民投票制度の実情について、派遣議員の先生方の間で共通の認識を持つことができたのではないかと思っております。この認識をここで委員各位とともに共有しながら、今後の本審査会における憲法論議がより充実したものとなることを願っております。
なお、先般、議長に提出した海外派遣報告書につきましては、既に委員各位の事務所に配付させていただいたところでありますが、憲法審査会ホームページにも掲載いたしておりますので、あわせて御参照いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
最後になりましたが、今回の派遣に御協力をいただきました全ての関係者の皆様に心から感謝をささげ、私の報告とさせていただきます。
以上、このたびの海外調査の概要を御報告させていただきました。
引き続き、調査に参加した委員及び参考人から海外派遣報告に関連しての御発言をそれぞれ七分以内でお願いいたします。
発言時間の経過については、終了時間一分前及び終了時にブザーを鳴らしてお知らせします。
なお、御発言は着席のままでお願いいたします。
それでは、まず、中谷元君。