保坂修司の発言 (資源エネルギーに関する調査会)

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○参考人(保坂修司君) 日本エネルギー経済研究所の保坂と申します。よろしくお願いいたします。
 私がお話しするのは、中東というエネルギーの本筋から若干離れている部分だとは思いますけれども、しかし、非常に重要なポイントになるのではないかと思っております。(資料映写)
 いわゆるエネルギー安全保障を考えるとき、恐らく多くの人たちは、一九七三年のいわゆる石油ショック、オイルショックを思い浮かべるのではないかと思います。第四次中東戦争をきっかけに中東産油国が石油武器戦略を発動したため、石油価格が一気に上昇し、いわゆる狂乱物価あるいはトイレットペーパー騒動が起こったり、あるいは中東産油国が日本に石油を売らないといったことまで出てきまして、日本中がパニックになりました。我が国のエネルギー政策はこの年を境に大きく変貌したと言っても過言ではないと思います。
 現在の我が国における石油や中東の位置付けは、一九七〇年代のそれとは大きく異なっております。しかし、依然、中東は我が国のエネルギー安全保障上重要な位置を占めておりますし、地政学的なリスクを抱える地域として認識されております。
 中東というのは、非常に、地理的な概念というよりは、むしろ政治的、文化的な概念でございます。見る人によって伸び縮みしまして、エネルギー業界で言うところの中東と日本における一般的な中東の範囲はかなり異なっております。こちらがエネルギー業界で言うところの中東になりまして、我々が考える中東よりも大分狭い範囲になっていることが分かると思います。よく言うエネルギーの中東依存度といった場合の中東と、それから我々が考える中東と、領域的にかなりずれている点は注意が必要ではないかと思います。
 中東が大きな問題になるのは、単にエネルギー供給源というだけではなく、宗教あるいは民族といった軸で考えると、中央アジアあるいは東南アジアなど、政治的、宗教的、文化的、経済的にも影響を及ぼしていくということが言えるからではないかと思っております。
 我が国は、サウジアラビアとUAEからだけでも石油の約六割を輸入しております。その他の大口の輸入元も多かれ少なかれ中東ということになります。一方、天然ガスに関しましては、オーストラリア、カタール、マレーシアなどから多く輸入しております。石油と比べると若干多様性はあるとは思いますが、ここでもやはり実は中東の役割というのはかなり大きなものがございます。
 先ほどお話ししました中東依存度という問題なんですけれども、石油の中東依存度は現在約八七%というふうに言われております。ただ、実際には、サウジアラビアやUAEなどいわゆるGCC六か国、それにプラスしてイラン、イラク、この八か国がほとんど全てになります。ほかの中東の国からの輸入は本当に微々たるものにすぎません。他方、天然ガスの中東依存度は約二四%。しかし、これにインドネシアとかマレーシアあるいはブルネイといったイスラムという宗教を通じて中東と深く結び付く国々を含めますと、実は六割近くを占めることになります。これをイスラム依存度というふうに言ってもいいかもしれません。石油で見た場合、石油のイスラム依存度は九割に達します。
 中東の重要性は、単に資源国というだけではなく、その資源を運搬するシーレーン上の要衝が含まれている、これも非常に大きな問題点になっています。例えばイランとオマーンの間のホルムズ海峡、ここには石油の約八〇%、天然ガスの二五%が通過しております。ここが封鎖されれば日本やアジア諸国は深刻な影響を受けることになります。そのほか、例えばバーブルマンデブ海峡、スエズ運河、ジブラルタル海峡、こういった地点は、日本の海運、貿易にとって極めて重要なチョークポイントとなっておりまして、それだけでもこの地域の安定が日本経済にとって不可欠であるということは理解できると思います。
 一方、日本の対中東貿易を見ますと、エネルギー輸入の面で重要なことは言うまでもありませんが、輸出市場でもそれなりの地位を占めていることが分かると思います。ただ、中東市場での日本のプレゼンスは残念ながら徐々に下がってきております。代わって、中国などアジア諸国が貿易面で大きな地位を占めつつあるというのは御存じのとおりだと思います。
 他方、中東の地政学的リスク、これがこの地域に内在する多数の国際紛争に起因しているということは言うまでもありません。中東の抱える諸問題の中でも中東和平、すなわちパレスチナ問題、これが古くから最も中心的なテーマとなっております。前述のとおり、この問題がきっかけとなって石油ショックが起きたわけですので、このときの中東産油国の石油武器戦略、これが多くの石油関係者、エネルギー関係者のトラウマになっていることは間違いないと思います。
