富岡仁の発言 (国際経済・外交に関する調査会)
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○参考人(富岡仁君) 富岡でございます。
本日は、このような機会を頂戴いたしましてありがとうございます。早速、報告に入らせていただきます。
船舶は、海洋における主要な交通の手段として世界経済の発展に貢献してまいりました。とりわけそれは、輸出入のほとんどを船舶に依存している我が国にとりましては極めて重要な手段であります。そのことは、本調査会におきましても、これまでるる指摘されてきたことであります。しかし、船舶は海洋の環境を毀損する要因でもありました。本日、私は、船舶によりもたらされる海洋汚染の現状とそこにおける課題について、若干の私見とともに申し上げたいと思います。
お手元の、カラーではありませんが、地味なレジュメで恐縮ですけれども、レジュメに沿って要点のみ申し上げますので、詳細につきまして、もし御質問いただければ幸いでございます。
まず、船舶による海洋汚染問題の現代的展開の特徴として、私は四つ挙げることができると思っております。それぞれについて、若干のコメントを付させていただきます。
まず第一は、規制対象が極めて多様化してきているということであります。そもそもは、海洋汚染、船舶からの海洋汚染の問題は、油による汚染をどう規制するかということで登場いたしました。二十世紀になりまして、船舶の動力源が石炭から石油に変わります。そのことに伴って、排出される油が生じました。
また、油タンカーが輸送に従事するようになりまして、例えば油タンカーのタンクの洗浄でありますとか、あるいは事故に伴うものでありますとか、いずれにしましても、油による汚染をどう対応するか、汚染にどう対応するかというのが国際社会の関心事でございました。レジュメの①にございます海水油濁防止条約、一九五四年に初めて、船舶の海洋環境保全に関する初めての条約でございますが、これはそのためのものでございます。
しかし、やがてそれは、油にとどまらず、そのほかの有害な、例えば液体化学物質とか汚水、廃棄物、あるいは船舶の煙突から出ます窒素酸化物等の大気汚染物質にそれが拡大するという状況になってまいります。それに対して対応した海洋汚染防止条約は一九七三年に締結されております。
やがて二十世紀の後半になりますと、新しい海洋汚染問題が登場してまいります。それは生物多様性、生態系毀損物質への対象の拡大ということであります。
ここには二つ挙げております。
一つは、①、船底に付く有害塗料を禁止する条約というのがありますが、船底に貝とかそういったものが付きますと船舶の航行に悪影響を及ぼしますので、有機スズ系の塗料を塗りましてそれを防止するということが行われてきましたが、これ自身が非常に海洋生物に悪影響を及ぼすということが指摘されております。それでまた条約が二〇〇一年に採択されております。
もう一つは、船舶のバラスト水を管理する、バラスト水に関する規制する条約であります。本日、一つこの例として、この問題を若干御紹介したいと思っております。
船舶のバラスト水といいますのは、船舶は、軍艦とか政府船舶を別にしますと、物や人を運ぶ目的で造られます。つまり、物資を積み込んだとき最も安定的に航行するように造られています。ところが、物資を降ろして空荷になったときには、実は船舶は、喫水が浅くなってしまいますので、航行時の安定性を確保するのが非常に難しくなってしまいます。そこで、タンクに海水を取り込んで安定性を保とうといたします。この取り込む海水のことをバラスト水と申します。このバラスト水の中に本来の生息地ではない生物が取り込まれまして、移動先で排出されて、そこで被害が発生するという問題であります。
海洋政策研究所の統計によりますと、日本は移出バラスト水大国であります。年間約三億トン、バラスト水を移出しております。移入する方は千七百万トンですね。ですから、日本にとってこの問題は責任が大きいというふうに言えるのではないかと思います。具体的には、生態系被害、被害は生態系とか経済活動、人の健康等に、ここに書かれているような形で被害が多々報告されております。
条約は、したがいまして、自由に排出しておりましたこのバラスト水について、例えば一定の処理をして滅菌しなければ排出できないとか、沿岸から一定の距離を保って排出するとか、そういう形で規制をするというものでございます。
時間の関係で少し急がせていただきますが、次に、さらに新しい海洋汚染規制問題が登場してまいります。これは地球温暖化の防止の問題であります。
以上の一、二のお話しした問題は、どちらにしましても有害物質を船舶から海洋に排出すると、大気汚染物質にしても排出した後は海に雨で入るわけですから、そういった規制なんですが、これは新しい問題でありまして、温室効果ガス、つまり船舶の燃料から排出されるCO2、これをいかに規制するかという問題であります。
国際海運から排出される温室効果ガスは、二〇一二時点で八億トン、ドイツ一国に相当すると。更にこれは今後拡大する見通しであります。何らかの措置をとらないと非常に拡大する見通しになると、見通しがあるというふうに報告されております。
関連する三つの条約はここにあるとおりでありますが、実は、この問題に関しましては、国際海事機関、IMOですね、IMOによって既に検討されてきております。IMOは、これまで三つのCO2削減方策を取っております。
