向田昌幸の発言 (国際経済・外交に関する調査会)
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○参考人(向田昌幸君) ただいま御紹介にあずかりました向田でございます。
時間の制約もございますので、早速、皆さんのお手元にお配りしておりますレジュメと別添の参考図に沿って、本日私に与えられましたテーマに関する意見を申し述べさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
まず、本論に入る前に、国連海洋法条約の採択、発効後の我が国周辺海域の状況につきまして、簡単におさらいをしておきたいと思います。
図一を参照してください。
この図は、先生方既に御案内のとおり、国連海洋法条約に基づき、我が国が、我が国周辺海域において主権及び天然資源の利用、管理等の特定事項に関する主権的権利や管轄権を主張している領海、EEZ、大陸棚の現状を示しております。
国連海洋法条約は、戦後、国連を中心に、一九五八年二月に新しい成文化された国際海洋法秩序の構築に向けた作業がスタートいたしまして、それから二十四年もの年月を掛けて、一九八二年四月三十日にようやく採択にこぎ着けたものであります。この条約が発効したのは、それから更に十二年後の一九九四年十一月十六日のことであります。
この国連海洋法条約が伝統的な海洋法秩序にもたらした変革のうち、特に沿岸国の海洋権益等を大きく左右する重要なものとして、次の二つを挙げることができます。
一つは、それまでの領海の幅は一般的に三海里、約五・六キロが採用されてきましたが、初めて十二海里、二十二キロの、統一され、拡大されたということであります。もう一つは、沿岸国に自国の領海の外側の領海基線から最大二百海里、三百七十キロの沖合までの公海上に新たに排他的経済水域、EEZと新しい大陸棚の概念が導入されたということであります。
EEZは、沿岸国に漁業資源や鉱物資源の開発、利用、管理、その他特定の事項に関する主権的権利や管轄権を認めております。また、新しい大陸棚は、同じく領海の基線から沖合に延びる、基本的にはEEZと同じ二百海里までの大陸棚の海底とその地下の天然資源の開発、利用等に関する主権的権利などを沿岸国に認めるとともに、海底地形や地質等に関する一定の条件が満たされるのであれば、二百海里を大きく超えて更に沖合までその限界を延長できるという可能性があります。
こうして、国連海洋法条約によって、それまでの狭い領海と広い公海という伝統的な海洋法秩序から、広い管轄海域と狭い公海へと大きな変革がもたらされたことによりまして、海洋の価値が一気に飛躍的に上昇したわけであります。その結果、世界の国々が自国の海洋権益を確保し、また保全するとともに、安全保障の観点から、先を競うようにして海洋進出を目指すようになり、世界中の海は各国の国益と威信を懸けた争奪戦の様相を呈するようになったわけであります。
こうした状況は我が国周辺海域も例外ではなく、近隣諸国等の国力が向上してまいりますにつれて、国家間の海洋をめぐるあつれきが顕在化、先鋭化してきました。このため、領土問題につきましても、これまでにも増して、解決に向けた筋道が非常に不透明になってきたように思われます。
そうした中で、我が国は、一九九八年、平成八年六月二十日に国連海洋法条約を批准し、その一か月後の七月二十日に同条約が日本に効力を生じました。その日をもちまして、その日を機に、我が国は世界で初めて国民の祝日として海の日を施行したことは御案内のとおりであります。
それでは、本論に入りたいと思います。
レジュメの一の一、我が国周辺海域における海上法執行活動をめぐる現状の(一)に、我が国が主張している又は設定しております領海及びEEZのうち、海洋法執行活動がままならない海域とその要因を列挙しております。
図二は、北方領土周辺のロシアに実効支配されている海域の根室海峡の地理的中間線の状況を示しております。
ロシア側に実効支配されている海域では、法執行活動が事実上不能となっております。
図三を御覧ください。
これは、韓国との間でEEZの境界が画定されておりませんので、それまでの間、それぞれの国の漁業が円滑に行えるようにと、一九九八年の日韓漁業協定に基づく暫定的な漁業管理水域として、広大な日韓漁業暫定水域が竹島周辺及び済州島の南方に設定されております。
この暫定水域では、法執行活動は、旗国主義が採用されておりますので、韓国漁船の取締りは我が方としてはできません。特に北部暫定水域につきましては、図六に示すように、日韓間の重複水域よりも大きく日本側のEEZ内に食い込んでいる状況になっております。