 また、現代のテロ問題、これの多くも中東を根源としております。一九九〇年以降、イスラムあるいはジハードの名の下で犠牲になった日本人の数は既に六十人を超えております。こうしたことからも、我が国の中東進出あるいは対中東投資をちゅうちょさせる大きな原因になっているわけです。
 そのほか、クルド問題あるいはイランの核問題、また民主化、あるいは人権の問題、これも非常に重要なポイントになっております。
 中でも、我が国のエネルギー安全保障にとって頭の痛い問題がサウジアラビアとイランの対立になります。サウジアラビアはスンナ派のアラブ、イランはシーア派のペルシャ、したがって両者の対立は必然であると。こういった宗教対立、あるいは民族対立、あるいはイデオロギーの対立に原因を求める論調は少なくありません。もちろんこれは一面真理をついたものではありますが、実際には、一九九〇年代から二〇〇〇年代初めまで、両国関係は実は極めて良好でした。
 それが、二〇〇三年のイラク戦争をきっかけにアラブ諸国でシーア派やあるいはイランの影響が増加すると、両者の関係に亀裂が生じてきます。サウジから見れば、イランからイラクを経てシリア、レバノンと、ちょうどシーア派が多数派を占める、あるいはシーア派が重要な地位を占める国がサウジの頭を押さえ付けるようになっております。こうした状況をしばしばシーア派の三日月と呼んでおります。
 また、二〇一五年以降は、イエメン内乱でイランがイエメンのシーア派勢力を支援しているとされまして、サウジアラビアはシーア派から四方を囲まれるという状況になっております。そのような中、二〇一六年一月にサウジはイランと断交し、以来、両国は子飼いのメディアを使って非難合戦を続けております。
 日本は、サウジから石油の三〇%以上を輸入しております。また、イランは中東の大国であり、石油のみならず天然ガスでも潜在的に日本のエネルギー安全保障上中核になり得る存在でございます。この二つの国が対立し続けることは、当然、日本にとってプラスではありません。この二国は、単に当事者同士だけでなく、周辺諸国をめぐっても激しく対立しておりますが、中東の二大資源強国、この対立がこうした域内紛争の解決を遅らせていると言ってもいいと思います。
 もう一つ重要なポイントは、昨年六月、サウジアラビアとUAEなど四か国が、同盟国であるはずのカタールと断交しました。サウジとUAEの二国だけで日本の石油輸入の約六割を占めております。また、カタールは日本の天然ガス輸入で重要な役割を果たしております。東日本大震災で日本の原発が止まったとき、カタールから急遽大量の天然ガスを輸入したのは記憶に新しいと思います。
 この対立も日本にとっては深刻な問題でございます。前述のサウジ、イラン関係でもそうでしたが、このサウジ、UAE対カタールの対立でも、例えば米国はサウジ側支援を明確にしております。しかし、日本はこの両陣営と長く良好な関係を構築しておりました。また、石油、ガスの両面で我が国にとって重要な国であることは言うまでもありません。米国のように簡単にどちらか一方を支持するということは日本にはできませんし、またそうすべきであるとも思いません。
 中東産油国、より具体的に言いますと湾岸産油国は、いずれも大きな経済力を持っており、域内、域外で、単なる政治力だけではなくて経済面でも強い影響力を発揮しております。仮に、それらの国々が政治的に混乱し、石油やガスの輸出に支障が出れば、日本だけでなく様々な国に悪影響を及ぼすことになります。もちろん、湾岸産油国が直面するのはそうした政治的な紛争だけではありません。もっと根の深い、彼らの政治、経済あるいは社会システムそのものに根差した問題が彼らの未来に暗い影を差しているというふうに言うことができると思います。
 湾岸産油国の政治社会構造は、しばしばレンティア国家と呼ばれます。天然資源を海外に輸出して、その収益を国庫に入れて、そこから福祉や教育など政府サービスや公務員の人件費を捻出する、そういったシステムになるんですけれども、特にGCC諸国では、所得税もなく、歳入の大半を石油あるいはガスからの収入が占めております。よく知られておりますように、湾岸産油国はこうした収入を背景に豊かな福祉国家を実現いたしましたが、それもこれも石油があればこそということになります。
 しかし、この石油に依存するシステムというのは極めて脆弱で、例えば油価が下がれば一気に財政赤字になってしまいます。何よりも、石油は有限であり、いずれ枯渇いたします。また、近年の地球温暖化などで化石燃料に対する批判が高まっていることを考えますと、枯渇するよりも前に使われなくなる可能性が高いということも言えます。
