八代尚宏の発言 (厚生労働委員会)
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○八代参考人 昭和女子大学の八代でございます。
本日は、このような貴重な場を与えていただきまして、ありがとうございました。
私は、どこかの組織に属しているわけではありませんので、あくまでも経済学者として個人の意見を述べさせていただきます。お手元に資料が配られていると思いますので、それに沿って御説明させていただきます。
言うまでもないわけですが、今回のコロナ危機によって、特に二〇二〇年の四月に極めて大きな影響があり、失業者、休業者が激増したわけです。これは、もし、こういう雇用調整助成金のような制度がないと、かなりの大きな部分が失業者になっていたわけで、その意味で、二〇二〇年の四月、五月、六月、この辺りまでは、雇用調整助成金制度が極めて有効に機能したというふうに見られるわけですが、その後を見ますと、普通と同じように、失業者と休業者は同じぐらいの数で推移しているわけです。
ですから、これは雇用調整助成金への普通の評価でありますけれども、緊急時には非常に役に立つけれども、それが長い間継続すると、むしろ労働者の円滑な移動を妨げるマイナス面が大きい、そういう評価をしております。
右側は、ほかの方が既におっしゃったように、この膨大な雇用調整助成金が使われたことによって、ピーク時には六兆円を超えていた雇用保険の積立金が、もうほとんど枯渇している状況であります。
この雇用調整助成金の使われ方というのは、例えば、その前のリーマン・ショックのときを見ますと、一兆円程度だったんですね。GDPの落ち込み幅というのは今回よりもリーマン・ショックの方が少し大きかったわけですから、同じ程度の不況に対して、今回は雇用調整助成金が極めて大幅に使われたというのが一つの現状であります。
その次の資料でございますが、このように大幅に雇用調整助成金が拡充されたというのは、言うまでもなく制度変更があったからでありまして、平時は、休業手当の補助率というのは、大企業で二分の一、中小企業で三分の二、日額の上限が八千二百六十五円というふうに決められているわけであります。それが、緊急事態ということでやって、何回か変わったわけですが、最後はもう条件を満たせば企業規模にかかわらず、中小企業だけでなく、大企業に対しても十分の十、つまり、休業手当の一万五千円の範囲内でありますけれども、全てが政府から、雇用保険から支出されたということになります。
元々、この雇用調整助成金の考え方というのは、企業が、そもそも雇用保障をすることが企業にとって望ましい、労使の安定とか、熟練労働を確保するという意味で。そういう雇用慣行に対して、政府が補助をする。政府が補助をすることによって、基本は企業の努力によって雇用を維持するという考え方だと思いますが、それに対して、十分の十、全額を政府が補助をするというのは、私は基本的にやり過ぎだったと思います。企業の自助努力の余地がほとんどなくなってしまう。それが一つの問題点。
もう一つは、失業給付とのアンバランスということです。
元々は、失業給付と休業手当の関係はバランスが取れていたはずなんですが、雇用調整助成金が一方的に増えたことによって、例えば、失業手当であれば九十日から三百三十日という期限があるわけですが、雇用調整助成金の場合は、あくまでも緊急措置ということながら、期間がどんどん、緊急措置が延長されて、現在は一年間を超えている。
それから、これは多くの人が指摘していることでありますが、休業手当をもらった後に企業が例えば倒産した場合には、改めて失業手当をもらえる。これは、最初から企業が倒産したり、企業が営業をやめたりすることでいきなり失業者になった人との格差が非常に大きくなってしまう。むしろ、失業手当の方を拡充することによって労働者を救うというのが、本来の雇用保険の在り方ではなかったのかと思います。
それから、支給額の上限についても、元々は、休業手当も失業給付も上限八千二百六十五円でそろっていたのが、休業手当の方だけ倍近くまで上げられたわけでして、これも一つのアンバランスではないか。
それはなぜかというと、雇用調整助成金というのは失業の防止ということが目的なわけなんですが、正確に言うと、これは正規社員の失業の防止には役に立つわけですけれども、非正規社員の場合、その多くは雇い止めをされるわけですね、不況になりますと。そうなると、この雇用調整助成金の対象には非常になりにくいわけで、それに対して、失業給付の方は、正規、非正規の格差はないようにできているわけです。