一つは技術的措置というものでありまして、要するに、船舶の省エネを義務付けるということであります。つまり、燃料効率の悪い船舶はできるだけ航行させないという形で、期限を区切って義務付けるという形を行ってきました。
もう一つは操作的措置でありまして、省エネ運航を導入する、義務付けるということであります。例えば、減速航行でありますとか、ウエザールーティングといいまして、荒天を回避しながら燃料を効率的に消費できるように航行するというような方法であります。
この技術的措置、操作的措置について言いますと、海洋汚染防止条約にもう規定されまして、義務付けられております。
もう一つの問題、実はIMO自体が言っているんですが、この二つの措置だけでは十分ではないと、明らかに十分ではない、したがって、もう一つ市場的措置を導入する必要がある。つまり、市場的措置といいますのは、船舶所有者や運航者などに対して一定の経済的インセンティブあるいはディスインセンティブを与えることによって排出削減を図る方策であります。温暖化防止条約も、国内の温暖化防止条約もそれでありますが、例えば、消費された燃料に課金するというあれですね、それから、排出量取引制度によって、燃料についての一定の制限をした上で、排出量を取引することによって削減を図るというような形、こういった形が考えられておりますが、なかなかこれはIMOでは合意されておりません。なぜかというと、経済的影響が非常に海運業界に大きいという理由がございます。
一番目がそういうことなんですが、二番目の特徴として私が挙げることができますのは、環境保護的観点からの規制が極めて総合的、多面的となってきたということであります。これは以下のようなことであります。
元々、先ほどお話ししましたが、船舶の海洋汚染規制の問題は、海洋汚染防止に関する条約を締結することによって対応されてきました。ところが、従来からあります船舶の安全運航に関する条約、例えば海上人命安全条約とか海上衝突予防規則などがあるんですけれども、こういった条約、それから、船員資格、労働条件ですね、船員の資格、訓練等に関する条約やILO海事条約等、これらは、前者が海難の防止、後者は船員労働条件の向上に関するものです。環境保護は元々は条約の目的ではありません。
ただ、こういった、例えば船体構造によって事故が起きるとかいう問題、海難が生じる、あるいは船員の操船ミスによって例えば事故が起きて海難が生じる、海洋汚染が生じるというようなことがあったものですから、これらに対しても法目的として環境保護が明記され、環境的対応を義務付けるということになってまいります。これはすなわち船舶運航者にとって問題なだけではなくて、要するに海事グループ、海事産業全体にとって環境保護というものが大きな課題になっているということを意味するのであります。
三つ目ですが、執行方式の多元化ということでございます。
元々は、条約を制定する、しかし、その条約に違反があった場合にどう対応するかということが実は大変問題でありまして、従来は旗国主義、従来は、公海自由の原則がありますので、公海上における違反については船舶の登録国、旗国を通じて条約の執行、取締りが行われてきました。しかし、海洋汚染防止に関して言いますと、これでは実効性がないと。
つまり、旗国は実際、世界中に生じている問題を全て把握しているわけではありませんし、また便宜置籍船の問題を取ればもっと明確でありますが、どうもそれでは実効性がないということで、国連海洋法条約におきましては、沿岸国、二百海里経済水域においては沿岸国に管轄権を与えようと。そして、公海上の違反については、寄港国、船舶はどこかに寄港しますので、そういった国に対して管轄権を与えて取締りを行おうという形で対応する条約を作成しております。
この寄港国管轄権というのは海洋環境保護の観点からいうと私は画期的なものだと思うんですが、これは後でちょっと触れたいというふうに思います。
四番目は、船舶汚染損害に対する賠償、補償に関する問題であります。
船舶からの海洋汚染の防止のためには、公法的な規制、つまり抑止とか防止、取締りだけではなくて、実はもう一つ、民事責任体制を確立することが必要になります。つまり、被害者救済とかあるいは環境侵害の回復を措置をとるとかということであります。また、これは船舶管理者、運航者への抑止ともなります。
これにつきまして、近年の制度の発展が顕著であることを取り上げて私は指摘したいと思うのであります。
二つのこれについては発展の系譜がございまして、一つは、油タンカーの貨物、燃料油による汚染損害に関するこの制度の発展であります。
これは、一九六九年の民事責任条約というのがありますんですが、そこの条約で新しく船舶所有者に対する厳格責任、過失責任ではなくて結果責任ですね、結果責任を課して、船舶所有者に対しては保険を義務付けます。保険の額は、船舶責任制限条約というのがありますが、そこの上限まで保険に入れということを義務付けております。
ところが、海難事故というのは大変大規模、大きなものでありますので、なかなかこれでは十分な被害者救済が確保できないということがすぐに明らかになりました。
そこで、それに加えまして、今度は利益享受者、つまり石油業界とか電力業界ですが、石油業界などが実は基金を出しまして、基金条約を作っております。その基金から民事責任の損害賠償額を超える部分については補償するという形で対応しております。これによって、後で適用の具体例であるナホトカ号事故とか、幾つかの事件についてはこれによって補償がなされたという事実がございます。
