森英介の発言 (憲法審査会)
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○森(英)委員 衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団を代表いたしまして、御報告を申し上げます。
私どもは、去る九月十九日から二十九日まで、ドイツ、ウクライナ、リトアニア及びエストニアの憲法及び国民投票制度について調査をしてまいりました。
この調査団は、本審査会のメンバーをもって構成されたものでありますので、この際、団長を務めさせていただきました私から、調査の具体的な内容について御報告をさせていただき、委員各位の御参考に供したいと存じます。
議員団は、私を団長に、本審査会の会長代理である立憲民主党の山花郁夫君を副団長とし、自由民主党からは新藤義孝君及び江渡聡徳君、国民民主党からは奥野総一郎君、公明党からは北側一雄君がそれぞれ参加され、合計六名の議員をもって構成されました。
なお、この議員団には、衆議院憲法審査会事務局、衆議院法制局及び国立国会図書館の職員が同行いたしました。
調査団は、ドイツ、ウクライナ、リトアニア及びエストニアの各国を訪問いたしましたが、訪問国に共通するテーマとして、第一、憲法改正について、第二、国民投票について、及び第三、緊急事態条項についての三つの関心事項を設定するとともに、第四、その他として、各国ごとに特色ある事項についても調査を行ってまいりました。
そこで、この四つの関心事項に沿って調査の概要を報告いたします。
まず、関心事項の第一、憲法改正について御報告いたします。
最初の訪問地であるドイツのベルリンでは、当地の公法学の権威であるフンボルト大学のクリストフ・メラース教授、州メディア監督機関連盟ゼネラルマネジャーのアンドレアス・ハマン氏ら、連邦司法・消費者保護省のアレクサンダー・シェーファー課長ら、連邦教育研究省のインゴ・ルーマン課長らと相次いで意見交換を行いました。
これらの訪問先のうち、憲法改正については、メラース教授より示唆に富んだ指摘を受けました。
ドイツでは、戦後六十三回も、ドイツの憲法に当たるドイツ連邦共和国基本法の改正が行われています。
六十三回もの改正が行われた原因として、メラース教授は、第一に、与野党の関係に代表される政治のあり方と、第二に、連邦制における連邦と州の関係という二点を挙げられました。すなわち、六十三回の改正のほとんどは、連邦制からくる連邦と州の権限分配の見直しなどの技術的な改正であり、連邦制における連邦と州の関係に由来するものであるということです。これは、第二の理由によるものです。
一方、技術的な改正ではなく、政治色の強い改正の場合は、与党の提案と野党の提案について、合意に至る過程で抱き合わせて、両方とも成立させることがあるという政治のあり方に由来するものがあるとのことでした。これは、第一の理由によるものです。例えば、二大政党の一つであるキリスト教民主・社会同盟が提案した緊急事態条項を一九六八年に成立させ、二大政党のもう一つである社会民主党が提案した、国民が憲法裁判所に対して人権救済を訴えることができる憲法異議の制度を一九六九年に成立させるといったぐあいです。
このように、与野党が基本法改正のために大胆な妥協をいとわない政治文化がある一方で、妥協が繰り返される結果、基本法になじまない法律レベルの事項まで基本法レベルで規定されてしまう傾向があり、憲法の安定性からすると、この点については批判もあるとのことでした。
次の訪問国であるウクライナでは、まず、憲法裁判所を訪問し、オレクサンドル・トゥピツキー所長らと意見交換を行ったほか、国立戦略研究所のオレクサンドル・リトヴィネンコ所長らとも意見交換を行いました。また、オレクシー・ホンチャルク首相及びドミトロ・ラズムコフ最高会議議長を表敬訪問し、新しい大統領と議員が選ばれ、諸改革へ取り組んでいる最中であるウクライナについてのお話を伺いました。
これらの訪問のうち、憲法改正については、まず、憲法裁判所のトゥピツキー所長から次のようなお話を伺いました。
ウクライナ憲法裁判所は、法律などの違憲審査権だけでなく、憲法改正に際し、国会からの憲法改正案の送付を受けて、第一に、憲法改正の内容が憲法の定める枠内におさまっていることという内面的な側面と、第二に、憲法改正の手続が憲法の定めにのっとっているという手続的な側面の両面から客観的にチェックする権限も有しているとのことです。また、後ほど改めて言及いたしますが、懇談に同席されたオレフ・ペルヴォマイスキー裁判官は、緊急事態条項自体はどのような国家にも必要なものと思うと述べる一方で、これを憲法に規定する必要があるかどうかについては、国それぞれの事情によるのではないかという意見も述べられました。