ですから、今から言っても遅いかもしれませんが、当初、このコロナ危機が起こったときには、みなし失業制度というような構想もあったわけで、失業保険の制度を拡張することによって、一時的に企業に残っている人もカバーするというような考え方もあったわけで、その方がはるかに公平な措置ではなかったかと思います。
二番目に、次のページですが、じゃ、ともかく、もうここまで枯渇してしまった雇用保険財政をどう再建するかということなんですが、雇用保険というのは、そもそもの役割というのは、産業間とか企業間の失業リスクの分散ということであります。あくまでも保険制度でありまして、そういう事故に遭った企業とその労働者を、遭わなかったところがカバーする。
今回のコロナ不況の場合は、非常に産業間、企業間の格差が大きいわけでして、ほとんど影響を受けなかった企業も多いわけであります。対人サービス関係の業種にコロナの影響は集中している。ですから、そういう意味では、まさに助け合いの原則が機能するわけでありまして、コロナの影響を受けた産業あるいはその労働者の救済には、影響を受けなかった企業や労働者が助けるというのが本来の保険の考え方なわけです。
その意味でも、やはり、リスクが高まれば保険料が上がるのは、民間の損害保険でも同じことなわけですよね。水害のリスクが高まったことによって、民間の損害保険は上がっている。これが本来の保険の仕組みなわけです。ですから、そういう意味では、私は基本的に、この法案のように、今後、保険料を上げていくことによって雇用保険財政の再建を行うというのが基本ではないかと思います。
今回の、雇用調整助成金が拡張されて被保険者以外の方にも適用されたというのは非常に望ましいことですが、本来は雇用保険自体がそういうことをすべきであって、フリーランス等を対象にするというのは、失業保険の方も同時にやっていく必要があるんじゃないか。
基本的に申しますと、やはり一般財源に安易に頼るということは、過去の経緯はともかく、私は、保険として望ましいことではないんじゃないか、雇用保険はあくまでも雇用を守るためのもので、一般財源というのは、やはり福祉政策で対応する、福祉と雇用はきちっと分けるという考え方が本当は必要ではないかと思っております。
最後に、山井議員の方から提出されたという修正案の評価でございます。
これは、育児休業費用を全額国庫負担にというか一般会計でということの御提案なわけですが、これにつきましても私は反対でありまして、子育て支援ということに対する、当然、国の責任があるんですが、それは福祉政策として行うべきではない、あくまでもこれは、子育てということを、社会全般で、個々の家庭の責任じゃなくて社会全体でカバーするという、いわば介護保険と同じ考え方が望ましいのではないか。
私も、介護保険をつくるときには、当時の厚生省の中央福祉審議会というところで一緒に、参加させていただいたわけですが、介護保険は、元々高齢者福祉であった仕組みを、介護保険と、福祉の基礎構造改革によって、貴重なサービスであるという形に大転換したわけですよね。本来は子育てもそれと同じようなことをしなければいけなかったんですが、当時、非常に反対が多かったので、その福祉の基礎構造改革から漏れてしまった。それが、今の大きな問題になっているわけです。
ですから、今行われている雇用保険の枠組みの中で、育児休業給付というのは、私は、あくまでも暫定的な仕組みであって、本来は、介護保険と同じような社会保険としての子供保険というのをつくるべきではないだろうか。幸い、今、介護保険の中で二十から三十九歳というのが空いているわけですね、四十歳以上が被保険者ですから。この空いているところを子供保険として対応するということは十分に可能ではないかと思われます。
ですから、山井議員のおっしゃっている全額国庫負担というのは、あくまでも福祉制度として考えるということであれば正しいんですが、私は、それは保険制度として考えるべきである。その意味ではこの修正案には反対でありまして、子育ての費用を家族だけじゃなくて社会全体で分担するということであれば、究極的に子供保険、当座は雇用保険の中の育児休業給付という形で維持することが望ましいと思います。
御清聴ありがとうございました。(拍手)