それからもう一つの系譜でありますが、これはタンカーではございませんで、貨物船が、油を燃料にしている貨物船が座礁して汚染損害を与えた場合の民事責任に関する条約であります。
バンカー条約と申しますが、これにつきましては、実はほとんど油タンカーの条約と形式的には似ているんですけれども、一つだけこの条約については特徴がありまして、船舶の所有者、油タンカーの場合は船舶の所有者のみを補償責任者としておりますが、このバンカー条約につきましては船舶所有者の範囲を拡大しまして、管理人とか運航者、あるいは用船者、これも民事責任を問う対象にしています。これは非常に大きな法的な違いであります。昨年発生しましたモーリシャスの座礁事故がございました。これは、この問題、この条約が適用されるような問題でございます。また御質問等ありましたら、また更に詳しくはお話ししたいと考えます。
最後に、終わりにというところで、私が船舶による海洋環境保全問題に対処するために必要であろうと思うことを四点申し上げて、終わりにしたいと思います。
第一点は、我が国海事クラスターの発展、海事産業の基礎基盤の確立ということが大事ではないかと私は思います。これは、海洋環境保全の国内的基礎的条件の確保ということであります。
先ほど私は、船舶起源の海洋環境保全問題が多面的、総合的になっているということを申し上げました。そうであるならば、この問題、海洋環境保全問題は、船主とか運航者のみに関わる問題ではなくて、海事産業全体で対応すべき問題であろうと思います。また、運航者や船主の場合は、実は外航海運というのは大変厳しい世界単一市場の下に置かれて、競争環境に置かれておりますので、なかなか環境保護という形で十分に対応することが難しい現実がございます。なぜ便宜置籍船が一般的かというと、そのことが背景にあるのであります。
したがって、海事産業全体で環境保護問題に対応するということが必要であるならば、海事産業、海事クラスターそのものの基盤強化、発展の確保が必要であると私は思います。
二番目は、これの国際的側面と考えてもいいと思いますが、国際的な基礎的条件の確保でありまして、途上国への技術的な、財政的等の援助の必要性はあると思います。
実は、バラスト水規制条約には多くの途上国が加入しておりません。なぜかというと、海洋環境保護のコストを吸収できない自国の事情があるからです。つまり、バラスト水規制条約に加入するためには、加入しますると、例えば船舶にバラスト水を浄化する設備を設置する義務が発生します。また、その必要な人員も配置しなくてはいけません。さらに、港には処理設備も設置することが義務付けられております。こういった非常に技術的、財政的に厳しい条件に対応するためには、なかなか途上国が直ちに加入できないという事情がございます。この条約それ自体が十数年たってから発効したというのも、そのことを物語っているのではないかと思うのであります。
したがって、そういった国際的な基礎的条件を確保するためには、どうしてもこういった国際的な、先進国全体で援助などをする法体制の構築が必要になってくるというふうに思います。
三番目は、環境、これは海洋環境保全の法的な基礎的条件の確保と言えるのではないでしょうか。日本船籍船の増加、便宜置籍船の排除ということでございます。
船舶による汚染規制を実効的に行うためには、日本船籍船の増加が私は必要であると思います。つまり、日本は実質的に船舶を運航しているという意味では世界有数の国であります。しかし、形式的には便宜置籍船にそれを委ねています。そうすることによって実際十分な海洋汚染規制の対応ができているか。
例えばモーリシャスの先日の事故では、これは実際は船主は日本会社、日本法人でありますが、籍はパナマでありました。船員は一人も日本人はいませんでした。運航ミスによって座礁したと言われております。こういう事態を防ぐためには、便宜置籍船を排除して日本籍船を増加するということがどうしても法的な基礎的条件として必要になってくるのではないかと思います。もちろんこれは、日本船籍船の増加というのは、経済的に、海洋環境保護の問題だけではなくて、安全保障上の問題でもあるというのはこの調査会でも指摘されているところであります。
最後に一点申し上げますと、これはやや法律的な問題になりますが、寄港国管轄権制度を実質化して国際公益保護の新制度を定着させてほしい、発展させてほしいと私は思います。
寄港国管轄権制度というのは、公海、地球上の三分の二が海でありますし、公海というのは極めて広範な海域を含んでおりますので、したがって、そこで発生する海洋汚染について、船は必ず港に寄りますから、港に寄港した国、港に寄った国がきちんと規制の手続を取り、また証拠を保全し、締約国がそれを協力して行うということが私は地球環境保護のためには極めて重大だと思っております。
ところが、この寄港国管轄権制度は、国連海洋法条約ではそういう制度は取れると書いてありますが、実際にはほとんど取られておりません。なぜかというと、つまり、自国の利害に直接関係しないからということが言えるかと思います。積極的ではありません。ただ、海運国日本はこの点についてリーダーシップを発揮して、例えば海洋汚染防止法などを改正してこの手続を制度化して、また国際社会で政策を進めることをリーダーシップを取ってほしいというふうに私は思っております。
以上で私の報告を終わります。御清聴ありがとうございました。