次いで、国立戦略研究所のイリーナ・パブレンコ局長からは、ウクライナでは、憲法改正を行うか否かに関して大統領が大きな権限を持っていること、ウクライナの政治体制が、大統領が強い政治体制である大統領・議会制と、議会が強い政治体制である議会・大統領制との間で揺れ動いていることに象徴されるように、ウクライナの憲法改正は大統領と議会との権力闘争の歴史であり、政治体制の変革のたびに大統領と議会のどちらかに権力が傾くことで、常に権力相互のバランスを欠くことになり、それが権力闘争を招く一因となっていること、その結果、いつまでも憲法が安定することなく、また、旧ソ連時代からの問題もいまだに克服されていないとの説明を受けました。
第三の訪問地であるリトアニアでは、中央選挙管理委員会を訪問し、ラウラ・マティヨシャイティーテ委員長と意見交換を行い、次いで、憲法裁判所においてダイニウス・ジャリマス長官と意見交換、そして法務省を訪問し、イルマ・グジューナイテ副大臣と意見交換をいたしました。また、ビクトラス・プランツキエティス国会議長らを表敬訪問し、来年が杉原千畝氏の命のビザから八十周年であり、スギハラ・イヤーとする動きがあること、杉原氏が副領事として赴任していたカウナスが二〇二二年にヨーロッパ文化首都になることなどを伺いました。
これらの訪問先のうち、憲法改正についての議論を御紹介いたしますと、憲法裁判所のジャリマス長官から、リトアニア憲法は、一九九二年の制定以来十回の改正をしたが、その根本は変わっていないこと、大きな改正と言うことができるのはEU加盟に伴うものだけで、憲法の安定性は維持されていること、憲法裁判所は、憲法保障機関として、このようなリトアニアにおける憲法の安定性に寄与しているとの紹介がありました。
最後の訪問国であるエストニアにおいては、まず、国会において、シーム・キースレル議員、オウデッキ・ローネ議員、アンティ・ポーラメッツ議員という、現在、連立政権を組んでいる与党のうち、所属政党の異なる三人の議員と意見交換を行いました。次いで、法務省のアーロ・モットス課長らと面談したほか、教育科学省のクリステル・リッロ次長及び経済通信省のラウル・リック課長と意見交換を行いました。
これらの訪問先のうち、憲法改正については、議会において意見交換をした三人の国会議員から、憲法制定時に国民投票が行われたが、その後の五回の憲法改正のうち、国民投票が行われたのはEU加盟のときだけで、他の四回は議会の議決による改正だったこと、五回の憲法改正のうち三回は、地方議員の任期延長、国防軍司令官の任免規定の削除、前文にエストニア語保護を追加という技術的な改正であり、重要な改正は、EU加盟と、地方議会の選挙権年齢を十八歳から十六歳に引き下げたことの二回のみであったことの紹介がありました。
その上で、ローネ議員からは、地方議会の選挙権年齢の引下げのための憲法改正は議会の議決によって行われ、国民投票は実施されなかったが、選挙権年齢の引下げは民主主義にとって重要な事柄であり、国民投票を実施した方がよかったのではないかという個人的な意見が述べられました。
次に、第二の関心事項である国民投票について、その概要を御報告いたします。
まず、ドイツには、国民投票の制度はありません。この点について、メラース教授によると、ナチスが国民投票を通じて政権を掌握していった経験から、ドイツにおいて国民投票が導入されることは将来的にも考えられないとのことでした。
また、国民投票そのものの論点ではありませんが、我が国においても、近年、国民投票などに際してのフェークニュースの問題など、インターネットに関する問題が指摘されています。この点、ドイツのインターネット規制については、主に、連邦司法・消費者保護省のシェーファー課長らからお話を伺いました。
最近制定されたSNS規制法で、SNSを運営する事業者は、誰もが容易にアクセスできる苦情処理手続を設けなければならないことが規定され、苦情処理状況について、半年に一度、報告書提出が義務づけられることになったとのことでした。ところが、ある事業者から提出された苦情件数が著しく少なかったため、不審に思って調べたところ、その事業者の苦情処理手続について法律違反が見つかったため、二百万ユーロ、邦貨にして約二億五千万円の過料を科したというエピソードが紹介されました。
次に、ウクライナの国民投票については、主に、憲法裁判所のトゥピツキー所長らからお話を伺いました。
トゥピツキー所長らからは、二〇一八年四月に憲法裁判所が国民投票法の違憲判決を出したため、憲法改正のうち国民投票が必須とされている憲法第一章総則、第三章選挙及び国民投票、住民投票及び第十三章憲法改正手続に規定されている条項については、現在、改正が不可能な状態にあるという説明がありました。したがって、早急に新たな国民投票法を制定する必要がありますが、その行方を見通すことは難しいとのことでした。
リトアニアにおける国民投票については、主に、マティヨシャイティーテ委員長ら中央選挙管理委員会の委員らからお話を伺いました。
リトアニアの国民投票は数多く行われていますが、承認までされたのは、リトアニア独立、駐留ソ連軍撤退、憲法制定及びEU加盟の四回のみとのことでした。これは、国民投票について、有権者総数の過半数という最低投票率の縛りと、テーマに応じて、有権者総数の四分の三、有権者総数の過半数などの三種類の絶対得票率の縛りという大変厳しい二重の縛りがあるためとのことでした。