次に、東シナ海は、中国との間で二〇〇〇年六月に発効した日中漁業協定に基づく日中漁業暫定水域が設定されております。
図四を御覧ください。
これは、日中間の漁業暫定水域とそのすぐ北側の漁業暫定水域に準じた扱いの中間水域というものを示しております。これらも旗国主義を建前とした海域ですから、我が国の漁業に関する法執行活動はできません。両方を合わせた面積は東シナ海の約半分ぐらいにも相当しております。
同じく図四に、北緯二十七度以南の水域が示されております。これは、日中漁業協定に附属する外務大臣書簡によって、中国国民を日本漁業関係法令の適用除外にするということで、以南水域と呼ばれているものであります。この海域の日本側EEZ内では中国漁船の取締りは行われておりません。
しかし、中国公船が自国漁船に対し訪船指導あるいは立入検査と目される動きをしているのを海上保安庁の巡視船が散見しており、その都度、我が国EEZ内での中国の法執行活動は認められない旨の通告を行い、中止させるようにしております。ただ、この以南水域は尖閣諸島の周辺に設定されておりますので、尖閣問題と関連があるのではないかと見る向きもあります。
図五を御覧ください。
台湾との間でも、二〇一三年四月に締結された日台漁業取決めに基づく日台漁業暫定水域が設定されております。ここでも旗国主義が建前ですから、台湾漁船に対する漁業取締りは実施されておりません。
次に、図六を御覧ください。
この図は、日本と韓国がそれぞれ竹島を基準にしてEEZを主張しておりますので、竹島を挟んでEEZが重なり合っていることを示しております。
図七は、七つの近隣諸国等とのEEZと大陸棚の重複に伴う、我が国が主張している地理的中間線を示した図であります。
図八は、沖ノ鳥島の概要を示しております。
この沖ノ鳥島は、人一人がやっと立つことができる程度の小さな岩礁が二つほど海面上に頭を出しており、その周辺をサンゴ環礁が取り囲んでいる状態であります。
これに対し、中国と韓国は、EEZと大陸棚を設定することができない単なる岩だというふうにクレームを付けております。特に中国は、この海域で、海上保安庁の中止要求を無視して軍事目的と見られる海洋調査活動を活発化されております。台湾も、前馬英九政権の末期に同様のクレームを提起したことがありますが、沖ノ鳥島周辺のEEZ内で海上保安庁が違法操業で摘発した台湾漁船は、これまでのところ、全て早期釈放制度、ボンド制度に基づく担保金の提出に応じております。
図九は、東シナ海の大陸棚の境界画定に関する日中、日韓の主張を説明する図であります。中国と韓国が共に、自国の大陸棚の限界は、先ほども御説明がありましたが、沖縄トラフまでだと主張しておりまして、これに対し、日本側は地理的中間線を主張しております。この問題はこれまでのところそれほど先鋭化しておりませんが、今後の状況は予断を許さない状況だと見ております。
以上のことからお分かりのとおり、図一に示されたところの、我が国の領海とEEZを合わせた面積が国土面積の十二倍、世界第六位の広さだと胸を張る海域の中には、関係当局等の間において、関係当事国等との関係におきまして、我が国が有効に管理支配していることのあかしでもある海上法執行活動を始め、広範多岐にわたる海上保安業務の遂行がままならない海域が含まれており、その広さは、ざっと見積もっただけでも国土面積の二倍ぐらいの広さになると思っております。
次に、レジュメの一の二、我が国周辺海域における海洋法執行活動をめぐる課題ですが、(一)から(八)までに掲げている課題のうち、特に(一)から(三)及び(八)が重要だというふうに見ております。
以上、これまで説明申し上げた我が国周辺海域の実情や海域別問題点などにつきましては、事務局から事前に配付されている学士会報に掲載されております「国境離島における警備の現状と今後の対策について」と題する私の講演録を参照していただきたいと思います。
次に、レジュメの大きな二の我が国周辺海域における海上保安体制及び海上保安庁の権限執行の在り方のうち、海上保安体制の在り方について述べさせていただきます。
平成二十八年十二月二十一日に、海上保安体制強化に関する関係閣僚会議において、次の五つを柱とする海上保安体制強化に関する方針が決定されております。