 石油業界では、つい最近まで、石油供給がピークを迎える、つまり石油の生産が徐々に減少していくという議論が盛んでしたけれども、近年では、むしろ、石油はどんどん使われなくなる、石油の需要がピークになるんだという議論が盛んになっております。私の所属する研究所の試算では、二〇三〇年ぐらいから油価は低落していくというふうに予想しております。しかも、湾岸産油国では人口が増加しており、必然的に国内エネルギー消費も拡大します。となると、これまで輸出に回していた石油やガスを国内で消費しなければならず、本来外国に売って収益を得ていたはずの資産まで食い潰していくとなってきます。そうなると、主たる産業が石油しかない湾岸産油国は危機的な状況に陥ってしまうわけです。
 そこで、産油国の多くは新たな対策を立てることになりました。具体的に言いますと、経済を多角化したり民営化することで非石油部門を増強する、あるいは補助金をカットして歳出を減らすと、こういった対策ですね。ただ、産油国である湾岸諸国の安定は、日本のエネルギー安全保障上、依然として重要であることは言うまでもありません。さらに、湾岸諸国の安定は、中東域内、域外の安定にとっても不可欠でございます。
 日本のエネルギー安全保障における湾岸産油国の重要性は、石油が一次エネルギーの中核を占めている限り変わりません。したがって、その間、湾岸産油国が日本を含むエネルギー消費国に安定的あるいは持続的に資源を供給するシステムが必要であり、そのために我が国はどうすればいいのかということが問われることになります。
 まず一つは、中東諸国が抱える様々な紛争で仲介や調停の役割を積極的に取るという点でございます。サウジやイラン、UAEやカタールなど、対立する勢力と友好的かつ深い関係を維持している日本だからこそできることがあるのではないかと思います。
 もう一つは、中東産油国の脱石油依存のプロセスを支援していくことです。我々の試算では、二〇五〇年頃まで石油は重要なエネルギーであり続けます。ただ、そのときになって産油国が石油依存をやめようとしても、時既に遅しということになります。その前から、産油国を石油依存体質からソフトランディングさせていく必要がございます。
 例えば、サウジアラビアは、二〇三〇年をターゲットにサウジ・ビジョン二〇三〇というプログラムを発表しております。既にサウジアラビアとは、日・サウジ・ビジョン二〇三〇という形で、日本がサウジの構造改革を支援していくことで合意しております。似たような枠組みでどれだけほかの産油国の脱石油依存に貢献できていくかということが一つの鍵になっていくのではないかと思います。
 もちろん、石油依存を下げ、中東依存を下げていくことは重要ですが、少なくとも化石燃料が使われなくなるまでは安定供給を維持する必要があり、そのためには中東との緊密な関係を維持していく必要があります。一方、産油国側ではアジアへの輸出依存度が増してきています。近年の中国あるいはインドの中東におけるプレゼンスの拡大には目をみはるものがあります。当面の間、こうした域内の強力なライバルと競合して日本が安定的なエネルギー供給を確保するためには、日本のうまみを生かした独自の対中東関係の構築が必要だというふうに考えられます。
 そのためには、上流権益の確保も必要ではないかと思います。ここでも中国は日本の強力なライバルになっております。日本はかつて失敗しましたアラビア石油の権益更新、この失敗をきちんと分析して、その失敗を次に生かす必要があるのではないでしょうか。サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコのIPOも、その意味では検討課題と言えるでしょう。
 また、産油国の人口増とエネルギー消費増に対処するため、産油国の省エネあるいは再生可能エネルギー分野での協力、こうしたものは日本の得意分野でもあり、大きな可能性を含んでおります。既にサウジなどとは協議が進んでおりますけれども、化石燃料から水素を製造するプロジェクト、これは既存の石油産業のインフラをある程度利用できることからも、中東産油国とウイン・ウインの関係を構築し得る有望な分野と言うことができます。
 いずれにせよ、エネルギー安全保障のために石油依存度や中東依存度を下げることには意味はありますが、その結果、中東における日本のプレゼンスを下げてしまっては、かえって逆効果になってしまうと私自身は考えております。
 私の意見は以上のとおりでございます。
 ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 保坂修司

speaker_id: 32973

日付: 2018-02-07

院: 参議院

会議名: 資源エネルギーに関する調査会