北側一雄の発言 (憲法審査会)

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○北側委員 イタリアでの調査団に参加し、与野党の有力な政治家、学者らと意見交換をさせていただきました。
 一番の関心事は、なぜイタリアでは二〇一六年憲法改正に失敗したのかということでございます。
 イタリアでは、昨年の暮れ、二〇一六年十二月四日に憲法改正国民投票が実施されました。その憲法改正案の中心的な内容は、世界各国でも例のない上院と下院の権限が全く対等な完全二院制がとられていましたが、これを廃止し、上院の役割を抜本的に見直すというものでした。上院は国の代表ではなく地方の代表にするものとし、したがって政府の信任権限を持たず、立法権限も大幅に縮小し、さらには上院議員の定数を三百二十人から百人へと大幅に削減し、その多くを州議会議員から選出するという改正案でした。
 改正案が上下両院で可決され国民投票に至る経過については、森会長の報告にあったとおりでございます。
 私から見ても、改正案は画期的で非常に評価できる内容であったように思われます。上下両院が全く対等な権限を持つ完全二院制は、国政の意思決定を停滞もしくは遅滞させ、ひいては政治を不安定にさせているという認識が、与野党を問わず多くの政党、政治家で共有されていました。また、国民の意識調査でも、完全二院制の維持を国民が支持しているのはわずか九%と極めて低いものでした。しかしながら、国民投票の結果は賛成四〇・九%、反対五九・一%で、この憲法改正案は否決され、憲法改正案と国民投票を主導したレンツィ首相は辞任するに至りました。
 なぜ国民投票で否決をされたのか、その背景には何があったのか、私の所感を三点申し上げたいと思います。
 第一に、私たち調査団のお会いした人たちがほぼ共通して言っておりましたのは、憲法改正案の具体的な内容の是非というより、時のレンツィ政権の信任、不信任が問われる国民投票になってしまったということです。
 レンツィ首相自身が、国民投票で憲法改正案が否決された場合には首相を辞任すると言明したため、国民投票自体が政治的色彩を強く帯びるようになったと言われています。
 また、森会長の報告にもあるとおり、EU残留か離脱かを問う昨年六月のイギリスでの国民投票も同様で、時の政権への信任投票の傾向が強まり、EU残留を主張し国民投票を主導したキャメロン首相は辞任を余儀なくされました。
 国民投票というのは、本来、個別の重要政策に対する賛否を国民に問うものですが、往々にして時の政府に対する信任投票になりがちだということを知らなければなりません。
 第二に、憲法改正に向け、政党間の合意を形成し、かつ、これを維持していくということは容易ではないということです。
 イタリアでの憲法改正案は、当初は、与党である中道左派政党と野党の中道右派政党との双方の合意を得たものでした。しかし、途中から、野党の中道右派政党が支持を拒否することになります。その理由は、憲法改正の内容にかかわるものでなく、全く政治的な理由からと言われています。
 私たちがお会いしたチェッカンティ教授は次のように話しておられました。
 与党と複数の野党がある場合、憲法改正において与党と協力する一部野党というのは非常に難しい立場に置かれる。有権者から見ると、与党側が政府を支持して、同時に憲法改正に賛成している、あるいは、野党側が政府にも憲法改正にも反対するというのが一番わかりやすい構図である。逆に、政府に反対している野党でありながらも憲法改正を支持するとすれば、それをみずからの支持者に説明するのは非常に難しい。この立ち位置は、結局のところ、他の野党で憲法改正にも反対している政党に票が流れてしまうものであった。このようにお話をされておられました。
 私は、日本の政治状況と照らし合わせても、とても示唆に富む話であったと思いました。憲法改正を目指す多数政党は、できるだけ幅広い政党間の合意形成を図るとともに、政党間の合意を維持するための深い思慮が必要だと思われます。
 第三に、憲法改正に係る国民投票の内容を国民に理解してもらうことはそう簡単なことではないということです。
 有権者にとって、選挙で投票する特定の候補者もしくは特定の政党を選択することと、憲法改正に係る具体的な内容を理解し国民投票することは大きな違いがあります。
 特に、今回のイタリアでの憲法改正案は、国と地方の統治機構に係る抜本的な見直しで、憲法条項全体の三分の一以上を改正するという極めて大規模な改正案となっていました。これを一般の有権者が正確に理解し投票することはとても難しかったと想像されます。結果として、国民投票が時の政権に対する信任投票になってしまう一つの要因にもなったと思われます。
 また、国民投票は、有権者にとって、憲法改正案に賛成マルか、反対バツかという二者択一です。賛成マルを選択する人の理由はおおむね共通していても、反対バツを選択する人の理由は多様です。
 例えば、改正に積極的でも、その改正案では不十分もしくは一部に反対と考える人と、そのような改正案にはそもそも絶対反対という人も、意見は全く相対立しつつも、国民投票ではともに反対バツになることが考えられます。国民投票で改正案について過半数の賛成票を得ることは決して容易なことではないと思われます。
 以上の私の所感を踏まえまして、今後の憲法審査会で留意すべきと感じることを若干申し上げます。
 まず第一に、国民投票が政権の信任投票とならないようにするため、できるだけ多くの政党の合意を形成し、かつ、これを維持することに努めなければならないということです。
 そのため、これまで先輩方の努力で少数会派の発言の機会を保障するなど憲法調査会以来のルールをつくっていただきましたが、さらに、憲法審査会の運営、審査等のあり方について、国会のほかの委員会とは異なる特別の手法を検討しなければならないと思います。国会での与野党が、日常の政治的対立から一歩離れて、着実に憲法論議を進めることができるようにしなければならないと思います。
 第二に、改正原案の目的、内容等について、憲法審査会での当初の審査の段階から国民の理解を深めることができるように努めなければならないということです。
 両議院のそれぞれで総議員の三分の二以上の賛成を得ることも高いハードルですが、国民投票で過半数の賛成を得ることは、私はよりハードルが高いと考えるべきだと感じました。
 以上、調査団の一員としての御報告とさせていただきます。
 以上です。

発言情報

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発言者: 北側一雄

speaker_id: 4622

日付: 2017-11-30

院: 衆議院

会議名: 憲法審査会