一つは尖閣領海警備体制の強化と大規模事案の同時発生に対応することができる体制の整備、二つ目が広大な我が国周辺海域を監視できる海洋監視体制の強化、三つ目がテロ対処や離島、遠方海域における領海警備等の重要事案への対応体制の強化、四つ目が我が国の海洋権益を堅守するための海洋調査体制の強化、以上の四つの体制を支えるため、五番目として人材育成などの基盤整備というものが挙げられております。
海上保安体制強化に関する関係閣僚会議につきましては、平成二十八年以降、毎年開催されており、海上保安体制強化に関する方針に基づき、海上保安庁の体制強化を引き続き進めることが確認されております。このことは、海上保安庁にとりましては大変心強く、感謝しているものと承知しております。
次に、海上保安体制強化の方針の継続についてでありますが、海上保安庁が日常的に主な活動舞台としております我が国周辺海域は、冒頭で申し上げたとおり極めて広大なものであり、しかも、その広大な海域における人命、財産の保護と治安秩序の維持に関する海上警察法執行活動を基軸といたします、広く海上の安全確保を図るための海上保安業務というものは実に広範多岐にわたっております。
その上、これまでの体制強化の主要部分は尖閣問題への対応に充当せざるを得ないため、全庁的ないしは全国的視点から見ますと、海上保安庁の業務執行体制は人員、装備ともまだまだ十分とは言えないというのが実情であります。特に、現場の、現場部隊の訓練を十分に行うための体制の確保と海上保安官の能力向上を図るために不可欠な教育訓練施設などの拡充が喫緊の重要課題になっております。そして、現下のコロナ禍のあおりを受けまして、学生の募集、採用、教育全てにおいて附帯的な経費がかさんでいるところであります。
そういう意味において、海上保安体制強化に関する方針につきましては、是非とも引き続き継続していただきますよう、この場をお借りしましてお願い申し上げる次第であります。
なお、この点に関しまして、海上保安庁法十条第二項に、海上保安庁長官は、国土交通大臣の指揮を受け、庁務を統理し、所部の職員を指揮監督する、ただし、国土交通大臣以外の大臣の所管に属する事務につきましては、それぞれその大臣の指揮監督を受けるという規定がございます。これは、海上保安庁の業務が広く複数の省庁にまたがっていることを踏まえた規定であります。
しかし、霞が関のルールでは、そのために必要な予算、定員などは基本的に所管省庁で賄うというのが暗黙の基本となっておりますが、これでは国土交通省も大変であります。ここはひとつ、関係省庁が一丸となって、海上保安庁体制の充実について支援をしていただきたいということを併せて申し添えさせていただきます。
また、海上保安庁の体制が強化されることは、私も海上保安官OBの一人といたしまして大変喜ばしく思っておるところでありますが、広大な我が国周辺海域における海上保安体制を海上保安庁だけで一手に引き受けるというのはそもそも困難であり、効率的なものでもないと思われます。しかも、増員が認められても、一人前の海上保安官の養成は一朝一夕にはまいりません。
そこで、国の関係省庁の横断的な連携協力体制及び国と地方自治体との連携協力体制を一層推進していくとともに、現職海上保安官の活動を補完する勢力として民間勢力の積極的な活用を図り、官公民が一致協力し、国を挙げた海上保安体制の確立を目指していくことが重要であるというふうに思っております。
具体的に申しますと、現職海上保安官の活動を補完する民間勢力として有力な候補が考えられるのは、例えば、全国各地に在住している退職海上保安官、そして公益社団法人日本水難救済会傘下の、全国津々浦々に千か所以上設置されております救難所及び救難支所を拠点に、昼夜を分かたず捜索救助にいそしんでおります総勢五万一千人余りの民間ボランティア救助員、さらに公益財団法人日本ライフセービング協会に所属している全国のライフセーバーなどを、我が国周辺の地先沿岸水域の捜索救助勢力として、あるいは児童生徒を含む一般市民を対象とした海上安全指導員として積極的に活用するとともに、これらの団体につきましては、運営が公益財団法人の日本財団からの助成金によって支えられているところでありますが、国と地方自治体による公的な支援体制につきましても前向きな検討をお願い申し上げる次第であります。
次に、民間との連携によって海洋、広大な海域の監視体制を充実するために、日本周辺海域で操業する漁船や一般の通航船舶並びにこれらと常につながっております漁業無線局に協力を求めていくことについて、併せて御提案させていただきたいと思います。