リトアニアの国民投票制度においては、国民投票運動をしようとする団体は、中央選挙管理委員会に登録するとともに、銀行口座を開き、この口座で個人、団体からの寄附を受けるとのことで、寄附総額の上限は百十万ユーロ、邦貨で約一億四千万円とのことでした。この範囲内で国民投票運動としてCMを流すことは可能だが、リトアニアでは、国民投票運動に際してコマーシャルを流すという文化がなく、CMはほとんど行われていないとのことでした。
エストニアの三人の国会議員からは、基本的には、これまでの憲法改正において社会が分断されるようなテーマはなかったが、例えば、エストニアがEUに加盟する際の国民投票においては、政党間のみならず、政党内部においても意見が半々に分かれていたところ、このような状況においても国民投票に付さなければならないときもあるという意見が述べられました。
また、エストニア憲法によると、国民投票が成立しなかった場合には自動的に議会が解散となるので、国民投票に付すことに慎重になりがちであり、そのため、現在の連立政権の合意として、そういう場合であっても必ずしも議会解散とならずに済むような、国民投票をもっと柔軟に行うことができる方策を検討中であるという意見がキースレル議員から述べられました。
続いて、第三の関心事項である緊急事態条項について御報告申し上げます。
緊急事態条項については、現在、ロシアと緊張関係にあるウクライナにおいて、憲法裁判所のペルヴォマイスキー裁判官が、緊急事態条項はどのような国家にも必要なものと思うと述べられたことは既に御紹介いたしましたが、ウクライナにおいては、緊急事態が宣言されると、緊急事態においても保障されるべき人権を制約しない範囲内で、さまざまな緊急措置が講じられるとのことでした。また、緊急事態宣言中は国政選挙も地方選挙も実施できなくなり、かわりに、現在の議員の任期が延長されることになります。そこで、選挙を実施して新しい議員を選出する必要があると判断されれば、あえて緊急事態を宣言しないこともあるとのことでした。
そのほか、憲法そのものからは少し外れますが、憲法の周辺に位置する事項として、興味を引いた事項を幾つか御報告いたします。
リトアニアでは、国会議事堂、杉原千畝記念館、また、KGB博物館等を視察いたしました。国会議事堂については、一九九一年、リトアニア独立を恐れるソ連が議会やテレビ塔など首都ビリニュスの主要施設を制圧しようとしたとき、数万人の市民が、犠牲者を出しながら議事堂の周りに人垣とバリケードをつくって言論の府を守り抜いたこと、第二次世界大戦の直前、カウナスの領事館の副領事だった杉原千畝氏が、要件に該当していない者に対してみずからの判断で日本通過ビザを発行し、六千人ものユダヤ人を救ったことが今なおリトアニア国民の尊敬を集めていることなど、団員一同、深く胸を打たれました。
また、エストニアは、独立時からe―エストニアを国是とし、IT国家を建設してきましたが、これについては、エストニアが旧ソ連の科学技術の拠点の一つであり、旧ソ連時代から情報通信技術の分野に強い大学が存在していたこと、独立当初は国づくりに政府が忙しかったため、IT化については専門家に任せてしまったことが功を奏したとのことでした。IDカードは一〇〇%近く普及し、既に電子政府も実現しているとのことです。
最後に、以上を踏まえて、団長として若干の所見を申し上げます。
まず、ドイツでは、基本法改正が六十三回も行われていたことは承知していましたが、今回の調査を通じて、六十三という数字の背後にある事情について改めて考えさせられました。すなわち、国の基本法をよりよいものとするために、与野党の間で大胆な妥協をするという手法は、我が国でも当然考慮する必要があると思います。ただ、その際には、憲法の体系を崩すことがないように十分注意すべきであること、また、六十三回という改正回数に目を奪われがちですが、表面的な数字のみにとらわれることなく、その国の憲法をめぐる政治文化や背景も考慮しなければならないことに気づかされたところです。
また、ウクライナの緊急事態条項については、憲法上、議員任期の延長が規定されており、今後の我が国の憲法改正論議で参考になると思われました。
一方、国民投票運動等の際のCM規制やネット社会での表現の自由と人権との兼ね合いについては、各国ともまだ十分な検討が行われていないと感じました。したがって、我が国は、我が国の法制度のもとで現在の議論を深めていくことが望ましいと感じました。
そのほか、エストニアのIT立国に向けての取組は、今後の世界が目指すべき方向でありましょうし、また、リトアニアにおける杉原千畝記念館等の視察は、万感胸に迫るものがありました。
今、御報告申し上げた調査の詳細は、現在、海外派遣報告書を鋭意作成中でございますが、こちらもあわせて御参照くださいますようお願いいたします。
最後になりましたが、今回の派遣に御協力をいただきました全ての関係者の皆様方に心から感謝を申し上げまして、私の報告とさせていただきます。