関係省庁の横断的な連携体制の構築に関し、もう一つ提案がございます。それは、平素から海上保安庁と防衛省・自衛隊との有機的な連携協力体制を確保しておくことにより、我が国の国防体制と我が国周辺海域における海上保安体制が共に相乗的に向上するものと期待されるところ、そのためにも、個人的な考えではございますが、自衛隊が有事だけでなく平時においても、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つというその最も重要な本来任務を日常的に普通に遂行することができるよう、早急に国内環境を整備することにつきましても是非検討の一つに加えていただきたいと存じます。
その際に、もしも自衛権による対処が必要と認められる事案に遭遇した場合につきましては、我が国の領海等として自他共に認められるような海域におきましては、外国による主権等に対し、自衛権による対処もさほど神経質になる必要はないのではないかというふうに個人的には考えております。
以上のことは、海上保安庁の負担軽減のためにも、是非とも前向きに御検討をお願い申し上げる次第であります。
最後に、二の二、海上保安庁の権限執行の在り方について述べます。
外洋や遠方海域での重大事案ないしは大規模事案に対し、これまで海上保安庁が組織を挙げて対応してきた事例につきましては、レジュメの一の二の(三)に記載しているところであります。
こうした外国漁船団の集団による不法行為に対し、放水等による排除はそれなりに有効性が実証されているところでありますけれども、再発、再犯防止を徹底するためにも、確実に制圧、拿捕、検挙し、あとはボンド制による担保金を確実に徴取するなど、毅然たる厳正な法執行が望まれます。また、裁判官や検察官ができるだけ現場に近い適当な場所に出張するなど、迅速な処理、事案処理ができますよう、関係当局においても柔軟な対応体制の整備について御検討をお願い申し上げます。
次に、尖閣諸島周辺における中国人や台湾人に対して可能な限り、国内の他の海域における法執行と同様、厳正な法執行を実施し、ダブルスタンダードではないかと批判されることのないよう、公正公平な法執行に努めることが重要であります。
図十は、魚釣島に不法上陸した中国の保釣活動家を海上保安庁と沖縄県警が逮捕したときの写真であります。
図の十一は、台湾の保釣活動や中国漁船の領海侵入を巡視船艇が阻止している状況であります。
図の十二は、中国公船による魚釣島周辺の領海への侵入を阻止するため、海上保安庁の巡視船がすぐその内側からブロックする形で並走している写真であります。不測の事態への発展することのないよう、冷静かつ細心の注意を払いつつ、毅然として粘り強く対応に当たっているところであります。
次に、武器の使用の在り方についてですが、一般私人、私船に対する場合と外国政府に所属する公船に対する場合に分けて述べます。
まず、一般の私人、私船への武器使用に関し、一九九九年九月二十五日の能登半島沖不審船事件のときに初めて海上保安庁は威嚇射撃を実施しておりますが、それ以外は海上保安庁の方から先に発砲した事例、前例はないというふうに承知しております。
かつて、一九七八年四月に尖閣周辺海域で発生した中国武装漁船集団領海侵入事件では、十三ミリ機銃を装備した中国漁船百十数隻が尖閣諸島周辺海域に押しかけてきまして、日本の領海内で操業したり、徘回、停留を繰り返し、警備中の巡視船に機銃を向けるなど威嚇行動を取りましたが、その際におきましても武器で対抗はしておりません。
次に、外国公船に対する武器使用についてですが、一般論といたしまして、そのときの状況に応じ、関係法令にのっとり、許される範囲内において適切に対処すべきであると考えておりますが、その可否又は是非につきましては一概に論じることはできないと思っております。ただ、当該外国との武力衝突等の不測の事態へと発展することを回避する上で、武器使用を含む実力行使はできるだけ避けることが望ましいことは申すまでもありません。
なお、事務局から配付されております、メディアウオッチ一〇〇に四回に分けて連載した私の中国海警法を踏まえた我が国の対応についてと題する特別寄稿文の中で、去る二月一日に施行された中国海警法の注目すべき点と問題点を始め、尖閣諸島、尖閣問題の本質、特に中国が領有権を主張する土俵に上がることができたいきさつと対日攻勢の原動力について解説するとともに、それらについてしっかりとした認識をした上で我が国の取るべき選択肢について検討課題を提言しております。
また、去る二月十八日付けの日経新聞インタビュー記事は、この特別寄稿をベースに、警察権による対処の限界を中心に私見を述べたものであります。併せて参照していただければ幸いであります。
以上、私の意見陳述を終わります。